第3図 「大規模戦闘終結宣言」以降の民間人の死者 月別の推移

[Iraq Body Count(IBC)のデータにもとづくグラフに関する注釈]

(1) IBCのサイト自体がThe worldwide update of reported civilian deaths in the Iraq war and occupationという紹介文をつけているし,IBCのデータを紹介した日本のメディア等でも「イラク戦争による民間人犠牲者集計」としているが,IBCのDatabaseとその出典を参照すると,民間人(civilian:非軍人)だけでなくイラク治安部隊など軍人(military)カテゴリーの死者も一部含まれている
IBCの集計は,各種報道機関の英語によるウェブサイトで報道された事件における死者の集計であり,実際の死者はIBCの集計数をさらに上回ると考えられる。それは,
(a) 英語によるウェブサイト以外(特にアラビア語などイスラム圏)の報道が除外されていること
(b) 報道されない事件も多数発生していると考えられること。
(c) 事件による負傷が原因で後日死亡したとしても,それらの死亡者は報道されないであろうこと。
などによる。

2008年1月9日に発表された世界保健機関(WHO)の調査結果(イラク政府との共同調査。イラク全土の約9300世帯を対象に戸別訪問調査を実施して死者数を推計)では,2003年3月から2006年6月までの武力対立などにともなう「暴力」事件による死者数は15万1000人(同期間のIBCの集計値は最多で約4万6000人)と推計している。
なお,2006年10月11日に発表されたイギリスの医学誌ランセットの推計では,WHOと同じ期間における死者数を65万4,965人としている。WHOの推計の4倍以上,IBCの集計の約14倍であり,これはさすがに過大な推計であろう。ランセットの推計に対する批判はIBC自体によってなされている

(2) 2003年1月から3月20日までの米英軍の空爆による死者は15人。

(3) 2003年3月20日から4月30日までの「大規模戦闘」期間の連合軍の軍事行動による死者数は,最少5,640人,最多7,288人(16年6月10日変更)。

(4)死者数

2003年(5月1日以降):4,259人〜4,564人(月平均 532人〜571人,16年5月3日変更)
2004年:10,355人〜11,398人(月平均 863人〜950人,16年5月3日変更)
2005年:13,730人〜15,325人(月平均 1,144人〜1,277人,15年7月28日変更)
2006年:27,444人〜29,421人(月平均 2,287人〜2,452人,17年8月29日変更)
2007年:24,265人〜25,996人(月平均 2,022人〜2,166人,17年8月29日変更)
2008年:9,465人〜10,238人(月平均 789人〜853人,15年6月3日変更)
2009年:4,997人〜5,383人(月平均 415人〜447人,17年1月3日変更)
2010年:3,824人〜4,143人(月平均 319人〜345人,15年7月14日変更)
2011年:3,805人〜4,136人(月平均 317人〜345人,16年12月29日変更)
2012年:4,340人〜4,729人(月平均 362人〜394人,15年5月11日変更)
2013年:7,980人〜9,870人(月平均 665人〜823人,15年8月11日変更)
2014年:16,626人〜20,134人(月平均 1,386人〜1,678人,16年6月3日変更)
2015年:16,005人〜17,493人(月平均 1,334人〜1,458人,16年12月28日変更)
2016年:14,777人〜16,563人(月平均 1,228人〜1,377人,17年4月23日変更)
2017年(2/28まで):1,791人〜1,969人(月平均 923人〜1,015人)
合計   :最少181,378人,最多203,465人*
 (2018年5月1日発表,ただしIBC Databaseで公表されているデータの合計は最少171,102人,最多190,675人)。
*この死者総数には第3図のグラフに表示した以外に次の死者が含まれている。
・05年8月31日のバグダッド・シーア派モスク前の橋でのパニックによる死者,最少965人,最多1005人(code k1848)。IBCは注釈をつけて,パニックをイラク戦争と占領に関連して発生したものと広く解釈して死者に含めているが,米英軍主導のイラク戦争と占領やそれに対する抵抗勢力の攻撃,宗派・部族間闘争などによる死者とは性格が異なるので,第3図のグラフには含めていない。
・03年4月9日から05年8月3日までの期間に,バスラでの死者として最少832人,最多923人(code x490,ただし10年1月以降,おそらくその後の調査で死亡時点が判明したために数値はたびたび修正され15年7月24日時点で最少709人,最多807人に変更された)。IBC Databaseでは05年8月分に配当されている*が,各月に配分できないので,第3図のグラフには含めていない。
*IBCの週ごとの死者数のグラフや月ごとの表では2005年8月の死者数が突出して多くなっているが,イラクの治安情勢について誤解を生みかねない処理といえよう。
・バクバ南郊ブハリツで発見された05年〜08年の宗派間対立激化期間に殺害され埋められたとみられる死体,最少76人,最多153人(code k16487)。IBC Databaseでは08年8月分に配当されているが,各月に配分できないので,第3図のグラフには含めていない。
・ファルージャ南郊アミリヤで発見された05年〜09年の間に射殺され埋められたとみられる死体20人(code k16971)。IBC Databaseでは09年12月分に配当されているが,各月に配分できないので,第3図のグラフには含めていない。

(5) メディア報道以外の死者について

IBCはメディアが報道した死者数だけでなく,バグダッド死体安置所に運ばれた死者数のうちIBCがイラク戦争関連と推定した死者*を追加している。
共同研究「イラク戦争を考える」の一般公開後では,
・2005年分として最少5,514人,最多6,076人を各月に追加(2006年3月9日発表分)**
・2006年は
1月〜4月分:最少2,603人,最多2,786人を各月に追加(2006年5月20日発表分)
5月分:最少595人,最多691人を追加(9月3日発表分)
6月分:最少1,038人,最多1,127人を追加(9月16日発表分)
7月分:最少1,022人,最多1,142人を追加(11月7日発表分)
8月分:最少884人,最多1,004人を追加(11月27日発表分)
9月分:最少380人,最多406人を追加(12月4日発表分)
10月分:最少346人,最多412人を追加(12月9日発表分)
*推計方法についてはIBCのData Code x491,x493a〜i のNoteを参照されたい(推計方法の妥当性には若干の疑問があるが,第3図のグラフにはIBCのデータをそのまま反映させた)。
なお,2007年6月24日以降のIBCのデータ更新において,これらの数値はかなり大幅に下方修正され,同時に各月のデータがかなり変更されている。重複計上が修正されているのかもしれないが,IBCのウェブサイト上には変更の理由が記されていないので,正確な理由は不明である。IBCデータベースの修正・変更については(6)をご覧ください。

(6) 公表済みDatabaseの変更について

IBCのDatabaseは,集計が終わった最新のデータの公表だけでなく,過去に公開済みのデータも(おそらく公開後の確認作業で誤りが判明した結果),更新時に追加されたり修正や削除されたりしている。そうした公表済みデータの変更について説明がないため,最新のデータの追加による死者の増加数を更新前の死者数に加えても,データ全体の死者数合計や各月の死者数とが一致しないことがある。
(a) IBCのデータベースのページは「newest additions first」で並べ替え可能であるが,これによって並べかえても,文字通りの最新の追加分から既発表分へという順序に並んでいない*。

例えば,07年8月16日更新の最初のページで,
k6766〜k6746は16日付で追加されたデータで,k6745〜k6726は15日付で追加されたデータであるが,15日付発表のk6730とk6729の間にあるd2725(06年3月のデータ)は16日付で追加されたデータである。
また,k6726の後にd2724〜d2717が並んでいるが,これらは16日付追加分と15日以前の追加分が混在している。
(b) 他のパターンとしては,newest additions firstの画面では,Incident Codeの降順にデータが並べられているのであるが,発表時に抜けていたCodeがその後に掲載される場合,最新の追加分として掲載されるのではなく,抜けていた部分に掲載される場合である。
例えば,d2400(2006/6/8 min1 max1)は,8月16日付け発表分で新しく追加されたデータであるが,06年6月のデータとして追加された時点では抜けていたデータで,この前後のデータを埋める形で8画面め(16日付発表の8の番号にリンク)に掲載されている。
(c) さらに,問題なのは,既発表分のデータの数値や日付が何の注釈もなく修正されることが少なくないことである。これは,データの正確性を求めて既発表分についても再確認作業が行なわれ,修正がなされているためであろうし,その姿勢と努力に敬意を表したい。しかし,そうであればなおさら,データが修正されたことについて読者にわかりやすい形式でインフォメーションが与えられるべきであろう。
こうした変更内容によっては,グラフから読み取れる死者数の変化の傾向を読み誤る可能性もあるので,第3図のグラフでは,それらの変更もチェックしてすべて反映させている。なお,データのたんなる追加以外で,私が把握している数値の変更や削除については,「IBC Database公表後の変更」をご覧ください。(この項は2007年8月17日,加筆)
*IBCのウェブサイトは2007年9月4日付でデザインやデータの表示方法などががらりと変わり,すべてのデータがcsvファイルでダウンロードできるようにされるなど,大幅なリニューアルが行なわれた。
データベースのトップ・ページでは,従来は集計済みデータの最新の日付順(most recent first)に並べられていたが,リニューアル後は収集データの追加順(Latest incidents added)となっている。

ただ,このリニューアルによっても上記の難点,特に(b)や(c)は改善されていない。
データの並び順は厳密な収集データの追加公表順ではなく,日付順が優先されており,前月以前の追加分はその月のページに追加されている。例えば,07年9月12日更新分でIncident Code d2736-d2929のうち29個のデータ(死者数合計min71 max77)が追加されたが,これらは最新の追加データとしてトップページに掲載されるのではなく,発生した07年4月のページに掲載されている。
(2007年9月5日,9月20日追記)
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