日本の経済・日本経済の現状と問題 2000年度春学期試験問題

担当:土居丈朗

 ※ 試験時間:50分、配付プリント、自筆ノートのみ持込可

1.戦後の日本経済のあゆみに関する年表が以下に示されている。この年表に関して次の各問に答えよ。
1945  GHQによる占領政策始まる
 この時期 (あ)ハイパー・インフレーション
1949  (い)ドッジ・ライン
1950  朝鮮戦争
1954  [ A ]景気(〜1957)
1958  [ B ]景気(〜1961)
1962  オリンピック景気(〜1964)
1965  (う)昭和40年不況
     [ C ]景気(〜1970)
1971  (え)ニクソン・ショック
     (お)円切上げ不況
1972  (か)列島改造ブーム
1973  (き)第1次石油ショック
 この時期 (く)国債の大量発行
1979  第2次石油ショック
1980  世界同時不況(〜1982)
 この時期 (け)財政再建に着手
     (こ)経常収支黒字拡大(貿易摩擦激化)
1985  (さ)先進各国の政策協調による円高・ドル安始まる
     (し)円高不況(〜1986)
1986  (す)バブル景気
     (せ)公定歩合引下げ
1987  (そ)ブラック・マンデー
1989  消費税導入
 この時期 (た)株価、地価が下落し始める
1995  (ち)公定歩合引下げ
1996  住専処理問題
1997  (つ)財政構造改革
     (て)マイナス成長

@下線部(あ)について、その原因を2つあげよ。
A下線部(い)において、実施された政策として正しいものを次の中から全て選べ。
     復興金融金庫の設立      農地改革
     単一為替レートの設定     金融緩和政策
     独占禁止法の制定       超均衡財政
B(1)上の文章中にある空欄A〜Cに、当てはまる景気の名称をそれぞれ答えよ。
(2)高度成長期にとられたストップ・アンド・ゴー政策について、答案用紙3行以内で説明せよ。
C(1)下線部(う)において、いくつかの証券会社の経営が悪化した。その原因となった株価の下落は、この不況の前に何年ごろから始まったか、西暦で答えよ。
(2)このときの不況対策として、財政政策はドッジ・ライン以降初めてとなる手段を講じた。それは何か答えよ。
D下線部(え)は、この時期における日本の経常収支の状態が影響を与えている。この時期における日本の経常収支の状態はどのような状態であったか答えよ。
E下線部(お)を決めた、固定為替相場制に関する協定を何と呼ぶか答えよ。
F下線部(か)の際に起きた、マネー・サプライの大幅な増加を何と呼ぶか答えよ。
G下線部(き)の直後、消費者物価が急騰し「狂乱物価」と呼ばれた。これに対し、金融当局は公定歩合をどのように操作したか答えよ。
H第1次石油ショック後の不況対策に端を発した下線部(く)で、1974〜1985年度において国債依存度(決算ベース)が最も高くなった年度はいつか、西暦で答えよ。
I下線部(け)において、用いられなかった手段として正しいものを次の中から全て選べ。
     歳出の削減      増税
     公社の民営化     国から地方への補助金の削減
J下線部(こ)は、下線部(け)と密接な関連があるとする主張(これをISバランス論と呼ぶ)がある。ISバランス論に関する下記の説明において、空欄ア〜ウに当てはまる語句をそれぞれ答えよ。
支出面から見たGDPの定義より、
        Y = C + I +  G  +EX−IM
      (GDP=消費+投資+政府支出+輸出−輸入)
がいえる。いま、税収をTと表すとすると、この両辺からTを引いてCとIを移項すると、
        Y−T−C−I=[ ア ]−[ イ ]+EX−IM
となる。ここで、貯蓄S=Y−T−Cと定義すると、
         (S−I) + (T−G) =(EX−IM)
      (民間貯蓄投資差額+財政収支黒字=経常収支黒字)
という均等関係が事後的に成立する。この式がISバランスを表す式である。この式が意味するところは、民間での貯蓄超過(あるいは不足)と政府の収入超過(あるいは不足)が、左辺全体での国内の貯蓄超過(あるいは不足)を意味し、これが海外部門との取引における経常収支黒字(あるいは赤字)と等しくなる、ということである。この式は、事後的な均等関係を意味するものであり、因果関係を意味するものではない。
 1980年代前半には、財政再建による財政赤字削減が進められ、財政収支赤字は縮小していった。この時期、民間貯蓄投資差額はプラスで推移しており、財政収支は(年金財政もあわせると)財政再建の結果マイナスからプラス(赤字から黒字)に移行した。すると、財政赤字を解消した分だけ経常収支[ ウ ]が増えた、と説明できるのである。
K下線部(さ)を決めた先進諸国の取り決めを何と呼ぶか答えよ。
L下線部(し)は、どのようにして起こったか(なぜ円高に伴って不況となるか)について答案用紙3行以内で説明せよ。
M下線部(す)は何年まで続いたか、西暦で答えよ。
N下線部(せ)で、当時としては史上最低となる2.5%まで引き下げた。その後、2.5%から公定歩合が引き上げられたのは何年になってからか、西暦で答えよ。
O下線部(そ)とは何か、その内容について答案用紙1行以内で答えよ。
P下線部(た)について、株価、地価が下落し始めたのは何年からか、それぞれについて別々に西暦で答えよ。
Q下線部(ち)によって、公定歩合は何%となったか答えよ。なお、この水準は現在(2000年7月)まで続いている。
R下線部(つ)について、答案用紙2行以内で説明せよ。
S(1)下線部(て)は、実質経済成長率が戦後初めてマイナスとなった年度以来のことである。実質経済成長率が戦後初めてマイナスとなった年度はいつか、西暦で答えよ。
(2)下線部(て)となった主な原因を1つだけ挙げ、答案用紙3行以内で説明せよ。(全て挙げる必要はない。1つだけでよい。)


2.企業財務に関する次の@〜Iの文章について、正しいものに○、誤っているものに×、どちらとも言えないものに△を付けなさい。
@人件費が増えれば、経常利益は増加する。
A固定資産は、多いほど望ましい。
B手元流動性は、高いほど望ましい。
C売上高経常利益率は、近年において中小企業(の平均)よりも中堅企業(の平均)の方が低い。
Dインタレストカバレッジレシオは、中小企業(の平均)よりも大企業(の平均)の方が低い。
E売上債権回収期間は、1990年代を通じて、サービス業(の平均)で短期化する傾向にある。
F投資採算は、製造業では1990年代において一貫して低下し続けている。
G流動比率が100%を上回ると、その企業の短期的な支払い能力が懸念される。
H自己資本比率は、中小企業(の平均)よりも大企業(の平均)の方が低い。
I手元流動性が他業種(の平均)よりも高いということは、それだけその業種(の平均)は他業種(の平均)よりも経営状態は良好であることを意味する。


3.次の図は、資本ストック循環で用いられる概念図と1988年第U四半期から2000年第T四半期までのわが国全産業の資本ストック循環を表したものである。この図に関して、各問に答えよ。
概念図

現実の資本ストック循環

洋数字は、西暦の下2桁を意味する
@上の概念図で、縦軸に設備投資の実質伸び率(対前年同期比)、横軸に製造業における資本ストックの実質伸び率(対前年同期比)をとったとき、設備投資と資本ストック(その設備投資によって購入された機械設備)の間には、景気循環に伴い次のような現象が一般的に観察される。その現象を説明する以下の文中にある空欄a〜cに当てはまる記号あ〜いをそれぞれ答えよ。
景気拡張期には、企業の製品の需要が伸びているので、製品を増産するため設備投資を(前年に比べて)増やし、それに伴い企業が保有する資本ストック(機械設備)も増やして、製品を増産する。それが概念図中の局面Aである。しかし、景気に陰りが見え始めた景気後退初期になると、製品の需要も(前年比で)増加率が低下し始めるため、これに応じて増産を止めるべく、企業は設備投資の伸び率を抑制し始める。それが概念図中の局面Bである。この局面では、設備投資の伸び率はまだプラスであるから資本ストックの伸び率は[ a ]している。景気後退が本格化すると、製品の需要が落ち込むため、企業は設備投資を抑制し始める。それが概念図中の局面Cである。この局面では企業は設備投資を(前年度比で)[ b ]させ、これに伴い資本ストックも(前年度比で)伸び率が低下傾向となる。そして不況の谷を脱して景気回復期になると、製品の需要が増加する兆しが見え始め、来るべき景気拡張期に備えて増産するべく設備投資が[ c ]し始める。それが概念図中の局面Dである。さらに、製品の需要が増加し、設備投資が増加すると、経済全体で景気拡張期に入り、概念図中の局面Aとなる。こうした資本ストックに関する現象が、景気循環とともに一般的に観察される。
あ.増加/上昇  い.減少/低下

A現実の資本ストック循環の図において、バブル景気が最高潮に達しつつあった1989年頃、わが国全産業では、記号A〜Dのうちどの局面に位置しているか、記号で答えよ(ただし、現時点で公表されているデータに基づくものとする)。
B現実の資本ストック循環の図において、2000年第T四半期の時点でわが国の全産業では、記号A〜Dのうちどの局面に位置しているか、記号で答えよ(ただし、現時点で公表されているデータに基づくものとする)。


4.次の図は、雇用情勢の循環で用いられる概念図と1986年第W四半期から2000年第T四半期までのわが国における雇用情勢を表したものである。この図に関して、各問に答えよ。
概念図

現実の雇用情勢

洋数字は、西暦の下2桁を意味する
@上の概念図で、縦軸に所定外労働時間(いわゆる残業時間)の伸び率(対前年同期比)、横軸に常用雇用者数の伸び率(対前年同期比)をとったとき、雇用者数と所定外労働時間の間には、景気循環に伴い次のような現象が一般的に観察される。その現象を説明する以下の文中にある空欄a〜cに当てはまる記号あ〜いをそれぞれ答えよ。
景気後退が本格化する時期には、企業の製品の需要が落ち込んでいるので、従業員の所定外労働時間(残業時間)を減らし、必要以上の常用雇用者を減らす。それが概念図中の局面Cである。やがて、不況の谷を脱して景気回復期になると、製品の需要が増加する兆しが見え始め、その需要に応じるべく所定外労働時間が[ a ]し始める。それが概念図中の局面Dである。常用雇用者数については、増産が本格化していないのでまだ(前年に比べて)増やしていない状況である。そして、製品の需要が増加して景気拡張期に入ると、製品を増産するため常用雇用者数を増やし(伸び率がプラスになり)始める。それが概念図中の局面Aである。しかし、急に常用雇用者数を増やすことができないので、当面従業員の所定外労働時間を[ b ]させることで対応する。その後、景気に陰りが見え始め景気後退初期になると、製品の需要も(前年比で)増加率が低下し始めるため、これに応じて増産を止めるべく、従業員の所定外労働時間を[ c ]させる。それが概念図中の局面Bである。この局面では、常用雇用者数の伸び率が[ d ]する傾向にある。そしてさらに製品の需要が落ち込むと、景気後退が本格化し、概念図中の局面Cに入る。こうした雇用情勢に関する現象が、景気循環とともに一般的に観察される。
あ.増加/上昇  い.減少/低下

A現実の雇用情勢の図において、最近の景気後退が最も深刻になった1998年頃、わが国は記号A〜Dのうちどの局面に位置しているか、記号で答えよ(ただし、現時点で公表されているデータに基づくものとする)。
B現実の雇用情勢の図において、2000年第T四半期の時点で、わが国は記号A〜Dのうちどの局面に位置しているか、記号で答えよ(ただし、現時点で公表されているデータに基づくものとする)。
C先の資本ストック循環とこの雇用情勢の循環から判断して、2000年第T四半期の時点でわが国経済は本格的に景気拡張期に入ったと断言できるか。


5.近年の雇用・失業に関して、各問に答えよ。
  1. 近年において、完全失業率が最も高い年齢階層は、どの年齢階層か答えよ。
  2. 1999年度における完全失業者数は、約何万人か答えよ。
  3. 最近の完全失業者の失業期間は、1990年代初めと比べて、概ねどうなっているか(長期化しているか、短期化しているか)答えよ。
  4. 最近の景気後退が最も深刻になった1998年度において、労働市場の需給関係は(1997年度に比べて)どのように変化したか、UV曲線を基に判断して答えよ。


6.日本経済の動向を見るうえで重要な次の用語について、それぞれの内容を答案用紙2行以内で説明せよ。
  1. GDP(国内総生産)
  2. 経済成長率
  3. 恒常所得仮説
  4. 消費性向
  5. コール市場
  6. 完全失業者
  7. (貸借対照表における)流動資産


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