共同研究 「イラク戦争を考える」: Thinking About The Iraqi War

慶應義塾大学 経済学部 延近 充 編著 (2004年9月25日公開)

アフガニスタン戦争,イラク戦争を含む「対テロ戦争」がなぜ「終わらない」性格をもつのか,またアメリカのブッシュ政権が国際社会の反対の中でなぜイラク攻撃を強行したのかについてのわたしの見解は,

『対テロ戦争の政治経済学― 終わらない戦争は何をもたらしたのか』(明石書店,2018年3月)をお読みください。

本書の理論的基礎およびより詳しい現状分析について,下記の2冊が参考となります。

2008年秋以降の世界的金融・経済危機の構造を国際政治や軍事面を含めて論じた『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』(御茶の水書房,2012年2月,本書の構成と序論),

現在の世界経済の危機的状況と90年代以降の日本経済の構造変化を基礎理論から現状分析まで展開し,平易に説明した『21世紀のマルクス経済学』(慶應義塾大学出版会,2015年7月,本書の目次)
What's New
<資料> 終わらない「対テロ戦争」−年表 2003年2月〜 (2024.4.25, 更新)

【欧米でのIS関係のテロ】(2015年〜)

【トランプ政権の政策関連年表2017〜2021年】(2020大統領選挙,バイデン政権によるトランプ政権の政策変更を含む)

[イラク情勢] 【イラク戦争における犠牲者数】
「暴力事件」などによるイラク人の2024年4月の死者5人(24日まで)。
・バグダッド東部のシーア派民兵部隊司令部への米軍の2機の無人機攻撃により「アル・ヌジャバ」部隊の副司令官と側近含む4人死亡,米軍はイラク国内の米軍施設への攻撃に対する報復攻撃と発表,イラク軍最高司令官報道官がイラクの主権に対する重大な侵害と非難(1/4)。
・首相府が「イラクにおける有志連合軍の駐留を恒久的に終了させるための手続きを行なう委員会の開始日程を設定する」と発表,スダニ首相は有志連合軍が駐留する正当性がなくなったため駐留を終わらせるという確固たる立場を強調する」との声明を発表(1/5)。
・イラク政府が5日に米軍主導のイラク駐留有志連合国軍の撤収に向けて手続きを開始すると表明したことに対して米国防総省のライダー報道官が「現時点で撤収計画について承知していない」とし,イラク駐留の2500人規模の米軍部隊を撤収する計画はないと発表(1/8)。
・北部地域でクルド労働者党(PKK)戦闘員の攻撃によりトルコ軍兵士9人死亡,4人負傷,トルコ国防省発表(1/12)。
・アンバル州西部の米軍駐留のアイン・アル・アサド航空基地への「イラクのイスラム抵抗運動」ミサイル攻撃により米軍兵士数人とイラク人1人負傷(1/21)。
・オースティン米国防長官がカタイブ・ヒズボラなど親イラン武装組織の拠点3カ所を攻撃したと発表,武装組織側は攻撃により少なくとも2人死亡,4人負傷と発表(1/23)。
・オースティン米国防長官がアンバル州西部カイム地域とバビル州北部ジュルフ・アルサカールの親イラン派民兵組織「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」の施設を空爆したと発表,シーア派民兵部隊(民衆動員部隊)がカイムの部隊司令部への空爆でメンバー2人死亡,2人負傷,ジュルフ・アルナスルの訓練施設も攻撃を受けたと発表,スダニ首相報道官がイラクの主権の侵害と非難(1/24)。
・アンバル州西部カイムのシーア派民兵部隊(民衆動員部隊PMF)司令部への米軍の空爆により民兵16人死亡,36人負傷,行方不明者多数とPMF発表(2/3)。
・米中央軍(USCENTCOM)がバグダッドで無人機攻撃によりイラク駐留米軍への攻撃を計画し参加したカタイブ・ヒズボラ司令官1人を殺害したと発表,イラク政府治安当局がバグダッド東部マシュタル地域で民間車両標的の無人機攻撃により乗員2人が死亡した事件の調査を開始したと発表(2/7)。
[パレスチナ情勢] パレスチナ問題の経緯については『対テロ戦争の政治経済学』をお読みください。

過去のパレスチナ情勢年表一覧はこちら

【イスラエル・パレスチナ紛争における犠牲者数】*(4月24日まで)
イスラエル軍のガザ地区とヨルダン川西岸地区への攻撃による
2024年4月のパレスチナ人の死者
1,507人
 うちガザ地区での死者 1,480人
 ヨルダン川西岸地区での死者 27人
 2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃以降の
ガザ地区とヨルダン川西岸地区へのイスラエル軍の攻撃による
パレスチナ人の死者総数
 
瓦礫の下に埋まるなどによる行方不明者(少なくとも)
負傷者数


 34,669人
7,400人
77,229人
 うちガザ地区での死者(少なくとも子ども10,600人女性7,200人含む) 34,262人
 ヨルダン川西岸地区での死者 376人
10月7日のハマスのイスラエル南部攻撃によるイスラエル人の死者
イスラエル軍のガザ地区での地上作戦開始以降の
パレスチナ武装勢力との戦闘によるイスラエル兵の死者
1,200人

 224人

2024年
4月
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は79人,負傷者は86人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は34,262人,負傷者は77,229人と発表(24日)。
・ヨルダン川西岸地区南西部ヘブロン北郊の検問所でイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人女性1人死亡,イスラエル軍は女性が刃物でイスラエル兵を襲撃しようとしたための自衛措置と説明(24日)。
・ガザ地区南部ハンユニスのナセル病院の敷地内で新たに51人の遺体が収容されたと保健当局発表(24日)。
・ガザ地区北部を多数のイスラエル軍戦闘機が空爆,イスラエル軍は前日にイスラム聖戦がイスラエル境界地域のユダヤ人入植地標的にロケット弾を発射したための報復攻撃と発表(24日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は32人,負傷者は59人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は34,183人,負傷者は77,143人と発表(23日)。
・ヨルダン川西岸地区東部エリコをイスラエル軍が襲撃,イスラエル兵の発砲によりパレスチナ人1人死亡,同市郊外のアカバット・ジャムル難民キャンプでイスラエル兵の発砲により子ども1人含む2人負傷(23日)。
・国連人権高等弁務官事務所の報道官がガザ地区南部ハンユニスのナセル病院の敷地内でイスラエル軍に殺害された283人の遺体(一部には拷問の痕跡),シファ病院で30人の遺体が発見されたとのパレスチナ保健当局の報告を裏付ける作業を進めていると発表(23日)。
・ハマス軍事部門のアル・カッサム旅団のウバイダ報道官が13日のイランによるイスラエルへの攻撃を称賛し,ヨルダン川西岸地区とヨルダンを「もっとも重要なアラブ戦線の一つ」として,あらゆる戦線で戦闘をエスカレートさせるよう呼びかけ,現在進行中のイスラエルとの停戦交渉において,イスラエルが軍事攻撃の停止,ガザ地区からの撤退,避難民のガザ地区北部への帰還の承認,ガザ地区の封鎖の解除という要求を堅持していると強調(23日)。
・イスラエル軍がガザ地区中部と南部を中心に全域で攻撃を激化,「イスラエル国防軍(IDF)は国際法を遵守し民間人の被害を軽減するために実行可能な予防措置を講じている」と主張(23日)。
・レバノンのヒズボラがイスラエル軍の攻撃により戦闘員1人が死亡したことへの報復として,イスラエル北部のイスラエル軍基地を無人機で攻撃したと発表(23日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は54人,負傷者は104人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は34,151人,負傷者は77,084人と発表(22日)。
・ガザ地区南部ハンユニス東部地域をイスラエル軍地上部隊が急襲(22日)。
・ガザ地区の民間防衛隊が南部ハンユニスのナセル病院で21日に医療従事者がイスラエル軍に殺害された少なくとも73人の遺体を掘り起こしたと発表(22日)。
・コネチカット州のイエール大学でガザ地区でのイスラエルの軍事行動に反対する抗議活動をしていた学生約40人を警察が逮捕(22日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は48人,負傷者は79人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は34,097人,負傷者は76,980人と発表(21日)。
・ヨルダン川西岸地区南西部ヘブロン近郊でイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人青年2人死亡,イスラエル軍はパレスチナ人がナイフで襲撃しようとしたための自衛措置と説明,同地区北部でイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人女性1人死亡,イスラエル軍は女性がナイフで兵士を襲撃しようとしたための自衛措置と説明,同地区北西部ヌール・シャム難民キャンプの多数の民家をイスラエル軍がブルドーザーで破壊(21日)。
・ガザ地区南部ラファでイスラエル軍の空爆により子ども18人含むパレスチナ人22人死亡,保健当局発表(21日)。
・イスラエルのネタニヤフ首相がガザ地区へのイスラエル軍の軍事作戦について,「ハマスに軍事的・政治的圧力をかけることが我々の人質を取り戻し勝利を達成するための唯一の方法」と主張(21日)。
・レバノン南部でイスラエルの無人機1機を撃墜したとヒズボラが発表(21日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は37人,負傷者は68人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は34,049人,負傷者は76,901人と発表(20日)。
・ヨルダン川西岸地区北西部トゥルカレム近くのヌール・シャム難民キャンプへのイスラエル軍の前日に続く襲撃によりパレスチナ人14人死亡,同地区北部ナブルス南方の村でユダヤ人入植者の発砲により負傷者を搬送しようとした救急車の運転手1人死亡,前日にもパレスチナ人1人死亡と保健当局発表(20日)。
・ガザ地区南部ラファ,中部ヌッセイラート難民キャンプ,北部ジャバリア難民キャンプをイスラエル軍が空爆しパレスチナ人多数死傷,保健当局とハマスのメディア発表(20日)。
・イスラエル西部テルアビブでネタニヤフ政権に対してハマスに拘束されている人質の即時解放の行動と総選挙の実施を要求する数千人規模の抗議行動(20日)。
・イスラエル政府のベングビール国家治安相が19日にイランで起こった爆発について,イスラエルが裏で糸を引いたものだが「生ぬるい」とSNSに投稿,ラピド前首相は「閣僚が国家の安全保障,イメージ,国際的な地位をこれほどひどく損なったのは前代未聞だ」と非難(20日)。
・トルコのフィダン外相がイスタンブールでのエジプトのショウクリー外相との会談後の会見で,中東の不安定化の主要な原因はイスラエルによるパレスチナ領域の占領と西側諸国のイスラエルへの支援にあるとの認識を表明し,「我々が最優先すべきなのはイスラエルのパレスチナ占領を終わらせ,2国家併存の解決策を実現することだ」と主張(20日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は42人,負傷者は63人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は34,012人,負傷者は76,833人と発表(19日)。
イラン中部イスファハン州の空港や軍事基地付近で3回の爆発音,イラン宇宙機関の報道官が無人機3基の撃墜に成功し同州の核施設に被害なしと発表,米主要メディアが政府当局の情報としてイスラエルがイランへの攻撃を事前に連絡があったと報道,ブリンケン国務長官はイスラエルのイラン攻撃に米国は関与していないと発表(19日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は71人,負傷者は106人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,970人,負傷者は76,770人と発表(18日)。
・ガザ地区の民間防衛部門が中部ヌッセイラート難民キャンプをイスラエル軍が数日間にわたって軍事作戦を展開したのちに撤退,作戦中に死傷,拘束または行方不明が約500人と発表(18日)。
・イスラエルの公共放送KANがイランに対する報復攻撃計画について,ネタニヤフ首相がバイデン大統領との電話会談後に実行の見送りを決めたと報道,米ABCニュースもイランへの報復攻撃を取りやめたと報道(18日)。
・トルコのフィダン外相がネタニヤフ首相は「政権を維持するために」中東の緊張を利用していると非難(18日)。
・国連安保理でパレスチナの国連への正式加盟を勧告する決議案を採決,日本を含む12カ国が賛成,イギリスとスイスが棄権,米国が拒否権を行使し否決(18日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は56人,負傷者は89人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,899人,負傷者は76,664人と発表(17日)。
・レバノンのヒズボラが16日にイスラエル軍の攻撃により指揮官含むメンバー3人が殺害されたことへの報復としてイスラエル北部の軍事施設をミサイルと無人機で攻撃したと発表,イスラエル軍はイスラエル兵14人負傷と発表,その後レバノン東部バアルベクのヒズボラ施設をイスラエル軍が空爆(17日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は46人,負傷者は110人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,843人,負傷者は76,575人と発表(16日)。
・ガザ地区北部ベイトハヌンとジャバリア難民キャンプ地域にイスラエル軍戦車部隊が再度展開し学校や避難民を包囲(16日)。
・ガザ地区南部ラファをイスラエル軍が空爆し子ども含むパレスチナ人計22人死亡,多数負傷,保健当局発表(16日)。
・ガザ地区北部ガザ市で警察車両へのイスラエル軍の空爆により警官7人死亡,ガザ地区内務省発表(16日)。
・レバノン南部をイスラエル軍が空爆しヒズボラ指揮官含む3人死亡(16日)。
トルコのエルドアン大統領がイスラエル軍によるガザ地区での「残虐行為とジェノサイド」が続く限り新たな地域紛争が起こる可能性があると指摘し,中東における最近の緊張の高まりはネタニヤフ政権のみに責任があると批判,イランのイスラエルへの攻撃を非難しながらイスラエルによるシリアのイラン外資官への攻撃を非難していない西側諸国も強く非難(16日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は68人,負傷者は94人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,797人,負傷者は76,465人と発表(15日)。
・ヨルダン川西岸地区北部ナブルス近郊のパレスチナ人居住地域をイスラエル軍部隊監視下で武装したユダヤ人入植者が襲撃しパレスチナ人青年2人死亡,地区首長発表,イスラエル兵が負傷者を搬送しようとした救急車をブロック,赤新月社発表,同地区ナブルスでイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人青年1人死亡,3人負傷,警察はパレスチナ人が爆発物を投げようとしたための自衛措置と説明(15日)。
・ガザ地区北部でイスラエル軍の発砲によりパレスチナ人避難民5人死亡(15日)。
・イスラエルの戦時内閣kが前日のイランによる攻撃への対応を協議,報復の時期や規模で一致せず結論を先送り,ガンツ前国防相は「しかるべき時に代償を強いる」と発言,バイデン政権はイランへの攻撃に参加しないと言明しネタニヤフ首相に「慎重な対応」を要求(15日)。
・カリフォルニア州ゴールデンゲート・ブリッジでガザ地区への連帯を訴える抗議行動,デモ参加者数百人が同橋を封鎖,イリノイ州のシカゴ・オヘア空港周辺でもデモ参加者が道路を占拠(15日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は43人,負傷者は62人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,729人,負傷者は76,371人と発表(14日)。
・イランの国連代表部がイスラエルへの攻撃はシリアのイラン大使館への攻撃に対する報復であり,この件は「完結したとみられる」と述べたうえで,「イスラエル政権が再び過ちを犯すならイランの対応はずっと厳しくなるだろう。これはイランとならず者イスラエルとの紛争であり米国が介入するべきではない」と警告(14日)。
・シリア南部のダマスカス国際空港をイスラエル軍が空爆したとシリア国営メディア報道(14日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は52人,負傷者は95人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,686人,負傷者は76,309人と発表(13日)。
・ヨルダン川西岸地区で14歳のイスラエル人少年がパレスチナ人に殺害されたとしてユダヤ人入植者が複数のパレスチナ人居住地を襲撃し民家約30戸と農場10カ所,車数台に放火,赤新月社はパレスチナ人6人負傷と発表(13日)。
イラン革命防衛隊が1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことへの報復として200機を超える弾道ミサイル,巡航ミサイル,無人機をイスラエルに向けて発射,イスラエル軍のハガリ報道官が巡航ミサイル10基を撃墜,少女1人負傷と発表(13日)。
・バイデン米大統領がイランがイスラエルに向けて発射した弾道ミサイルと無人機のほぼすべてが米軍の支援により撃墜されたと発表(13日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は89人,負傷者は120人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,634人,負傷者は76,214人と発表(12日)。
・ガザ地区北部ガザ市でイスラエル軍の空爆によりパレスチナ人少なくとも25人死亡,中部の難民キャンプへのイスラエル軍の砲撃によりパレスチナ人6人死亡,パレスチナ人ジャーナリスト3人含む約70人負傷,保健当局発表(12日)。
・ヨルダン川西岸地区ヨルダン渓谷地域でイスラエル軍の攻撃によりハマス軍事部門アル・カッサム旅団メンバー1人死亡,同地区チュバスの難民キャンプでイスラエル軍の襲撃によりパレスチナ民間人1人死亡,同地区ラマラ近郊でユダヤ人入植者とイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人1人死亡,少なくとも25人負傷,保健当局と赤新月社発表(12日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は63人,負傷者は45人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,545人,負傷者は76,094人と発表(11日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は122人,負傷者は56人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,482人,負傷者は76,049人と発表(10日)。
・ガザ地区へのイスラエル軍の空爆によりハマスのハニヤ指導者の息子3人と孫4人死亡,イスラエル軍は息子3人はハマス工作員と発表(10日)。
・イスラエル政府がガザ地区に支援物資を搬入するトラックが数が急ピッチで増加していると発表,赤新月社や国連人道問題調整事務所(OCHA)はトラックの数はイスラエル発表より大幅に少なく,積載量も半分以下と批判(10日)。
・イランの最高指導者ハメネイ師がシリアのイラン大使館領事部をイスラエル軍が攻撃したことについて,「領事部への攻撃は我々の国土を攻撃したのと同じだ」と指摘し,「邪悪な政権は過ちを犯したことで罰せられなければならず,そうなる」と警告(10日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は153人,負傷者は60人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,360人,負傷者は75,993人と発表(9日)。
・ハマスがガザ地区での休戦や人質解放交渉について,エジプト,カタール,米国の尽力に謝意を述べつつ,イスラエルが提示した案について「かたくなな態度のままで,こちらの要求に何も応じていない」と批判(9日)。
・イスラエルのラピド前首相が訪問先の米国でブリンケン国務長官と会談後,ネタニヤフ政権に対してハマスとの停戦案を受け入れて人質解放に向けて動くよう訴え(9日)。
・トルコ政府がイスラエルがガザ地区での停戦を宣言し充分な人道支援の搬入を許可するまでイスラエルへの鉄鋼,肥料,ジェット燃料などの輸出を制限すると発表,イスラエルは対抗措置を講じると反発(9日)。
・フランスのセジュルネ外相がガザ地区への人道支援に必要な国境開放のためにイスラエルへの制裁を科す必要があるとの見解を表明(9日)。
・連邦議会下院外交委員会の民主党のミークス議員がイスラエルへの武器移転について,どのように使用されるか追加の情報が得られるまで承認しない意向を表明(9日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は32人,負傷者は47人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,207人,負傷者は75,933人と発表(8日)。
・エジプト・カイロでイスラエル代表団とハマス代表団が休戦交渉を再開,ハマス側はイスラエルが提示した休戦案を拒否したと発表,イスラエルのネタニヤフ首相はハマスに対する完全な勝利はガザ地区南部ラファにいるテロリスト部隊の排除が必要で,攻撃の日程は決まっていると言明(8日)。
・レバノン南部スルタニヤの住宅地でイスラエル軍の空爆により少なくとも3人死亡(8日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は38人,負傷者は71人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,175人,負傷者は75,886人と発表(7日)。
・イスラエル軍がガザ地区南部での戦闘でイスラエル兵4人が死亡と発表,ハマスはハンユニスでイスラエル軍部隊を攻撃したと発表(7日)。
・イスラエル軍がガザ地区南部から1つの部隊を除く大半の地上部隊を撤退させたと発表,ガラント国防相は南部ラファへの侵攻を含めて「将来の作戦への準備を進めるためだ」と説明(7日)。
・エルサレムのイスラエル国会前でネタニヤフ政権に対してハマスの拘束されている人質の早期解放を求める数千人の抗議集会(7日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は46人,負傷者は65人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,137人,負傷者は75,815人と発表(6日)。
・国連人権委員会でイスラエルへの武器売却の全面停止を求める決議案を構成国47カ国中で賛成28カ国,反対6カ国,棄権13カ国で採択(6日)。
・エルサレムとテルアビブでネタニヤフ政権に人質の解放のためにハマスとの交渉の即時妥結を要求する大規模なデモ(6日)。
・レバノン東部シリア国境近くのベカア渓谷にあるヒズボラ訓練基地をイスラエル軍が空爆,死傷者なし(6日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は54人,負傷者は82人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,091人,負傷者は75,750人と発表(5日)。
・イスラエル内閣がガザ地区北部のエレズ検問所を人道支援物資の搬入拡大のために一時的に解放し,アシュトッド港からの搬入も認めることを承認(5日)。
・イスラエル軍がガザ地区で国際NPOの「ワールド・セントラル・キッチン」のスタッフ7人を殺害した攻撃の責任を理由に軍高官2人を解任し3人をけん責処分とすると発表(5日)。
・イスラエル治安当局が東エルサレムで警察署やスタジアムへの攻撃を計画していたIS支持者2人を逮捕したと発表(5日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は62人,負傷者は91人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は33,037人,負傷者は75,668人と発表(4日)。
バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相との電話会談でガザ地区の人道状況の改善と安定,民間人の保護のためには即時停戦が不可欠と強調し,支援団体や民間人の安全確保のための即時行動を要求,米国の支援はイスラエルの対応によって決定されると警告,ブリンケン米国務長官も訪問先のブリュッセルでイスラエルは人道支援の増強と支援従事者の安全確保を通じ「この局面に対応する必要がある」とし,「求められる変化が見られなければ、米国の政策は変更されることになるだろう」と警告(4日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は59人,負傷者は83人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は32,975人,負傷者は75,577人と発表(3日)。
・エルサレムのイスラエル議会前でガザ地区でハマスに拘束されている人質の家族らが4夜連続でネタニヤフ首相に抗議する大規模なデモを実施,昨年10月7日の「大惨事」の責任はネタニヤフ首相にあるとして解散総選挙を要求,バラク元首相も参加,家族の一部が議場に乱入し,議員たちに人質の早期解放のための行動をただちに起こすよう訴え,野党議員も家族らのシュプレヒコールに参加(3日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は71人,負傷者は102人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は32,916人,負傷者は75,494人と発表(2日)。
・ガザ地区中部ディル・アルバラでイスラエル軍の空爆により国際NPO「ワールド・セントラル・キッチン」の職員ら7人が死亡した事件について,イスラエルのネタニヤフ首相が「意図せず無実の人々を攻撃した」と認め「悲劇的な事件」として調査中としつつ,「戦争では起こること」だと主張(2日)。
・上川外相が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を再開し,2023年度内に予定していた約3500万ドル(約52億円)を拠出すると発表(2日)。
・パレスチナ保健省(PMH)が過去24時間のイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は63人,負傷者は94人,10月7日以降のイスラエル軍の攻撃によるガザ地区のパレスチナ人の累計死者数は32,845人,負傷者は75,392人と発表(1日)。
・イスラエル軍が3月17日の襲撃を開始したガザ地区北部アル・シファ病院での作戦が終了したとして撤退,2週間の軍事行動でハマスとイスラム聖戦の戦闘員200人を殺害し,容疑者900人以上を拘束,うち600人がハマスまたはイスラム聖戦のメンバーと特定されたと発表,撤退後の病院敷地付近から数十人の遺体が発見されたと保健当局発表(1日)。
・ガザ地区中部ディル・アルバラのアルアクサ殉教者病院でイスラエル軍の空爆により国際NPOの「ワールド・セントラル・キッチン」の外国人スタッフ6人とパレスチナ人運転手1人死亡,同機関発表(1日)。
・シリア南部ダマスカスのイラン大使館領事部の建物でイスラエル軍の空爆によりイラン革命防衛隊将校ら部隊関係者6人とシリア民間人6人含む13人死亡(1日)。
[アフガニスタン情勢] 【アフガニスタン戦争における犠牲者数】
アフガニスタン戦争の経緯については『対テロ戦争の政治経済学』をお読みください。

・北東部バダクシャン州ファイザバードで6日に自動車爆弾攻撃により死亡したタリバンの州副知事の葬儀が行なわれていたモスク内での爆弾攻撃により16人死亡,50人以上負傷,ISが実行声明(2023.6.8)。
・パキスタン北西部ペシャワールの警官利用のモスク内で自爆攻撃により警官ら61人死亡,170人以上負傷(2023.1.30)。

・東部ナンガルハル州ジャララバードをタリバンが無抵抗で制圧,カブール郊外の複数の地域にタリバンが進軍し包囲,タリバン報道官が全部隊に対してカブール入り口で待機し市内に入らないように指示したと発表,
カブール国際空港に米軍1000人規模が到着し欧米の外交官や市民の郊外退避を警備,ガニ大統領ら政府と議会幹部がタジキスタンやパキスタンに退避し政権崩壊,タリバンがカブールを制圧し政治部門代表のバラダル師が勝利宣言報道官が90年代後半の統治よりも穏健な政策を採用し女性の権利を尊重し外国人とアフガン人を保護する方針を発表(2021.8.15)。

[パキスタン情勢]
北西部カイバー・パシュトゥンクワ州アフガニスタン国境近くのバジュール地区でイスラム主義強硬派政党「イスラム聖職者協会ファズル派」(JUI-F)の集会での自爆攻撃により少なくとも子ども5人含む63人死亡,約200人負傷,ISホラサン州が実行声明(2023.7.30)。

[論文・分析]

「対テロ戦争」は何をもたらしたのか(2017/3/25)
『薄氷の帝国 アメリカ ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』 ( 出版案内と序論 12/1/25公開)
イラク戦争前史 ― パレスチナ問題(09/1/31掲載)
「イラク情勢メモ」:イラク情勢の「改善」をどう見るか?(09/1/25掲載)
Collateral Damage ― “対テロ戦争 War on Terror”の非人間性(2009/1/20掲載)

はじめに

〔共同研究開始の経緯〕

2003年2月,アメリカによる対イラク攻撃が迫っている危機的状況のなか,社会科学研究者の有志36人が呼びかけ人となって,新聞に「意見広告 社会科学研究者は訴える」を掲載する運動をはじめました。
国際法や国際世論を無視した先制攻撃と日本の加担への反対を世論に訴えることが目的でした。その運動の一環としてウェブ・サイトを開設することになり,呼びかけ人の依頼により,わたしがサイトの作成・管理にあたることになりました。
そこで2月中旬に「研究者は訴える」と題したウェブ・サイトを開設し,賛同者名簿の作成,運動の進展・拡大にともなう更新,読者から送られてくるメールへの対応などを担当しました。
さらに3月17日,ブッシュ大統領の最後通告演説をうけて,呼びかけ人による「軍事行動即時停止要求の声明」をウェブ・サイト上で発表し,「声明」への賛同者のメールによる受付をはじめました。
しかし3月20日,世界的な反戦運動の盛り上がりをあざ笑うかのように米英軍のイラク攻撃が強行されました。
(この意見広告や声明,運動の経緯については「研究者は訴える」ウェブ・サイトをご覧ください。また,最後通告演説直後にウェブ上に公開した私見はこちらをご覧ください。)
わたしはこの「イラク戦争」の経過の記録をはじめるとともに,わたしの研究会(ゼミナール)の学生(新4年生)に,この戦争の記録と背景や実態の分析を2003年度の共同研究のテーマとしてはどうかともちかけてみました。わたしのゼミの専攻分野が政治経済学・現代資本主義論であり,第2次大戦後の資本主義を世界史的視野から理論的・実証的に分析することが基本テーマであったからです。彼らも現在進行中の深刻な問題をリアルタイムで取り扱うことに非常に興味を持ってくれ,4月から参加した新3年生の同意も得て,「イラク戦争を考える」共同研究が出発しました。

〔分析視角〕

共同研究を始めるためには分析視角を共有することがまず大切です。
わたしたちは,「イラク戦争」を単に時論的にではなく,
1. 多面的・歴史的視点から考察すること,
2. 自分たち自身の問題として考えるため,また戦後日本経済をゼミのテーマの1つとしていることから,国際社会と日本との関係・日本の「戦争」への対応を考察の柱の1つとすること,
3. 安易に独りよがりの結論を下すのではなく,考えるための材料を可能な限り集めて取捨選択して提示すること,
を基本方針としました。
(1) より具体的には,この「戦争」を9.11同時多発テロに起因する問題としてではなく,あるいは少しさかのぼって1991年の湾岸戦争前後に根源がある問題としてでもなく,第2次大戦後の国際関係や中東地域の複雑な政治・軍事関係を考慮しなければ本質が理解できない問題として分析するということです。
もちろん,中東問題の焦点であるパレスチナ問題の起源は紀元前にあります。そこまでさかのぼらなくとも,現代につながるパレスチナ問題の複雑化*の出発点は,第1次大戦中,イギリスがパレスチナの地にアラブ人とユダヤ人双方に独立国家建設を認める矛盾した政策(フサイン・マクマホン協定とバルフォア宣言)をとったこと,いわゆるイギリスの「二枚舌外交」にあります。
*現代のパレスチナ問題の起源と経過については,「イラク戦争前史―パレスチナ問題」をご覧ください。
(2) ただ,イスラエルとアラブ諸国との対立にしてもイスラム圏諸国間関係にしても,今回の「イラク戦争」につながるような問題の複雑化を規定する要因の大部分は,第2次大戦後の特殊な国際関係にあるとわたしたちは考えました。
第2次大戦後の特殊な国際関係においてもっとも重視すべき要素は,戦後まもなくはじまった米ソ冷戦です。アメリカを中心とする西側資本主義陣営とソ連を中心とする東側社会主義陣営との対立はグローバルな広がりを持ち,政治・軍事・経済・社会などさまざまな分野で戦後世界を規定する重要な要因となりました。
40年以上続いた冷戦期間中,米ソがそれぞれ自陣営の支配圏の維持・拡大と強化のために,世界各国の政権や諸勢力に政治・軍事・経済的に影響力を行使しました。
国際的な紛争を平和的に解決する目的で設立された国際連合も,米ソ間の利害の対立する問題については機能不全に陥りました。
日本は敗戦から6年以上もアメリカ主導の占領下に置かれ,諸制度の急激な改革が行なわれました。日本の独立と同時に結ばれた日米安保条約(日米軍事同盟),その後も続く政治的な対米依存(従属),日本経済の復興や急激な経済成長も,冷戦体制のもとでのアメリカとの関係によって根本的に規定されています(これはわたしのゼミで扱う基本テーマの1つです)。
中東地域も米ソ対立・覇権争いの変遷に翻弄された地域です。
(3) 冷戦は,時に朝鮮戦争やベトナム戦争のような地域的な(代理)戦争として,熱い戦争として現実化しましたが,米ソが直接戦うことはありませんでした。しかし,米ソの熾烈な軍拡競争とそれぞれの支配圏の維持・拡大のための軍事的・経済的な介入は,両国にとって実際の戦争を戦うのと同様の重い負担となりました
象徴的なのがアメリカのベトナム戦争への介入とソ連のアフガニスタン侵攻です。
アメリカは1965年からベトナム戦争に本格的に介入をはじめました。介入当初の予想に反して,南ベトナム解放民族戦線と北ベトナムの抵抗によって戦闘は長期化・泥沼化していきます。アメリカは,ピーク時で年間288億ドル(総額1,067億ドル)の巨額の直接戦費と54万人の兵力を投じ,核兵器以外のあらゆる近代兵器を使用しました。死者だけでも,アメリカ兵約4万6000人,南ベトナム軍や韓国軍などの援助軍約19万人,北ベトナム・解放戦線軍92万人,民間人120万人といわれています。負傷者や後遺症に苦しむ人はさらに膨大でしょう。
これだけの犠牲を払いながら勝利できず,アメリカ国内や世界的な反戦運動の高まり,後述の経済的負担の重さなどから,1973年のパリ協定でアメリカ軍の完全撤退となりました。
アメリカは軍事的に敗北しただけでなく,経済的にも深刻な影響を受けました。ベトナム戦争はアメリカの財政赤字を膨大なものとし,インフレーションに拍車をかけ,産業の国際競争力を低下させ,国際収支の赤字を悪化させました。その結果,基軸通貨であるドルに対する信認が低下してドル危機が深刻化し,アメリカは1971年に金とドルの交換を停止せざるを得なくなります。国際経済は混乱し,固定相場制が維持できなくなって変動相場制に移行します。第2次大戦後の資本主義諸国の経済復興と成長の枠組みであったIMF体制が崩壊し,世界経済は1970年代の長期停滞に入っていきました。
ソ連は1979年末にアフガニスタンの内戦に軍事介入しました。反政府派はパキスタンの支援をえながらゲリラ活動で対抗し,アメリカも武器の供与など反政府派を援助して,戦闘は長期化・泥沼化していきました*。ソ連は10万を超える兵力を投入しながら勝利できず,多数の人的損害(15,000人の戦死者・37,000人の負傷者といわれる)をこうむり,経済的にも大きな負担となったため,1989年2月,ゴルバチョフ政権のもとで撤兵が行なわれました。
*サウジアラビアの富裕な家に生まれたオサマ・ビン・ラーデンがソ連と戦うためにアフガニスタンに入り,アラブ義勇兵の募集や訓練に資金提供などで重要な役割を果たしました。そのために作られた基金がアル・カーイダ(al Qaida)です。
この時期にはオサマは親米でしたが,ソ連のアフガニスタンからの撤退後の90年代に反米に転じて,アル・カーイダは反米武装組織に変わっていきます。
(4) 米ソ両国とも冷戦とそれに付随する地域戦争の負担に耐えられず,1989年のマルタ会談によってようやく冷戦の終了が公式に宣言されたのです。アメリカはレーガン軍拡の影響も加わって80年代後半に純債務国となったことに象徴されるように経済的に衰退し,ソ連は経済的困難ばかりか政治的混乱も極限に達し,国自体が消滅してしまいました。
第2次大戦後の戦争(冷戦・熱戦)は,戦場となった国・地域を荒廃させたのはもちろん,正義のない戦争を強行した米ソ両国をも多様な意味で荒廃させてしまったのです
*。
*戦後資本主義体制において冷戦のもつ意味については,わたしの「冷戦とアメリカ経済」『薄氷の帝国 アメリカ ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』をお読みください。
さらに,冷戦中に米ソが影響下に置いた各国や地域・諸勢力に対して行なった政策は,それら国民や民族の自立・民主化のためにではなく,自陣営の安全保障と支配圏の維持・拡大と強化を第1の目的としていました。両国とも民主的国家や勢力だけでなく,独裁政権や軍事政権であっても自国にとって有用であれば軍事・経済援助やその他の支援を行ない,支配下に置いたのはその現われです。
冷戦終結後はアメリカもソ連(ロシア)もその影響下に置いていた国や地域の多くに対して,そうした支援と支配を続ける必要もその余裕もなくなりました。いわば,冷戦体制の維持というタガが外れたのです。
冷戦中に米ソ両国の援助と支援を受けた体制の下で抑圧され続けてきた人々や民族は,その体制に対する強い抵抗意識だけでなく,強い反米意識・反ソ(反ロ)意識を持ったのは当然でしょう。米ソの影響力が低下し,既存の支配体制が弱体化すれば,そうした意識を行動として現実化させようとする動きが出てくることも当然でしょう。
1990年代以降,世界の各地で民族紛争や地域紛争がいっきに噴出しはじめたこと,アメリカやロシアなどに対するテロ(実行者にとっては抵抗運動)が頻発するようになったことは,こうした背景のためだと考えられます。
(5) 他方,冷戦終結は国際紛争の調停機関としての国連の存在意義と機能を高めるはずです。アメリカもロシアも一国だけで国際紛争を封じ込める能力も必要性もなくなったからです。また,国連のシステムにはさまざまな弱点があるとしても,現実的に国際紛争を調停し解決する多国間の協議・協力機関は国連しかないからです。
(6) 以上のような認識にたって,わたしたちは「イラク戦争」を分析していこうと考えました。
そこで,以下のような論点と課題を設定しました。
1. 冷戦中および冷戦後のアメリカの中東政策
2. アメリカの政策の中東地域への影響
3. アメリカのイラク攻撃の経緯:単独行動主義への傾斜
4. 冷戦中および冷戦後の国連の役割
5. 冷戦中および冷戦後の日米関係
6. イラク戦争の原因についての諸説の検討
さらに,
7. イラク戦争の推移を記録し,分析視角(4)の認識からこの戦争が容易には「終わらない」性格を持っていることを明らかにすること
8. アメリカにとってのベトナム戦争,ソ連にとってのアフガニスタン侵攻のように,イラク戦争は現代世界にどのような影響を与え,世界史の中でどのような意味を持つことになるのかを考察していこうと考えました。
2003年度は,これらの一部(1〜6)について延近が論文構成を提案し適宜コメントしながら,延近研究会12期・13期の学生が論文にまとめ,三田祭と延近研究会OB/OG会でとして発表しました。しかし,問題の難しさと幅の広さから論文としてはかなり未消化なものでした。
2004年度は,13期と14期の学生がそれらの改良と7,8の作業を行ない,延近提案の論文構成とコメントにより「イラク戦争のアメリカ政治・経済への影響」を中心として論文にまとめ,三田祭と延近研究会OB/OG会で発表しました。
当初は論文本体と要約をこのウェブサイト上に公開する予定でしたが,インターネット利用者の著作権軽視の状況*にかんがみ,公開の形式等を検討中です。
*このウェブサイト上に公開しているわたしの著作が他大学の学生によってコピーされてレポートとして提出されているばかりか,某大学の教員(非常勤)が,出典を明示せずに無断で教材として配布していたとの情報を当該大学の学生から連絡を受けたことがあります。
「イラク戦争を考える」を読みたいという希望も多く,公開を検討してきましたが,公開するためには論文としての完成度を上げ,現時点までのイラク情勢や「対テロ戦争」の推移についても盛り込んだものを公開したいと考えています。現在,一般公開に向けて私が全面的に改訂作業中です。その一部は論文ドラフトとして順次掲載していく予定です。(2009年1月31日記)
「イラク戦争を考える 第1部」については,2003年度の論文作成時点の原稿の修正は最低限にとどめたものをPDFファイルで公開しました。ファイルのダウンロードおよび印刷はできますが,著作権保護のために,文章や図表などのコピーはできないようなセキュリティ設定としてあります。また背景にわたしのニックネームが透かしとして入っています。
イラク戦争を含む「対テロ戦争」と「新帝国主義」戦略についてのわたしの見解は,別に「薄氷の帝国 アメリカ」と題する論文として公開しています(2009年12月30日記)。
「薄氷の帝国 アメリカ」は,大幅に加筆修正して,2008年秋以降の世界的金融・経済危機の構造を論じた著書『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』として,御茶の水書房から2012年2月に出版いたします。本書の構成と序論はこちらでご覧ください(2012年1月25日追記)。
「イラク戦争を考える 第1部」(pdf. 3.6MB)
「薄氷の帝国 アメリカ」

(延近 充)

各年度の論文構成は次のページをご覧ください。
「イラク戦争を考える」第1部(2003年度)
「イラク戦争を考える」第2部(2004年度)
7.のための資料として作成中の年表は次のページをご覧ください。
イラク戦争(対テロ戦争)関連年表 2003年2月〜
原則として複数のソースで確認できた事実のみを分類・収集して作成。
日付は時系列参照の便宜のため日本時間で表示し,必要に応じて現地時間を併記した。
現在,ほぼ毎日更新中です。
8.の考察のために作成している,イラク情勢の現状に関する私のメモはこちらのページをご覧ください
イラク戦争における
犠牲者
アフガニスタン戦争
における犠牲者
原油価格の推移
2003年〜
日米株価の推移
2008年9月〜
延近研究会 共同研究メンバー
第12期 植村昌史,大倉由貴子,乙武郁子,菊地雅子,岸田昌子,高石裕介,田川亮輔,永田大介,
村上創太,山口顕
第13期 安部雅隆,石井宏太郎,和泉ちひろ,小島健一郎,杉井良子,関谷直人,関屋文彦,
長江崇将,福市年成,堀田佳秀,山口功,山本真澄,吉田一陽
第14期 井上允之,内川浩樹,内田健介,栢島由佳里,今野聡,田中広美,中尾俊明,西山浩平,
福原早苗,松崎禎夫,望月さやか,山崎理絵,渡辺陽介
Iraq Body Count(民間人死亡者)

【関連情報・リンク】

対イラク戦争と日本の加担に対する研究者有志の反対声明(2003.3.20)
Column アメリカの対イラク最後通告と日本の対応について(2003.3.18)
研究者有志による意見広告「アメリカの対イラク先制攻撃と日本の加担に反対します」(2003.2.27)
ドキュメンタリー映画「アメリカばんざい - crazy as usual -」
イラクで死んだ兵士の家族,イラク派遣を拒否した兵士,ベトナム・アフガニスタン・イラクからの帰還兵,現役海兵隊員へのインタビューや海兵隊員養成のブート・キャンプの取材などで構成されたドキュメンタリー映画。2008年7月26日から公開。私も協賛しています。
「リダクテッド 真実の価値」
2006年にイラク・サーマッラで起きた米兵によるイラク人少女レイプ殺人事件を題材としたブライアン・デ・パルマ監督の作品。フィクションとインターネット上で公開されている実際の映像をミックスして,Redacted−情報の事前削除・編集:アメリカの情報操作・報道規制や偏向報道を描いている。10月25日から公開。この映画のサイトではイラク研究者の酒井啓子氏を講師とするシンポジウムなどの情報あり。
解放軍として歓迎される期待が裏切られ,泥沼化するイラク戦争下,「テロ」を恐れて心理的に追い詰められる米兵たち。イラクで何が起こっているのか,イラクに派兵したアメリカ社会では何が起こっているのかを考えさせる映画。
イラクと同様に泥沼化するアフガニスタンへ日米同盟のために自衛隊派遣を模索し続ける日本政府。
これは「ひとごと」の話ではない。無知は免罪符とはならないのである。

「対テロ戦争」の最前線の実態を知るための手がかりとなるこの2つの映画についての私のコメントをアップしてあります。

このWeb Site内の情報の(出典を明示して引用または転載した情報を除く)すべての著作権は
慶應義塾大学 経済学部 延近 充が所有します。
無断で複製または転載することを禁じます。
Copyright (c) 2004 Mitsuru NOBUCHIKA, Keio University, All rights reserved.

*この共同研究の内容に関する感想・意見・質問・要望等の

学外の方で,回答やコメントを希望される場合には,
(1)簡単な自己紹介
(2)経済学やこの分野の学習経験
(3)質問をしようと思った理由
などを付記してください。
Web上のコミュニケーションのマナーとしてだけでなく,回答やコメントの内容・レベルはこれらの情報によって変わってきますので。無用の誤解を避けるために念のため。
匿名のもの,学校等で課されたレポートなどに直接かかわるような質問,営利目的の質問などには答えられません。
*検索サイトなどから直接このページに来られた方へ
このページは延近研究会共同研究「イラク戦争を考える」の一部です。
共同研究の概要やさまざまな参考資料へのリンク,「イラク戦争関連年表へのリンクなどを含む完全な形で表示するには,こちらをクリックして共同研究「イラク戦争を考える」のトップページに移動してください。

Home