追加情報
ここでは、2018年6月11日掲載の標記拙稿に関連して、付け加える情報をお伝えします。
賃金上昇率と就業者数の関係
拙稿本文では、実質賃金上昇率の大きさを決める計算式として、
実質賃金上昇率=TFP上昇率+資本分配率×(資本投入増加率ー労働投入増加率)
と示した。その計算根拠を示そう。まず、生産量(GDP)をY、労働投入量をL、資本投入量をK、TFP(全要素生産性)をAと表す。これらの関係として、生産関数がコブ=ダグラス型であるとすると、
Y=A Lα K(1−α) … (1)
となる。ここで、αは、結果的に労働分配率となる(その理由は、ミクロ経済学の教科書を参照されたい)。ひいては、1−αは資本分配率となる。αは定数であるとする。
(1)式から、労働の限界生産性(FL=∂Y/∂L)は
FL=αA L(α−1) K(1−α) … (2)
となる。いま、実質賃金をwと表し、完全競争市場で賃金が伸縮的に調整されるとすると、企業が利潤を最大化するときには、
w=FL … (3)
が成り立つ。つまり、(2)式と(3)式から
w=αA L(α−1) K(1−α) … (4)
が成り立つ。
ここで、ある変数Xの増加率をΔX/Xと表すとする。(4)式について、両辺を増加率の形で表し直す(両辺で自然対数をとって時間に関して微分する)と、
Δw/w=ΔA/A+(α−1)ΔL/L+(1−α)ΔK/K … (5)
となる。(5)式にあるΔA/Aは、TFPの上昇率である。この式を解釈すると、
実質賃金上昇率=TFP上昇率+資本分配率×(資本投入増加率ー労働投入増加率)
となる。
* * * * *
いま、TFP上昇率をゼロ、資本投入増加率をゼロとし、労働投入量増加率が就業者数増加率を等しければ、
実質賃金上昇率=ー資本分配率×就業者数増加率
となる。この式から、資本分配率が約30%で就業者数増加率が年率マイナス0.8%ならば、実質賃金上昇率は0.24%となる。
土居丈朗「働く人が減れば生産性は向上、賃金も上がる 賃金上昇率は年金の増減にも影響を及ぼす」(東洋経済ONLINE 2018年6月11日掲載)
連載「岐路に立つ日本の財政」
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