節電効果が高いとされているLED照明等の中には、暗くて見えにくいものもある。また、分光分布によっては、ロービジョン者の視機能や眼疾患の進行等に影響を及ぼす可能性もあり得る。そこで、節電対応LED照明がロービジョン者の視知覚に及ぼす影響を評価するための実験を実施した。
LED照明を大々的に導入(18,000灯)した群馬県太田市において、ロービジョン者による歩行実験とインタビュー調査を実施した。実験参加者は10歳代から30歳代の3名(男性1名、女性2名)であり、いずれも原因疾患は網膜色素変性症であった。また、通学・通勤等で日常的に単独歩行をしていた。参加者の課題は、LED照明の街路灯が設置してある道を実際に歩きながら、気づいた点や気になる点を口頭で報告することであった。歩行時には、参加者全員が白杖を使用し、隣に検査者が付き添った。参加者には路上の見え方や歩行の状況について適宜、質問を行い、言語報告をICレコーダに記録した。
実地調査場所は、太田市郊外の川沿いにあるサイクリングロードであった。道は、河川沿いの土手にあり、河川側にはガードレール(白色、一部錆びあり)、右側の土手下にLED照明の街路灯(株式会社シャルレライテック製)が並んでいた(図4.1)。街路灯の配置を図4.2に、輝度および照度を表4.1に示した。街路灯は道の片側のみ、30m間隔で設置してあり、歩行者からLED照明部分までの距離は4.8mであった。照明直下での路面輝度は5.80 cd/m2、路面上の照度は2.78 lx(図表のA地点)であった。照明に近い場所のガードレールの照度は、0.68 lx(図表のC地点)であった。2つの街路灯の中間地点の路面輝度は0.06 cd/m2、照度は、0.06 lx(図表のB地点)であった。その地点付近に設置されたガードレール上の照度は、0.19 lx(図表のD地点)であった。
群馬県太田市に在住、または通学・通勤する視覚障害当事者14名に対し、青色LED防犯灯に関するアンケート調査を実施した。群馬県視覚障害者福祉協会を通じて太田市視覚障害者福祉協会に協力を依頼し、同協会の会員に調査票を送付・回収していただいた。
測定場所 |
測定値 |
値 |
A:照明直下 a) | 輝度 b) | 5.80 cd/m2 |
照度 c) | 2.78 lx | |
B:照明間 d) |
輝度 | 0.06 cd/m2 |
照度 c) | 0.06 lx | |
C:ガードレール(照明直下) |
照度 | 0.68 lx |
D:ガードレール(照明間 d)) |
照度 | 0.19 lx |
a) 街路灯(照明部分)までの距離は4.8m
b) 照明直下の路面輝度
c) 1.5mでの高さでの照度
d) 街路灯間距離30mの中間地点
実験参加者の行動観察結果およびインタビューの結果を以下にまとめる。
実験参加者全員が、街路灯のLED発光部分が連なっている様子を目標にして歩く方向を決定していた。LED照明の直下であれば照明されている範囲は見えたが、照明範囲が狭く、照明が届かない部分(街路灯間や、道と街路灯との間など、図4.2の照明以外の部分)には何があるか視認することは不可能であった。歩行者や自転車の視認は、至近距離でなければ難しく、音や声で存在を確認していた。このことから、照明範囲を拡大させるために、街路灯の間隔を狭める、照明の分光範囲を広げる、といった対策が必要であろう。
河川側にガードレールが設置されていることにより、道幅を把握することは可能であった。しかしながら、街路灯側には白線もガードレールもなく、街路灯の方向に歩み寄っていき、道から踏み出しそうになる参加者もいた。街路灯側は、急な下り斜面になっており、参加者全員がその様子を視認できていなかったため、非常に危険な状況であった。ガードレールや白線、自発光式の目印など、道自体の方向・範囲が視認できる手段が環境側(設備側)に必要であろう。
LED照明自体に関しては、参加者全員が、通常の白熱灯よりも光が弱いと感じていた。この理由として、白熱灯に比べてLEDは光の拡散範囲が狭く、遠くまで光が届きにくいことが挙げられる。光の弱さが目に優しいと感じる参加者もあったが、全体として、色としては白や黄色の方が慣れており、好みであるという感想であった。
群馬県太田市に在住、または通学・通勤する視覚障害当事者から、14件の有効回答を得た(回収率100%)。以下、大項目ごとに結果をまとめる。
回答者は14名であり、そのうち男性が11名、女性が3名であった(表4.2、図4.3)。また、全員が50歳代以上であり、若年層は含まれていなかった(表4.3、図4.4)。
回答者数 | 比率(%) | |
男 |
11 |
78.6 |
女 |
3 |
21.4 |
合計 |
14 |
100 |
回答者数 | 比率(%) | |
50代 |
6 |
42.9 |
60代 |
7 |
50.0 |
70代 |
1 |
7.1 |
合計 |
14 |
100 |
表4.4および図4.5に外出の頻度を、表4.5および図4.6に日常的に使用している交通機関を示した(交通機関は複数回答可)。ほとんど毎日外出している人が5割と最も多く、全体的に外出の頻度は高いことがわかった。また、電車やバス等の公共交通機関を使用している割合も高いことから、日常的に街路灯を目にする機会が多いと予想される。
回答者数 | 比率(%) | |
ほとんど毎日 |
7 |
50.0 |
週に2〜3回 |
4 |
28.6 |
週に1回程度 |
1 |
7.1 |
月に2〜3回 |
0 |
0.0 |
年に数回 |
1 |
7.1 |
その他 |
1 |
7.1 |
合計 |
14 |
100 |
回答者数 | 比率(%) | |
電車 |
11 |
78.6 |
バス |
6 |
42.9 |
タクシー |
5 |
35.7 |
自家用車 |
7 |
50.0 |
船 |
0 |
0.0 |
その他 |
1 |
7.1 |
太田市内においてLED街路灯が導入されたことは、無回答を除く13人中10人の回答者が認識していた(表4.6、図4.7)。また、そのうちのほとんどが青色LED防犯灯を経験していた(表4.7、図4.8)。
回答者数 | 比率(%) | |
知っている | 10 |
76.9 |
知らない | 2 |
15.4 |
聞いたことはあるが詳しくは知らない | 1 |
7.7 |
合計 |
13 |
100 |
回答者数 | 比率(%) | |
見たことがある | 9 |
69.2 |
見たことはない | 1 |
7.7 |
わからない | 3 |
23.1 |
合計 |
13 |
100 |
青色LED防犯灯を実際に見たことがあると回答した9名に対し、従来の街路灯と比べて見やすいかを質問したところ、3分の2の回答者が従来の街路灯に比べてLED防犯灯は「見えにくくなった」と感じていることがわかった(表4.8、図4.9)。なお、「その他」は、どちらともいえないという回答であった。
回答者数 | 比率(%) | |
見やすくなった | 1 |
11.1 |
見えにくくなった | 6 |
66.7 |
変わらない | 1 |
11.1 |
その他 | 1 |
11.1 |
合計 |
9 |
100 |
回答者が青色LED防犯灯を利用した際に、気になった点や困った点としては、以下のことが挙げられた。
LED防犯灯は従来の街路灯に比べて照射が局所的であるため、街路灯直下付近ではまぶしいと感じ、街路灯間ではあまり光が届かないため暗いと感じると考えられる。また、今までの防犯灯の光源が取り替えられたことにより、町が暗くなったと評価されていた。この要因についても、LEDの特性によるところが大きいと考えられる。
青色LED防犯灯が普及することに対しての意見を表4.9および図4.10に示した。普及してほしいと回答した2名とも青色LED防犯灯を見たことがあり、うち1名は、見やすくなったと回答し、もう1名はわからないと回答していた。普及させるべきではないと回答した2名ともに、青色LED防犯灯を見たことがあり、見えにくくなったと回答していた。
回答者数 | 比率(%) | |
ぜひ、他の地域にも普及して欲しい | 2 |
15.4 |
他の地域に普及させる前に視覚障害者に対してしっかり検証して欲しい | 7 |
53.8 |
他の地域には普及させるべきではない | 2 |
15.4 |
わからない | 2 |
15.4 |
合計 |
13 |
100 |
また、防犯灯等の街路灯に関して、主に以下のような意見が挙げられた。
LED防犯灯は見えづらいという意見がある一方で、普及してしまうことは仕方ないと感じている当事者もいることがわかった。また、LEDが青色であることで、寂しい印象があるという意見もあった。
本調査のサンプル数は14件と少なかったが、実際に青色LED防犯灯を体験し、困難を感じている事例を抽出することができた。その主たる理由として挙げられたのは、街路灯間の空間が暗くて見づらいというものであり、先述の歩行実験と同様の結果が得られた。