◆ 2017年度 三田祭論文要旨

「グローバル化と経済発展 グローバル化と反グローバル化のもたらす影響」

第21・22期生

はじめに

 これまで世界の殆どの国々において、グローバル化を進める経済政策が行われてきた。しかし近年はこれに対する不満が表面化し、反グローバリズムの風潮が強まっている。これらを示す代表的な出来事として、2016年6月にはイギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票で離脱派が勝利し、また12月にはドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国の大統領に当選したことが挙げられる。この他にもフランス大統領選挙においては「国民戦線」が、そしてドイツ連邦議会選挙では「ドイツの為の選択肢」が躍進したことを踏まえると、グローバル化が各国経済にもたらした弊害は無視できないものになっている。そこで本論文では、グローバル化が「モノ・ヒト・カネ」の動きを通してどのように変化し、またどのようにして世界に作用してきたかを分析した。そしてこれらの分析をもとに、これからの風潮を顧みながら世界、そしてその中で日本がどのように行動すべきかを検討した。

第1章 グローバル化の意義

 本章では最初に、国のグローバル化がいかに経済発展に関わってきたかを歴史的に観察し、近年の国際情勢を踏まえてグローバル化の経済的影響に注目する意義を論じた。その中で経済発展を遂げた国の多くはグローバル化の恩恵を受けたものの、国際的な格差の形成と自国の利益の減少という現象に直面し、これらの国々における反グローバリズムが強まっていることが分かった。そして、「モノ」・「ヒト」・「カネ」の移動の観点から、グローバル化による経済発展への寄与の存在を検証した。その結果、すべての要因において国外要因の重要性が高まり、経済発展に寄与していることが確認できた。

第2章 モノの移動のグローバル化による経済的影響

 本章では最初に、世界的な貿易の推移を観察することでその傾向を捉え、貿易の大きさがどのような要因の影響を受けるのかを分析した。その結果、世界的には貿易自由化のための制度が整備されてきたものの、リーマンショック後は貿易が停滞し、先進国において保護主義の傾向が表れてきていることが分かった。また、各国の輸出入の大きさや品目の特化の程度は、各国の生産要素の賦存量や貿易障壁の高さなどの影響を受けていることが確認できた。その上で貿易が経済発展に及ぼした影響を分析したところ、貿易の拡大は生産性の高い産業への特化を通じ技術水準の向上や資本形成を促すという利点が存在する反面、産業構造の急激な変化が失業や技術水準の低下を生むこと、そして産業の特化が経済変動から受ける影響を大きくしてしまうことが分かった。

第3章 人の移動のグローバル化による経済的影響

 本章では最初に、人の国際移動がその区分によって異なる変化の特徴を備えていることを明らかにし、その特徴を考察した。その結果非移民移動は安定して増加しているのに対し、長期移民移動と難民移動は短期的に大きな変動を繰り返してきたことが観察された。また人の移動の特徴は、いずれも各国の政策の変化に影響を受けていることが分かった。その上で人の国際移動の決定要因と歴史的な構造変化を分析し、最後に新古典派モデルの構造に基づき、人の移動の構造変化が各国にもたらした経済効果の分析を行った。非移民・長期移民・難民の移動は特定の期間における独自の要因に加え、いずれも受け入れ国の経済規模の水準に影響を受けていることが分かった。また移民移動が労働力増加、技術水準の向上や外貨獲得といった正の経済効果をもたらす反面、非移民移動は環境の破壊、長期移民移動は賃金、そして難民移動は社会保障支出の増加を通じ、各国の経済に負の影響も及ぼしていることが分かった。

第4章 グローバル化と金融

  本章では最初に直接投資と間接投資の投資額の推移を観察したところ、いずれも2000年代前半まで急速に拡大してきたが、リーマンショック以降はその伸びは停滞していることが観察された。そこで直接投資と間接投資の構造を説明する式を推定し、歴史的な出来事がそれぞれの資本移動にどのような影響を与え、構造を変化させてきたのかを検証した。その結果、それぞれの大きさを決定する要因は様々ではあるが、いずれも経済環境の変化に対してその構造を流動的に変化させながら拡大してきたことが確認できた。最後に直接投資と間接投資の拡大が経済にもたらす影響について検討したところ、生産要素に関しては資本の流出入が資本形成や雇用に影響を及ぼしていることが分かった。またそれに加え、直接投資は技術水準を向上させる反面、過度な投資や資本移動は技術水準の低下や国内格差、そして経済的なリスクの拡大を生じさせることが分かった。

第5章 グローバル化と経済発展

 本章では前章までに行ってきたモノ、ヒト、カネの動きとその影響の分析を基に、それぞれの面から明らかになった経済構造を統合することによって、これまで急速に進展してきたグローバル化の流れの社会的な影響分析や、反グローバル政策の影響の分析を行った。最初に先進国に注目し、アメリカ・イギリスを対象として行った分析から、モノ・ヒト・カネの移動により一国全体の所得は拡大したものの、失業の発生や賃金の低下から、一部の国民がその恩恵を享受できていないことが分かった。しかし所得と格差から一国全体の効用水準に及ぼす影響を検討したところ、両国の反グローバル政策は一国全体の効用水準を低下させると結論付けられた。次に発展途上国に注目し、中国における影響を分析したところ、中国の経済発展はグローバル化の恩恵を受けており、先進国による反グローバル政策は中国の一国全体の効用水準も低下させてしまうことが分かった。またグローバル化によって生じた産業変化が国家間の所得分配にもたらした影響についての分析を行ったところ、モノ・ヒト・カネの移動の拡大は世界全体で格差を拡大させる効果を持っていることが分かった。以上の分析を踏まえてイギリス・アメリカの反グローバル政策が日本社会に与える影響を分析したところ、反グローバル政策は同じく日本の一国全体の効用水準も低下させてしまうことが確認されたため、日本は世界全体がグローバル化を進めるよう働きかけることが必要と結論付けられた。