共同研究 「イラク戦争を考える」: Thinking About The Iraqi War

慶應義塾大学 経済学部 延近 充 編著 (2004年9月25日公開)

アフガニスタン戦争,イラク戦争を含む「対テロ戦争」がなぜ「終わらない」性格をもつのか,またアメリカのブッシュ政権が国際社会の反対の中でなぜイラク攻撃を強行したのかについてのわたしの見解は,

『対テロ戦争の政治経済学― 終わらない戦争は何をもたらしたのか』(明石書店,2018年3月)をお読みください。

本書の理論的基礎およびより詳しい現状分析について,下記の2冊が参考となります。

2008年秋以降の世界的金融・経済危機の構造を国際政治や軍事面を含めて論じた『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』(御茶の水書房,2012年2月,本書の構成と序論),

現在の世界経済の危機的状況と90年代以降の日本経済の構造変化を基礎理論から現状分析まで展開し,平易に説明した『21世紀のマルクス経済学』(慶應義塾大学出版会,2015年7月,本書の目次)
What's New
<資料> 終わらない「対テロ戦争」−年表 2003年2月〜 (2019.2. 16 更新)

【欧米でのIS関係のテロ】(2015年〜)

【トランプ政権の政策関連年表】

イラクおよび周辺国情勢
【イラク戦争における
犠牲者数】
[イラク情勢]
2017年までのイラク情勢については『対テロ戦争の政治経済学』をお読みください。

2018年の情勢については,【イラク情勢(2018年】をご覧ください。

「暴力事件」による2019年2月のイラク人の死者32人(15日まで)

[周辺国情勢]
1月
・ケニア南部ナイロビの高級ホテルをアルシャバブが自爆攻撃と小火器で襲撃し21人死亡,30人以上負傷,治安部隊の応戦によりアルシャバブ戦闘員5人死亡(15日)。
・ソマリアの陸軍基地をアルシャバブが襲撃しソマリア軍兵士6人死亡,米軍の空爆によりアルシャバブ戦闘員52人死亡(19日)。
・アフリカ西部マリ北部キダル州アゲルホック地域の国連平和維持活動(PKO)基地への武装勢力「の攻撃によりPKO部隊のチャド人隊員10人死亡,25人負傷,「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」がイスラエルのネタニヤフ首相のチャド訪問に対する攻撃との実行声明(20日)。
・フィリピン南部ホロ島の教会で2発の爆弾攻撃により兵士や民間人27人死亡,77人負傷,ISが実行声明(27日)。
・ソマリア・モガディシオの政府施設近くで自動車爆弾攻撃により2人死亡,5人負傷(29日)。
・ナイジェリア北東部ボルノ州でボコハラムがナイジェリア軍司令官車列を襲撃し兵士8人死亡(30日)。
・ソマリア中部ヒラン地域で米軍の空爆によりアルシャバブ戦闘員24人死亡(31日)。
・フィリピン南部ミンダナオ島サンボアンガのモスクへの手榴弾攻撃により2人死亡,4人負傷(31日)。

2月
・イラン南東部パキスタン国境近くのザヒダーン地域で革命防衛隊員の乗るバスへの自動車爆弾による自爆攻撃により隊員27人死亡,13人負傷,アルカイダ系武装組織「正義の軍隊」が実行声明(13日)。
 [パレスチナ情勢]
2017年までのパレスチナ情勢については『対テロ戦争の政治経済学』をお読みください。

2018年の情勢については,【パレスチナ情勢(2018年】をご覧ください。

トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定すると宣言し,国務省に駐イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するよう指示(2017/12/6)。
・国連安保理がトランプ大統領のエルサレムをイスラエルの首都と認定する決定を無効とする決議案を採決,アメリカを除く14理事国が賛成,アメリカの拒否権行使により同決議案は廃案(12/18)。
・国連総会でアメリカ政府のエルサレムをイスラエルの首都と認定した決定を無効とする決議案が賛成128,反対9,棄権35で採択(2017/12/21)。

2017年12月6日のトランプ大統領のエルサレムをイスラエルの首都と認定する宣言後の,パレスチナ人の抗議行動に対するイスラエル軍の鎮圧行動などによるパレスチナ人の死者数は256人,パレスチナ人の襲撃によるイスラエル人の死者数は12人,
1948年のパレスチナ戦争開始から70年,パレスチナ難民の帰還を要求する3月30日の抗議行動開始以来のイスラエル軍の発砲によるパレスチナ人死者は231人,負傷者は12,300人以上(2019/1/30まで)。

1月

・ガザ地区ガザのファタハ系のパレスチナTV放送局を5人の武装集団が襲撃し設備を破壊(4日)。
・ガザ地区のイスラエル境界地域で13,000人規模のパレスチナ人の抗議行動に対するイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人女性1人死亡(11日)。
・ガザ地区のイスラエル境界地域でパレスチナ人数千人規模の抗議行動に対するイスラエル兵の発砲によりパレスチナ人14人負傷(18日)。
・ヨルダン川西岸地区ナブルスでイスラエル兵の発砲によりイスラエル兵をナイフで襲撃しようとしたパレスチナ人1人死亡,兵士に死傷者なし(21日)。
・ヨルダン川西岸地区ラマラ近郊でユダヤ人入植者の発砲によりパレスチナ人1人死亡(26日)。
・ヨルダン川西岸地区とエルサレム間の検問所でイスラエル兵の発砲により16歳のパレスチナ人少女1人死亡,イスラエル軍は少女がナイフで兵士を襲撃しようとしたための発砲と説明(30日)。
 [シリア情勢](2019年1月)
・東部デリゾール州のIS支配地域への米軍の空爆により子ども4人含む民間人10人死亡(4日)。
・北西部ラッカ州ラッカのシリア民主軍(SDF)基地へのISの自爆攻撃により民間人1人死亡,クルド民兵数人負傷(7日)。
・東部デリゾール州シャアファ地域でISのロケット弾攻撃により英兵5人死亡(11日)。
・東部デリゾール州イラク国境近くのIS支配地域への米軍の空爆により民間人13人とISメンバー10人死亡(18日)。
・北部アフリンのトルコ軍支配地域でバス内での爆弾攻撃により3人死亡,9人負傷(20日)。
・東部デリゾール州イラク国境近くでシリア民主軍(SDF)とISの戦闘によりSDF戦闘員16人とIS戦闘員34人死亡(24日)。
アフガニスタン情勢
【アフガニスタン戦争における
犠牲者数】
[アフガニスタン情勢]
2018年のアフガニスタン情勢については【アフガニスタン情勢(2018年)をご覧ください。

2017年までのアフガニスタン情勢については『対テロ戦争の政治経済学』をお読みください。

1月
・北部サレポル州サイヤド地区でタリバンの攻撃により警官15人死亡,21人負傷(1日)。
・北部バグラン州プレクムリの治安部隊駐屯地をタリバンが攻撃し警官10人死亡(3日)。
・南部カンダハル州スピンボルダク地区でタリバンと国境警備隊員の戦闘によりタリバン戦闘員16人死亡,11人負傷,警備隊員7人死亡,4人負傷(5日)。
・北西部バドギス州トルクメンとの国境地域の複数の治安部隊駐屯地をタリバンが攻撃し警官14人と親政府派民兵7人死亡,9人負傷,応戦によりタリバン戦闘員15人死亡,10人負傷(7日)。
・北部クンヅズ州,バルク州,タカール州,バドギス州でタリバンの攻撃により治安部隊員と親政府派民兵計32人死亡(10日)。
・南部カンダハル州スピンボルダク地区の治安部隊検問所へのタリバンの攻撃により治安部隊員5人死亡,応戦によりタリバン戦闘員7人死亡,6人負傷,西部ヘラート州ヘラートの警察署を武装集団が攻撃し警官2人と民間人3人死亡,4人負傷(12日)。
・カブール東部の国際機関やNGOの施設地域で自動車爆弾による自爆攻撃により5人死亡,女性12人と子ども23人含む110人負傷(14日)。
・東部ロガール州モハマダ・アグハ地区で州知事の車列への自爆攻撃により警備員8人死亡,10人負傷(20日)。
・中部マイダン・ワルダク州の治安部隊訓練所をタリバンが爆発物を満載した軍用車(ハンビー)と小火器で攻撃し治安部隊員ら126人死亡(21日)。
・中部ウルズガン州タリンコットで敵対勢力の小火器攻撃により戦闘行動中の米兵1人死亡(22日)。
・トランプ政権がカタールでのタリバンとの和平交渉で「アフガニスタンでテロ組織の活動を許さない」ことを条件に,「早ければ今年前半に駐留米軍の撤退を完了させたい」とする意向をタリバン側に伝達,タリバン側は条件をのむことで大筋合意し「米軍の撤退が始まれば我々は攻撃を止める」と述べて停戦に応じる可能性も示唆(23日)。
・南部ヘルマンド州サンギン地区でアフガン軍またはNATO軍の空爆により子ども8人と女性3人含む民間人16人死亡(23日)。
アフガニスタン復興特別監察官がアフガン政府が支配または影響力を保持する地域に住む住民の割合は2018年1月末時点で全人口の63.5%で,直前の四半期の65.2%から低下,全土の407地区のうち政府の管理下にあるのは53.8%,米軍の空爆回数は2018年1月〜11月に6,823回で前年比56%増との調査報告を発表(30日)。
[パキスタン情勢]
南西部バルチスタン州ロラライ地区の治安部隊訓練基地を武装集団が襲撃し治安部隊員4人死亡,2人負傷,応戦により武装集団4人死亡(1/1)。
・南西部バルチスタン州ロラライ地区の警察署を武装集団が襲撃し9人死亡,21人負傷(1/28)。
・北西部カイバー・パシュトゥンクワ州デラ・イスマイル・カーンでパキスタン・タリバンの攻撃により警官4人死亡,3人負傷(2/12)。

[論文・分析]

「対テロ戦争」は何をもたらしたのか(2017/3/25)
『薄氷の帝国 アメリカ ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』 ( 出版案内と序論 12/1/25公開)
イラク戦争前史 ― パレスチナ問題(09/1/31掲載)
「イラク情勢メモ」:イラク情勢の「改善」をどう見るか?(09/1/25掲載)
Collateral Damage ― “対テロ戦争 War on Terror”の非人間性(2009/1/20掲載)

はじめに

〔共同研究開始の経緯〕

2003年2月,アメリカによる対イラク攻撃が迫っている危機的状況のなか,社会科学研究者の有志36人が呼びかけ人となって,新聞に「意見広告 社会科学研究者は訴える」を掲載する運動をはじめました。
国際法や国際世論を無視した先制攻撃と日本の加担への反対を世論に訴えることが目的でした。その運動の一環としてウェブ・サイトを開設することになり,呼びかけ人の依頼により,わたしがサイトの作成・管理にあたることになりました。
そこで2月中旬に「研究者は訴える」と題したウェブ・サイトを開設し,賛同者名簿の作成,運動の進展・拡大にともなう更新,読者から送られてくるメールへの対応などを担当しました。
さらに3月17日,ブッシュ大統領の最後通告演説をうけて,呼びかけ人による「軍事行動即時停止要求の声明」をウェブ・サイト上で発表し,「声明」への賛同者のメールによる受付をはじめました。
しかし3月20日,世界的な反戦運動の盛り上がりをあざ笑うかのように米英軍のイラク攻撃が強行されました。
(この意見広告や声明,運動の経緯については「研究者は訴える」ウェブ・サイトをご覧ください。また,最後通告演説直後にウェブ上に公開した私見はこちらをご覧ください。)
わたしはこの「イラク戦争」の経過の記録をはじめるとともに,わたしの研究会(ゼミナール)の学生(新4年生)に,この戦争の記録と背景や実態の分析を2003年度の共同研究のテーマとしてはどうかともちかけてみました。わたしのゼミの専攻分野が政治経済学・現代資本主義論であり,第2次大戦後の資本主義を世界史的視野から理論的・実証的に分析することが基本テーマであったからです。彼らも現在進行中の深刻な問題をリアルタイムで取り扱うことに非常に興味を持ってくれ,4月から参加した新3年生の同意も得て,「イラク戦争を考える」共同研究が出発しました。

〔分析視角〕

共同研究を始めるためには分析視角を共有することがまず大切です。
わたしたちは,「イラク戦争」を単に時論的にではなく,
1. 多面的・歴史的視点から考察すること,
2. 自分たち自身の問題として考えるため,また戦後日本経済をゼミのテーマの1つとしていることから,国際社会と日本との関係・日本の「戦争」への対応を考察の柱の1つとすること,
3. 安易に独りよがりの結論を下すのではなく,考えるための材料を可能な限り集めて取捨選択して提示すること,
を基本方針としました。
(1) より具体的には,この「戦争」を9.11同時多発テロに起因する問題としてではなく,あるいは少しさかのぼって1991年の湾岸戦争前後に根源がある問題としてでもなく,第2次大戦後の国際関係や中東地域の複雑な政治・軍事関係を考慮しなければ本質が理解できない問題として分析するということです。
もちろん,中東問題の焦点であるパレスチナ問題の起源は紀元前にあります。そこまでさかのぼらなくとも,現代につながるパレスチナ問題の複雑化*の出発点は,第1次大戦中,イギリスがパレスチナの地にアラブ人とユダヤ人双方に独立国家建設を認める矛盾した政策(フサイン・マクマホン協定とバルフォア宣言)をとったこと,いわゆるイギリスの「二枚舌外交」にあります。
*現代のパレスチナ問題の起源と経過については,「イラク戦争前史―パレスチナ問題」をご覧ください。
(2) ただ,イスラエルとアラブ諸国との対立にしてもイスラム圏諸国間関係にしても,今回の「イラク戦争」につながるような問題の複雑化を規定する要因の大部分は,第2次大戦後の特殊な国際関係にあるとわたしたちは考えました。
第2次大戦後の特殊な国際関係においてもっとも重視すべき要素は,戦後まもなくはじまった米ソ冷戦です。アメリカを中心とする西側資本主義陣営とソ連を中心とする東側社会主義陣営との対立はグローバルな広がりを持ち,政治・軍事・経済・社会などさまざまな分野で戦後世界を規定する重要な要因となりました。
40年以上続いた冷戦期間中,米ソがそれぞれ自陣営の支配圏の維持・拡大と強化のために,世界各国の政権や諸勢力に政治・軍事・経済的に影響力を行使しました。
国際的な紛争を平和的に解決する目的で設立された国際連合も,米ソ間の利害の対立する問題については機能不全に陥りました。
日本は敗戦から6年以上もアメリカ主導の占領下に置かれ,諸制度の急激な改革が行なわれました。日本の独立と同時に結ばれた日米安保条約(日米軍事同盟),その後も続く政治的な対米依存(従属),日本経済の復興や急激な経済成長も,冷戦体制のもとでのアメリカとの関係によって根本的に規定されています(これはわたしのゼミで扱う基本テーマの1つです)。
中東地域も米ソ対立・覇権争いの変遷に翻弄された地域です。
(3) 冷戦は,時に朝鮮戦争やベトナム戦争のような地域的な(代理)戦争として,熱い戦争として現実化しましたが,米ソが直接戦うことはありませんでした。しかし,米ソの熾烈な軍拡競争とそれぞれの支配圏の維持・拡大のための軍事的・経済的な介入は,両国にとって実際の戦争を戦うのと同様の重い負担となりました
象徴的なのがアメリカのベトナム戦争への介入とソ連のアフガニスタン侵攻です。
アメリカは1965年からベトナム戦争に本格的に介入をはじめました。介入当初の予想に反して,南ベトナム解放民族戦線と北ベトナムの抵抗によって戦闘は長期化・泥沼化していきます。アメリカは,ピーク時で年間288億ドル(総額1,067億ドル)の巨額の直接戦費と54万人の兵力を投じ,核兵器以外のあらゆる近代兵器を使用しました。死者だけでも,アメリカ兵約4万6000人,南ベトナム軍や韓国軍などの援助軍約19万人,北ベトナム・解放戦線軍92万人,民間人120万人といわれています。負傷者や後遺症に苦しむ人はさらに膨大でしょう。
これだけの犠牲を払いながら勝利できず,アメリカ国内や世界的な反戦運動の高まり,後述の経済的負担の重さなどから,1973年のパリ協定でアメリカ軍の完全撤退となりました。
アメリカは軍事的に敗北しただけでなく,経済的にも深刻な影響を受けました。ベトナム戦争はアメリカの財政赤字を膨大なものとし,インフレーションに拍車をかけ,産業の国際競争力を低下させ,国際収支の赤字を悪化させました。その結果,基軸通貨であるドルに対する信認が低下してドル危機が深刻化し,アメリカは1971年に金とドルの交換を停止せざるを得なくなります。国際経済は混乱し,固定相場制が維持できなくなって変動相場制に移行します。第2次大戦後の資本主義諸国の経済復興と成長の枠組みであったIMF体制が崩壊し,世界経済は1970年代の長期停滞に入っていきました。
ソ連は1979年末にアフガニスタンの内戦に軍事介入しました。反政府派はパキスタンの支援をえながらゲリラ活動で対抗し,アメリカも武器の供与など反政府派を援助して,戦闘は長期化・泥沼化していきました*。ソ連は10万を超える兵力を投入しながら勝利できず,多数の人的損害(15,000人の戦死者・37,000人の負傷者といわれる)をこうむり,経済的にも大きな負担となったため,1989年2月,ゴルバチョフ政権のもとで撤兵が行なわれました。
*サウジアラビアの富裕な家に生まれたオサマ・ビン・ラーデンがソ連と戦うためにアフガニスタンに入り,アラブ義勇兵の募集や訓練に資金提供などで重要な役割を果たしました。そのために作られた基金がアル・カーイダ(al Qaida)です。
この時期にはオサマは親米でしたが,ソ連のアフガニスタンからの撤退後の90年代に反米に転じて,アル・カーイダは反米武装組織に変わっていきます。
(4) 米ソ両国とも冷戦とそれに付随する地域戦争の負担に耐えられず,1989年のマルタ会談によってようやく冷戦の終了が公式に宣言されたのです。アメリカはレーガン軍拡の影響も加わって80年代後半に純債務国となったことに象徴されるように経済的に衰退し,ソ連は経済的困難ばかりか政治的混乱も極限に達し,国自体が消滅してしまいました。
第2次大戦後の戦争(冷戦・熱戦)は,戦場となった国・地域を荒廃させたのはもちろん,正義のない戦争を強行した米ソ両国をも多様な意味で荒廃させてしまったのです
*。
*戦後資本主義体制において冷戦のもつ意味については,わたしの「冷戦とアメリカ経済」『薄氷の帝国 アメリカ ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』をお読みください。
さらに,冷戦中に米ソが影響下に置いた各国や地域・諸勢力に対して行なった政策は,それら国民や民族の自立・民主化のためにではなく,自陣営の安全保障と支配圏の維持・拡大と強化を第1の目的としていました。両国とも民主的国家や勢力だけでなく,独裁政権や軍事政権であっても自国にとって有用であれば軍事・経済援助やその他の支援を行ない,支配下に置いたのはその現われです。
冷戦終結後はアメリカもソ連(ロシア)もその影響下に置いていた国や地域の多くに対して,そうした支援と支配を続ける必要もその余裕もなくなりました。いわば,冷戦体制の維持というタガが外れたのです。
冷戦中に米ソ両国の援助と支援を受けた体制の下で抑圧され続けてきた人々や民族は,その体制に対する強い抵抗意識だけでなく,強い反米意識・反ソ(反ロ)意識を持ったのは当然でしょう。米ソの影響力が低下し,既存の支配体制が弱体化すれば,そうした意識を行動として現実化させようとする動きが出てくることも当然でしょう。
1990年代以降,世界の各地で民族紛争や地域紛争がいっきに噴出しはじめたこと,アメリカやロシアなどに対するテロ(実行者にとっては抵抗運動)が頻発するようになったことは,こうした背景のためだと考えられます。
(5) 他方,冷戦終結は国際紛争の調停機関としての国連の存在意義と機能を高めるはずです。アメリカもロシアも一国だけで国際紛争を封じ込める能力も必要性もなくなったからです。また,国連のシステムにはさまざまな弱点があるとしても,現実的に国際紛争を調停し解決する多国間の協議・協力機関は国連しかないからです。
(6) 以上のような認識にたって,わたしたちは「イラク戦争」を分析していこうと考えました。
そこで,以下のような論点と課題を設定しました。
1. 冷戦中および冷戦後のアメリカの中東政策
2. アメリカの政策の中東地域への影響
3. アメリカのイラク攻撃の経緯:単独行動主義への傾斜
4. 冷戦中および冷戦後の国連の役割
5. 冷戦中および冷戦後の日米関係
6. イラク戦争の原因についての諸説の検討
さらに,
7. イラク戦争の推移を記録し,分析視角(4)の認識からこの戦争が容易には「終わらない」性格を持っていることを明らかにすること
8. アメリカにとってのベトナム戦争,ソ連にとってのアフガニスタン侵攻のように,イラク戦争は現代世界にどのような影響を与え,世界史の中でどのような意味を持つことになるのかを考察していこうと考えました。
2003年度は,これらの一部(1〜6)について延近が論文構成を提案し適宜コメントしながら,延近研究会12期・13期の学生が論文にまとめ,三田祭と延近研究会OB/OG会でとして発表しました。しかし,問題の難しさと幅の広さから論文としてはかなり未消化なものでした。
2004年度は,13期と14期の学生がそれらの改良と7,8の作業を行ない,延近提案の論文構成とコメントにより「イラク戦争のアメリカ政治・経済への影響」を中心として論文にまとめ,三田祭と延近研究会OB/OG会で発表しました。
当初は論文本体と要約をこのウェブサイト上に公開する予定でしたが,インターネット利用者の著作権軽視の状況*にかんがみ,公開の形式等を検討中です。
*このウェブサイト上に公開しているわたしの著作が他大学の学生によってコピーされてレポートとして提出されているばかりか,某大学の教員(非常勤)が,出典を明示せずに無断で教材として配布していたとの情報を当該大学の学生から連絡を受けたことがあります。
「イラク戦争を考える」を読みたいという希望も多く,公開を検討してきましたが,公開するためには論文としての完成度を上げ,現時点までのイラク情勢や「対テロ戦争」の推移についても盛り込んだものを公開したいと考えています。現在,一般公開に向けて私が全面的に改訂作業中です。その一部は論文ドラフトとして順次掲載していく予定です。(2009年1月31日記)
「イラク戦争を考える 第1部」については,2003年度の論文作成時点の原稿の修正は最低限にとどめたものをPDFファイルで公開しました。ファイルのダウンロードおよび印刷はできますが,著作権保護のために,文章や図表などのコピーはできないようなセキュリティ設定としてあります。また背景にわたしのニックネームが透かしとして入っています。
イラク戦争を含む「対テロ戦争」と「新帝国主義」戦略についてのわたしの見解は,別に「薄氷の帝国 アメリカ」と題する論文として公開しています(2009年12月30日記)。
「薄氷の帝国 アメリカ」は,大幅に加筆修正して,2008年秋以降の世界的金融・経済危機の構造を論じた著書『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』として,御茶の水書房から2012年2月に出版いたします。本書の構成と序論はこちらでご覧ください(2012年1月25日追記)。
「イラク戦争を考える 第1部」(pdf. 3.6MB)
「薄氷の帝国 アメリカ」

(延近 充)

各年度の論文構成は次のページをご覧ください。
「イラク戦争を考える」第1部(2003年度)
「イラク戦争を考える」第2部(2004年度)
7.のための資料として作成中の年表は次のページをご覧ください。
イラク戦争(対テロ戦争)関連年表 2003年2月〜
原則として複数のソースで確認できた事実のみを分類・収集して作成。
日付は時系列参照の便宜のため日本時間で表示し,必要に応じて現地時間を併記した。
現在,ほぼ毎日更新中です。
8.の考察のために作成している,イラク情勢の現状に関する私のメモはこちらのページをご覧ください
イラク戦争における
犠牲者
アフガニスタン戦争
における犠牲者
原油価格の推移
2003年〜
日米株価の推移
2008年9月〜

[更新履歴]

キーワードによるサイト内の検索ができます。検索機能を利用したい方はこちら

延近研究会 共同研究メンバー
第12期 植村昌史,大倉由貴子,乙武郁子,菊地雅子,岸田昌子,高石裕介,田川亮輔,永田大介,
村上創太,山口顕
第13期 安部雅隆,石井宏太郎,和泉ちひろ,小島健一郎,杉井良子,関谷直人,関屋文彦,
長江崇将,福市年成,堀田佳秀,山口功,山本真澄,吉田一陽
第14期 井上允之,内川浩樹,内田健介,栢島由佳里,今野聡,田中広美,中尾俊明,西山浩平,
福原早苗,松崎禎夫,望月さやか,山崎理絵,渡辺陽介
Iraq Body Count(民間人死亡者)

【関連情報・リンク】

対イラク戦争と日本の加担に対する研究者有志の反対声明(2003.3.20)
Column アメリカの対イラク最後通告と日本の対応について(2003.3.18)
研究者有志による意見広告「アメリカの対イラク先制攻撃と日本の加担に反対します」(2003.2.27)
ドキュメンタリー映画「アメリカばんざい - crazy as usual -」
イラクで死んだ兵士の家族,イラク派遣を拒否した兵士,ベトナム・アフガニスタン・イラクからの帰還兵,現役海兵隊員へのインタビューや海兵隊員養成のブート・キャンプの取材などで構成されたドキュメンタリー映画。2008年7月26日から公開。私も協賛しています。
「リダクテッド 真実の価値」
2006年にイラク・サーマッラで起きた米兵によるイラク人少女レイプ殺人事件を題材としたブライアン・デ・パルマ監督の作品。フィクションとインターネット上で公開されている実際の映像をミックスして,Redacted−情報の事前削除・編集:アメリカの情報操作・報道規制や偏向報道を描いている。10月25日から公開。この映画のサイトではイラク研究者の酒井啓子氏を講師とするシンポジウムなどの情報あり。
解放軍として歓迎される期待が裏切られ,泥沼化するイラク戦争下,「テロ」を恐れて心理的に追い詰められる米兵たち。イラクで何が起こっているのか,イラクに派兵したアメリカ社会では何が起こっているのかを考えさせる映画。
イラクと同様に泥沼化するアフガニスタンへ日米同盟のために自衛隊派遣を模索し続ける日本政府。
これは「ひとごと」の話ではない。無知は免罪符とはならないのである。

「対テロ戦争」の最前線の実態を知るための手がかりとなるこの2つの映画についての私のコメントをアップしてあります。

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