第1部 障害のある人の自己決定・自己管理を引き出すためのマニュアル

主任研究者 中邑賢龍(香川大学)

分担研究者 中野泰志(慶應義塾大学)

坂井聡(金沢大学大学院)

岩根章夫(姫路市総合福祉通園センター)

中澤惠江(国立特殊教育総合研究所)


自己決定・自己管理を引き出すためのマニュアル

 障害のある人の自己決定や自己管理を引き出す上において,多くの人は,「重度重複障害の人とのコミュニケーションマニュアル」,「自閉症の人の自己管理マニュアル」といった障害別のマニュアルを求める。しかし,固有の障害からそれを分析していくと様々な問題を見落とす場合がある。例えば,自閉症の人が難聴を併せ持つこともありうるわけで,自閉症だから指示に従えないと考えるのは危険であり,本質的な問題解決に結びつくとは思えない。家族や施設職員は出来るだけ多くの原因を想定して当事者の人たちに関わっていく必要がある。

 そこで,ここでは,障害に限定せず,何に困った状況であるかという観点からその対処法を探るマニュアルを作成した。障害が違っても状態としては共通のものが多い。障害に限定すると,「聴覚障害で耳が聞こえないから」,「自閉症だから」ということが理由になり,本来の原因の特定が困難になる。そこで,ここでは,出来るだけ多くの想定される原因とその対処方法を事例や参考文献とともに記している。

 尚,ここで示した技法やポイントは絶対に有効だと断言できるものではない。試してみるべきことをここでは示している。その中で1つでも自己決定や自己管理の改善に結びつくものがあれば,このマニュアルの目的は達成されたと考える。

 このマニュアルでは,以下の6つの困った状況ごとに,その背景にある原因をあげた。

    1. 発信が分かりにくい(糸口がつかめない)
    2. 発信はあるが,意味が分からない
    3. コミュニケーション出来できるが自分で決められない(自己決定出来ない)
    4. 指示が通らない(コミュニケーション出来ない)
    5. 勝手に行動する(自己管理出来ない)
    6. コミュニケーションが広がらない

 そしてそれぞれの原因に対して,技法やポイント(技法のように体系化されてないが関わりにおいて重要な点)を挙げた。ただし,技法やポイントについては各状況に共通するものもあるため,技法・ポイント集として整理し,それを参照出来るようにしてある。


1 発信が分かりにくい(糸口がつかめない)

 障害によっては,反応性が低くどのように意思を引き出していいか分からない場合がある。例えば以下のようなケースがそうである。

想定される具体例:

 しかし,発信が全く無いように見える人でも,じっくり観察すると,ほとんどの場合,外からの働きかけに対しては,受け入れや拒否の発信行動がみられる。言葉には反応がなくても,視覚や触覚的な働きかけでは反応を示す場合もある。その場合,その信号を適切に拾うことがコミュニケーション成立の鍵となる。


1-1 コミュニケーションのルールが理解できていない(因果関係が不成立)

 働きかけてもほとんど反応が無い,あるいは,全く理解できない反応が返ってくる場合,自分がこうすれば相手はこうなるという関係(因果関係と呼ぶ)が理解できていないことがある。この場合,その関係が理解できるように関わりを続けていく必要があるが,多くの場合,日常の関わり方がまずいために,その関係の理解が遅れている。そのためにも障害に応じた適切な関わりを通して,因果関係の成立を促す必要がある。

B-1 動きに対し適切なフィードバックを行う(スイッチを利用したおもちゃ遊び支援)

技法・ポイント集のB-1を参照

【関連支援技術】

 こころリソースブックおよびこころWebの遊びの章を参照。

【事例】

T-1 おもちゃ遊びにより因果関係を成立させる

事例集のT-1を参照

【参考文献】

B-2 理解出来るように働きかける

技法・ポイント集のB-2を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-2 反応への適切なフィードバックにより因果関係を成立させる

事例集のT-2を参照

B-3 発信に対する適切なフィードバックをする

技法・ポイント集のB-3を参照

【関連支援技術】

 こころリソースブックおよびこころWebの「呼び出し」,「監視」の章を参照。

【参考文献】


1-2 発信する必要が無くなっている(意欲低下)

 障害があって意思の表出が分かりにくいと,周囲の人たちが解釈して意思を汲み取ろうとすることがよくある。先に意思を汲み取ってしまわれると,それ以上発信をする必要がなくなってしまう。また,分からないから定時に排泄や食事を行っているとそれがパターン化し,何も訴える余地がなくなっていく。そのことが重い障害のある人たちを受身的にしていくとも考えられる。重度障害があってもその人それぞれの方法で意思表出していると考えられる。周囲の人間が適切な技術を持ち,彼ら自身の発信を待って,正しく意思を引き出していく必要がある。

B-4 アクションをかけることでコミュニケーションのきっかけをつかむ

技法・ポイント集のB-4を参照。

【参考文献】

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照。

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-3を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-4を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-6を参照

【参考文献】


1-3 聞こえていない

 重い運動障害や知的障害がある場合,周りの刺激に対して反応が遅れたり,明確な反応がなかったりする。そのことは周りの音への反応に関しても同様である。

 運動障害や知的障害のある人の中には,聴覚障害が重複している場合も多い。しかし,反応の無さや乏しさが運動障害や知的障害のせいだと考えられやすく,聴力障害が見落とされている場合も少なくない。

 環境の中の音,人の声など耳から入ってくる情報は,自分の置かれた状況を把握したり,ことばを理解したりするためにとても重要なものである。こちらから声をかけて働きかけたとしても,聞こえていなければ働きかけそのものには意味はない。日頃から聞こえに対する反応に気をつけておくことは大切である。

R-1 聴力検査を実施し,適切な補聴手段を提供する

技法・ポイント集のR-1を参照

【関連支援技術】

R-2 身振り等分かるように伝える

技法・ポイント集のR-2を参照

R-3 絵やシンボル等で分かるように伝える

技法・ポイント集のR-3を参照

【関連支援技術】


1-4 発信手段を持たない

 発信手段がなければ訴えることができないのは当たり前のことである。外国に行って言葉が分からないときには,あまりコミュニケーションをとりたくない人が多いはずである。訴える手段を獲得すると訴える行動も増えてくる。

A-1 ノンテク・コミュニケーション技法を利用する

技法・ポイント集のA-1を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-7 機能的に使える身振りを教えることにより発信手段を与える

事例集のT-7を参照

【参考文献】

A-2 代替手段(ローテク・コミュニケーションエイド)を利用する

技法・ポイント集のA-2を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-8 コミュニケーションシートの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-8を参照

【参考資料】

A-3 代替手段(ハイテク・コミュニケーションエイド)を提供する

技法・ポイント集のA-3を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-9 VOCAの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-9を参照

T-10 適切な代替手段を提供することにより本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-10を参照

【参考文献】

A-4 シンボルコミュニケーション技法を利用する

技法・ポイント集のA-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-11 カードの利用により要求の仕方を教える

事例集のT-11を参照

T-12 カードの利用により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-12を参照

T-13 シンボルシートの利用により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-13を参照

【参考資料】

【参考文献】


1-5 環境条件が悪い

 いつも目を閉じて眠ってばかりだったり、いくつかの選択肢を提示しても、上手に選択ができず、パニックを起こしてしまったりする場合がある。何が好きなのか、何をしたいのか、行動を見ていただけでは、よく分からないケースである。このようなケースでは、障害が重度だったり、いくつかの障害を併せもっていたりする場合が多い。このような場合、かかわりの糸口として、感覚障害の可能性をチェックしてみる必要がある。

 自己決定や自己選択を行う場合、環境からどのように情報を入手するかが大きな問題になる。通常、環境からの情報は様々な感覚モダリティ(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、皮膚感覚、平行感覚、筋運動感覚、有機[内臓]感覚)を通して得られる。障害が重く、いくつかの障害がある場合、これら感覚モダリティからの情報が制限されている場合が多い。例えば、喉が渇いた時に視覚からの情報が得られなければ、目の前のコップにお水が入っていることが分からず、喉の渇きをどういやして良いか分からないという事態に追い込まれ、時として、それが周囲の人にとって不適切とされるパニック行動へと展開されてしまうのである。また、聴覚的な情報が制限されているために、周囲の人達が言語的なやりとりをしているのが楽しめず、退屈な時間を過ごすことになり、いつも眠ってばかりいるという事態に陥ってしまうのである。

 どのような自己決定・自己選択がなされるかは、本人の動機を満たすためのどのような選択肢があり、どのようにしてその中から選択をし、選択を行った結果、どのようなことが引き続き起こり、その変化が、自分にとってどのような意味(例えば、快・不快)を持つかによって左右される。感覚障害を併せもつ重複障害の人の場合、自分の動機を満たすためにどのような選択肢があるかが分からず、結果として、決定や選択が制限されている場合がある。つまり、最初の段階で選択や決定を促すための環境条件が不十分である可能性が高いのである。

<環境整備の必要性> いつも眠っているgさんのエピソード

E-1 コミュニケーションのための環境を整備する

技法・ポイント集のE-1を参照

【関連支援技術】

図E-1-c

図E-1-c

図E-1-d

図E-1-d

図E-1-e

図E-1-e

図E-1-f

図E-1-f

【事例】

T-14 視機能評価に基づく視環境の整備により本人の活動が広がる

事例集のT-14を参照

T-15 適切に環境を整備することにより本人が情報を理解出来るようになる

事例集のT-15を参照

【参考文献】


1-6 生活リズムのずれ

 生活リズムがずれ,普段周りが活動している日中に寝てしまったり,活動性が低かったりするとコミュニケーションそのものへの関心も低下してしまう。まず,生活リズムを整えることが重要である。

M-1 医療機関への相談

技法・ポイント集のM-1を参照

【事例】

T-16 医療と連携して生活を見直すことにより本人の生活のリズムを整える

事例集のT-16を参照


2 発信はあるが,意味が分からない

 何か一生懸命訴えるのに意味が分からないことがある。「何を拒否しているのだろう?」,「なぜ泣くのだろう?」,「あの身振りはなんだろう?」,「何か声で訴えているのに不明瞭で聞き取れない」,「行動で何か訴えているのは分かるのに?」と我々受信者が悩むのと同時に,「どうして分かってもらえないのか?」,「訴えても無駄かな?」と発信者も感じているはずである。

 コミュニケーションの不成立はストレスのかかるものである。そのため,分からない発信に意味づけしようと試みる人もいるが,そのことがさらにコミュニケーションの誤解を増大させる。そのため,相手の発信を分析し,適切な手段で意思を読み取る必要がある。

想定される具体例:


2-1 発信行動に受信者が勝手に意味づけようとしている

 発信があるが,意味が分からない場合,受信者は周囲の状況から様々な意味づけをその発信に与えようとする。例えば,のどから搾り出すように「あー」と声を出せば,「水が欲しいの?」と多くの介助者が考え,水を飲ませる。しかし,本当は「ジュース」を飲みたかったのかもしれない。このように,障害があり,コミュニケーションに制約を受けると「飲み物は何でも同じで,とにかく飲ませることが重要」といった具合に選択肢が制限されることになる。これでは当事者の意思を正しく引き出したとは言えない。

 また,受信者の能力が高ければ発信者の信号が不明でもコミュニケーションを作り上げることが出来る。これは長期的にみれば問題があると考えられる。しかし,すべてが悪いとは言い切れない。コミュニケーションの楽しさを味わってもらい,外界への働きかけを強めるという点では意味がある。時期に応じてバランスよくこの2つのコミュニケーションのスタイルを使い分けることが大切である。

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-1を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-2を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-7 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-7を参照

【参考文献】


2-2 発信行動が未熟

 障害のある人の発信行動がはっきりしない場合,それを引き出すように訓練を行うか,あるいは,その機能を代替する道具を用いる,さらには,その人の発信レベルでコミュニケーション出来るように周囲が合わせるといった方法が考えられる。ここでは,主として代替アプローチを紹介するが,訓練か代替アプローチかという二者択一ではなく,2つを併せながらその人の意思を最大限に引き出す努力が必要である。

B-2 理解出来るように働きかける

技法・ポイント集のB-2を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-2 反応への適切なフィードバックにより因果関係を成立させる

事例集のT-2を参照

A-1 ノンテク・コミュニケーション技法を利用する

技法・ポイント集のA-1を参照

【関連支援技術】

・コミュニケーションボード

【事例】

T-7 機能的に使える身振りを教えることにより発信手段を与える

事例集のT-7を参照

【参考文献】

A-2 代替手段(ローテク・コミュニケーションエイド)を利用する

技法・ポイント集のA-2を参照する

【関連支援技術】

【事例】

T-8 コミュニケーションシートの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例のT-8を参照

【参考資料】

A-3 代替手段(ハイテク・コミュニケーションエイド)を提供する

技法・ポイント集のA-3を参照する

【関連支援技術】

【事例】

T-9 VOCAの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-9を参照

T-10 適切な代替手段を提供することにより本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-10を参照

【参考文献】

A-4 シンボルコミュニケーション技法を利用する

技法・ポイント集のA-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-11 カードの利用により要求の仕方を教える

事例集のT-11を参照

T-12 カードの利用により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-12を参照

T-13 シンボルシートの利用により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-13を参照

【参考資料】

【参考文献】


3 コミュニケーション出来るが自分で決められない(自己決定出来ない)

 話が出来るという事と自己決定出来ることは別問題である。例えば,障害のある人に「何が食べたい?」と尋ねた時に,「分からない」,「そちらで決めて」という返事があることも多い。自己決定が重視されているが,「食べたい物を選べない」,「着たい服を選べない」,「いつも同じものを選ぶ」など,我々が当たり前に行っている判断でさえ出来ない人もいる。

 選びたくないから選ばないというのは本人の意思に基づくものであり,問題は無いが,選ぶ経験が無くその楽しさを知らない,あるいは,選びたいが選べない場合には積極的な支援が必要である。

想定される具体例:


3-1 選択経験が無い

 選んだ経験が無い人にいきなり選択を求めても答えられないことは仕方ないかもしれない。米国では,日常生活のいたる所で,障害があっても選択を求められる。例えば,「スナックは?」,「ドリンクは?」,「服は?」といった具合に生活の中にはいくつもの選択肢を置くことができる。一方,日本では障害のある人は選択出来ないという前提で,押し付けの生活が多いようである。施設や学校の生活ではまだまだ選択の余地は多くない。

 選ぶことの意味を理解出来てない中でいきなり選択を求められても出来ないことがある。選ぶことによって楽しいことが起こることを知ってもらう必要がある。

A-5 選択の技法

技法・ポイント集のA-5を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-17 選択経験をつくることにより発信方法を教える

事例集のT-17を参照

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照

【参考文献】


3-2 選択肢を知らない

 知らないものは誰もがなかなか選べないものである。例えば,レストランのメニューに知らない料理があった時に,何か分からないまま注文する人はいないはずだ。それについて質問するか,あるいは,そのメニューは注文しないようにするだろう。知らないままでいると,いつまでたっても同じ選択肢の中にとどまることになる。

 違ったパターンが苦手な人にはあまり新しい選択肢を提示しない方が混乱しなくていいという人もいるが,選択肢を増やしてみると新しいパターンが生まれる可能性もある。

A-5-4 選択の機会を増やすには

技法・ポイント集のA-5-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照


3-3 選択肢を理解できない

 知っているものでもその情報の形が違うと分からないことがある。例えば牛乳パックを見て理解できても,「ぎゅうにゅう」と言われると理解できない人がいる。また,個々の選択肢を知っていたとしても,それについて情報があまりに多いとどうしていいか分からなくなることがある。

C-1 情報を分かりやすくする(情報をアクセシブルにする)

技法・ポイントのC-1を参照する

【関連支援技術】

【事例】

T-20 適切な提示により本人が選択肢を理解する

事例集のT-20を参照

T-21 同時に見せることにより本人が選択肢を理解する

事例集のT-21を参照

T-22 写真の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-22を参照

T-23 実物の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-23を参照

T-24 相手が理解出来る言語の選択により情報を分かりやすく伝える

事例集のT-24を参照


3-4 伝える方法が分からない

 心の中で決めていても相手にそれを上手く伝えられない場合がある。言葉を持たない人たちは,意思表出の代替手段を確保する必要がある。

A-5 選択の技法

技法・ポイントのA-5を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-17 選択経験をつくることにより発信方法を教える

事例集のT-17を参照

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照

【参考文献】


3-5 選択したくない

 誰もが選択したいものと,どうでもいい選択肢があるはずである。これは障害のある人にとっても同じことだ。選びたくないものを選ばされるのは苦痛なことかもしれない。選択肢の提示は自己決定を引き出す上で重要なことだが,十分考えて選択肢を提示する必要がある。

A-5-3 選択肢の選びかた

技法・ポイント集のA-5-3を参照

B-5 時間をあける・タイミングをみる

技法・ポイント集のB-5を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-25 指示を出すタイミングを図ることにより本人の反応を促す

事例集のT-25を参照

T-26 タイムエイドの利用により本人が時間に見通しをもつ

事例集のT-26を参照

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-3を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-4を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-6を参照

【参考文献】


4 指示が通らない(コミュニケーション出来ない)

 指示が通らない人は困った人だととらえがちである。「外出しようと言うと無視する」,「トイレに行くよう指示すると自傷行為が起こる」,「食べるのを制止してもやめようとしない」など指示が通らないと,介助者,教師や親の立場からすると確かに困るはずである。しかし,その状態だけをとらえると解決の糸口は見えてこない。相手がなぜ指示に従わないのかを考えるといくつか原因が見えてくるはずである。

 障害のある人にすると彼らも困っていると考えられる。こちらの押し付け指示だけではなかなかその内容を理解,納得できず,パニックを起こすだけかもしれない。

 分からない人には分かるように伝える,納得出来るように指示する必要がある。

想定される具体例:


4-1 聞こえていない

 重い運動障害や知的障害がある場合,周りの刺激に対して反応が遅れたり,明確な反応がなかったりする。そのことは周りの音への反応に関しても同様である。

 運動障害や知的障害がある人の中には,聴覚障害が重複している場合も多い。しかし,反応の無さや乏しさは運動障害や知的障害のせいだと考えられやすく,聴覚障害が見落とされている場合も少なくない。

 環境の中の音,人の声など耳から入ってくる情報は,自分の置かれた状況を把握したり,ことばを理解したりするためにとても重要なものである。こちらから声をかけて働きかけたとしても,聞こえていなければ働きかけそのものには意味はない。日頃から聞こえに対する反応に気をつけておくことは大切である。

R-1 聴力検査を実施し,適切な補聴手段を提供する

技法・ポイント集のR-1を参照

【関連支援技術】


4-2 見えていない

 私たちは視覚によって様々な情報を瞬時に得ている。例えば,ここはどこなのか。そこにいるのは誰でどんな表情をしているのか。その人は何を持っていてどこに行こうとしているのか…。視覚に障害があるとこれらの情報を得ることが難しくなる。

 指差しや相手が差し出した物を見る。表情やしぐさ,身振りを確認する。人のコミュニケーションは,言葉以外の視覚的な情報に支えられていることも多い。視覚的な情報が十分に入っていない場合,コミュニケーションにも大きな影響を与える。

 見えているのか?どの様に見えているのか?どう見えにくいのか?その様な評価はコミュニケーションを考える上でも非常に重要である。

R-4 視力検査を実施し補助手段を提供する

技法・ポイント集のR-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-27 視力検査により問題原因の本質に気づく

事例集のT-27を参照


4-3 注意が向いていない

 知的障害や自閉症をもつ人たちの場合,注意が向かないために,今からすべきことが分からなくなってしまう場合がある。例えば,作業をしなければならないのに,外の電車に気をとられてしまって作業にならなかったり,本棚の本の並び方が気になって作業ができなかったりするようなことがある。

 作業ができる力をもっているにもかかわらず,このようなことになってしまう原因として,作業に集中することが出来るような環境を整える必要がある。視覚的にすべきことを分かりやすく提示することができれば,今からすべきことを理解して取り組むことが出来る場合がある。

E-1 コミュニケーションのための環境を整備する

技法・ポイント集のE-1を参照

【関連支援技術】

図E-1-c

図E-1-c

図E-1-d

図E-1-d

図E-1-e

図E-1-e

図E-1-f

図E-1-f

【事例】

T-14 視機能評価に基づく視環境の整備により本人の活動が広がる

事例集のT-14を参照

T-15 適切に環境を整備することにより本人が情報を理解出来るようになる

事例集のT-15を参照

【参考文献】

B-5 時間をあける・タイミングをみる

技法・ポイント集のB-5を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-25 指示を出すタイミングを図ることにより本人の反応を促す

事例集のT-25を参照

T-26 タイムエイドの利用により本人が時間に見通しをもつ

事例集のT-26を参照


4-4 指示が理解出来ない

 コミュニケーションの障害をもっている人たちの場合,伝えられていることが理解出来ないために,指示がとおらないことがある。このような場合,その人に分かるように伝えるための工夫をしなければならない。音声でうまく伝えることが出来ないときは,別のモダリティー,つまり視覚に訴えて伝える工夫をすればうまく相手に伝わることがある。写真やシンボルを使って伝えるようにするのである。

C-1 情報を分かりやすくする(情報をアクセシブルにする)

技法・ポイント集のC-1を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-20 適切な提示により本人が選択肢を理解する

事例集のT-20を参照

T-21 同時に見せることにより本人が選択肢を理解する

事例集のT-21を参照

T-22 写真の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-22を参照

T-23 実物の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-23を参照

T-24 相手が理解出来る言語の選択により情報を分かりやすく伝える

事例集のT-24を参照

C-2 情報を構造化する

技法・ポイント集のC-2を参照

【事例】

T-28 写真とシンボルの利用により一日のスケジュールを分かりやすく伝える

事例集のT-28を参照

C-5 モデルを示す

技法・ポイント集のC-5を参照

【事例】

T-29 モデルを示すことにより本人が指示を理解する

事例集のT-29を参照


4-5 指示が理解出来てもどうすべきか分からない

 指示が通らないのは,指示が理解でき出来ていないばかりとは限らない。指示されたことが理解出来たとしても,どのように行動してよいのか分からないために,混乱する場合がある。例えば,知らない街に旅行中に「銀行はどこですか?」と聞かれ,意味は分かっても,その街を歩いたことが無いので指示が出来ないわけである。誰もが経験をつんでいないことは分からないと言える。このような場合,具体的に行動を教えることが大切である。この場合はこのようにするというアイデアを提案するのである。

 社会経験が不足してしまいがちな障害をもっている人の場合,どのように行動すればよいのかが分からないで混乱していることも多いはずである。

C-3 方略を教える

技法・ポイント集のC-3を参照

【事例】

T-30 方略を教えることにより本人が指示に適切に反応できる

事例集のT-30を参照

【参考文献】


4-6 指示は理解出来ているが従いたくない

 誰にでも指示されたことは分かるがそれに従いたくないということはある。例えば,何かに集中しているときや,別の活動をしているとき,指示されたことに見通しをもつことが出来ないときなどである。

 今は嫌だというように,指示に従いたくないという意思表示が出来るようにしていくことも大切なのかもしれない。ときには指示に従いたくないときもあるに違いない。そんなときは,ちょっと時間をおいてみるなどの対応が必要なのかもしれない。

B-5 時間をあける・タイミングをみる

技法・ポイント集のB-5を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-26 指示を出すタイミングを図ることにより本人の反応を促す

 対象は広汎性発達障害をもつ小学校2年生のN男である。N男と買い物に行ったときのことである。N男は本棚のところで,地図を見つけそこに座り込んでしまった。買い物の最中に座り込んでしまったので,支援者は困ってしまった。次にすべきことをカードで示したり,声かけをしたりするのであるが,N男はいっこうに動こうとはしない。地図を手からとって本棚に返そうとしたら,大きな声を出して嫌がり,また最初のページから読み始めてしまう。何かに一生懸命になっているときには,なかなか指示は通らないものである。つまり,支援者があの手この手で見せているカードも,見なければ通じないのである。このようなときに考えなくてはならないのは,指示を出すタイミングである。本事例でうまくいったのは,最後のページまで地図をめくり終わったときにカードを見せるという方法であった。指示が通らないときには,繰り返し何度も指示を出し続けるのではなく,時間をあけてみたり,タイミングをはかったりすることが大切なのである。

B-5-B タイムエイドの利用により本人が時間に見通しをもつ

 指示に従うことが出来ないのは,指示を理解することが出来ない場合のみではない。指示を理解することが出来たとしても,従いたくないというときもあるのである。

 この事例の対象児は小学校3年生の知的障害をもっているO男である。公園に遊びに行ったときには,支援者が「時間だから帰ろう」と声をかけても帰ることが出来ない。本人は遊びをやめることが出来ないのである。どうしても帰らなくてはならないときには,手を引っ張って半ば強引につれて帰らなくてはならないため,O男は大きな声を出して「いやだいやだ」と言いながら泣いてしまう。ときには支援者の手を引っかいたりすることもあり,支援者としてはなんとか帰ることを理解してもらうために,「もう遅いから」と声をかけながら,車のカードを見せたり,お母さんのカードを見せたりして本人を動かそうとするが,なかなかうまくいかない。O男は,写真カードやシンボルの理解はできているので,帰るために声をかけられていることは分かっているが,その指示には従いたくないのである。このようなときには,タイムエイドやキッチンタイマーなどが役に立つ。「じゃあ後これだけ」と言ってタイマーをセットして,それだけは遊んでいいことを伝えればいいのである。O男はタイムエイドを見ながら減っていく時間に見通しをもって遊ぶことが出来るようになり,タイムエイドがなったときには支援者といっしょに公園を後にすることが出来た。

 指示が理解出来ていても従いたくないと思うときがある。そんなときには,タイムエイドなどでそれをしてもよい時間だけセットして,伝えることが有効な場合がある。

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

 対象は重度の知的障害を持つCくん,6歳の男の子である。日常生活動作はほぼ全介助。食事も自分で食べることができず,フォークやスプーンで食べ物をすくうことを手伝う必要がある。Cくんは自分から行動することが少なく,いつも手を引かれていて,それに抵抗することもなかった。そのため,周りの人はCくんが何をしたいのかよく分からなかったし,そもそもしたいことがあるのかどうかさえ明らかでなかった。

 ある時担当の保育士は,Cくんが食後に園庭側の扉の近くに立ってウロウロしている事が多いことに気づいた。「外で遊びたいのね?」扉を開け,手を引き,靴を履かせ,一緒に園庭に出ることを何度か繰り返した。

 「でも,本当に外に出たかったのか?」と疑問に思った保育士は,Cくんが扉の近くでウロウロしている時にすぐに園庭に連れて行くのではなく,扉を少し開けて様子を見た。上手に手を使えないCくんだが,扉の隙間に体を入れてなんとか外へ出ようと頑張った。「やはり外に出たかったのか」Cくんの具体的な行動によって,彼の意図はより明確に分かった。

 また,園庭でも手を繋いで遊具に連れていくのではなく,Cくんに動いてもらうと,ブランコの近くをウロウロすることが多いと分かった。

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

 対象は,ウエルドニッヒ・ホフマン病のWさんである。Wさんは,病院の院内学級で学んでいる。1歳くらいで発病しているために,音声によるコミュニケーションをした経験はない。

 担任の先生は,とても熱心な先生であり,Wさんの顔を見ながらいろいろ声かけをしたり,目の前に具体物を見せたりして授業が行われていた。先生の声かけがWさんの意図を汲み取っているような問いかけでやりとりがスムーズに行われているようであったので,どこでそれを判断しているのかを尋ねたところ,まばたきでということであった。

 観察していると,そのように見えないこともなかったが,不規則にまばたきしていることもあるように思われ,それは確実に,Wさんの意思を反映しているものとは思われなかった。むしろ,手の指の動きなどの方が意図的に動かすことができ,そちらを意思の表出に使った方がいいのではないかと思われた。

 顔が,意思を表すのに適しているという思い込みがあると,受信する大人が勝手に不規則に動いているかもしれないまばたきに,意味付けをしてしまうことがある。そのような場合には,発信者側の意思と受信者側の理解にギャップが生じることがある。大切なことは勝手に意味付けをするのではなく,意図的に動かすことのできる部位を見つけ,その部位を使って発信する練習ができるようにしていくことである。

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

 対象は小学部に在籍する知的障害と自閉症を併せもっているT男である。コミュニケーションするときには,手を取って引っ張っていくなど直接行動とクレーンが多かった。授業中,本児が後の扉から出て行こうとするので,教師は,朝行った大好きなトランポリンを思い出して,教室から出て行こうとしているのだと思い,「トランポリンは後で」と伝え,席に戻していた。これらのことを数回繰り返した後,T男はその場で失尿してしまった。

 教師は,T男の行動を,朝行ったトランポリンであると思い込んでいたために,T男が伝えたかった「トイレ」というメッセージを理解することが出来なかった例である。支援する側の思い込みが強すぎる場合,間違った意図を読み取ってしまい,本来の意図が支援者にうまく伝わらないことがあるのである。

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

 対象は重度の知的障害を伴う脳性麻痺の女性21歳のUさん。Uさんは,座位は保持できているが,移動手段を持たない。言葉の理解は困難で,具体的な表出手段を持たない方である。重症心身障害者のデイサービスに日中通っている。

 デイサービスでは定期的に温水プールを利用している。また温水プールが嫌いな人のために,他の活動も用意されていた。言葉でのコミュニケーションが難しいUさん達には,水着を見せる,着替えをする,プールサイドまで行くなど,何段階かで利用者の方に活動を予告し,「拒否」のサインがでるようであれば,別の活動に参加してもらうようにしていた。

 Uさんは,どの段階でも「拒否」は出ない。しかし,毎回プールに入って10分もしないうちに,大声で泣き叫び出してしまうのだ。デイサービスの職員は,「Uさんは温水プールが嫌いだが,事前の予告の意味が分からずに「拒否」することが出来ないのだ」と考えていた。また,毎回泣き叫んでしまうので,このまま温水プールの活動を続けるかどうか悩んでいた。

 ある日温水プールに入った時のこと,たまたま居合わせた理学療法士がUさんにライフジャケットの着用を勧めた。もっと安定して水の中での活動が楽しめるだろうという配慮からである。その日Uさんは,泣き叫ぶことなど全くなくとても楽しそうだった。

 Uさんはプールの活動が嫌いなのではなく,不安定な姿勢にされる状態が嫌だったのだ。それ以来Uさんは毎回ライフジャケットを着用し,温水プールの活動に参加している。

【参考文献】


4-7 指示の仕方が悪い

 指示された内容は理解することが出来ていたとしても,指示に従えないことはある。それは誰でも一緒である。そのような指示のされ方は気に入らないと思っているのかもしれないし,今は従いたくないのかもしれない。周囲の状況や,その指示が本当に必要なのかどうなのかも考えてみる必要がある。結果によっては,指示を中止することもあるだろうし,別の手段で知らせることで納得してもらえることがあるかもしれない。

C-1 情報を分かりやすくする(情報をアクセシブルにする)

技法・ポイント集のC-1を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-20 適切な提示により本人が選択肢を理解する

事例集のT-20を参照

T-21 同時に見せることにより本人が選択肢を理解する

事例集のT-21を参照

T-22 写真の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-22を参照

T-23 実物の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-23を参照

T-24 相手が理解出来る言語の選択により情報を分かりやすく伝える

事例集のT-24を参照

C-2 情報を構造化する

技法・ポイント集のC-2を参照

【事例】

T-28 写真とシンボルの利用により一日のスケジュールを分かりやすく伝える

事例集のT-28を参照

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-3を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-4を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-6を参照

【参考文献】


5 勝手に行動する(自己管理出来ない)

 社会の中で勝手に行動する行為は人を驚かすだけでなく,反社会的行動として問題視されることもある。そのため,こういった行動をもつ人は他者に行動を監視され,管理されるようになる。

 しかし,彼らが勝手に行動する背景には理由がある。

 1つは,状況が理解できないために徘徊行動が生じるなどの場合である。痴呆の人が徘徊するのは痴呆によるのでなく,時間が分からないからだと考えると,支援の方法が見えてくるはずである。

 もう1つは,意思表示がうまく出来ないために直接行動に出るといった場合である。自閉症の人が突然行動するのは自閉症だからでなく,上と同じように,相手にその意思を伝えられないからだとも考えられる。例えば,好きなことがしたいのに伝わらないので,突然部屋の外に飛び出していく。もし,意思表示ができれば相手も納得するので,問題視されないはずである。

 もし彼らが自己管理や意思表示の手段をもてば問題行動が減少するはずである。

想定される具体例:


5-1 時間が分からない

 知的障害をもつ人や自閉症をもつ人が困るものの一つに時間の理解がある。なぜならば,時間は目に見えないものだからである。「○○時になったら」とか「あと○分間」と言われても,それがイメージしにくいからである。

 そこで,時計の活用を考えるわけであるが,数字が読めるからとデジタルの時計を活用した場合,時刻は読めてもそれが時間と結びつかない人たちもいる。つまり,数字は読めるがそれを時間として,一日24時間のどの場所に位置づけられるのかが分からないということである。では,アナログの時計を使ったらどうか。アナログの時計から時間を読み取るのも困難な人が多いのである。

C-4 情報理解を助けるエイドを利用する

技法・ポイント集のC-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-31 タイムエイドの利用により本人が残り時間を理解する

事例集のT-31を参照


5-2 予定(見通し)がたたない(何をしていいか分からない)

 知的障害をもつ人や自閉症をもつ人のなかには,パニックなどに代表される困った行動をしてしまう人がいる。この原因の一つに見通しをもつことが出来ないということが考えられる。つまり,何をしてよいのかが分からないからである。何をしてよいのかが分からない場合には,誰もが不安になるはずである。多くの場合,それは自由な時間ではなく,誰かに何かを期待されている場合だからである。だから,何をしてよいのかが分からないことで不安になるのである。

C-2 情報を構造化する

技法・ポイント集のC-2を参照

【事例】

T-28 写真とシンボルの利用により一日のスケジュールを分かりやすく伝える

事例集のT-28を参照


5-3 尋ねたり援助を求めることが出来ないので直接行動で訴える

 何かしたいのにコミュニケーションがとれずに困った時,ほとんどの人は自分一人で勝手に行動するしかないと考えるだろう。障害がある人が直接行動に出て,それが時に問題視されるのは,相手が了解できる形で気持ちを伝えられないからとも考えられる。例えば,自分の座りたい席に誰かが座っているから机をたたくといった行動は,「代わって下さい」と言えない,あるいは,身振り等で相手に分かるように伝えられないから起こると考えられる。

 直接行動で訴えるのは否定的な反応ではなく,その人の意思の表出であると肯定的にとらえてみてはどうだろうか。直接行動という意思表出の手段を,誰もが分かる形に置き換えれば,意思表出の手段として活用できるはずである。

A-1 ノンテク・コミュニケーション技法を利用する

技法・ポイント集のA-1を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-7 機能的に使える身振りを教えることにより発信手段を与える

事例集のT-7を参照

【参考文献】

A-2 代替手段(ローテク・コミュニケーションエイド)を利用する

技法・ポイント集のA-2を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-8 コミュニケーションシートの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-8を参照

【参考資料】

A-3 代替手段(ハイテク・コミュニケーションエイド)を提供する

技法・ポイント集のA-3を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-9 VOCAの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-9を参照

T-10 適切な代替手段を提供することにより本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-10を参照

【参考文献】


6 コミュニケーションが広がらない

 「いつも同じことしか話題にならない」,「ほとんど話す話題が無い」,「こだわりが強い」など,コミュニケーションは出来るのにその先が広がらない場合がある。しかし,それは障害があるからとは限らないことに気づくことが重要である。我々誰もが好きなことを話題にしたいし,特に,子どもの場合は好きなことを何度も繰り返すのは珍しいことではない。

 様々な経験を通して,また,環境を変えることによって少しずつ世界は広がっていく。

 その広がらないことを問題視するよりも,無理やり話題を強制することの方が問題である場合もあるので注意が必要である。


6-A 会話が広がらない

 コミュニケーション手段を獲得しても会話が広がらないと聞く。会話は発信・受信能力のある人同士で必ず成立するとは限らない。話す話題や相手と話したいという動機も重要である。

 例えば,寝たきりの人の見る世界は天井が中心であり,その人と季節の移り変わりを話そうとしても,一方的な話になるかもしれない。そんな時に,鏡を置いて外の景色を見てもらうだけで話題を共有することが出来る。

 また,野球に興味のある人にサッカーの話をしても盛り上がらない。その人の興味関心事項を常々つかんでおくことも重要である。

 さらにアクセサリーや洋服,香水なども話題の提供に有効な手段となる。介護現場では過度なアクセサリーをつけない,身につける服もユニフォームといったように情報をあえて減らして落ち着いた生活を送ってもらおうという工夫が見られる。しかし。場合によっては,こういったものをきっかけに話題を作り出すことができる点を忘れてはならない。

想定される具体例:


6-A-1 話題が少ない

 何を話してよいのか分からないために,会話が続かないことがある。一般的には生活するなかで,共通の話題が生まれ,会話が盛り上がっていくわけであるが,障害をもつ人のなかには会話を続けることが出来なかったり,会話を切り出すことが出来なかったりする。このような場合,障害をもっている人たちと会話をするのは困難だと感じることもあると思われる。しかし,これは,会話能力の問題ではなく,話題がないためにその結果として会話が続かないということもあるのではないだろうか。共通の話題があれば話が続くかもしれないのである。

E-2 コミュニケーションに必要な話題をつくる(コミュニケーション・エンジニアリング)

技法・ポイント集のE-2を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-32 子どもの活動を記録した写真を媒体にすることで話題をつくる

事例集のT-32を参照

B-4 アクションをかけることでコミュニケーションのきっかけをつかむ

技法・ポイント集のB-4を参照

【参考文献】

C-4 情報理解を助けるエイドを利用する

技法・ポイント集のC-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-31 タイムエイドの利用により本人が残り時間を理解する

事例集のT-31を参照


6-A-2 語彙が乏しい

 知的障害のある人や自閉症の人たちと会話をしているときに,会話が広がらないことがある。伝えたいことがあるとは感じられるのだが,うまく伝えることが出来ないのである。その原因に,語彙の不足が考えられる。語彙を多くもっていないために,うまく伝えることが出来ないということである。これは,我々が違う言語を話す人と会話をするときにおこっていることとよく似ている。少ない語彙で伝えようとすると,なかなか思っていることが伝わらないのである。

A-5-4 選択の機会を増やすには

技法・ポイント集のA-5-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照

C-4 情報理解を助けるエイドを利用する

技法・ポイント集のC-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-31 タイムエイドの利用により本人が残り時間を理解する

事例集のT-31を参照

R-2,3 分かるように伝える

技法・ポイント集のR-23を参照する


6-A-3 興味の範囲が狭い

 経験が少ないとおのずと興味の範囲が狭くなりがちである。その人の興味のある所から少しずつ選択肢を広げて経験を増やしていく必要がある。

 一方,自閉症や高齢な方の中には強いこだわりを示す人もいる。この場合,新しい経験をしてもらうことが必ずしも良い結果に結びつかない場合もある。興味の範囲で何度でも同じ話を聞いてあげることも支援者にとっては重要な場合もある。

A-5-4 選択の機会を増やすには

技法・ポイント集のA-5-4を参照する

【関連支援技術】

【事例】

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照


6-B 誤解が生じる

 「飲み物を要求したから水を差し出したのにつき返された」,「リンゴが欲しいというので,王林を差し出すと,今度はいらないと拒否された」といったことがよく起こる。前者は,水でなくジュースが欲しかった,後者は同じリンゴでも黄色の王林でなく赤いリンゴが欲しかったから起こったものである。コミュニケーションをとることの難しい人の「のどが渇いた」,「おなかがすいた」,「暑い」などの生理的欲求を聞き出すことは非常に重要である。しかし,このような場合,最低限のコミュニケーションが確保できるとそれに満足する人が多い。そのため,コミュニケーションの選択肢を広げず,その結果,上述したようなコミュニケーションに誤解が生じる場合がある。

 また,その他にも,コミュニケーション手段が適切でない,支援者の思い込みが強すぎるなどの理由でも誤解が生じることがある。

 誤解がパニックを誘発したり,コミュニケーション意欲を低下させることもあり注意が必要である。

想定される具体例:


6-B-1 介助者の思い込みが強すぎる

 音声表出でうまく伝えることが出来ない人と接するときに,介助者や支援者の勝手な思い込みにより誤解が生じることがある。どうせ彼らはコミュニケーションすることが出来ないからと考えて自己主張する機会を奪われたり,自己主張していても,こちら側の解釈で相手のことを考えてしまったりするからである。このような状況ではコミュニケーションを成立する機会そのものが少なくなってしまう。

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-3を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-4を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-6を参照

【参考文献】


6-B-2 コミュニケーションのルールが出来ていない

 言語に発達障害をもつ人は,一般的にコミュニケーターとしては有能でない。それは,文法や語彙を自在に駆使することが出来ないという問題や,言語を社会的に使うことにたけていないという面をもっているからである。その結果,コミュニケーションするためのルールが理解出来ないために,言語対象を的確に示さなかったり,聞き手の注意を得ず話し始めたりしてしまうのである。

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-3を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-4を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-6を参照

【参考文献】


6-B-3 語彙が乏しい

 言語に発達障害をもつ人たちにとって,理解することが出来る語彙の少なさから来る問題は大きい。日常的に耳にすることばの場合は,比較的理解していることも多いと思われるが,そうでない場合は,理解することが出来ない場合も多いに違いない。例えば,理解できる語彙が?,○,△だけしかなかったときに,「象の絵を描くように」と言われても,誰も描くことはできないはずである。だとすると,別の方法で分かるように伝える工夫をしなければならないということになる。

A-5-4 選択の機会を増やすには

技法・ポイント集のA-5-4を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照


6-B-4 言葉が不明瞭

 構音機能の発達が不十分であるために,発話が不明瞭になり,その結果,相手にうまく伝えられないことが原因で,誤解が生じることがある。一生懸命に伝えているのであるが,その内容が伝わらないということである。その結果,自分が意図していることと違った内容で相手に伝わってしまったとしたら,それを修正するのは大変な労力を要するものであると考えられ,諦めてしまうことがあるのではないだろうか。発信する側が自分の意図を正確に伝えるための技術が必要になってくるのである。

A コミュニケーション(発信)を支える技法(AAC技法)

技法・ポイント集のAを参照

A-1 ノンテク・コミュニケーション技法を利用する

【関連支援技術】

【事例】

T-7 機能的に使える身振りを教えることのより発信手段を与える

事例集のT-7を参照

【参考文献】

A-2 代替手段(ローテク・コミュニケーションエイド)を利用する

【関連支援技術】

【事例】

T-8 コミュニケーションシートの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-8を参照

A-3 代替手段(ハイテク・コミュニケーションエイド)を提供する

【関連支援技術】

【事例】

T-9 VOCAの提供により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-9を参照

T-10 適切な代替手段を提供することにより本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-10を参照

【参考文献】

A-4 シンボルコミュニケーション技法を利用する

【関連支援技術】

【事例】

T-11 カードの利用により要求の仕方を教える

事例集のT-11を参照

T-12 カードの利用により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-12を参照

T-13 シンボルシートの利用により本人の意思伝達が可能になる

事例集のT-13を参照

【参考文献】

A-5 選択の技法

【関連支援技術】

【事例】

T-17 選択経験をつくることにより発信方法を教える

事例集のT-17を参照

T-18 体験により新しい選択肢を教える

事例集のT-18を参照

T-19 デジタルカメラの利用により本人の語彙を増やす

事例集のT-19を参照

【参考文献】


6-B-5 伝え方が悪い

 こちらの伝え方が悪いために,相手にうまく伝えることが出来ず,その結果,誤解を生じることもある。同じ言語で話すことが出来ない国の人と話すときには,様々な工夫をして伝える努力をするのに,障害のある人と話をするときには,そのような努力や工夫をしなくなってしまうことがある。障害をもっている人が相手に合わせるということは多くの場合容易なことではない。相手に合わせた伝え方を私たちがしなければならないということである。

C-1 情報を分かりやすくする(情報をアクセシブルにする)

技法・ポイント集のC-1を参照

【関連支援技術】

【事例】

T-20 適切な提示により本人が選択肢を理解する

事例集のT-20を参照

T-21 同時に見せることにより本人が選択肢を理解する

事例集のT-21を参照

T-22 写真の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-22を参照

T-23 実物の利用により本人が指示を理解する

事例集のT-23を参照

T-24 相手が理解出来る言語の選択により情報を分かりやすく伝える

事例集のT-24を参照

C-2 情報を構造化する

技法・ポイント集のC-2を参照

【事例】

T-28 写真とシンボルの利用により一日のスケジュールを分かりやすく伝える

事例集のT-28を参照

B-6 受信者の関わりを改善する(先読みを防ぐ,反応を待つなど)

技法・ポイント集のB-6を参照

【事例】

T-3 発信の機会を作ることにより本人の意思が分かる

事例集のT-3を参照

T-4 反応を表現する部位を知ることにより意思を正確に読み取る

事例集のT-4を参照

T-5 意図を読み違えることにより本人の発信意欲の低下を招く

事例集のT-5を参照

T-6 意図を正確に読み取ることにより本人の発信意欲が増す

事例集のT-6を参照

【参考文献】


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