盲学校の児童生徒が減少しているなかで、点字使用者も絶対的にも相対的にも減っている。そのうえ、教師の人事移動が激しく、盲学校における点字指導の体制が問われている。さらに高齢者、特に糖尿病性網膜症による中途視覚障害者が増加している。このような状態のなかで、点字読み書きの効率性を高めるための指導法が、指導体制の整備と共に問われている。なかでも、点字触読の効率性を高める為の指導は長期間を必要する。点字の構成を覚え、それを書くことは、点字タイプライターや点字キーボードなどを用いれば、比較的容易に早期に習得できる。ところが、点字触読の学習は、乳幼児からの視覚障害者にとっても多くの配慮を必要とするが、高齢の中途視覚障害者にとっては、さらに多くの配慮を必要としている。
そこで、本章では、1.で効果的な点字触読の指導理論と学習プログラムについてその概要をまとめてみた。なかでも言語の階層構造を踏まえて、継時的に読み取る人間によるストリング(紐状の)情報処理のプロセス、それに基づく点字の読み取り過程、それを促すための学習プログラム、及びその前提となる両手読みと点字の触読の枠組みの形成の指導について、学習プログラム作成上の配慮点をまとめた。そのうえで、これらの根拠となっている論文などを次の観点で引用している。
2.点字の言語学的位置づけでは、点字の文字としての位置づけや音声言語の文字言語と階層構造を述べ、その中における点字の位置づけが論じられている。
3.音声の聞き取りと点字の触読では、同じストリング情報である音声と点字の処理過程を述べ、指導法との関係が論じられている。
4.点字パターン認識を規定する諸要因では、点字触読の初心者と熟達者が持つ点字のイメージを分析し、点字熟達者が持つ点字触読の読み取り過程を考察している。
5.効果的な点字触読の学習に関する研究では、特殊教育学会に発表したもののうち、「点字読み取り過程の階層モデル」で、効果的な点字読み取りの方略に関する仮説をモデルとして提示し、それに基づく学習過程を「点字学習プログラム」で提案している。さらに、点字の読みの速度を高める為の効果的な指導に関する研究で、その指導実験の結果をまとめている。6.はこれらの一連の研究を英文紀要に掲載したものを引用したものである。
これらの文字としての点字の読み取りの過程の研究に加えて、点字のレディネスとモチベーション、両手読みと点字触読の枠組みの形成、継時的な点字読み取りの学習過程、「文の単位の分かち書き」や「自立語内部の切れ続き」を手がかりとした単語の意味との結合、文の構造と句読法やパラグラフなどと点字表記との関係、点字の書きの導入などの学習指導法については、文部省の「点字学習指導の手引(改訂版)1997年」を参照されたい。
なお、最後に7.で「点字入門」を引用して、一般の読者が、点字書字用具を用いずに、点字の構成を理解する為の資料を紹介した。