3.3 発達障害者に対する拡大教科書の有効性に関するヒアリング調査

中野 泰志


3.3.1 目的

 「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」では、拡大教科書等の障害のある児童生徒が検定教科書に代えて使用する「教科用特定図書等」の普及促進を図り、児童生徒が障害その他の特性の有無にかかわらず十分な教育が受けられる学校教育の推進に資することである。つまり、弱視児童生徒だけでなく、読み書きに困難を感じている障害のある児童生徒に対応できることが期待されている。そこで、今回、試作したサンプル版の拡大教科書がディスレクシアの人達に有効であるかどうかを検討した。

   


3.3.2 方法

 発達障害と診断されている成人当事者8名(ディスレクシア7名、自閉症1名)の協力を得て、ヒアリング調査を実施した。ヒアリングでは、試作したサンプル版拡大教科書7冊、字体変更版単純拡大教科書(14ポイント相当)12冊(書体6種類×2教科)を用い、それぞれのサンプルを見ながら、意見を聴取した。

   


3.3.3 結果

 以下に主なヒアリング結果を記す。

(1)教科書を読む際に感じていた困難

   

(2)サンプル版拡大教科書に対する評価

   

(3)その他

   


3.3.4 考察

 以上のヒアリングから、発達障害、特に、ディスレクシアの人達の教科書利用の問題には大別すると4つの種類があることがわかった。すなわち、見えにくさから来る不快さの問題、漢字等の読み方の問題、読み分け困難の問題、記憶しやすさや再起のしやすさの問題である。

 見えにくさに依存した不快さの問題に関しては、紙の色、コントラスト、書体、文字サイズが重要なポイントになることがわかった。また、紙には色がついていた方がいいし、コントラストは高くない方がよいことがわかった。そして、紙が白く、コントラストが高い資料を読まなければならない場合には、カラーシートを使う必要があるという意見があった。字体に関しては、通常の教科書体や明朝体のような構成線分の太さが一定ではないものは嫌な感じがすることがわかった。また、個人差はあるが、あまり太い文字はコントラストが高いものと同じように気持ち悪く感じる場合があることがわかった。文字サイズについては14ポイント程度が最もよく、小さくても大きくても読めなくなってしまうことがわかった。これらの点については、字体変更をした単純拡大教科書に工夫を加えれば、実現できる可能性がある。ただし、弱視児童生徒の場合、コントラストを高くすることが重要な要素なので、共有する場合には、カラーシート等の支援技術を活用する必要があると考えられる。

 漢字等の読み方の問題に関しては、ルビが重要であることがわかった。拡大教科書の場合、原本に忠実にしてあるが、ディスレクシアの場合、原本にもないルビが必要であることがわかった。また、ボランティアが作成した拡大教科書の中にあったルビと本文の色を変えるという工夫はとても評価が高かった。

 読み分け困難の問題に関しては、通常の教科書では、文字と文字がくっついて見えたり、1ページにたくさん図表等の情報があったりするとポイントを掴むことができない等の困難さがあることがわかった。拡大教科書だと、これらの困難さが軽減できるということであった。

 記憶しやすさや再起のしやすさの問題は、短期記憶・作業記憶の問題に起因していることがわかった。文字サイズが大きすぎると困るのは、この記憶の問題が原因で、全体が一覧できることが大切だからとのことであった。また、必要な箇所や重要なポイントが見つけやすいレイアウトが重要であることがわかった。

 以上より、弱視児童生徒用の拡大教科書は、そのままでは発達障害者に有効なわけではないが、書体を工夫した単純拡大教科書、レイアウト拡大教科書の図表部分、プライベートサービスのルビ等の工夫等は共通した配慮になり得ることがわかった。

   


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