追加情報
ここでは、2014年12月29日掲載の標記拙稿に関連して、付け加える情報をお伝えします。
公債残高対GDP比の変化について:詳細な計算式
拙稿本文では、公債残高増加率が「公債金利マイナスPB対GDP比の2分の1」とほぼ等しくなる、と述べた。その計算根拠を示そう。
政府の収入(歳入)は、公債発行によって得られた収入(公債金収入)と、税収をはじめとするそれ以外の収入(税収等)からなる。政府の支出(歳出)は、公債の元本返済費と利払費と、それ以外の政策的経費からなる。
政府の収入と支出は、帳尻が合わなければならないので、
税収等+公債金収入=政策的経費+元本返済費+利払費 … (1)
となる。このような財政における収入と支出の表し方はほぼ世界共通なので、企業会計とは異なるが、これを踏まえて議論を進める。
ここで、上の(1)式を変形すると、
税収等−政策的経費=元本返済費−公債金収入+利払費 … (2)
が成り立つ。このうち、(2)式左辺である税収等マイナス政策的経費が、基礎的財政収支(PB)と定義される。さらに、公債残高の推移をたどれば、前年度末公債残高に、今年度返済した公債(元本返済費)を差し引き、今年度新たに発行した公債(公債金収入)を加えた額が、今年度末公債残高となる。つまり、
今年度末公債残高=前年度末公債残高−元本返済費+公債金収入 … (3)
である。この(3)式を変形すると、
公債金収入−元本返済費=今年度末公債残高−前年度末公債残高 … (4)
となる。この(4)式の右辺である今年度末公債残高マイナス前年度末公債残高は、今年度中の公債残高の増加分である。
すると、先の収入=支出の式(を変形した(2)式)は、
公債金収入−元本返済費=利払費−PB … (5)
となっている。ここで、(5)式の左辺である公債金収入マイナス元本返済費は、(4)式に基づくと公債残高増加分といえるから、
公債残高増加分=利払費−PB … (6)
となる。
そもそも、何の話をしていたかというと、公債残高増加率を低くするにはどうすればよいか、である。公債残高増加率は、定義により、公債残高増加分÷前年度末公債残高である。ここで、利払費は、前年度公債残高と(加重平均の)公債金利の積と表せる。だから、利払費÷前年度末公債残高は、公債金利と等しい。さらに、現在、わが国では、公債残高は、GDPのほぼ2倍である。したがって、PB÷前年度末公債残高は、PB÷(2×GDP)とほぼ等しくなるから、「PB対GDP比の1/2」とほぼ等しくなる。
以上より、(6)式の両辺を前年度公債残高で割れば、
公債残高増加率=公債金利−PB対GDP比/2 … (7)
となることから、公債残高増加率は、「公債金利マイナスPB対GDP比の1/2」とほぼ等しくなる。* * * * *
ちなみに、財政の持続可能性(政府が公債をこのまま発行し続けても財政は破綻しないか)に関する条件として、名目経済成長率と名目金利を比較する「ドーマーの条件」がある。ドーマーの条件は、名目経済成長率が名目金利より高ければ財政は持続可能である、とする条件である。
ドーマーの条件と上の(7)式を比較衡量すれば、PB=0(基礎的財政収支がゼロ)のとき、公債残高増加率は公債金利と等しくなるので、名目経済成長率と名目公債金利とを比較して、名目経済成長率の方が高ければ、公債残高対GDP比が低下するので、財政は持続可能であるという含意が得られる。ここで気を付けるべきことは、ドーマーの条件は、あくまで基礎的財政収支がゼロであることが大前提とする点である。
PBが赤字ならばどうだろうか。現在の日本のようにPBが赤字ならば、上の(7)式が物語るように、赤字(マイナスの値)の分だけ公債残高は増加する方向に作用する。したがって、PBが赤字ならばドーマーの条件では財政の持続可能性を検証できない。公債残高対GDP比を低下させるには、名目経済成長率は、名目金利を上回るだけでは足らず、(7)式が示唆するように、PBの赤字をも加えた分を上回らなければならないのである。
土居丈朗「安倍政権、このままでは『ねずみ講財政』だ」(東洋経済ONLINE 2014年12月29日掲載)
連載「岐路に立つ日本の財政」
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