◆ 2019年度 三田祭論文要旨

「スポーツと経済発展 東京2020オリンピックを前に」

第23・24期生

はじめに

 東京オリンピックの開幕まで1年を切り、開催に向けて本格的な準備が始動している。選手は出場権獲得を、観客は観戦を目指す中、この世界規模のスポーツイベントに関心が高まり、2019年に開催されたラグビーワールドカップにおいて世界が一体となって盛り上がったように、2020年のオリンピックの開催も大きく盛り上がると予想される。しかし、このように華々しいイメージの強いオリンピックは同時に、実際には様々問題も抱えているのである。そこで本論文では、オリンピックの短期的な経済効果にとどまらず、スポーツが経済発展に及ぼす長期的な影響を中心に幅広い分析を行った。そしてそれらの分析をもとに、オリンピックの今後の在り方や2020年の東京オリンピックの開催によって期待される効果についても検討した。

第1章 スポーツと経済発展

 本章ではまず、日本の幸福度を決定する要因の1つとしてスポーツに注目し、スポーツが日本の長期的な課題とどのような関係があり、どのような可能性を持つのかについて検討した。それによって、スポーツは日本における少子高齢化や景気低迷などの問題についてスポーツとの関係を考える意義があることを論じた。その次に、世界の国々の経済発展に対してスポーツがどのように寄与し、効果をもたらすと考えられるかについて論じた。その中で、スポーツと経済発展の関係は一方的なものではなく、様々な経路を通して双方的な関係をもつことが明らかとなり、それぞれの経路の関係について詳細に分析する必要があることが確認された。

第2章 スポーツを行うことによる経済発展

 本章では最初に、スポーツが消費者にもたらす影響について検討を行い、スポーツを明示した効用関数の推定を行い、日本人と他の先進国の人々の選好の違いに関する分析を行った。その結果、日本人は他の先進国の人々と比較して所得への選好が強く、余暇時間を大きく減らしてでも所得を増やそうとすることが明らかになった。次にスポーツを行うことが健康と学力にどのような影響与え、それが労働生産性と医療費にどのように影響しているか分析を行った。この結果、スポーツ活動を通して幸福度、健康、学力の3つに正の影響をもたらし、これらを通して1人あたり医療費の削減や労働生産の向上などの結果がみられることがわかった。最後にスポーツが企業の活動をもたらす影響を検討し、スポーツが生み出す付加価値について分析を行い、それが経済発展に対してどのような影響を持つかについて分析を行った。スポーツ活動は特に「食品・飲料」、「教育」産業において付加価値を生み出すことが確認された。また、このスポーツによる付加価値の増加は経済成長を促進させるものであり、特にそれは高位中所得国において影響が大きいことがわかった。

第3章 経済発展とスポーツの関連性

 本章ではまず、経済発展がもたらすスポーツへの影響を観察し、国民のスポーツへの参加がどのような要因で影響を受けているのかに関して分析した。一般人とアスリートで分けて分析した結果、それぞれは持つ影響は異なり、相互依存関係にあることがわかり、また経済発展が進むほど一般人はスポーツを行うようになることが示された。次に、オリンピックメダル獲得数とスポーツ実施率の観点から経済発展によるスポーツへの寄与の存在を検討した。メダルの獲得数は、低所得国では社会の健全性と気候環境、高所得国ではスポーツ伝統国と医療環境に影響されることが確認された。また、スポーツ実施率は、競技を行うにあたって必要となる費用の大きさによってその水準を左右する要因が変わり、低費用競技では男女の平等とスポーツへの関心、高費用競技では設備、経済的余裕、スポーツへの関心によって決定されることがわかった。

第4章 オリンピックとスポーツの関係

 本章では最初に、オリンピックの現状を踏まえ、現在抱える問題を示した。その次に、ミクロおよびマクロの視点からオリンピックがもたらす経済効果を明らかにし、スポーツにもたらす影響とスポーツによる付加価値への影響について分析した。その結果、オリンピックによるスポーツ産業への経済効果は他産業と比べて長期的なものとなりうることがわかった。また、スポーツにもたらす影響としては、スポーツ実施率が夏季五輪の開催決定と夏季・冬季五輪のメダル数の増加に正の影響を受けることがわかった。さらに、スポーツによる付加価値にもたらす影響としては、スポーツによる付加価値の増加による経済全体への効果については、オリンピックで好成績を出すことがプラスの効果を有していることがわかった。

第5章 オリンピックの将来

 本章では、オリンピックを開催するにあたっての障壁を費用、規模、ドーピングの3つの面から考えて、それについての対処法として、無駄なコストを削減し、メダル増加数とスポーツ実施率を最大化することが可能な最適な開催費用と報奨金を求めた。その中で、今後の開催のためには開催形式の見直しが必要であり、最適なオリンピック開催費用とメダル報奨金金額への調整によってスポーツ復興効果の最大化とコスト削減が可能であることが確認された。最後に各章で求めた関係をもとに、2020年の東京オリンピックにおけるメダルの予測とそれがもたらす経済効果の推定や開催されることによる効用水準の推定を行った。その結果、オリンピックの開催はスポーツ実施率に正の効果があるが、それによる医療費削減、景気拡大、人々の満足度への影響は小さいものにとどまってしまうことがわかった。したがって、オリンピック自国開催を機に日本は、期待されるスポーツ実施率の上昇という効果を一時的なものとせず、持続させることが重要であると結論付けられる。