■ 2003年度 三田祭論文要旨

「地方活性化による経済発展  ―地方経済の停滞メカニズムからの脱却―」

第7・8期生

序章 本論文の意義と目的

 地方経済に元気がない。これは日本経済全体にとって大きな問題である。わが国はこれまで都市一極集中型の発展によって高度経済成長を達成させた。しかし、近年さまざまな面で都市集中による経済発展が限界に近づいている。都市集中型の経済発展が限界にきている今、地方経済を活性化させることはわが国の経済発展にとって、不可欠の政策である。本論文では、地方の現状を分析した上で、日本経済のために地方を直接活性化させる政策について考えていく。

第1章 地方経済に注目する意義

 わが国は都市への集中による経済発展が限界に近づいており、今後さらなる経済発展を目指すためには、都市と地方のバランスの良い発展が重要であることを確認した。しかし、地方経済に目を向けてみると、地方に自力の経済力はなく、この地方の現状を見る限り、今後、都市と地方がバランス良く発展していくことは難しいと予想された。そしてこれは今後、わが国の経済発展にとって大きな弊害であり、われわれが、この問題を解決する必要があると認識した。

第2章 地方経済の停滞メカニズム

 地方経済衰退の現状がどのようなメカニズムで起こっているかを分析した。地方経済の停滞を多面的に捉えるため、次の3つの側面から分析し、地方で現在起きていることを概観した。まず1つ目に人口流出による停滞メカニズムを分析した。これは、人口減少に端を発し、消費の減少、総生産の減少、雇用の減少とつながり、再び人口流出へとつながるという悪循環であった。2つ目に公共投資における停滞メカニズムを分析した。これは、公共投資の減少が県内総生産の減少、地方歳入の減少、地方独自の公共投資の減少、そしてそれが地方の公共投資全体の減少につながるという悪循環であった。最後に産業衰退における停滞メカニズムを分析した。これは、製造業の海外流出による地方の産業衰退に端を発し、産業の連関構造により他産業の衰退までも引き起こし、これらの連鎖的な産業衰退が雇用の減少、投資の減少を引き起こすという悪循環であった。
 そしてこれら3つの停滞メカニズムは、それぞれ独立したものではなく互いに影響しあっており、全体で大きな悪循環になって地方経済を衰退させるものであった。地方活性化のためにはこの悪循環を断つための政策を考えなければならない。

第3章 公共投資による地方経済発展

 地方経済を活性化させる手段として公共投資を取り上げた。まず公共投資の中の公共事業に注目し、その中で生活基盤資本ストックが最も効果的であることが実証された。また生活基盤資本ストックの中でも公共住宅や都市公園への公共事業がとりわけ効果が高いことが明らかになった。そこで公共住宅や都市公園への投資を今後増加させていく政策を考えたが、効果のわりに莫大な費用がかかり実行妥当性がないことが分かった。これは、生活基盤への投資が経済発展よりも生活環境の向上ということに目標が置かれているためだと思われる。一方、公共事業以外の公共投資として、経済成長への効果が大きいIT分野への公共投資を考えることができる。この政策をおこなった場合、効果的な結果がでることが明らかになった。

第4章 産業政策による地方経済発展

 第4章において、産業政策の効果を分析した。はじめに、製造業流出の最大の要因となっている労務費の格差を埋め合わせ、製造業の流出を防ぐ産業誘致政策を検討した。誘致をおこなった場合の費用と税収を比べると、税収の方が上回り、実行に移す価値があることが分かった。次に、コスト面での海外との競争を避け、日本でのみ可能な製品を製造することのできるように、産業の高付加価値化を図る政策を検討した。しかし、高付加価値化政策に政策に移した場合、効果が少ないことが明らかになった。これは日本の製品がすでに高付加価値化されていることを表していると考えられる。

第5章 まとめ

 都市集中型の経済発展が限界に来ている日本では、地方を活性化させて発展することが不可欠である。本論文では地方を活性化させる政策として公共投資と産業政策の2つの面から分析した。地方活性化を達成させるためには、より効果的な公共投資を行い、さらに波及効果が高い産業、地域に合った産業を取捨選択し、地方自らが発展していくことが重要となっていることがわかった。このような政策を行うことによって地方が元気になれば、日本全体の経済成長も今後進むであろう。