5.2 提言


 前述の調査結果に基づき、今後の拡大教科書等の作成支援システムとして以下のPDCAサイクル(案)の提言を行う。

(1)Plan:教科書の選定

 教科書発行者は最新の拡大教科書のサンプル版を作成する。担当教員は、拡大教科書作成支援キットを用いて弱視児童生徒に最適な拡大教科書を選定する。まず、「読書効率セット」を用いて対象児童生徒の読書速度を測定する。具体的にはMNREAD-Jによって測定するが、その使用方法や結果の解釈の仕方、用語の解説等はウェブ上で公開されるマニュアルに従う。このセットでは、適切な文字の大きさのみならず、字体を変更したプライベートサービスによる教科書の選定にも対応できる。次に、作成者による「サンプル版拡大教科書セット」を用いて児童生徒の好みの教科書を選んでもらう。好みの文字サイズを判断してもらうほか、文章や図表のレイアウト、教科書自体の大きさ、厚さ、重さ、運搬性、操作性を評価してもらい、総合的な使いやすさを明らかにする。その上で、個々の科目に関して、教科書発行者のサンプルを見て確認を行う。この手順がしっかりと実施できれば、早期に、確実な需要数が把握できると考えられる。

(2)Do:需要数に基づいた教科書の供給

 担当教員はPlanにおいて明らかにした、児童生徒に適した拡大教科書の給与を依頼する。その際、標準規格内の仕様で間に合う場合には教科書発行者の中から、そうでない場合にはボランティア団体へ製作を依頼するための手続き等を進める必要がある。

 教科書発行者は需要数を考慮して拡大教科書を作成することで、時間的、経済的コストを低減することができるはずである。なお、現在では、需要数の連絡が年度末近くであるため、需要数を把握する前に印刷を開始せざるを得ない実態がある。需要数把握までの時間を短縮することにより、さらなる効率化を期待できる。

(3)Check:作成された教科書の評価

 一定期間、実際に使用した後で、児童生徒と担当教員が拡大教科書の評価を行う。まず、給与を受けた拡大教科書の学習効果を評価する(学習効果評価)。なお、教科書学習においては、使い勝手と学習効率の両者を評価する必要があるが、後者を児童生徒本人が判断することは困難であると考えられるため、担当教員の支援が必要である。次に、拡大教科書の改善・改良のために、誤字脱字等の明らかな間違い、本の開きやすさ、耐久性、乱丁といった製本上の問題、通常教科書との比較等、実際に使用して気づいたことを整理する(改善要望調査)。この拡大教科書の「学習効率評価」の結果と「改善要望調査」の結果を集め、発行者等にフィードバックを行う。なお、情報を確実に収集するためには、簡潔な評価用アンケートを教科書に添付し、一定の使用期間後に回答・返送してもらう必要がある。

(4)Act:評価結果のフィードバック

 教育現場から作成者に対して、Checkで明らかになった改善点のフィードバックを行う。実際的には、簡潔な評価用アンケートに必要事項を記入したものを郵送するといった簡便な方法が望ましいと考えられる。作成者は評価結果を受け、その後の改良に活用できる点を吟味する。また、作成者間で情報を共有することで、仕様の検討に費やされる時間を短縮できることが期待される。

図5.2.1 拡大教科書作成支援PDCAサイクル(案):Planでは、作成者が教科書サンプルを作成、配布し、児童生徒はその中から自分に適した教科書を選択する(主観的評価)。また、教員は児童生徒の読書効率を測定する(客観的評価)。Doでは、作成者が需要数に基づいて教科書を作成し、児童生徒と教員は教科書を使用する。Actでは、児童生徒と教員が使用した教科書の使い勝手や学習効率を評価する。Actでは、評価に基づく改善点を作成者にフィードバックする。また、作成者は改善点を吟味し、作成者間で情報を共有する。この結果を次年度の教科書作成に活用する。

図5.2.1 拡大教科書作成支援PDCAサイクル(案)


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