Study Guide
-マルクス経済学-

このスタディ・ガイドは,『別冊 三田学会雑誌 スタディガイド2003』のわたしの執筆部分に加筆・修正したものです。
無断引用・転載を禁じます。

マルクス経済学

延近 充

1.マルクス経済学ってどんな学問?

 マルクス経済学は,カール・マルクス(1818年〜1883年)がその著作『資本論』を中心に展開した経済理論を基礎とする経済学です。マルクスというと社会主義運動に大きな影響を与えた革命家だから,マルクス経済学は社会主義を論じる経済学と思っている人がいるかもしれません。
 マルクスはもちろん革命家で共産主義思想家・運動家でしたが,哲学者でもあり,新聞編集者でもあり,いろいろな側面をもっていました。マルクスが経済学の本格的な研究に取り組みだしたのは,1848年の三月革命の際に参加した革命運動が敗北したのち,1850年代に入ってからのことです。亡命先のロンドンで大英博物館の図書館にこもり,いずれ再来する革命の日に備えて革命運動の理論的支柱を作るべく,経済学の理論的著作の批判的研究と当時の資本主義の最先進国であるイギリスの経済・社会の実態分析に没頭しました。そうした理論研究と実態分析の成果の集大成ともいうべき著作が『資本論』なのです*。
*マルクスは研究と執筆を続けながら政治運動にも精力的にたずさわっていたので,『資本論』第1部「資本の生産過程」は彼が存命中の1867年に刊行されましたが,第2部「資本の流通過程」と第3部「資本主義的生産の総過程」は,彼の生涯の友人・共同研究者であり,援助者でもあったフリードリッヒ・エンゲルス(1820年〜1895年)が,マルクスの死後,残された草稿を編集して出版しました。
 つまり,マルクスが経済学を研究し『資本論』を書いた目的は,社会主義そのものを論じることではなく,資本主義社会の<経済的運動法則>と<矛盾>を客観的に明らかにし,歴史の一段階としての資本主義社会の崩壊とそれに代わる社会主義社会の成立の必然性(必要性)を主張することにあったと言えるでしょう。
 ただし,マルクスは,資本主義社会が矛盾を抱えた社会であって崩壊の運命にあるとしても,決して歴史的に無意味な社会であると考えていたのではありません。彼は,資本主義も歴史の一段階である以上歴史的な意味と役割を持っている,それは資本主義こそが生産力の急速な上昇をもたらすと同時に次の社会を建設する変革の担い手を育てることにある*,と考えたのです。
*この意味は次の項で説明します。20世紀最大の経済学者の一人であるシュンペーターは'イノベーション'という概念を使って資本主義経済の発展のメカニズムを論じたことで有名ですが,彼は「マルクスほど資本主義の偉大さ,進歩性を理解していた経済学者はいない」と評価しています。偶然ですが,彼はマルクスが亡くなった年に生まれています。
その後,『資本論』では充分に展開されなかった論点についての研究やマルクス以後の資本主義社会自体の変化に対応して理論と実態分析の両面での研究も進められてきました。マルクスの考え方を基礎におきながら,マルクス以後に深められた研究成果の総合的な体系がマルクス経済学です。

2.資本主義社会ってどんな社会?

 私たちが日々生活するためには衣食住などの生活必需品の他にも教育,医療,娯楽などいろいろな消費手段が必要です。消費手段を生産するためには工場や機械,原材料・エネルギーなどの生産手段が必要です。これらの消費手段と生産手段は人間が生き続けていくために絶対に必要なものですから,これを'社会的必要'といいます。
 自分に必要なものをすべて自分の労働だけで生産するのは無理ですから,自分の労働で作り出したものを他の人が作り出したものと交換しあうことによって社会が成り立つことになります。これを'社会的分業'といいます。つまり'社会的必要'を満たすために'社会的分業'が行なわれ,そのなかで個々人の労働は'社会的必要'を満たす生産を行なう'社会的労働'の一部という意味をもっているわけです。
 このことは人類が誕生して社会的な生活を営むようになって以来変わることはありません。資本主義社会でも同じです
 同じ労働量でより多くのものを生産できるようになること,同じことですが同じ量を生産するのにより少ない労働量ですむようになることを'生産力の発展(生産性の上昇)'といいますが,これは生産方法の改良や道具・機械の発明などによって実現されます。'生産力の発展'が人間の生活をより豊かにし歴史の発展をもたらしてきました。このこともあらゆる社会に共通です。
 私たちが現在生きている社会が資本主義社会なのですが,では,それはどんな特徴を持っているでしょうか。
 資本主義社会では,消費手段も生産手段もほとんどすべては商品として売られていて,そうした商品を手に入れるためにはお金(貨幣)を支払って買わなければなりません。
ですから資本主義社会は商品経済が支配する社会であるといえます。商品を生産したり,その商品を仕入れて販売したりするのはそれだけの多くの貨幣をもっていて,その貨幣をできるだけ増やそうと活動する資本家(現在では多くは企業)です。
資本主義社会は利潤追求を第一の目的として生産と販売が行なわれる社会です。
 働かなくても生活できる資産家を除いて,資本家以外の多くの人たちはそんなに多くの貨幣を持っていませんから,企業に雇ってもらって,言い換えれば自分の労働力を売って賃金をもらうことによってしか生活に必要な商品を買うことができない労働者です。
資本主義社会は労働力までも商品となっている社会です。
 労働力もそれ以外の一般商品(生産手段と消費手段)も市場で売買されます。市場では買いたいという需要量と売りたいという供給量にしたがって価格が決まります。商品の生産や販売は利潤の追求を目的として行なわれるので,価格の変化によってまた需要と供給が変化します。
 市場の状態によって'社会的必要'が変化し,したがって'社会的労働'も変化することになります。資本主義社会は市場経済が支配する社会です。
 つまり,資本主義社会は商品社会であって,利潤追求を第一の目的として市場を舞台に経済活動が行なわれ,そのことによって'社会的必要'が満たされて人間が生きていく社会だといえるでしょう。
ここで注意しなければならないのは,'社会的必要'は資本家(企業)の利潤追求活動の結果として満たされるという点です。
 利潤追求活動は資本家間の激しい競争をともなって行なわれます。このことが,資本主義が経済システムとして本格的に確立し人々の経済活動の主要な部分を占めるようになった19世紀以降,生産力を非常に急速に発展させた原動力でした。
 次々と新しい機械が発明されて産業に導入され,蒸気機関などの新しい動力源が機械の大規模化を支え,また機械の発展と相互促進的に科学・技術も急速に発展していきました。産業革命の時代です。
 この発展のめざましさは,たとえばこの頃からの人口増加率の急上昇やエネルギー消費量(そして二酸化炭素排出量)の急増が物語っています。資本主義の発展はたしかに人間の生活を豊かにしていきました
 しかし,良い面ばかりではありません。富を蓄積してますます豊かになっていく一部の資本家階級と1日中働いてやっと生活できる多数の貧困な労働者階級が生み出され,貧富の差は激しくなりました。
 また,機械によって労働が熟練を必要としなくなり,だれでもが働くことができるようになった反面,人間は機械のペースに合わせて単純労働を長時間反復するだけで,労働本来の喜びは失われてただ賃金をもらうためだけのものになっていきました。
 さらに,資本主義の時代になって規則的な景気循環(好不況の波)がはじまり,ほぼ10年周期で大規模な経済恐慌が大量の倒産や大量の失業者を発生させるようになります。
 働く能力も意欲もありながら職がないために生活に必要な消費手段を買えない人々がたくさんいる一方で,売れないために大量の生産手段や消費手段が廃棄されるという矛盾。
これは資本主義固有の矛盾です。
 このような矛盾に満ちた体制のなかで実際に生産にたずさわる労働者こそが,資本主義の問題点を身をもって学び,資本主義を批判し,資本主義を乗り越える体制をつくる運動を行なうようになっていくとマルクスは考えたのです。
 そのための資本主義の批判的分析の学問がマルクス経済学であるといえるでしょう。

3.でもマルクス経済学ってもう過去の学問じゃないの?

 このように思っている人も多いかもしれません。第2次大戦後の世界を特徴づけた東西冷戦は資本主義と社会主義という経済体制の対立でもあったのですが,ソ連の消滅や旧社会主義国経済(中国も含めて)の市場経済化に象徴されるように社会主義経済の崩壊が目につく形で終わりました。
 マルクス経済学=社会主義の経済学,ソ連等の社会主義の崩壊=資本主義の勝利⇒マルクス経済学の敗北という理解でしょうか。
 マルクス経済学=社会主義の経済学ではない,ということはすでに述べました。ソ連等の社会主義の崩壊=資本主義の勝利,はどうでしょうか?
 ソ連や東欧諸国が社会主義であったのかという問題は学界でもさまざまな議論があります。
少なくともこれら諸国が,
  • マルクスが構想したような高度に発達した資本主義が行き詰まってそのなかで学んだ労働者が中心となって建設したのではないこと,
  • 『共産党宣言』に書かれている「各個人の自由な発展がすべての人々の自由な発展の条件であるような,自由な人々の協同社会」でなかったこと,
は間違いないでしょう。
 そうなってしまった理由として,ソ連が,
  • 資本主義の発展途上にあったロシアを中心に一国社会主義として成立し,経済建設からはじめなければならなかったこと,
  • 欧米諸国や日本がソ連を包囲し干渉戦争を行なったことにも現れているように,国際政治的にも軍事的にも厳しい状況におかれつづけたこと,
  • 第2次大戦後では冷戦が核軍拡競争という性格をもっていたために莫大な物的・人的資源を浪費してしまったこと,
などがあげられるでしょう。
 わたし自身は,そうした状況のなかでアメリカを中心とする資本主義陣営とは異なる方向性=社会主義の理念を打ち出せなかった点にソ連型社会主義の歴史的な限界が露呈していると思っています。
 ソ連型社会主義が実際のところどのようなものだったかは別として,社会主義を標榜する国・体制があったことは,資本主義諸国にも少なからぬ影響を与えました。
 本来,社会主義では計画的に生産が行なわれるために恐慌はもちろん景気循環も失業もなく,貧富の差もありません。
 そこで第2次大戦後では,資本主義の側も社会主義との対抗上,社会福祉政策や失業対策など社会主義的な政策を先取りした資本主義の修正策や計画経済の要素を一部取り入れて景気を調整する政策を採用してきました。
 こうした政策は一定程度成功し,先進資本主義国では戦前のような激烈な恐慌は起こっていませんし,一般大衆の生活水準も向上しました。ただし,このような政策を継続してきた結果,政府の役割はどんどん広がって財政規模は非常に大きくなり,膨大な財政赤字を抱えるようになっています。 にもかかわらず,1970年代の世界同時不況や現在の日本経済の長期停滞でも明らかなように,景気の変動を克服できたわけでもありません。
 また,戦後の資本主義諸国の復興・成長を主導してきたアメリカは,1980年代に膨大な財政赤字と経常収支の赤字(双子の赤字)を抱え,世界経済の混乱の主要な要因となるとともに,世界最大の純債務国に転落しました*。
*実は,アメリカ経済が衰退した主要な原因の1つは,恒常的で大規模な軍事力増強体制を軸とするアメリカの冷戦遂行に関係があります。
 ソ連を崩壊に追いやった理由の1つに,軍拡の負担が経済を危機的状況に陥れたことがあげられますが,アメリカ自身もその負担に耐えられなくなったことが冷戦の終結につながったのです。詳しくは,研究紹介のページを見てください。
 日本経済は,たびたび欧米との経済摩擦を生むほど世界経済のなかで例外的に高い経済成長率を維持し莫大な貿易黒字をためこんできたのですが,成長を支えてきた国民は土地・住宅問題や雇用問題等さまざまな問題を抱えて安定的な生活を実現したとはいえない状況におかれていました。
 さらに冷戦終結・社会主義国の崩壊以降は,露骨な資本主義=市場原理と競争万能主義への回帰傾向が顕著になってきています。
 グローバリゼイションが進み巨額の資本が利潤を求めて瞬時に国境を越えて動き回り,各国経済に大きな影響を与えるようになっています。他方,労働者が長年にわたる要求や運動によって勝ち取ってきた働く者の権利は次々に剥ぎ取られつつあります。
 日本では,労働基準法や男女雇用機会均等法の改正,能力主義,裁量労働制,年俸制といった制度変更が,あたかも労働者の自由度を広げるかのような理由付けのもと,実体としては賃金コストの削減を目的として進められています。
 さらには不況の中で「リストラ」という名の露骨な人員削減・解雇によって失業率は一時期5%を超え,現在も4%以上の高水準を維持しています。就業者でもパートタイムや派遣労働などの不安定雇用の比率が増大しています。正社員も雇用不安と生活不安から所定内労働時間内では終わらないほどの仕事量をこなさざるを得ない状態のもとで,「サービス残業(タダ働き)」を余儀なくされたり,過労死や自殺に追い込まれたりする例も珍しくありません。
こうした状態にさらに輪をかけるように,経団連や政府・与党は,「国際競争に対応し」,「多様な働き方を可能にする」ためと称して,所定労働時間の制限をなくして超過勤務手当てを支払わなくてすむ「ホワイトカラー・エグゼンプション」という制度を導入しようとしています。また,中・低所得者に対する増税の一方で,自己責任や受益者負担の原則という口実で公的な社会保障の大幅削減も実行されようとしています。
 このように,現在,資本(企業)への人間の従属という資本主義特有の歪みがいっそう強まりつつあるように見えます。
 さらには,資本主義経済の特徴の1つである市場経済自体が,利潤獲得とそのための経済成長を運動の原理としていて,地域的環境のみならず地球的規模で見た環境と両立するのか否かという根本的な問題も提起されているのです。
 現在の主流派経済学がこうした現状に対して有効な分析と効果的な政策を提起できていないとすれば,資本主義批判の経済学としてのマルクス経済学の必要性と重要性はむしろ高まっているといえるでしょう。

4.ではマルクス経済学をどのように学べばいいのでしょうか?

 伝統的なマルクス経済学研究では,『資本論』やその他のマルクスの著作・草稿などの叙述を丹念に詳細に検討してその意味を確定するという,いわゆるマルクス解釈学が盛んでした。
 こうした研究は,マルクスの叙述の一部を取り出して自分の主張の都合の良いように解釈して現実の経済に適用するという誤りを廃し,マルクスの理論を正確に理解する上では意味がありましたが,現代の問題を分析する上では限界がありました。
 資本主義自体がマルクスの時代とは変化してきており,マルクスの理論そのままでは現状分析のための理論的武器として不充分だったからです。
 そこで,非マルクス経済学の成果も取り入れながら,資本主義の変化に対応してマルクス経済学を発展させようとする多くの試みがなされてきました*。
 その際には,資本主義の歴史的段階変化,すなわち小さな多数の資本の自由競争が全面的に支配する段階から,経済の基幹的産業において独占的大企業が支配的となり,さらには国家が経済活動において重要で大きな地位を占めるようになってきたという変化を重視する必要があります。
*現代資本主義の基本的傾向を停滞ととらえ独占企業の独占利潤にその原因を求めたアメリカの経済学者バラン&スウィージー,最近では資本主義における利害や矛盾の調整メカニズムの盛衰によって発展と停滞を説明しようとするレギュラシオン理論などがあります。
 経済学部のマルクス経済学関係のカリキュラムは,こうした資本主義の段階変化に対応した理論・現状分析の講義によって構成されています。
 具体的な科目としては,
  • 2年生の選択必修科目である[マルクス経済学T,U]
  • 三田設置の基本科目である[独占資本主義論],[現代資本主義論],[現代日本経済論]
  • これらと密接に関係する基本科目として,[日本資本主義発達史],[経済体制論],[工業経済論]
などがあります。
以下,資本主義の変化の概略とこれらの科目との関係を説明していきましょう。
 まず, [マルクス経済学T,U]によって『資本論』を柱とするマルクス経済学の基礎理論を学ぶことができます。
 マルクス経済学の基礎理論は,資本主義社会の経済構造と一般的運動法則を分析することを課題としています。
 そこで明らかにされる資本主義の一般的運動法則は,資本主義が資本主義であるかぎり根底において貫徹しているのですが,先述のように現代の経済問題を解明するためにはそれだけでは充分ではありません。
 資本主義の一般的運動法則は競争が全面的に支配する資本主義においては「鉄の必然性」をもって貫徹するのですが,資本主義の発展過程は,規則的な景気循環を繰り返しながらその内的メカニズム自体によって競争の作用を一部制限するようになります。
 20世紀にはいる頃から一国経済の主要な生産部門が少数の巨大資本によって支配され,独占的市場構造が形成されてきます。
 そうした資本主義の構造変化すなわち独占資本主義段階への移行にともなって資本主義の一般的運動法則は一定程度変容します。
 規則的な景気循環に代わって慢性的な資本と労働力の過剰化傾向=停滞基調が支配し,新しい画期的な技術や戦争といった外部的条件が与えられたときにのみ間歇的に急速な経済成長が現実化する,しかしその後には激しい恐慌が爆発するというように,矛盾の現れ方も異なったものとなってきます。
 戦間期のアメリカにみられた1920年代の長期好況とその後の世界恐慌につづく30年代長期停滞はその典型です*。
 こうした矛盾に対処するために経済過程への国家の恒常的介入が必要となったのですが,軍事的手段による対外侵略やブロック経済化は資本主義諸国間の対立を激化させ第2次大戦をもたらすことにもなりました。
 こうした独占資本主義の理論的解明を課題とするのが[独占資本主義論]です。
*1920年代のアメリカでは自動車,家庭電化製品などの新しい生産物が急速に普及しました。また30年代の不況から完全に回復したのは第2次世界大戦がはじまってからです。
 戦後の日本の高度成長も石油化学,家庭電化製品,自動車などの新しい生産部門の登場やベトナム戦争にともなう輸出増大の影響を抜きにしては説明できません。
 第2次大戦後では,社会主義世界体制の成立・冷戦対抗,植民地の独立・民族解放闘争の高まりのもとで,資本主義にとってその体制的危機を打開することが至上課題となりました。
 この課題のため,アメリカは恒常的な軍事力の増強を行ないグローバルな軍事同盟網を構築していきます。また戦前の資本主義諸国間の深刻な経済対立が再現することを防ぐためにIMFやGATTなどの国際経済体制を作り上げます。こうした戦後の国際政治・軍事・経済体制は,停滞基調に反作用を与え資本主義諸国の復興と急速な経済成長を促す枠組みとなりました。
 日本の戦後復興と高度成長もこの枠組みの中ではじめて可能になったものです。各国内でも社会主義との対抗上,国家が経済に積極的に介入して経済成長を促進するとともに,失業対策や労働者の権利の保障,社会保障の拡充など福祉国家化も進められました。
 この結果,西欧も日本も戦争による荒廃から立ち直っただけでなくめざましい経済成長を遂げ,アメリカがめざしたアメリカ中心の資本主義体制の再編と強化はみごとに成功したかに見えました。
 しかし冷戦下の恒常的な軍事力増強は皮肉にもアメリカ経済自体の衰退をもたらし,この枠組み自体を崩壊させていくことになります。70年代初めの金ドル交換停止・変動相場制への移行,アメリカの保護主義化・経済摩擦の頻発,「双子の赤字」などはその現れです。
 またその他の各国とも大なり小なり経済は行き詰まり,福祉国家は後退せざるを得なくなりました。現在では,先述のように自己責任の原則という名のもとに市場と競争の原理が最優先され,露骨な資本・市場万能主義へ回帰する傾向が強まっています。
 マルクスが『資本論』で描いた世界が再現されているかのようにも見えます
 このような,主として第2次大戦後の問題を取り扱うのが[現代資本主義論],[現代日本経済論]です。また,明治時代以降の日本資本主義の発達とその性格を考察する[日本資本主義発達史],歴史的条件によって規定された現代社会主義の成立と変化を実態をふまえて論じる[経済体制論],工業の社会的分業構造の特徴と実態をより具体的・詳細に分析する[工業経済論] なども,ぜひ受講されることを勧めます。
 マルクス経済学は,『資本論』を基礎としながらもこうした資本主義の構造変化・段階変化を視野に入れた,理論と現状分析を両輪とする体系的な経済学なのです。
 みなさんの多くは,卒業後,資本主義社会の中で働いて生きていくことになります。マルクス経済学を学んだからといって実生活に直接役に立つことは少ないでしょう。
 しかし,資本主義社会とはどのような社会で,どんな矛盾を抱えているのかを知っておくこと,そして批判的に考える力を持つことは,自分がおかれた状況に翻弄されないで生きていくための人生の指針として,必ず役に立つと思います。
 学ぶことはやさしいことではありませんが,みずから努力して得たものこそが自分の力となるのです。

[2007年4月 一部修正・加筆]

[参考文献]
(絶版になったものもあります。図書館などで読んでください。)

1.に関係するもの
マルクス『資本論』(新日本出版社,新書版ほか)
杉原四郎・佐藤金三郎編『資本論物語』(有斐閣):マルクスの伝記と資本論の概要
2.に関係するもの
常盤・井村・北原・飯田著『経済原論』(有斐閣):教科書
『資本論体系』(全10巻,有斐閣):資本論研究の発展・論争,現代的意義
内田義彦『資本論の世界』(岩波書店):資本主義とは人間にとって何を意味するか
中岡哲郎『人間と労働の未来』(中公新書):生産力の発展が人間と労働にもたらす問題
青木雄二『ナニワ金融道 ゼニの魔力―世の中のカラクリがわかるマルクスの経済学』(講談社)
同上『青木雄二のゼニと資本論』(光文社)
3.と4.に関係するもの
レーニン『帝国主義論』(大月書店,文庫版):帝国主義段階の資本主義論の古典
北原勇『独占資本主義の理論』(有斐閣):独占資本主義段階の理論
同上『現代資本主義における所有と決定』(岩波書店):現代における資本家とは?
北原・伊藤・山田『現代資本主義をどう視るか』(青木書店):立場の異なる3人のディベート
井村喜代子『現代日本経済論』(有斐閣):本文で述べたような戦後日本経済の構造と性格
平子友長『社会主義と現代世界』(青木書店):現代社会主義の問題点
重田澄男『社会主義システムの挫折』(大月書店):ソ連・東欧の崩壊の意味
延近 充『薄氷の帝国 アメリカ― 戦後資本主義世界体制とその危機の構造』(御茶の水書房,2012年)
延近 充「アベノミクスは日本経済を救えるか?」(論文ドラフト)
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