独占資本主義論(2019年度)
Monopoly Capitalism
a.y. 2019
学習のための指針
- 秋学期末試験情報 (1/28)
- 採点と成績集計が終わりましたので,成績統計と講評を掲載しました。
- 秋学期末試験情報 (1/24)
- 試験が終了しましたので,試験問題と採点基準を公表しました。
授業内レポート 提出無効リストの更新 (1/17)
授業内レポート 秋学期成績一覧表 (1/13)
授業内レポート 9 出題 (12/27)
秋学期の授業のスケジュールの追加(12/25)
秋学期末試験情報(12/20)
秋学期の授業のスケジュールについて(12/20)
マルクス経済学の理論体系のなかで独占資本主義論の占める位置は,担当講義案内のページで述べたとおりですが,ここでは,独占資本主義論の特徴あるいはこの理論を学ぶ意味についてまず補足しておきます。また,「スタディガイド」もご覧ください。
マルクス経済学の理論は,一般に難解な言葉を使った抽象的な理論と思われがちですが,決して抽象的でも「理論のための理論」でもありません(一般になじみの薄い,やや難解な言葉は出てきますが)。むしろ歴史的事実や今生きている現実と格闘しながら,資本主義の歴史的変化を分析しその矛盾をはらんだ問題点の根源を明らかにしようとする理論だと言えます。独占資本主義論ももちろんそのような理論です。資本主義経済は20世紀にはいる頃から,それまでの全面的な競争に代わって主要な産業部門において独占的市場が形成されるようになりました。1つ1つの企業が大きくなるだけでなく,競争に敗れた企業が倒産したり大きな企業に吸収されたり,あるいは大きな企業どうしが合併したりして,1つの市場の中に存在する企業の数が減少していったのです(資本の集積・集中)。このことが,個々の企業が単独であるいは協調して価格を高い水準に維持し,競争が支配した場合よりも多くの利潤を獲得することを可能にしたわけです。
こうなると資本主義の運動法則は変化し,その矛盾の現れ方も違ったものになります。競争が全面的に支配する段階には,19世紀のイギリス経済がそうであったように,ほぼ10年周期で好況局面と不況局面とが交互に出現する規則的な景気循環が見られました。これは見方を変えると,外部から力が加わらなくても不況から自動的に景気を回復させるメカニズムが資本主義経済内部にあったことを意味します。
独占資本主義段階になると,こうした景気の自動回復メカニズムは失われ,停滞化傾向が強く支配するようになり,外部的な条件が与えられたときにのみ経済の急激な成長が実現されるというように,景気循環の形態が変化します。20世紀前半のアメリカ経済はその好例です。第1次大戦や自動車・電機産業などの誕生と発展に支えられて,1920年代までアメリカ経済は急速な成長を実現しました。しかし1929年恐慌以降,状況は一変して1930年代を通じて鉱工業生産は恐慌前の水準を下回りつづけました。急速な経済成長が再現されたのは第2次大戦が始まってからです。このような資本主義の歴史的な段階変化(下図参照)―競争の全面的な支配から独占の形成・規則的な景気循環から停滞基調と間欠的な発展―のメカニズムと意味を理論的に考えるのが独占資本主義論です。もちろん19世紀末から20世紀初めの期間の問題だけではありません。
第2次大戦後は国家が経済過程に恒常的に大規模な介入を行なう時代になっており(国家独占資本主義),国際経済が各国経済に与える影響が飛躍的に大きくなっている時代ですから,現代の問題を分析するためには国家の行なうさまざまな政策や国際関係の考察が必要です。
資本主義の歴史的段階変化
しかし,主要な産業部門が独占部門であることに変わりはありませんし,独占資本主義の諸矛盾に対処するために国家の介入や国際経済体制の再編が必要とされたわけですから,現状分析を行なうための理論的基礎としての独占資本主義論の重要性はむしろ大きくなっているといえるでしょう。
たとえば資本の集積・集中ということを自動車産業を例にすると,1920年代のアメリカでは,ピーク時で90社近くあったメーカーが1920年代半ばにはフォード・GMなどわずか4社に減って独占的市場支配が確立します。第2次大戦後,自動車産業は世界的に発展していきますが,その過程で,アメリカは3社,イギリス・西ドイツ・フランス・イタリアはそれぞれ1〜3社程度に企業数はしぼられます。
日本だけは例外的に約10社の乗用車メーカーが存在しますが,下位メーカーは上位メーカーや外国企業と資本・提携関係にあります。さらに1990年代後半になって,ドイツのダイムラーベンツとアメリカのクライスラーとの合併や日産とフランス・ルノーの資本提携合意など,国際的な再編の流れが急速になってきました。
これはほんの一例ですが,こうした現実の意味するところを考えるための理論的基礎として独占資本主義論は必要ですし,逆にこうした現実から理論の妥当性を検証し必要であれば理論を補強していくことも必要となります。
また,第2次世界大戦後から現在までの現代資本主義をとらえるためには,経済的な要因だけでなく,国際政治や軍事要因を考慮することが不可欠となっています。戦後まもなく始まった米ソ冷戦のもとで,アメリカは社会主義体制に対抗するために資本主義体制を再編・強化することが必要となり,また大戦末期に開発に成功し広島と長崎に投下した核兵器をさらに強化し,核戦力を中心とする軍拡を進めていきました。ソ連も対抗的に核兵器の開発を進め1949年に原爆実験に成功して以降,米ソの核軍拡競争は激しいものとなり,両国の核戦力は地球上の生命を何十回も死滅させることが可能なほど蓄積されました。
軍拡競争のための軍事支出の負担は両国経済を侵食し,大戦直後には世界の中で圧倒的な経済力を誇ったアメリカは1970年代以降,貿易収支は赤字に転落し80年代後半には対外債権より対外債務の方が大きい純債務国となりました。ソ連は90年代初めに国自体が消滅しました。他方,敗戦国のドイツや日本は,アメリカ主導の国際経済体制・冷戦体制のもとで,急速な経済復興と成長を実現しアメリカへの輸出を急増させて,アメリカの貿易赤字の主要因となったのです。
こうした国際経済と各国経済の急激な変化は,純粋な経済理論では説明不可能で,国際政治や軍事要因を組み込んだ分析― 政治経済学的視角が不可欠なのです。この問題意識と分析視角は私の研究の基軸であり,独自性といえます。
競争段階から独占段階への移行の問題,独占段階以降の分析の方法的諸問題,独占資本主義の理論,国家独占資本主義の理論,それらの理論を基礎とした現代資本主義分析などについては,この講義の教科書の延近 充『21世紀のマルクス経済学』(慶應義塾大学出版会,2015年),参考書の延近 充『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』(御茶の水書房,2012年)を読んでください。
また『対テロ戦争の政治経済学』は,2001年の9.11同時多発テロ直後にアメリカのブッシュ大統領が開始を宣言した対テロ戦争が現在まで続く「アメリカのもっとも長い戦争」となっているのはなぜか,つまり「終わらない戦争」となっているのはなぜなのか?そもそもアメリカはなぜ「対テロ戦争」を強行したのか?この戦争はアメリカと世界,そして日本にとってどのような意味を持つのか?を上記の政治経済学的視角から考察した本です。この講義の内容が現在の諸問題を考えるうえでどのような意味を持つのかを理解するためにも,ぜひ読んでいただきたい参考書です。
[教科書]
延近 充『21世紀のマルクス経済学』(慶應義塾大学出版会,2015年)
- 延近 充『対テロ戦争の政治経済学― 終わらない戦争は何をもたらしたのか』(明石書店,2018年)
- 12月13日からの講義ではこの本が教科書です。著者献本分の残部が約20冊*あります。定価は税込みで3,080円ですが,私の授業の履修者に限って,1冊1500円(送料込み,手渡しの場合は1200円)で販売します。希望者はレポート提出用のアドレスに,送付か手渡し希望かを記して申し込んでください。送付希望の場合は,送り先(郵便番号を忘れずに),電話番号を明記してメールを送ってください。。先着20人まで*です。代金は授業の際に持参してください(お釣りの必要の無いように)。
*1月17日現在で,残部は4冊になりました。定期試験日まで三田に行くことはありませんので,購入は送付のみです。
[参考書]
延近 充『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』(御茶の水書房,2012年)
なお,履修する人たちの参考として,過去の試験問題や採点結果,成績統計と講評をWhat's Oldに掲げておきます。これらは昨年度までのこのページに掲載された内容の一部です。
- [日時・場所]
- 定期試験期間中に行ないます。詳細は学生部の発表で確認してください。
- [試験形態]
- 筆記試験,試験時間50分。持込み可。ただし,講義資料と上記の教科書・参考書以外の書籍を持ち込んでも,解答の参考にはならないでしょう。
- [出題範囲]
- 秋学期の講義で取り扱った全範囲から,授業内レポート課題の領域を中心として出題します。
- [採点基準と成績統計]
- 試験が終了しましたので試験問題と採点基準を掲載しました(1/24)。
採点と成績集計が終わりましたので,成績統計と講評を掲載しました。(1/28)
秋学期のスケジュールについてのお知らせ
秋学期の授業の範囲は12月27日で終わる予定です。したがって,1月17日は試験直前でもあり休講とします(1月10日は福沢先生誕生日で休み)。27日の授業終了後に,これまでの授業内容についての質問を受け付けますので,準備をしておいてください。
7月10日に手術を受け,22日に退院しました。26日の試験日に試験監督は無理ですが,答案の採点が可能な状態にまで回復しましたので,例年通りに公平・公正に行ないます。
講義内容を理解するためには授業に出席することが大前提なのは言うまでもないことですが,私の講義では履修者の理解を支援するため,以下のような講義方法をとっています。この方法に沿って学習されることを強く推奨します。
(1) 講義の1週間前までに講義資料ファイルをアップしますので,履修者は講義資料ファイルをダウンロードしてください。ファイルはMS WordとPDFが選べます。
(2) 履修者は講義日までに,講義資料を参考にして上記で指定した教科書や参考書を読んで予習しておいてください。
(3) 講義では履修者が講義資料を持っていることを前提として説明します(PCの持込み可。講義を聴きながら講義資料にノートするなどして内容を理解するよう努力してください。また,講義後にも理解をより深めるためにノートを再整理されることを勧めます。
(4) 講義内容の一区切りごとに「授業内レポート」課題を出題します。「課題」は該当講義内容の重要部分をテーマとしたものですので,ノート・テキストなどを参考にして自分の力でレポートにまとめてください。
レポートの作成・提出は義務ではありませんが,その作業によって講義内容の理解がより確実なものになり,定期試験前の勉強は格段に容易になるはずです。
レポートの目的や提出等について,より詳しくは《授業内レポート》の部分を見てください。
レポートの提出と成績との相関については【What's Old】のページで過去の試験結果と講評を見てください。
(5) 「課題」の提出期限後に,論述のための重要ポイントについての解説を授業内レポートのウェブ・ページに掲載します。自分の書いたレポートと比較し不十分だった点を改良してまとめなおすことを推奨します。講義内容の正しい理解とその論述のトレーニングに役立ちます。
【履修参考資料】
以下のページは履修者にとって重要な参考資料になります。ぜひ読んでおいてください。
- 【講義要綱】
- わたしの担当講義の講義要綱
- 【What's Old】
- 過去の試験問題と採点基準,成績統計と講評など。履修者にとって重要な参考資料となります。ぜひ読んでおいてください。
- [成績評価への質問について]
- 経済学部では,成績評価についての質問は所定の質問用紙に記入し,学生部を通じて担当者に送付されることになっています。この方法以外での質問は受け付けられません。
質問の際には採点基準を熟読し,自分の答案と比較して自己採点したうえで,それでも疑義がある場合のみ質問用紙に疑義の内容を詳しく記入して,所定の手続きをとってください。
なお,採点は採点基準に従って答案を複数回読み直して厳密に行なっています。講義を担当するようになって以来,今までに学生からの質問によって成績評価を変更したことは1度もありません。「ダメもと」で質問しても無駄ですので,念のため。
- 【講義資料】
- 講義の際に使用する講義資料をダウンロードできます。
- 【Study Guide】
- 経済学部のマルクス経済学科目の学習ガイド。
- 【Q&A】
- 講義内容についての質問と回答など。掲示板形式です。講義に対する感想や要望なども自由に書き込んでかまいません。アクセス方法は授業で説明します。
- 【学生による授業評価】
- わたしの担当講義に対する学生の評価の集計結果。匿名・アンケート形式による。
講義の際に使用する講義資料のファイル(Microsoft Word版またはpdfファイル)です。掲載の目的は,講義でとりあげられる内容を前もって知らせ,またテキストを読むうえでの指針を提供することで,皆さんの予習の助けとするためです。該当部分の講義が終われば削除します。この資料があれば講義を聴かなくても講義内容が理解できるというものでは決してありません。くれぐれも誤解のないように!
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