第5章 必要な照明等に関する実験


(1)目的

 安全な歩行やサイン等の視認に必要な照度を特定するには、環境条件を統制することが困難な現場での検証は難しい。そこで、屋内に同様の環境を用意し、これらの行動に必要な照明条件について、LED照明と蛍光灯照明を比較することによって検討した。

(2)方法

 慶應義塾大学日吉キャンパス内の施設にて、部屋を暗室にした状態で各照明の照度測定を行った。床面から照明までの高さは300cmであった。まず照明直下の床面の照度を測定し、そこから水平方向に50cm離れた位置、100cm離れた位置と、50cm刻みに照度を測定していった。最終的に1000cm離れた位置まで測定した。また、床面から150cmの高さで同様の測光を行った。照明器具の設置の様子および照度測定の様子を図5.1、5.2に示す。測定の対象は、主に屋内で採用されているLED照明(照明器具;LED BANK, F40LED2-O、ランプ;LED BANK, T021222; 以下、大型LEDとする)、街路灯等の屋外の照明として採用されているLED照明(照明器具;LED BANK, FTWLED1-20、ランプ;LED BANK, LMT1020-IDP;以下、小型LEDとする)、および屋内で採用されている蛍光灯(照明器具;丸善電機株式会社, BH-2177、ランプ;National, FL20SS・ECW/18;以下、蛍光灯とする)であり、それぞれの照明下での照度を測定した。比較のため、蛍光灯は小型LEDと同じサイズのものを用意した。

小型LED照明を天井に設置した様子を示した写真。

図5.1 天井に設置された照明器具(小型LED)

照度を測定している様子を示した写真

図5.2 照度測定の様子

(3)結果・考察

 各照明について、照明直下からの水平距離と照度との関係を図5.3〜5.5に示した。  まず、同じサイズの小型LEDと蛍光灯の特性を比較するため、各照明の照度分布を図5.3、5.4に示した。ワット数が異なるため、照度の絶対値を比較することに意味はない。したがって、各照明の照度の相対値の変化を距離ごとに比較する。照明直下およびその付近においては、蛍光灯よりも小型LEDの照度が高いことがわかる。しかしながら、距離が200cmを超えたところでは、蛍光灯の照度の方が高かった。この傾向は高さ150cmの位置で測定した場合にも同様に見られる。以上の結果から、従来の蛍光灯と比較すると、LED照明は照明直下から離れるにつれて照度が減衰しやすいことがわかった。したがって、LED照明を街路灯等に使用する場合には、従来の蛍光灯よりも照明の当たらない部分が大きくなる可能性がある。その結果として、研究4の実地調査においてロービジョン者から報告があったように、道路の状況を視覚的に把握することが困難な状況を生み出す可能性がある。また、図5.5に示したように、光量の多い大型LEDにおいても距離が離れるにつれて急激な照度低下が確認された。このことから、上記の問題への対策としては、光量を増やすことよりも、照明の設置間隔を狭めることの方が重要であると考えられる。

横軸に照明直下からの水平距離を、縦軸に照度をとって距離と照度度の関係を表している。照明直下およびその付近においては、蛍光灯よりも小型LEDの照度が高い。しかしながら、距離が200cmを超えたところでは、蛍光灯の照度の方が高かった。

図5.3 床面における照明直下からの水平距離と照度との関係(小型LED、蛍光灯)

横軸に照明直下からの水平距離を、縦軸に照度をとって距離と照度の関係を表している。照明直下およびその付近においては、蛍光灯よりも小型LEDの照度が高い。しかしながら、距離が200cmを超えたところでは、蛍光灯の照度の方が高かった。

図5.4 床面から150cmの高さにおける照明直下からの水平距離と照度との関係(小型LED、蛍光灯)

横軸に照明直下からの水平距離を、縦軸に照度をとって距離と照度の関係を表している。距離が離れるにつれて急激な照度低下が確認された。

図5.5 照明直下からの水平距離と照度との関係(大型LED)


<戻る>