研究2で実施するアンケート調査の内容を決めるために、視覚障害者や支援者にヒアリング調査を実施した。
災害後の節電が理由で視覚障害者の安全・安心にどのような影響があったかを首都圏の視覚障害当事者団体(日本網膜色素変性症協会、東京都盲人福祉協会)や視覚障害特別支援学校(盲学校)にヒアリングした。ヒアリングの対象者は、視覚障害当事者2人、歩行訓練士2人、盲学校の教員4人であった。ヒアリングには、非構造化面接法を用いた。
ヒアリングの結果、視覚障害者の移動に影響があった主な問題点として、以下の点が明らかになった。
駅のホーム、改札、通路等の照明が消されていて、もしくは、間引かれていて暗くて見えにくく、怖い思いをした(図1.1、1.2)という報告があった。階段は足を踏み外すと大きな事故につながる危険な箇所であるにもかかわらず、照明が消されていて、暗くて怖かった(図1.3)という報告もあった。さらに、階段が暗くて見えにくかったため階段で転倒し、骨折をしたというロービジョン者からの報告もあった。
網膜色素変性症等の明暗順応に時間がかかる眼疾患の人にとっては過酷な状況となっている。
節電のため、点灯させる蛍光灯を減らしているケースが多いが、ルールが統一されておらず、戸惑うケースがある。
エレベータやエスカレータが停止している場合に、階段を利用せざるを得ないが、階段の照明が消え、暗くて見えにくい階段が少なくない。
停止しているエスカレータ、エレベータ、自動ドア等には、節電のため停止させていることを示す張り紙が貼られ、注意喚起がなされている箇所が多かった。そのため、視覚障害者には、停止しているエスカレータやエレベータの場所がわからなかったり(図1.4)、節電で動作しない自動ドアの位置がわからなかったり(図1.5)して困ったという報告があった。
節電のため内照式サインが消灯し、ランドマークとして利用できなくなったり、表示が読めなくなったりして困ったという報告があった(図1.6)。ただし、内照式サインは、図1.7のように、消灯しても視認性が低下しにくかった事例もあった。今後、サイン表示の基準を作成する際には、重要な事項だと考えられる。
LED照明は、省電力であるため、節電時の照明として期待が大きい。しかし、直下は明るいが、少し離れるとすぐに暗くなり、見えにくいという報告や通常の照明よりも影が暗いという報告もあった。
エスカレータやエレベータが停止した結果、ホームでの人の流れ方が変化し、ホームから転落したという報告があった。また、怖くて外出を極力控えざるを得ないため、とても困っているという悲痛の報告もあった。そのため、盲学校の中には、鉄道事業者に対して要望を提出したところもあった。視覚障害者の困り方は切実で、単に不便だとか、不快であるというレベルではなく、まさに、命にかかわる重要な問題であることがわかった。