はじめに


 視覚障害者にとって最も大きな障害は、情報と移動が制限・制約されることである。近年、携帯電話やスクリーンリーダー等の情報通信技術が身近になり、可動柵や見やすいサイン計画の増加等の福祉のまちづくりの進展により、平時であれば、単独で、かなり多くの日常生活活動を送ることが出来るようになった。しかし、災害時には、情報と移動の両方が同時に利用出来なくなるため、極めて重度の災害弱者になってしまう。また、災害後も、植田(1999)や神戸アイライト協会(2005)が阪神・淡路大震災の際に指摘したように、災害後の環境変化により、移動が極めて困難になったり、生活に必要な情報の入手が困難になり、日常生活が著しく制限・制約を受ける。

 2011年3月11日の東日本大震災で、視覚障害者が避難できたかどうか、また、震災後、被災地に住む多くの視覚障害者の安否については、わずかしか情報が得られない状況が続いた。そこで、日本盲人会連合(視覚障害の当事者団体)、日本盲人社会福祉施設協議会(支援団体)、全国盲学校長会が中心になって結成した「日本盲人福祉委員会」の中に「東日本大震災視覚障害者対策本部」(http://homepage2.nifty.com/welblind/aq2011/aq2011.html)が立ち上がった。対策本部は3月下旬から宮城・岩手両県内に「阪神・淡路大震災」時にも視覚障害者への支援にあたったコーディネーターを派遣し、調査・支援活動を開始した。最も支援を必要としている地域は三陸の沿岸であり、現在も様々な支援が行われている。

 一方、復興・復旧が進展するにつれ、比較的被害の小さかった地域においても困っている視覚障害者の声が集まってくるようになった。緊急時の避難に対する不安、帰宅難民になった際の対処、情報不足、生活必需品の確保等である。その中でも最も大きな問題が、二次災害とも言える節電に伴う諸問題である。不安というだけでなく、すでに、事故事例も報告されており、命にかかわる重要な問題になりつつある。

 そこで、本研究では、まず、予備調査として、災害後の節電が理由で安心・安全に影響があった事例を収集し(研究1)、どのような問題を考慮する必要があるかを明らかにした。次に、予備調査の結果に基づき、視覚障害者を対象に節電の影響に関するアンケート調査を実施し(研究2)、節電に伴う問題点やグッドプラクティス等を収集した。また、視覚障害当事者の調査員を募集し、駅等の照明に関するフィールド調査(研究3)を実施した。さらに、節電の救世主として注目されている、節電対応LED照明等に関するフィールド調査(研究4)と、実験研究(研究5)を実施した。なお、本研究は、平成23年度交通エコロジー・モビリティ(ECOMO)財団 交通バリアフリー研究助成事業と平成23年度慶應義塾大学学事振興資金「モビリティと情報のインクルーシブデザイン」の助成を受けて実施した。


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