・ 研究実績の概要
理論研究:グレーヴァ、藤原、松井を中心に、これまでの国内実験で観察された「寛容な行動」の理論的基礎について引き続き研究した。出会って最初の何期間かはお互い何をしてもパートナーシップを継続し、ある時点が来たら協力的戦略または利己的戦略にコミットするという寛容戦略というクラスを定義し、それらによるナッシュ均衡が存在することまでは証明できたが、社会ゲームは展開形ゲームであるので、もっと強い安定性が証明できるかどうかを検討している。進化ゲーム理論では展開形ゲームの安定性概念としてスタンダードなものがなく、本研究は進化ゲーム理論そのものの発展も期待できるところまで来た。グレーヴァが6月にシンガポール国立大および台湾の国際学会、10月に東京大学で草稿を報告し、フィードバックを得た。
国内実験論文執筆:グレーヴァ、西村、鈴木、中泉を中心に、藤原も毎回会合に参加して議論を進めている。最尤法は多数の戦略ではうまくいかないため、フォーカスすべき戦略群を決める検討を行なっていたが、結論として理論均衡の6つの戦略の分析ができた。(オウム返し戦略は通常の繰り返し囚人のジレンマの実験では重要な戦略であるが、VSRPD実験においては自由に別れられる点から定義もいろいろな可能性があり、ある種の寛容戦略とあまり経路も変わらないので強調しないことになった。)他の実験論文も3つ発見して比較したところ、我々の、2ペアを毎期ランダムに壊すという(ゲームそのものもランダムに終了するので、Doubly Stochastic Horizonと名付けた)設定は誰もやっていないが、理論モデルとほぼ同じ環境を再現するものとして重要だということがわかった。11月からはRAを追加し、2017年度に開発した3期間の行動履歴のパネルを使用して、理論で定義された戦略の分布を推定する作業を新たに行った。これは最尤法とは異なり、3期間の行動履歴で分類可能な全ての戦略の割合を計算できるので、2種類の戦略分析ができることになった。その結果は協力で始める人々と非協力で始める人々の比率が理論値に近いというよい結果であった。
国際実験:中泉を中心として、パキスタン開発経済大学院(イスラマバード)で12月11日に国内実験とまったく同じ形で行なった。(実験手順はGE(14回)、GV (27回)、GESL(22回)。)
・ 現在までの進捗状況:おおむね順調に進展している
国際実験の数を増やすことができ、また理論研究も進化ゲーム理論の本質的な問題である、展開形ゲームにおける多数戦略の分布の安定性をどう定義するかということにまで踏み込むという新たな展開があった。実験論文の執筆としてはRAを追加したことで、理論的に可能ないろいろな戦略の分布を計算する作業がほぼ終わった。
・ 今後の研究の推進方策
理論研究:社会ゲームの中でも、自発的継続囚人のジレンマモデルの分析が続いていたが、他の段階ゲームについても「寛容戦略」を考えることができることがわかってきたので、より一般のモデルにも通じる理論的分析を進める。また、VSRPDの理論論文は国際学術雑誌に投稿して出版を目指す。
実験論文:最尤法に適した戦略群がわかったので、統計分析を早めに終了し、論文の草稿を完成させたい。
国際実験:イスラマバードでまた実験を行い、国内実験と比較可能な数のデータを揃えるのが第1である。その後、RAとともにデータ整理を行い、国内実験と同じ統計分析を始められるようにする。