研究代表者:中野 泰志(慶應義塾大学)
我々は、平成22年度から標準規格の拡大教科書等の作成を支援するために、弱視児童生徒及びその担当教員を対象に拡大教科書の利用実態やニーズ等に関する調査研究を実施してきた。調査結果は、教科書発行者である教科書出版社やボランティア団体にフィードバックし、拡大教科書の改訂の際に活用できるようにしてきた。そして、平成23年度には小学校、平成24年度には中学校の拡大教科書が改訂され、調査データを参考にして作成された標準規格の拡大教科書が完備された。そこで、我々の調査結果を反映させた拡大教科書の有効性等を明らかにするために以下のアンケート調査を実施した。
現在、弱視児童生徒は、特別支援学校ではない通常の学校の通常学級(以下、通常学級と呼ぶ)、特別支援学級(弱視)(以下、弱視学級と呼ぶ)、特別支援学校(視覚障害)(以下、盲学校と呼ぶ)に在籍していると考えられる。そこで、本研究では、通常学級、弱視学級、盲学校に在籍し、教科書バリアフリー法の制度に基づいて拡大教科書の給与を受けている弱視児童生徒を対象に調査を計画した。
本研究では、まず、拡大教科書の給与を受けている弱視児童生徒の在籍校を調査(第1次調査)し、学校長、担当教員、保護者、弱視児童生徒本人にインフォームドコンセントを行った上で、個別の調査票を配布した(第2次調査)。その際、通常の学校や特別支援学級の場合、在籍校に一人しか弱視児童生徒が在籍していないことがあり得ることを考慮し、各学校を管轄している市区町村教育委員会や学校法人(以下、市区町村教育委員会等と呼ぶ)を介して調査を実施した。なお、本研究の計画及びインフォームドコンセントの求め方等の倫理的配慮については「慶應義塾研究倫理委員会」で事前に承認を受けた。
2012年度に拡大教科書の無償給与を受けている弱視児童生徒の在籍校数、人数、学校・学級種別を把握するために、全国の市区町村教育委員会等546箇所と盲学校70校に対して郵送方式のアンケート調査を実施した。調査時期は2012年9月から10月であった。
第1次調査で明らかになった弱視児童生徒の在籍する全ての学校に対して、市区町村教育委員会等と盲学校長を介して、調査に関する説明書(保護者用、弱視児童生徒用)と調査票を児童生徒の担任教員に配布した。最初に、担任から調査に関する説明書を保護者と弱視児童生徒に配布してもらい、同意を得られた場合にのみ、調査への協力を求めた。なお、調査時期は2012年12月から2013年2月であった。
調査票は、a) 学校の所在地、小学校中学校の別、通級指導の状況等、当該児童生徒が在籍している学校・学級について、b)学年、性別、視力、視力以外の見えにくさ、他の障害の有無、よく利用している補助具、タブレット端末の利用の有無、タブレット端末の教科書や書籍を読む際の利用、電子教材の利用意向、拡大教科書の利用開始学年等、児童生徒の特性に関する質問項目、c)拡大教科書を選ぶ際の方針、文字サイズ等の選定方法、専門機関等からのアドバイス、拡大教科書を使用する際の配慮、拡大教科書以外の教材の拡大状況、当該児童生徒が拡大教科書を適切に使えているか、拡大教科書改善点、教員が提供してほしい情報・要望等、当該児童生徒の拡大教科書の選択や指導等についての質問項目、d)ルビの振り方、ルビの文字サイズ、ページの表記について困ること、ページの表記や位置等の統一の希望、ページの位置、表記、文字サイズの希望、その他ページの付け方に関する要望等、拡大教科書を使用している当該弱視児童生徒の意見、e)給与を受けている拡大教科書1冊ずつに関する質問項目(教科、教科書出版社、発行者、文字サイズ、判サイズ、分冊数、満足度、不満の原因等)であった。調査は、担当教員が弱視児童生徒に質問をし、教員が記入する方式で実施した。なお、眼疾患に関しては、個人情報保護の観点から調査することが不適切であるという専門家からの指摘があったため、調査項目に入れることができなかった。
第1次調査の結果、469箇所の教育委員会等(回収率85.9%)と70校の盲学校(回収率100%)から回答が得られ、今回の調査の範囲では、拡大教科書の給与を受けている児童生徒が1,491人(通常学級・小学生429人、通常学級・中学生212人、特別支援学級・小学生414人、特別支援学級・中学生118人、盲学校・小学生139人、盲学校・中学生179人)存在することがわかった。
第2次調査の結果、1,263人(回収率84.7%)から有効回答が得られた。回答者の内訳は、通常学級583人、弱視学級189人、弱視学級以外の特別支援学級229人、盲学校259人、盲学校以外の特別支援学校3人であった。性別は男子723人、女子532人、無回答8人であった。
拡大教科書の選定・活用実態と標準規格の精査にかかわる基礎データの収集するために、平成24年度に拡大教科書の無償給与を受けている弱視児童生徒及びその担当教員にアンケート調査を実施した。以下、主な結果をまとめて示した。
本研究は、以下の体制で実施しました。本研究の実施にあたっては、都道府県教育委員会、市区町村教育委員会、盲学校校長会、全国拡大教材製作協議会等の協力を得ました。ご協力いただいた皆さまに感謝いたします。
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