◆ 2021年度 三田祭論文要旨

「ジェンダーギャップと経済発展 ジェンダーギャップに関する分析とその縮小に向けた提言」

第25・26期生

はじめに

 近年、ジェンダーギャップの存在が注目を集めており、SDGs(持続可能な開発目標)においても、その17個の目標の1つとして「ジェンダー平等の実現」が含まれています。その中で、日本は、ジェンダーギャップの程度の大きさを表す指標である国連のジェンダーギャップ指数(GGI)において世界全体の中でも下位に位置しています。そこで本論文では、ジェンダーギャップ指数を構成する「経済」、「政治」、「健康」、「教育」の4つの分野に着目し、それぞれの分野に存在するジェンダーギャップに関して幅広く観察と分析を行いました。そしてそれらの分析をもとに、発展途上国、先進国、そして日本においてジェンダーギャップを縮小させ、ジェンター平等を少しでも早く実現させる政策についての検討を行いました。

第1章 ジェンダーギャップの現状

 本章では、まず、経済発展におけるジェンダーギャップの重要性を確認しました。コロナ禍という状況の下においても、日本では、ジェンダーギャップに関連した項目に対する問題が多いことが明らかになりました。また、世界各国のジェンダーギャップについて観察すると、経済発展の水準が高いほどジェンダーギャップが小さく、ジェンダーギャップが小さくなるほど経済発展が進む傾向にあることが明らかになりました。次に、世界のジェンダーギャップの現状を、経済・政治・健康・教育の4分野のそれぞれから観察した結果、経済面では男女の賃金格差が拡大傾向にあること、政治面では女性の政治参画の機会が乏しい国が多いこと、健康面では女性の平均寿命のほうが長いこと、教育分野では、特に高等教育機関の学士課程の入学率では女性の入学率が高くなっていることが特徴であることが明らかとなりました。そして、世界各国の4分野(経済・政治・健康・教育)別のジェンダーギャップ指数を用いてクラスター分析を行った結果、日本は世界の国々の中でも男女平等が遅れている国のグループに分類されることが明らかとなりました。

第2章 経済における男女格差と経済発展

 まず、経済面における男女格差の決定要因を検討しました。分析の結果、所得水準によって経済面における男女格差に影響する要因が異なること、高所得国と低・中所得国のいずれにおいても教育水準が、また、低・中所得国では育児休暇制度の存在の有無が、経済面における男女格差に影響を及ぼしていることが明らかとなりました。次に、経済面における男女格差の程度が経済発展に与える影響を分析しました。発展段階別に、男女賃金格差や専門職・技術職の女性割合、女性の管理職割合や女性取締役割合に注目し、分析を行った結果、先進国では、経済面における男女格差の存在が様々な経路を通じて経済発展に負の影響をもたらしている一方で、発展途上国では、経済面における男女格差が経済発展に与える影響は明確ではないことが明らかとなりました。

第3章 ジェンダーと政治

 まず、政治における女性参画の程度の決定要因に関する分析を行いました。その結果、国会議員に占める女性割合、閣僚に占める女性割合に影響を与える要因として、経済の発展水準とともに、女性の労働参加率、クオータ制導入の有無、民主主義指数が重要であることが明らかとなりました。次に、政治における女性参画の程度が、経済発展に及ぼす影響に関する分析を行いました。その結果、国会議員や閣僚における女性比率の向上は、公的教育費が政府支出に占める割合や腐敗度の低下、さらには法規制の有効性に影響を与えていること、それら公的教育費が政府支出に占める割合、政治腐敗度、法規制の有効性などの政治における特徴が経済発展に影響を及ぼしていることが明らかとなりました。

第4章 健康における男女格差と経済発展

 まず、先進国の平均寿命の男女格差に関する分析を行った結果、男女の自殺率の差、生活習慣の違いが平均寿命の男女格差を引き起こしていること、そして、自殺率に関しては、平均年収の上昇と雇用形態の安定がその低下に貢献していること、生活習慣病に関連する肥満率と喫煙率に関しては、それらが、がん死亡率の低下に影響を与えており、男性のほうが女性よりも自殺率が高く、また、生活習慣病である割合が多くなっていることから女性の平均寿命が長くなっていることが明らかとなりました。次に、発展途上国について検討を行った結果、生活習慣、公共衛生、医療水準が平均寿命に影響を及ぼしており、特に女性の平均寿命の延びはこれらの変数の改善の影響を強く受けていることから、男女の平均寿命の差が生じていることが確認できました。

 次に、所得と家事や育児に費やす時間に着目し、男女別に効用関数を推定しました。3財からなる効用関数には、所得、家事や育児に費やす時間、家事や育児以外の余暇時間を取り入れ、その推定を行った結果、男性は女性に比べて所得が効用に与える影響が大きく、女性は男性に比べて家事や育児に費やす時間が効用に与える影響が大きい事が示されました。これを現状と比較すると、女性の方が男性に比べて賃金が低いため仕方なく家事を行なっているのに対して、男性は家事を削ってでも働いて稼ごうとしていることが明らかとなりました。また、結婚、出産、育児を起因とするジェンダーギャップについて分析を行った結果、女性の管理職割合は、出産年齢が低い国、男性の育児や家事への参加が多い国で割合が高く、、子供を持つ母親の就労率は出産年齢が低い国や幼稚園、保育園への登録率が高い国で高くなっている事が明らかとなりました。そして、管理職割合やパートタイム雇用の割合、幼稚園への登録率、母親の就労率が高くなると、25〜39歳の男女の労働力率の差が小さくなる事が示されました。また、男性の家事参加の増加、出産年齢の低下、幼稚園の整備、男女の労働力率格差の縮小がGDP成長率に影響を与えている事が明らかとなりました。

第5章 教育における男女格差と経済発展

 まず、教育における男女格差について、「量」と「質」の側面から、経済の発展段階ごとに、その格差の程度の決定要因を検討しました。各教育段階別における教育の量を表す指標として、就学率男女比、教育システム全体における教育の量を表す指標としては期待就学年数の男女比、教育の質を表す指標としては統一試験の男女比を用いて、それぞれの決定要因を分析した結果、教育における男女格差の決定要因は、経済の発展段階ごと、および教育の量と質のそれぞれで異なっていることが明らかとなりました。次に、教育面での男女格差が経済発展に与える影響について分析を行いました。人的資本理論に基づいて、教育における男女格差が経済発展に対してどのように影響を及ぼすのかを検討するにあたっては、経済全体の労働参加率、女性の管理職割合、専門技術職者の総数に注目し、それぞれに対して影響が大きい教育段階における男女差を用いて分析を行いました。その結果、教育における男女格差の存在は、上記のような様々な経路を通じて、経済発展に負の影響をもたらしていることが明らかとなりました。

第6章 世界各国において行われてきた男女格差に対する政策

 まず発展途上国について経済面における男女格差について行われた政策の歴史とその効果を概観しました。その結果、政策・法整備による女性労働環境の保障や教育制度の改善などによる男性優位の社会構造を変えることがより大きな男女格差縮小にとって重要であることが明らかとなりました。次に政治分野の政策の歴史とその効果の観察により、政治分野の女性参画を促すためには、強い法的拘束力のある制度の導入による格差是正が必要であることが明らかとなりました。そして健康分野の政策の歴史とその効果の観察により、医療・公衆衛生の改善による女性の生理的優位性が発揮されたことを背景に、経済発展する国ほど平均寿命の男女差も拡大することがわかりました。さらに教育分野の政策の歴史とその効果の観察により、発展途上国それぞれにおいて課題が異なっていることが明らかとなりました。続いて、先進国における男女格差の歴史的推移について考察しました。まず、経済分野に関する観察の結果、育児休暇など、女性が働きやすい環境が整えられているか、その度合いにより男女格差が決定されていることが明らかとなりました。次に、政治分野に関する観察の結果、クオータ制導入の有無、そしてクオータ制の内容によって是正の度合いが異なること、そしてその制度の中で、求めている割合が大きいほど、また、その要求が義務であると大きく是正される傾向にあることが明らかとなりました。そして、健康分野に関する観察の結果、平均寿命の男女格差の是正は女性の社会進出が引き起こす女性の平均寿命の伸びの鈍化に影響されていること明らかとなりました。最後に、教育分野に関する観察の結果、理系関係の雇用体制の改善だけでは、理系の女性割合の是正は小さく、理系の女性を増やす直接的な政策が重要であるということが明らかとなりました。

第7章 政策提言

 まず、第2章から第5章で行われた分析やその際に使用された指標の整理を行ないました。それを踏まえ、発展途上国、先進国、日本のそれぞれに対する政策提言を行いました。発展途上国における男女格差を先進国並みの水準に改善するためには、発展途上国で遅れている分野を先進国並みの水準に引き上げるには、少人数教育の実施、育休の整備、議員に関するクオータ制の導入が有効であり、それらの政策による経済発展への波及効果も期待できるということが明らかになりました。そして、次にて先進国における男女格差の平均値を、8年連続でジェンダー平等が世界1位であるアイスランド並みの水準にまで改善させるためには、教育機関向け公的支出の増加と議員に関するクオータ制の導入が有効であることが明らかになりました。最後に、日本における男女格差の水準をOECD平均並みの水準に改善するためには、テレワークや育児休暇の取得の促進と議員クオータ制の導入が有効であるということが明らかになりました。