文部科学省「高大接続改革」は入試改革なのか,教育改革なのか
―2018年プレテスト結果報告に対する安西祐一郎元中央教育審議会長のコメントについて
延近 充
2019年4月5日公表
2018年11月10,11日に実施された大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)の採点結果報告が2019年4月4日に公表された。
2017年実施のプレテストでは,国語と数学の記述問題の正答率が低かったことから,2018年度では解答の字数の削減やヒントの提示など,「解答条件の改善」を図った結果,正答率は上昇したという。
この結果報告に対して,4月5日付の朝日新聞朝刊に,「中央教育審議会長として高大接続改革の議論を主導した安西祐一郎氏の話」が掲載された。
安西氏のプレテストの結果報告についてのコメントは以下のとおり。
「文部科学省や大学入試センターは,入試として適切な問題を出そうと努力していると思う。ただ,正答率が低いのであれば,それは問題が不適切だからでなく教育改革が進んでいないからだ。試行調査の正答率が低すぎたからといって,問題量を減らしたり易しくするのは本末転倒ではないか。
私は,受験生のほとんどが0点であっても問題を変えず,解けるようになるよう,授業を変えることを目指すべきだと思う。昔ながらの教育ではこれからの時代に求められる,あふれる情報から何が大事かを理解して明快に表現し,人生を切り開いていく人材は育てられない。
『入試改革ではなく教育改革だ』といってきた理由はそこにある。共通テストは50万人が一斉に受け,出題も採点も足かせがある。だが,大規模試験だからこそ,教育を変える契機になる。これ以上妥協すべきではない。」
私は,このコメントを読んで,目を疑うほど驚いた。
安西氏は「入試改革ではなく教育改革だ」というけれど,高大接続改革は,入試改革を通じて高校・大学教育の改革をめざすもので,大学入学共通テストはその入試改革の中心という位置づけだったはずである。
これまで国公立大学だけでなく多くの私立大学も大学入試センター試験を利用してきたが,共通テストはそれに代わるものであるから,あくまでも大学入試のためのものである。
いうまでもなく,大学入試は受験生を合格者と不合格者とに選抜することを目的としている。だからこそ受験生は大学合格のために受験勉強をするし,高校教育にも生徒に大学に合格できる学力を身に付けさせることが求められるのである。高大接続改革は,入試問題を知識とともに思考力・判断力・表現力を問うものにすることによって,高校教育をそうした能力を育てる方向に改革しようというものではなかったか。
つまり,入試改革と教育改革は二者択一ではなく,不可分のものなのである。
安西氏は,「受験生のほとんどが0点であっても問題を変えず」という主張が何を意味し,どんな影響をもたらすかを考えたのだろうか?
「受験生のほとんどが0点」の入試問題は,受験生の成績に差がつかないのだから,選抜機能を持たない。
各大学は合否の決定ができないから,共通テストを利用しなくなるだろう。大学への入学を希望する者も,大学入学に関係がないのであれば,共通テストを受験しなくなるだろうし,高校でも共通テスト受験のための教育をしなくなるだろう。
つまり,入試改革を通じた教育改革をめざす高大接続改革も失敗するのである。
プレテストの結果報告でも,問題は正答率50%を目標として作成されたと記されている。2018年度のプレテストは,前年度のプレテストの成績分析と反省に基づいて,高大接続改革の理念をより具体化しようという努力の結果なのである。
安西氏の「入試改革ではなく教育改革だ」という主張は,二者択一ではなく,入試改革はそれ自体が目的ではなく,あくまでも教育改革が最大の目的なのだという意味なのであろう。これ自体は正論である。
しかし,入試改革を通じた教育改革という理念を,どのように入試問題に具体化するかということこそが,高大接続改革の成否を左右するのである。
理念だけを声高に叫ぶのは容易である。この改革を成功させるために重要なのは,理念を具体化できるような入試問題の作成という「実務」なのである。
安西氏は2001年から2009年まで慶應義塾長だった人物である。安西氏が理工学部教員だった時期に,入試問題作成という「実務」を経験されたかどうかは不明である。
なお,2017年と2018年のプレテストの問題が改革の理念を具体化するものになっているかについて,私は世界史Bと日本史Bの問題を検討したが,残念ながら,この「実務」は成功していない。私の検討結果についてはこちらをご覧ください。
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