語頭の母音ははっきりと
ドイツ語の母音に特徴的なのが,この「語頭でははっきりと発音される」ということです。例えば,ein Album アルバム1冊)は英語ではan
albumですが,発音はanのnとalbumの語頭のaがつながって,[アナルバム]のようになります。しかしドイツ語ではこのようなつながりは起こらず,[an
albmアイン アルブム]と切って発音します。つまり,語頭の母音を発音する前にのどをいったん閉めて(声門閉鎖),それから勢い良くいっぺんに息を流すのです。このことが,ドイツ語らしい歯切れの良さを生んでいます。
in // Italien イタリアで am // Ende 最後に aus //
einem // Auto 車の中から
また、ドイツ語にはPost「郵便」+Amt「役所」=Postamt「郵便局」のような複合語も多いのですが、このような単語の場合も-amtのaと前のtを続けて[ポスタムト]とはせず、-amtの前で切って、そこから勢いよく[pst
amt ポスト アムト]のように発音しましょう。
子音の発音とつづり
みなさんはすでにアルファベートの勉強でドイツ語のほとんどの子音には慣れているはずです。おおかたは英語の子音の発音を思い出せば事足ります。また,つづりもほとんどローマ字式ですから問題ありません。とはいうものの,やはりドイツ語独特の発音やつづりがありますから,ここではそれを学びましょう。
語末の -b,-d,-g は [p],[t],[k]
b,d,gはふつうは有声音[b],[d],[g]で発音されるのですが,語末の子音グループに入ったときだけは無声音[p],[t],[k]で発音されます。次のペアを発音してみましょう。
lieben 愛する
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--
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lieb 愛らしい |
bilden つくる
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Bild 絵 |
fliegen 飛ぶ
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--
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Flug 飛行 |
語末の子音グループにある場合 :
その他farblos 「無色の」= farb + losのような複合語の場合,-b-は語末ではなくても単語の構成要素の終わりにあるので,やはり無声音で発音されます。
ch は [x]と[]
ch はその前にどの文字があるかによって,二通りの発音があります。ach, och, uch, auchというようにa,
o, u, auという母音字が前にある場合は[x],その他の場合には[]という発音になります。[x]の音を出すときは,その前にある母音の口の開きを保ったままで,喉の奥から強く息を吐き出してください。その時に出る喉の奥で擦れる音がこの[x]です。[h]の音にも近いのですが,[h]は喉の奥を息が穏やかに流れるのに対して,[x]は喉の奥を息が激しくぶつかりながら通っていきます。ちょうど50メートルダッシュをした後に出る「ハーッ,ハーッ,ハーッ」という息の音です。achでしたらaの口のままで,喉の奥を息で擦ります。カタカナで書くと[アハ]というような感じです。同様にochでしたら[オホ」,uchは[ウフ],auchは[アオホ]となります.
Bach 小川
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Tochter 娘
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Tuch 布 |
Bauch 腹 |
[]は舌の中程と口の中の天井(硬口蓋)との間でつくられる,狭い通路を空気が速く流れて出る摩擦音で,日本語の「ヒ」とほとんど同じと考えて差し支えありません。もっとも日本語より若干強めに出した方がより良い音になります。
Bäche 小川(複数) |
Töchter 娘(複数) |
Tücher 布(複数) |
Bäuche 腹(複数) |
ich 私 |
Technik 技術 |
Milch ミルク |
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もう一つの[](語末のつづりが-igの場合)
語末のつづりが-igのときは,今習ったich と同じように[I
イヒ]と発音します。
König 王
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ledig 独身の
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sandig 砂の |
ただし,Königin「女王」のように-igの後に母音が来ると,-igのgは[g]と発音されますので注意しましょう。
s,ss,ßは[s]
[s ス]の音に対応する文字にはs,ss,ßがあります。
Maus ネズミ
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Haus 家
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fast ほとんど
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Tasse カップ
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Klasse クラス
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messen 測る
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Faß 樽
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Kuß キス
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Straße 通り
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次に述べるように,sは母音の前では[z]という有声音になりますが,その他の時は無声の[s]です。つづりssとßは必ず無声の[s]です。ssとßの書き分けは簡単で,ssは「短母音+ss+母音」の時だけで,その他の場合はßで書きます。ただし,1998年8月1日からドイツ語の書き方の規則(正書法)が変わり,この点に関して若干の変化があります。さてssですが,新正書法では「短母音+ss」という規則になりました。したがって,Faß
[fas]はFass,Kuß [ks]はKussとなりますが,Straße
[tra:s]はaが長母音のためそのままのつづりで残ります。
s+母音は[z ズ]
これは簡単。sの後に母音が来たら必ず濁音で発音されます。
Sahne クリーム
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Häuser 家(複数)
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senden 送る |
sch および語頭のsp-,st-に含まれるsは[
シュ]
[ シュ]はschとつづり,決して英語のようにshではありませんので注意してください。また,先ほど出てきたStraßeのように,語頭のsp-やst-もこの音を含みます。つまり[p
シュプ],[t シュト]となるのです。[]は日本語の「シ」とは異なり,唇を丸めて口の奥の方で[シュ]と発音します。
Schule 学校 |
komisch おかしな |
Sprache 言語 |
sprechen 話す |
Student 学生 |
studieren 大学で学ぶ |
f,vは[f フ],wは[v ヴ]
[f]にはfとvの二通りの書き方があります。[v]は基本的にwでつづられます。この二つの音は,前歯が下唇に軽く当てられ,その隙間を空気が通るときにでる摩擦音です。摩擦音は擦れる音ですから,やろうと思えばいつまでも伸ばして発音することができます。これが[p],[t],[k],[b],[d],[g]といった閉鎖音(=破裂音)と異なる点です。閉鎖音は空気の流れを止めて,それを一気に解放するときに出る音ですから,一瞬しか出ません。それに対して,[s],[z],[f],[v]のような摩擦音は空気の流れを堰き止めるわけではないので,持続的に出すことができるのです。つまり,この[f]や[v]を発音するときには空気の流れを完全に遮断してはいけないのです。よくこれらの音を出すときに唇を強く噛む人がいますが,これはいけません。唇を噛んでは空気の流れを遮ることになり,摩擦音ではなくなるのです。この点に気をつけて練習をしてください。
Fahne 旗 |
fünf 5 |
Vater 父 |
passiv 受け身の |
Volkswagen
フォルクスワーゲン |
wenden 裏返す |
tschは[t チュ]
ちょっと長い4文字のつづりですが,一つの音ですから一気に発音してください。
Deutsch ドイツ語
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Tscheche チェコ人
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tschüs バイバイ |
その他注意すべき発音とつづり
[j ィ] の音に対応するのはjです。日本語の「ヤ、ユ、ヨ」よりも出だしの半母音を強く擦って「ィヤ、ィユ、ィヨ」と発音するようにしましょう(Japan
日本,Jubel 歓声など)。
[ks クス]という音に対応するのはxだけでなくchsもあります(Hexe 魔女,Fuchs 狐,sechs 6など)。
[pf プフ](つづりはpf)を発音するときは,[p]と[f]を分けずに発音します。上の歯を下唇にあてて[f]の準備をしておいてから唇を閉じ([p]の準備),一気に破裂させます(Pfeife
パイプ,Apfel リンゴなど)。
[ts ツ]という音にはz,ts,ds,tzというつづりが対応します(Zunge 舌,stets 常に,abends
晩に,Katze ネコ)。
q という文字はドイツ語ではquという組み合わせでしか現れず,必ず[kv クヴ] と発音されます(Quelle
泉,Quittung 領収書など)。
rとlの発音
rの発音については「アルファベート」の項でお話ししました。のどちんこを震わせる音でしたね。うまく出るようになりましたか?私の経験では,教室でこの発音を教えると80%の人が10分程度の練習でできるようになります。さほど難しいものではありません。のどちんこできれいに「コロコロ」と鳴らさなければ,などと神経質になる必要はありません。喉の一番奥が「ガーッ」といっている程度でもかまいません。要するにうがいの時の「雑音」が出ていればOKだと思ってください。実はrの発音にはもう一つ舌先を震わせる出し方(江戸っ子の「ベランメー」の「ラ」の音)もあるのですが,みなさんはなるべくのどちんこを震わすrを練習した方が良いでしょう。その理由として(1)ドイツ語の標準的な発音ではのどちんこをふるわすrであること,(2)lは舌先を使う音なので,同じ舌先のrだと混同が起こりやすく,音の印象を截然と区別して記憶するのが難しい,ということが挙げられます。
さてlの発音です。これは舌先が上の歯の根元のところにべたっとついた状態で,舌の両脇を空気が流れて出る音です。舌の先端は歯についています。英語のcallのlでは舌先はほんの軽く歯茎に触れるだけで,舌は低い位置にありますが(暗いl),ドイツ語のlは舌先が歯茎に接触している面積が広く,また舌が高い位置にあります(明るいl)。英語のlegalのlに近い発音です。
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