我々は、弱視児童生徒用の拡大教科書に関する取り組みの一貫として、拡大教科書の問題点である可搬性・操作性を向上させることを目的にデジタル教科書に関する取り組みを行ってきました。昨年度に実施した第8回シンポジウムでは、デジタルの教科書をタブレットPCで使いこなしている弱視生徒の事例を8校の研究協力校の先生方にご報告いただきました。これら先進事例の中から見えてきたことが2つあります。
一つ目は、拡大教科書であろうと、デジタル教科書であろうと、ユーザである弱視児の利便性と同時に、教育活動の中でその役割を位置づけなければならないということです。当たり前のことですが、教科書は学校での教育活動を支える一つのツールであり、他の教材や活動とセットになって初めて意味を持つわけです。そこで、我々は、教員の自作教材をデジタル教科書と同じ使い勝手で利用できるようにアプリを改良し、無償で公開することにしました。本シンポジウムでは、この新しい教科書・教材閲覧アプリの活用方法や教材作成方法についてデモします。
二つ目は、タブレットPCを活用した先進的な実践を支えているのは、弱視児の周囲にいる教員や家族やボランティア等の「人」であることです。そこで、本シンポジウムでは、人的環境づくりをテーマにすることにしました。言うまでもありませんが、タブレットPCは弱視教育において単眼鏡や拡大教科書等と同じように有用なツールです。そのツールのことを知らなかったり、自分に苦手意識があるからという理由で紹介しないことは問題です。逆に、電子機器が得意だからという理由で、タブレットPCを過信することも問題です。弱視児にとって、良き指導者・支援者になるためには、タブレットPCや教科書デジタルデータ等を使いこなす技術と知識を持ち、その利点・欠点を熟知し、上手に紹介できる「人」になる必要があります。本シンポジウムでは、弱視教育におけるタブレットPC活用の先導者であり、全国各地で研修・相談活動を展開しておられる広島大学の氏間和仁先生をお招きし、タブレットPCを適切に活用するための研修の在り方について基調講演をしていただきます。
なお、本シンポジウムでは、これまで私達が取り組んできた「アクセシブルPDFを用いたデジタル教科書」、「PDFとHTMLを組み合わせたハイブリッド型教科書・教材閲覧UDアプリ」の公開版もご体験いただけるように、約50台のiPadを用意いたしました。ぜひ、多くの方にご参加いただきたいと思います。