おわりに


 ソクラテス哲学の権威であり、様々な学校に授業巡礼に出向いて人に向き合い、教えることと学ぶことを実践し続けた林竹二氏は「一片の知識が学習の成果であるならば、それは何も学ばないでしまったことではないか。学んだことの証は、ただ一つで、何かがかわることである」(林,1990)という言葉を残されました。

 拡大補助具や拡大教科書等を活用している弱視の児童生徒が、自分を大切に思い、他者との違いに気づき、自分が効果的にできる方法を知り、その方法を好きでいられ、自分の果たすべき役割を知り、役割を果たすことで喜びや生き甲斐を感じることが出来る世の中を創るためには、弱視児童生徒だけでなく、彼らの隣人一人一人が変わることが大切です。この文章を読んでおられる方は、誰もが、その一翼を担えるはずです。例えば、一人でも多くの人が、弱視のことを知り、拡大補助具や拡大教科書等の意義を知るだけでも、弱視の児童生徒に向けられるまなざしが変化するはずです。外から見るとわかりにくい弱視という障害をより多くの人が知り、適切な環境が構築されることを心から願っています。

 本報告書は、平成21年度文部科学省発達障害等に対応した教材等の在り方に関する調査研究事業の結果を受けて、平成22年度「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」(発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の研究支援)に実施した「高等学校段階における弱視生徒用拡大教科書の在り方に関する調査研究」の研究成果をまとめた資料です。この報告書に書ききれなかった情報は以下のホームページで適宜、公開していきますので、併せてご覧くださるようお願いいたします。

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/research/largeprint

 本調査研究に快くご協力いただいた全国の盲学校の教職員及び弱視生徒の皆さん、インタビューに応じてくださった弱視当事者の皆さんと専門家の皆さん、お忙しい中たくさんのアドバイスをくださった研究協力者の皆さん、MNREAD-Jの文章を提供してくださった東京女子大学の小田浩一先生、教科書の試作を許諾してくださった教科書会社の皆さん、全国調査及びデータ分析を担当してくださった調査員の皆さんに心から感謝いたします。また、調査の実施にあたっては、全国盲学校長会の澤田晋先生及び文部科学省特別支援教育課の吉田道広調査官にご支援いただきました。本研究の実施・整理にあたっては、慶應義塾大学自然科学研究教育センター研究員の新井哲也氏、大島研介氏、澤海崇文氏、草野勉氏、山本亮氏、花井利徳氏、吉野中氏、そして、事務員の岩田いづみ氏、盛田ゆかり氏、小西麻貴子氏、藤島弥子氏、そして、学生アルバイトの皆さんから献身的な協力を得ました。ここに記して謝意を表します。

 本報告書を作成していた2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。被災をされた方々、ご家族の皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。また、一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

中野 泰志


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