2001年度 三田祭論文要旨

「自由貿易協定と経済発展  ―貿易立国日本の再生―」

第5・6期生

序章 本論文の意義と目的

 バブル崩壊後10年が経った現在でも、日本の景気は依然として停滞傾向にある。内需刺激を中心とした政府の経済政策も、過去最悪の失業や企業倒産を前にその力が限定的にしか発揮されててないと感じられる。そこで、私たちは、日本経済に成長をもたらす要因を外需に求めるべきであると考えた。現在、貿易の自由化がWTOによって推し進められている。しかしながら、WTOはその対象国が多いゆえに弊害も生じ、その機敏さに欠けるとも考えられる。そこで、私たちは、貿易を数ヶ国の間で自由化する自由貿易協定(FTA)に注目した。本論文では自由貿易協定を取り上げ、日本の経済成長にとってFTAの締結が有効な政策手段であるのかについての実証分析を行っている。

第1章 日本経済の現状

 本章では、現在低迷を続けている日本経済を、消費や投資などの需要サイドから分析することにより、日本の経済成長のためには貿易の拡大による外需の刺激が必要であることを示した。
 国民所得勘定恒等式に基づいた成長要因分解分析など用いて分析を行った結果、現在の不況に対する財政政策・金融政策の効果は限定的なものに留まっており、抜本的な解決になってないことが明らかとなった。そして、日本経済の低迷の原因は日本のファンダメンタルズの構造の変化にあり、貿易活動以外の要素が経済成長の主要因になることは構造的に困難であることが示された。

第2章 貿易の拡大とFTA

 本章では、地域間協定による貿易自由化が急速に進展していること、そして日本の貿易拡大のためにはFTAが有効な政策の1つであることを示した。さらに、FTAがもたらす効果を「動態的効果」と「静態的効果」に分類し、それぞれについて説明している。

第3章 FTAの経済効果(NAFTAを例に)

 第2章において、日本の成長を促すにあたり、貿易を伸ばしていく政策として最も有効と考えられるFTAの経緯と経済効果を説明した。第3章ではその効果を、NAFTAの例を用いて実証した。
 社会厚生分析を用いて、第2章で述べた市場拡大・技術革新などの動態的効果や関税撤廃により貿易量が増えることによる投資や消費、輸出量の増加などの効果を組み込んだ形で効果を厚生の増加(対GDP比)で算出した。そしてその分析結果と実際のデータや過去の研究とを照らし合わせ、本論文の分析結果が言えることを確認した上で、FTAの効果を実証した。さらに、FTA締結に伴なう弊害を緩和するための対策として、NAFTAで行われたものについて検討した。

第4章 日本におけるFTA締結の効果

 第3章においては、NAFTAを例にFTA締結の効果を社会厚生分析と政策コストの比較によって求めた。それでは、日本のFTAの対象国として実現可能性の高い韓国・メキシコ・シンガポール(2001年10月12日締結合意済み)と日本のFTA締結による効果が一体どれくらいあると考えられるのであろうか。第4章では、第3章で述べた社会厚生分析と新たに加わる補助政策コスト分析を、日本が韓国・シンガポール・メキシコとFTAを結んだ場合に適用し、それぞれの効果を推定した。その結果、どの国とFTAを結んだ場合においても僅かながら日本の社会厚生が上昇することがわかった。3国中最も効果があると考えられるのは韓国である。一方、メキシコは韓国ほど効果がなく、シンガポールはその中間程度であることがわかった。これは、相手国の経済の大きさに比例していると考えられる。

第5章 FTA締結による経済的損失および効果に関する分析

 本章では、FTAの実現可能性について、FTA締結により国内の特定産業にどれだけの失業者が発生するか、また失業対策コストがどれほどになるのかをシミュレーションで求めることにより検討した。
 その結果、日本が韓国・シンガポール・メキシコのそれぞれと協定を結んだとしても、それほど大きな失業は生じないことがわかった。しかし、食糧・漁業など特定産業への打撃は無視できるものではない

第6章 まとめと問題提起

 内需刺激による経済発展に限界が見え始めた現在の日本では、外需を刺激する事により、さらなる経済発展の可能性の模索を始めている。本論文では、外需刺激政策の1つとして自由貿易協定(FTA)を取り上げ、その成功例であるNAFTAをモデルとして分析方法を確立し、今後の日本の自由貿易協定のあり方とその経済効果を検討した。