2.4 拡大教科書選定支援キットの試作

中野 泰志・吉野 中・花井 利徳・新井 哲也・大島 研介


2.4.1 拡大教科書選定支援キットの概要

 本研究の目的は、前節までの調査結果に基づき、適切な拡大教科書の選択を支援するための拡大教科書選定支援キットを試作することである。

 拡大教科書選定支援キットは、弱視児童生徒が適切な拡大教科書を選択できるようにするために、1)自分自身では気づきにくい読書効率等を客観的なエビデンスで支援すると同時に2)児童生徒の主観的な選択を支援するツールである。本キットは、読書効率評価セットとサンプル版拡大教科書セットの2つから構成されている。なお、支援の理念は、中野(2011)による「弱視生徒の社会的自立を考慮した総合的問題解決」に準拠した。

   


2.4.2 読書効率評価セットの試作

 前章までの調査及びLeggeら(1989)、小田ら(1998)、中野(2009)等の先行研究により、拡大教科書を選定・評価する際の客観的なエビデンスを得るためには、MNREAD-Jが有効であることが示唆された。MNREAD-Jは、拡大教科書等を利用することで得られる読書速度を予測することが可能であるし、その読書速度が確保できる文字サイズ(臨界文字サイズ)やこれ以上小さい文字だと読めなくなってしまうギリギリの文字サイズ(読書視力)を評価することも可能である。拡大教科書は、すべての文字サイズを揃えることが原則であるが、メリハリをつけたり、ルビをつけたり、ページ番号を振ったり、図表で表したりするために、様々な文字サイズが用いられているのが現状である。MNREAD-Jを用いれば、10分程度の検査時間で、これら拡大教科書選択に必要な情報を得ることが可能なのである。しかし、MNREAD-Jを拡大教科書の選定・評価に用いる場合、1)小学校の低学年を評価する適切なチャートがないこと、2)字体変更版、横書き版等がないため、プライベートサービスの拡大教科書の選定・評価に資することが出来ないこと、3) 使いこなすためにはlogMAR等の難解そうに思える概念を理解しなければならないこと、4)30文字の読書速度から教科書を用いた読書速度を推定することが妥当かどうかわからないこと等の問題が指摘されている。

 本研究では、これらMNREAD-Jを拡大教科書評価に活用する際の問題を解決し、以下の4つの読書効率評価ツールを試作した。

   

(1)小学校低学年の評価に適した読書チャートの試作

図2.4.1 小学生用MNREAD-J FUE の写真:小学生用MNREAD-J FUE の写真:文章の異なる5枚の読書チャートの写真

図2.4.1 小学生用MNREAD-J FUEの写真

   

(2)字体変更版、横書き版の読書チャートの試作

 MNREAD-Jの開発者である東京女子大学の小田浩一先生の了解を得て、字体変更版、横書き版のMNREAD-J読書視力チャートを試作した。これで、これまで困難だと考えられてきたプライベートサービスの拡大教科書を作成する際の根拠が明確になると考えられる。

図2.4.2 字体変更版のMNREAD-J の写真:字体変更版のMNREAD-J の写真:それぞれの書体の読書チャートの写真

図2.4.2 字体変更版のMNREAD-Jの写真

   

(3)MNREAD-J活用支援マニュアルの試作

 MNREAD-Jを拡大教科書の選定・評価のために実施・活用するための活用支援マニュアルを作成した。また、今回、50名の盲学校教員に対して実施したヒアリングに基づき、Q and A集を作成した。なお、支援マニュアルは、更新する必要性があるため、ホームページで公開する方式をとった。

   

(4)サンプル版拡大教科書を用いた妥当性検証ツールの試作

 MNREAD-Jに用いられている文章は、前後の文脈の影響を受けにくい内容になっている。また、短時間で検査が出来るように、30文字の課題制限法での評価から読書速度を算出している。これら文脈の影響を受けにくくしたり、短時間で評価できるように工夫されたりしている事項ではあるが、ヒアリングでは、妥当性に問題がないのかどうかという心配をする声もあった。本研究で、拡大教科書での読書効率評価結果と強い相関があることがわかっているが、拡大教科書は高価なので、入念に検討する必要はあると思われる。そこで、本検証ツールでは、サンプル版拡大教科書を用いて読書速度測定を行い、MNREAD-Jでの評価結果に妥当性があるかどうかを検討できるようにした。

   


2.4.3 サンプル版拡大教科書セット

 サンプル版拡大教科書の仕様は、盲学校や弱視特別支援学級等のユーザへのインタビュー、ボランティアや教科書会社等の製作者へのインタビュー、研究協力者会議、サンプル版拡大教科書作成ワーキンググループを繰り返し開催して決定した。調査と議論の結果、以下の方針を決めた。

 上述の方針に従い、教員、弱視教育の研究者、ボランティア、教科書会社等がワーキンググループを形成し、収録すべき内容を決定した。なお、本サンプル版拡大教科書の作成においては、教科書協会の協力を得て、著作権の処理を行った。

 試作したサンプル版拡大教科書は、以下の7分冊とした。

図2.4.3 教科書会社が作成した拡大教科書のサンプル:教科書会社が作成した拡大教科書の表紙とその内容を写した写真 図2.4.3 教科書会社が作成した拡大教科書のサンプル:教科書会社が作成した拡大教科書の表紙とその内容を写した写真

図2.4.3 教科書会社が作成した拡大教科書のサンプル

   

図2.4.4 ボランティアが製作した拡大教科書のサンプル:ボランティアが制作した拡大教科書の表紙とその内容を写した写真 図2.4.4 ボランティアが製作した拡大教科書のサンプル:ボランティアが制作した拡大教科書の表紙とその内容を写した写真

図2.4.4 ボランティアが製作した拡大教科書のサンプル

   


2.4.4 拡大教科書選定支援キットマニュアル

 拡大教科書選定支援キットは、弱視児童生徒が適切な拡大教科書を選択できるようにするために、1)自分自身では気づきにくい読書効率等を客観的に評価するとともに、2)本人の好みといった主観的な評価を実施するための評価ツールである。ここでは、拡大教科書選定支援キットを有効活用するための選定・評価マニュアル(案)を示した。

   


2.4.4.1 客観的評価:MNREAD-Jによる文字サイズの評価

 児童生徒が最大の読書パフォーマンスを維持できる最小の文字サイズ(より原本に近いサイズ)を選定することで、拡大教科書の決定的な問題点である判サイズの大きさや重さ等を少なからず解消できると考えられる。そのため、学校現場で一般的に用いられている、国際的な読書評価チャートであるMNREADによって、児童生徒が「最大の読書速度を維持できる最小の文字サイズ(臨界文字サイズ)」や「読むことのできる最小の文字サイズ(読書視力)」といった読書効率を評価する必要がある。従来のMNREAD-J、 MNREAD-Jk(ひらがなチャート)、および白黒反転版に加えて、今回試作したMNREAD-J FUE(小学生用チャート)、字体変更版、横書き版を用いることにより、多様な表記の中から児童生徒が最も高いパフォーマンスを発揮できるものを見出すことが可能である。

 MNREAD-Jによる一般的な視機能評価マニュアルは、既に開発者である東京女子大学の小田浩一先生によりホームページ上に公開されている。しかし、難解な表現も含まれているため、拡大教科書の選定のためにMNREAD-Jを利用するための簡易マニュアルを以下に提案する。ただし、視覚障害の状態は児童生徒によって多様であり、様々なパターンを考慮する必要があるため、個々の状況に応じた詳細な手続きはホームページ上で公開し、柔軟に改訂できるようにした。

   

(1)MNREAD-J標準検査を実施する際の工夫

 MNREAD-Jの測定では児童生徒の読み上げの指示や読み上げ時間の記録、誤答や読み飛ばしのチェック等、いくつかの操作を同時に行う必要があるため、複数の教員で記録と実施を分担したり、ICレコーダー等を用いて発話を録音したりすれば、後から誤答数のチェックを行ことができ、余裕をもって検査を行うことができると考えられる。また、紐やあご台等を用いると視距離を一定に保つことが可能である。以下、標準検査を実施する上での工夫の例を示す。

1)照明環境の工夫

 読書の効率は照度よって異なることが古くから知られている。一般に、ある範囲までは、照度が高い程、読書効率は向上する。そのため、どのような照明下で検査を行うかは重要な問題である。そこで、MNREADの標準検査では、白い部分の輝度が最低でも80cd/m²(カンデラ・パー・スクエアメーター)に指示されている。本来、弱視教育を行う環境では、この程度の照明環境が用意されていなければならない。なぜなら、そうでなければ、弱視児童生徒にとって見えにくい環境になってしまうからである。検査のために照度や輝度を測定するのではなく、弱視児童生徒の視機能を出来るだけ活用できるように日頃から照度や輝度を考慮した環境設定が必要だと考える必要がある。

 検査の際に留意しなければならないのは、読書チャートへの照明が偏らないようにすることである。また、室内の明るさは、外光によって変化するので、室内が暗いようであれば、机上灯を使う必要がある。なお、机上灯の種類によっては、照明にムラが出来てしまうことがある。そのような場合には、白紙等でカバーをして照らすと、均一な照明に出来る。

2)視距離の決め方の工夫

 MNREADでは、検査を一定の視距離で行うように設定されている。標準検査では、30cmの距離で実施するように設定されているが、これは、視距離を近づけすぎると、ピントが合わなくなること(近点限界)が考慮されているからである。弱視児童生徒の場合、30cmでは測定が困難なケースもあり、その場合、一定の距離を保っていれば、もっと近い距離に設定しても構わないことになっている。「MNREADは30cmで検査しなければならないので、弱視児の読書効率の測定には不向きである」という意見は、誤解である。

 視距離をどのように設定すべきかについては、詳細な議論が必要であるが、ここでは、目安となる方法を紹介する。まず、練習用チャート2枚目の18〜22ポイントの文章を提示し、この文章が読める距離を測定する。18〜22ポイントの文字サイズを用いるのは、拡大教科書に用いられている文字サイズだからである。もし、18〜22ポイントの文章が、30cm以上の視距離で読めるようあれば、固定する視距離は30cmとする。30cmでは読めない、あるいは読みづらい場合には、徐々にチャートを近づけていき、なんとかギリギリ読める視距離にまで近づけ、その距離を固定する視距離と考えればよい。

3)視距離を保つ工夫

 視距離を一定に保つように指示しても、弱視児童生徒は、文字が小さくなると、自然に近づこうとする。しかし、文字サイズごとに視距離が異なると、比較が困難になるため、視距離を一定に保つ必要がある。視距離を保つ工夫としては、一定の長さの紐を用いる方法もあるが、図2.4.5に示したように、書見台と顎台を用いるのも効果的である。顎台には、コーヒーの瓶や発泡スチロールの筒等を用い、児童生徒が両手で台を保持することで、顔の位置を固定することができる。図2.4.5に標準検査における書見台と顎台を用いた場合の配置図の例を示す。

図2.4.5 書見台と顎台を用いて視距離を一定に保っている様子:生徒が発泡スチロールの顎台に顎を載せ、MNREADの読書チャートを一定の視距離を保って読んでいる様子を写した写真

図2.4.5 書見台と顎台を用いて視距離を一定に保っている様子

4)練習の工夫

 MNREAD-Jの検査でより安定したデータを収集するためには、「読めない(見えない)漢字等は飛ばして、出来るだけ早く文章を読む」という課題が遂行できる必要がある。また、読書視力を求めるためには、文字が小さくなって読みにくくなってきても、1文字でも読める文字があれば読み上げる必要がある。しかし、読めない漢字等を読み飛ばしたり、出来るだけ早く読んだり、1文字でも読もうとしたりすることは、1回の教示だけでは困難な場合がある。そのため、練習が重要になる。読めない漢字があると読み進められないケース、感情を込めて読もうとするあまり読書速度が遅くなってしまうケース、文字が小さくなるとすぐに読むことを断念してしまうケースは少なくない。そのため、練習の場面では、見本を示したり、褒めたり、励ましたりすることが重要になる。

   

(2)自由視での検査が必要な場合

 標準検査の最大読書速度の結果が普段の読書行動と一致しないと思われる場合には、頭部や文章を固定しない自由な条件で検査を行い、データを比較するとよい。なぜなら、眼球運動や視野に障害があると、頭部や文章を固定すると読書効率が低下する場合があるからである。自由視条件での検査は、チャートを手に持たせ、姿勢や視距離等を自由にするわけであるが、その際、照明が一定になるように工夫することと読書中の視距離を逐次、測定することが必要である。なお、自由視条件の検査では、文字サイズの範囲(ダイナミックレンジ)が狭くなってしまい、拡大教科書の文字サイズを決めるために必要な臨界文字サイズやルビ等に用いる最小の文字サイズを決めるために必要な読書視力が正確に測定できなくなってしまう。そのため、自由視条件は、標準検査を補足するために用いると考える必要がある。

   

(3)拡大教科書の文字サイズを決める工夫

 MNREADの標準検査の結果から、必要な文字サイズを推測することが出来る。臨界文字サイズ以上の網膜像が確保できる視距離と文字サイズの組み合わせを求めればよいのである。MNREADで用いられているlogMARによる説明がわかりにくい場合、以下のように考えていただければよい。例えば、ある弱視生徒に10cmの視距離でMNREAD-Jの標準検査を実施した結果、以下のデータが得られたとする。

表2.4.1 MNREAD-J標準検査で得られたデータの例

チャートの表記
得られたデータ
logMAR
ポイント
時間
誤答数
1.3
55.3
5.52
0
1.2
43.9
5.37
0
1.1
34.9
6.68
0
1
27.8
8.63
2
0.9
22
7.54
2
0.8
17.5
6.87
2
0.7
14
9.14
5
0.6
11
7.4
5
0.5
8.8
8.53
0
0.4
7
11.08
5
0.3
5.5
14.98
1
0.2
4.4
19.84
13
0.1
3.5
14
28

 このデータを分析ツール「マルチプラットホーム対応Flash版分析プログラム MNJA ver 1.0!」(http://www2.aasa.ac.jp/people/hkawash/mnja1/mnja1.html)で計算させると、読書視力(Reading Acuity;RA)が0.73 logMAR、臨界文字サイズ(Critical Print Size;CPS)が0.98 logMAR、最大読書速度(Maximum Reading Speed;MRS)が235.09文字/分であるという結果が得られる。また、文字サイズと読書速度の関係を図示すると図2.4.6のようになる。

図2.4.6 MNREAD-Jの検査結果を図示した例:横軸に文字サイズ(logMAR)、縦軸に読書速度(文字/分)をとった折れ線グラフ。縦軸が対数表示になっている。内容に関しては以下の文章を参照のこと。

図2.4.6 MNREAD-Jの検査結果を図示した例

 最大読書速度のデータから、この弱視生徒の場合、文字サイズを調整すれば、最大で1分間に235文字程度の速度で読書が出来ることがわかる。また、この最大読書速度を出すためには、0.98 logMAR以上の文字サイズが必要であることがわかる。0.98 logMARは、眼球内に投影される文字サイズであり、10cmの視距離で、8.8ポイントの文字を見たことに相当する。つまり、この弱視生徒が10cmで読書をする場合、8.8ポイント以上の文字サイズであれば、最大読書速度で読むことが可能なことがわかる。もし、姿勢のことを考慮し、20cmで読書をさせたいと考えた場合、視距離を2倍するので、文字サイズも2倍にし、8.8×2=17.6ポイント以上の文字サイズが必要だと考えればよい。読書視力は、ルビ等のように、最大読書速度で読める必要はないが、読めないと困る最小の文字サイズを推測するために有用である。先の例の場合、読書視力は、0.73 logMARであった。これは、10cmの距離で約5ポイントの文字サイズ、20cmの距離で約10ポイントの文字サイズに相当する。つまり、上述の弱視生徒の場合、10cmの視距離であれば、ルビ等の最小の文字サイズは5ポイント以上、本文は8.8ポイント以上あれば、十分な読書速度(235文字/分)が出ることがわかる。また、この生徒は、本文が18ポイント以上でルビ等が10ポイント以上の拡大教科書を使えば、視距離を20cmに出来ることがわかる。

   

(4)拡大補助具を使用した検査が必要な場合

 標準検査で求めた文字サイズを確保するための方法には、前述した視距離を縮める方法や文字そのものを拡大する方法以外に、拡大補助具(エイド)を利用する方法がある。拡大補助具の倍率を決定する場合、読みたい対象(例えば、教科書)がMNREADで求めた臨界文字サイズ以上になるように設定すればよい。そして、選択した拡大補助具が適切かどうかを判断するために、拡大補助具を利用した条件で、最大読書速度が確保できるかどうかを確認すればよい。もし、拡大補助具を用いても十分な読書速度が出ない場合には、拡大補助具の倍率が不適切でないかどうか、もしくは、その拡大補助具の使い方を十分習得しているかどうかを確認する必要がある。

   


2.4.4.2 主観的評価:拡大教科書サンプル集による評価

 拡大教科書の選定には、「文字サイズと読書効率」の客観的な評価だけでなく、教科書を使う児童生徒の主観的な「使いやすさ」や「好み」も重要な要件となる。ただし、使いやすさや好みを聞くときには、どのような聞き方をするのかが重要である。単に、「見やすい文字の大きさはどのくらいですか?」という漠然とした質問では、児童生徒は何を判断基準にして選択すればよいか迷ってしまう。そのため、出来るだけ実際に利用する拡大教科書に近いサンプルを用い、教科書の利用場面を想定した使い方を行った上で判断を求める必要がある。そこで、本研究では、児童生徒が実際に教科書の「判サイズ」、「厚さ」、「重さ」、等を体感しながら、文章、ルビ、数式、図表や写真、脚注などの見やすさを確認することができるサンプル版拡大教科書セットを試作した。これを用いて、児童生徒は総合的に最も使いやすいと感じる拡大教科書(拡大率)を選定する必要がある。

 拡大教科書の選定方法の一例として、以下の手順を紹介する。

   

(1)好みの拡大教科書の選択

 児童生徒に拡大教科書サンプル集(拡大教科書選定支援キットNo.1〜3)を手渡し、文字サイズ、厚さ・重さ、判サイズ等を確かめながら、総合的に最も使いやすいと思われる拡大教科書を3冊の中から選択させる。選択の際、児童生徒に拡大教科書サンプル集を持たせて、「そのポイントサイズだと、実際の教科書がこの厚さ(重さ)になるけど大丈夫?」等の声かけをして、「厚さ・重さ」や「版サイズ」に関しても、しっかりと検討できるように配慮する。こうして選択した拡大教科書のサンプルを用いて、以下の(2)〜(4)の課題を実施し、選択が適切であったかどうかを確認させる。

 なお、No.1〜3までの文字サイズでは最大読書速度が確保できない場合や、生徒児童に羞明等があり白地に黒い文字だと眩しくて読めない等の問題がある場合は、教科書会社によって作成された拡大教科書では対応が難しいため、ボランティアへ依頼をして、個人に合わせた教科書を作成してもらう必要がある。その際の参考資料としてボランティア作成拡大教科書サンプル集(拡大教科書選定支援キットNo.4〜7)を用意した(図2.4.7)。ボランティア作成拡大教科書は、プライベートサービスで作成した例を示したものであり、サンプル通りの教科書が出来るわけではない。また、サンプル以外の要望を聞いてもらえる可能性もある。なお、ボランティアにプライベートサービスを依頼する場合、文字サイズ、字体等を具体的に示す必要があるが、ここでは、そのための評価手順までは示していない。

図2.4.7 好みの教科書を選択している様子:児童生徒が版サイズの異なる二冊の教科書を比較して好みの教科書を選択している様子を写した写真

図2.4.7 好みの教科書を選択している様子

   

(2)ページ検索課題を通した好みの評価

 レイアウト変更方式の拡大教科書は、原本の1ページが数ページにレイアウトされるため、ページの振り方が原本とは異なる。児童生徒がこの点を意識し、使いやすさを原本と比較できるようにするために、ページ検索課題を実施する。ページ検索課題では、「28の2ページを開いてください」のような指示を出し、開くまでにかかる時間を測定する。そして、検索にかかった時間をフィードバックする。

   

(3)読み上げ課題を通した好みの評価

 児童生徒の読書速度を測るために、指定した箇所を音読する課題を実施することで、選択された拡大教科書の文章の読みやすさを確認する。読みやすさを確認する際には、判断基準として、以下の読書効率を算出し、MNREAD-Jの評価結果と比較しながら、結果をフィードバックする。

 拡大教科書サンプル集の中から、30文字程度で漢字の多すぎない文章を指定して音読させ、ストップウォッチ等を用いてその文章を読むのにかかる時間を測定する。その際、読み損じた文字数を記録しておく。測定した時間と読み損じた文字数を以下の公式に当てはめて、1分間に読むことのできる文字数を読書速度として算出する。

 読書速度(文字/分)=(正しく読み上げた文字数)÷所要時間×60秒

 (課題実施例)小学6年生の場合

 課題文章:拡大教科書サンプル集(A5〜A4)91ページ

 「歴史についてよく知らない人でも分かるように、簡単な説明と写真をのせた。」(35文字・句読点を含む)を用いた場合

図2.4.8 サンプル教科書の読み上げ課題を行っている様子:児童生徒がサンプル教科書数学のページを読み上げる課題を行っている様子を写した写真

図2.4.8 サンプル教科書の読み上げ課題を行っている様子

   

(4)書き写し課題を通した好みの評価

 児童生徒の書写効率を測るために、指定した箇所をノートに書き写す課題を実施し、選択された拡大教科書の書き写しやすさを確認する(図2.4.9)。授業で書き写しを行う場面の多い科目を選択すると効果的である。書き写し課題を行う際にも、読書課題と同様に、拡大教科書サンプル集の中から、授業で頻繁に書き写す内容が含まれるページを指定し、1分間で何文字書き写すことができるかを測定するとよい。書写速度の計算式は読み上げ課題と同様である。また、書写速度以外にも、書いていた箇所の見直しのしやすさや、教科書を開いたままにしておけるかどうか等、児童生徒の感想を聞いて総合的に書き写しやすさを確認する。そして、書写速度をフィードバックした上で、好み等を総合的に考え、拡大教科書が適切かどうかを判断するよう促す。

図2.4.9 サンプル教科書の書き写し課題を行っている様子:児童生徒がサンプル教科書を用いて内容の書き写し課題を行っている様子を写した写真

図2.4.9 サンプル教科書の書き写し課題を行っている様子

   

(5)その他確認すべき内容

 上記の課題以外にも、いくつかの確認すべき内容がある。例えば、本文中でポイントサイズと異なって表記されている脚注やルビなどの見やすさ・探しやすさ、図表や写真の見やすさ、字体の見やすさ・読みやすさ等の内容について、適宜、児童生徒に確認を促す。

   


2.4.4.3 まとめ

 国連障害者の権利条約で延べられているように、サービスを選択する主体は弱視生徒自身でなければならない。視機能や発達段階等に関する客観的な評価は重要であるが、それだけでサービスの内容を決定することは適切ではない。客観的な評価の結果は、生徒の自己決定・自己選択を行う際に、当事者が一つの判断基準として利用することが好ましい。つまり、弱視生徒が、客観的な評価結果を判断材料にして、自分にとって最も適した問題解決方法を選択できるようにすべきなのである。そこで、本拡大教科書選定支援キットは、読書効率等の客観的なエビデンスを参考にしながら、実物に近い教科書を使って、弱視児童生徒が主体的に教科書を選択できるように計画した。なお、本節に示した手順は、あくまで活用方法の一つであり、児童生徒の実態等によって柔軟に活用することが期待される。なお、以下のホームページで情報を逐次提供する。

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/research/largeprint/


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