近年、障害の重度・重複化や多様化が進んでいるといわれる。社会福祉施設や特殊教育諸学校等においても、複数の障害を併せもっている重度重複障害の人の割合が増えてきている。寝たきりの状態で自力では活動出来ない場合もあり、生命を維持したり、安全を確保することがケアの主眼になっている場合も多い。特に感覚障害を併せもつ場合、決定や選択のために、何かを見せようとしたり、聞かせようとしたりしても、反応がはっきりしないため、見えているのか、聞こえているのかわからないという状況になることが少なくない。
このような感覚障害を併せもつ重複障害の場合、本人の意思を把握するために、従来のAAC技法を適用しようとしても、うまくいかない場合がある。例えば、スイッチを押すと好きなオモチャが動くという場面を設定したいと考えたとする。その際、感覚障害がなければ、見たり、聞いたりしてオモチャの動きを楽しむことが可能である。しかし、視覚や聴覚にも障害があると、スイッチを押した後に何が起こったかがわからない。すなわち、自分の選択がどのように環境を変化させたかがわからないのである。このように感覚障害を併せもつ重複障害、特に環境認知において重要な役割を果たしている視覚と聴覚の2つの感覚に障害がある場合、従来のAAC技法をそのまま適応することが困難である。そこで、本マニュアルでは、感覚障害を併せもっている人がAAC技法を活用できるようにする際に注意しなければならない点について報告する。
感覚障害を併せもっている人の自己決定・自己選択の技法をマニュアル化するにあたり、最低限理解する必要のある事項について、以下の2つの観点から整理した。