管理者:中野 泰志(慶應義塾大学)
まちづくりにおいて、「情報」や「コミュニケーション」の問題は、いわゆるソフト面の環境整備として捉えられ、ハード面と比較すると整備が遅れてきました。しかし、まちの中で質の高い活動をするためにはサイン等の「情報」は不可欠ですし、人との「コミュニケーション」を抜きには考えられません。平成23年3月31日に告示された「移動等円滑化の促進に関する基本方針の改正」では、「適切な情報提供」や「職員等の教育訓練」が明記され、情報・コミュニケーション環境の整備の大切さについての認識が向上しました。しかし、ハード面の整備と比べると、整備内容は十分に具体化されておらず、事業者が実現すべき義務も明確とは言えない状況です。そこで、本シンポジウムでは、視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者にとって、まちにおける情報・コミュニケーション環境はどう整備されるべきかについて下記団体よりお話して頂きます。
報告者:鈴木 孝幸(社会福祉法人日本盲人会連合・副会長・事業部長)
要旨:視覚障害者は、障害の程度に関わらず、移動・外出に関して多くの障害を抱えている。そのため何気ない日常生活においても不自由さを感じている。たとえば買い物・金融機関の利用やレジャーにおいての人的支援の必要性や。そして公共交通機関における移動の困難さはまだまだ改善されたとは言えない。また、音響・音声による音サインも、視覚障害のある者にとって十分に考えられているとは言えないのが現状である。更には、施設の整備もまちまちで統一されているとは言い難い。そのため施設利用にあたっては視覚障害のある者にとって不便さが生じている現実がある。これらをどのようにしたら改善されるか具体的提案を行うことが必要であると考えている。
報告者:黒崎 信幸(一般財団法人全日本ろうあ連盟・参与、社会福祉法人全国手話研修センター・理事長)
要旨:聴覚障害は「理解しにくい」障害と言われています。障害が外見から見えず、障害の対象である「音」もまた、見えるものではないからです。
一方、社会には多くの音があふれており、様々な情報が音声からもたらされます。重要かつ緊急の情報であればあるほど、音声での情報提供となり、聴覚障害者がそれをキャッチできる工夫が必要です。
聴覚障害者が街中で「音声情報を察知する」ためには、どのような工夫が必要か、聴覚障害者からのどのようなニーズがあるかを説明します。
報告者:川井 節夫(一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会・副理事長)
要旨:中途失聴・難聴者は人生の途中で高齢、病気や事故、薬害などが原因で、聞こえの低下がある人達で、言葉を獲得した後、失聴時期も幼児期から高齢期までと幅広く、聴力やコミュニケーション方法もまちまちです。多様な聞こえの特色を持つ中途失聴・難聴者のコミュニケーション方法もいろいろあり、家庭の中、社会の中での困りごとも多種多様で、それに対する具体的対応策について説明します。
報告者:庵 悟(社会福祉法人全国盲ろう者協会)
要旨:盲ろう者は、視覚と聴覚の両方に障害を併せ持つ者をいう。障害の程度や発症時期等によって、必要な支援の内容やコミュニケーション方法がひとりずつ異なる。視覚と聴覚の単なる重複障害ではないのだ。情報・コミュニケーション・移動の3つの困難が同時に1人の人間に覆いかぶさってくる。これらの困難を取り除き、盲ろう者が自分で行きたいところへいつでも安心して出かけられるまちとはどんなものか、いっしょに考えてみたい。