第12章 弱視生徒の社会的自立を考慮した総合的問題解決の在り方に関する指導法の提案

中野 泰志


12.1 拡大エイド・リテラシーについて

(1)弱視生徒に対するアンケート調査から明らかになった実態

 弱視生徒を対象にした調査の結果、高等部があり、弱視生徒が在籍している57校の盲学校すべてから338件の回答が得られた。内訳は、普通科の生徒が232人、本科保健理療科の生徒が99人、その他の学科が7人で、学年も男女構成もほぼ均質なデータであった。なお、昨年度の調査では272件の回答であったため、今年度の調査ではより多くの弱視生徒からの回答が得られたことになる。
 回答者の特徴としては、0.1〜0.3の視力の生徒が94人と最も多く、続いて0.3以上の視力の生徒が69人で、比較的視力の高い生徒が多いことがわかった。眼疾患は、白内障が最も多く、網膜色素変性症、緑内障が続いていた。また、視野障害は半数以上の生徒が有しており、視力・視野以外の見えにくさとしては、「まぶしさ」がある場合が約53%、「白黒反転の方が見やすい」が約33%、「夜盲がある」が約32%であった。なお、本調査に回答してくれた弱視生徒は、聴覚や肢体不自由等の他の障害を併せ有する生徒は少なかった。
 現在、学校や家庭などで勉強や読書などの読み書きに使用している補助具について、使用の有無、補助具の種類、および使用頻度を調査した結果、普通科、保健理療科ともに6割以上の生徒が拡大補助具を利用していることがわかった。利用している拡大補助具としては、ルーペが最も多く使用され、次いでCCTVが使用されていることがわかった。拡大補助具の使いやすさに関しては、「使いやすい」と感じている生徒が大半であり、拡大補助具に対する満足度も「満足」している生徒が大半である事が明らかとなった。拡大補助具の良い点に関しては、「持ち運びに便利」や「見たいものがすぐに見られる」という回答が多かった。つまり、弱視生徒は拡大補助具を使いやすいと感じ、満足しているケースが多いことがわかった。
 拡大補助具に満足していながらも、拡大補助具を使いたくないと思うときがあるかどうかを聞いた結果、半数以上の生徒が「使いたくないと思うときがある」と答えている。しかし、その理由として最も多かったのは「人目が気になる」という点であり、「疲れる」ことよりも多かった。つまり、拡大補助具利用のハードルとなっているのは、盲学校においてさえ、疲れよりも、人目が気になる点であることがわかった。今後、弱視生徒が拡大補助具を活用しやすくするためには、拡大補助具に対する正確な理解を促すための理解・啓発が必要であることが示唆された。
 拡大補助具を使用する際に困っている事や改善したい事については、「読みたい箇所を探すのに時間がかかる」、「読書に時間がかかる」などの時間に関する項目が多く選択されており、次いで「文字を書くときに使いにくい」という書写の際の不便さを感じるというものが多かった。これらの指摘はトレーニングによって改善が考えられる事項である。つまり、拡大補助具の利用方法についてのトレーニングが重要であることが示唆された。
 教科書と補助具の併用時に、生徒が最も疲れないと感じている組み合わせを調査した結果、普通科の生徒の場合は「通常教科書と補助具」、保健理療科の生徒は「拡大教科書と補助具」であると感じている生徒が多いことが明らかとなった。また、最も疲れる組み合わせとしては、普通科・保健理療科ともに「通常教科書のみ」の場合であった。つまり、弱視生徒は、補助具を利用すると疲れると認識しているわけではないことがわかった。

(2)教員に対するアンケート調査から明らかになった実態

 弱視生徒のエイド・リテラシーに関するニーズに、教員がどのように対応出来ているかについて盲学校の教員にアンケート調査を実施した。その結果、調査票を発送した70校すべてから1,848件の有効回答が得られた。所属学部は、幼稚部が131人、小学部が424人、中学部が373人、高等部が908人、その他が69人であった(重複回答者が57人あり)。教職経験は20〜30年が577人、10〜20年が411人で多く、比較的教育経験が豊富なケースが多いことがわかった。しかし、盲学校や弱視学級での視覚障害教育の経験年数は少なく5年未満というケースが多かった。つまり、盲学校の教員には、教職歴が豊富なベテラン教員が多いが、視覚障害教育の経験年数は必ずしも豊富ではないことがわかった。
 拡大教科書や補助具の選定・指導を行った経験のある教員が973人であったのに対して、指導経験のない教員が843人であった。半数以上(53%)の教員が拡大教科書や補助具の選定・指導を実施した経験があることがわかった。指導内容としては、拡大読書器が638件と最も多く、拡大教科書621件、ルーペ589件、書見台414件、PC298件であった。なお、拡大教科書や補助具の指導経験がない教員も少なくないが、これは、重複障害児・者の割合が増えていることの反映だと考えられる。
 選定・指導方法をどこで学んだかという質問に対しては、「実践を通して学んだ」が592人と最も多く、「盲学校や教育委員会主催の研修会」が481人、「同僚等との自主的な勉強会」が443人であった。選定や指導の知識・技術をさらに向上させたいと回答した教員は877人と多かった。さらに知りたい知識・技術としては、「視力・視野等の視機能評価法」が515人と最も多く、次いで「PCの拡大ソフトや音声化ソフトの操作法」が487人、「PCを用いた拡大教科書・拡大教材の作成法」が472人、「弱視レンズ等の拡大補助具の選定法」が440人と続いていた。また、知識・技術を学ぶ方法として、「研修を受けたい」が467人と最も多く、「(授業研究会等実際の)指導場面が見たい」が288人と続いた。
 以上より、盲学校の教員の半数強が補助具についての指導を経験しているが、さらに、知識・技術を向上させるための研修を求めていることがわかった。


12.2 進路を考慮した拡大エイド選択について

(1)弱視生徒に対するアンケート調査から明らかになった実態

 中学時代に盲学校で学んだ経験の無い1学年の生徒に対し、盲学校に進学した理由を調査した結果、普通科では「見えにくさに配慮した学校環境があるから」や「見えにくさに配慮した指導が受けられるから」といった「見えにくさへの配慮」を理由としてあげる生徒が多いことがわかった。また、保健理療科では「自分に適した指導が受けられるから」という理由が最も多く、次いで「眼疾患が進行し、見えにくくなったから」という理由が多いことがわかった。補助具等の指導を受けられることや拡大教科書を使用できることを理由に挙げている生徒は少なかった。この結果から、弱視生徒は進路に際して、拡大補助具や拡大教科書ではなく、見えにくさに対する配慮全体や見えにくさを考慮した指導を期待していることが明らかになった。
 拡大補助具の選定や指導が十分に出来ていない可能性を探るために、指導を受けた経験について質問した。その結果、拡大補助具等に関する指導を受けている生徒は7割で、指導をまったく受けたことがない生徒が3割弱いることが明らかになった。指導は主に盲学校か病院にて受けており、対応した指導の担当者は先生が最も多く、ついで眼科医が担当していることが多かった。相談・指導の際に受ける検査としては、視力検査と視野検査が多く行われ、次いで読書に関する検査も行われていることが明らかになった。相談・指導の内容は、全体の集計としては、学校での学習に関するものが最も多く、次いで補助具の選定に関するものが多いという結果であった。つまり、弱視生徒が拡大エイドリテラシィを獲得するための指導は現状では十分に行われていない可能性があることが示唆された。一方、拡大教科書を使用し始めたきっかけを質問したところ、6割強の生徒が「先生の薦め」と回答していた。つまり、先生が拡大補助具や拡大教科書をどのように生徒に薦めるかが進路を考慮した拡大補助具や拡大教科書等の選択において重要であることが示唆された。

(2)教員に対するアンケート調査から明らかになった実態

 盲学校の教員に対し、拡大補助具や拡大教科書等の選定や指導の経験を調査した結果、半数以上の教員は拡大教科書や補助具の選定や指導をした経験があることがわかった。ただし、これが弱視生徒にとって十分に手厚い選定や指導であるかは不明である。弱視生徒に対するアンケート調査で明らかになったように、弱視生徒のエイド選択に際しては教員が大きな影響力を持っているので、一人一人の生徒に合った選定や指導が実施されるのが望ましい。特に、生徒の進路について教員が綿密に考慮し、個別に対応するのが最適であろう。しかし、実際の教育現場では、様々な制約によりこのような選定や指導を行うのが難しい可能性があることが示唆された。
 また、教員が拡大教科書と補助具のどちらを使用するよう指導するかは、生徒の将来を左右することになりうる重要な判断である。拡大エイドの選定や指導の経験がない教員を対象にした質問に対する回答によると、拡大教科書と補助具のどちらかに偏った使用を指導しているのではなく、むしろ、約半数は生徒の実態に合わせて自作の拡大教材を作成していることがわかった。このように生徒に対してある程度の個別対応はしているものの、進路を考慮した拡大補助具や拡大教科書等の選択になっているとは言いがたい。教員の自作の拡大教材に頼るのみでは、社会生活を営む際に必要とされるエイド使用の技術が養われない危険性が考えられる。
 さらに、拡大補助具や拡大教科書等の選択に関しては視機能が大きな役割を占めているが、他にも様々な要因を考慮しなければならない。これに関して、拡大エイドの選定や指導の経験がある教員を対象にした質問に対する回答によると、半数以上の教員は視機能以外の要因として生徒の発達段階を重視していることがわかった。この結果は、拡大教科書や補助具の選定や指導を実施する際、生徒の視機能だけでなく、その生徒はどのくらい漢字を読めるのかといった生徒の能力に応じて、拡大エイド選択・指導がなされる必要性が示唆された。適切な拡大エイドの選択や指導がなされれば、生徒は幅広いスキルを身につけることができるはずである。教員の判断によって生徒の進路が狭まってしまわないようにするのが重要であると考えられる。

(3)教員ヒアリングから明らかになった実態

 盲学校の小・中・高等部で児童生徒の指導に直接関わっている教員に対して、半構造化面接を実施した。協力者は、全国の盲学校15校、50人の教員であった。その結果、眼疾患の進行しにくい生徒の場合には、以下のように、進路によって拡大補助具や拡大教科書の推薦の仕方を変えていることが明らかになった。

 これに対して、進行性の疾患の場合には、点字への移行を検討し、墨字と点字の両方を使えるようにしておくのがベストという回答が得られた。つまり、生徒の眼疾患の状況、進行するかどうか、進学先はどこかによってどのようなメディアを選択すべきなのかを変更する必要があることがわかった。
 拡大補助具や拡大教科書等の選定をどのように行っているかに関しては、定期的な評価を行っているケースもあれば、生徒や保護者の希望で決めているケースもあり、学校によって多様であることがわかった。また、評価方法に関しても、眼科医や視能訓練士等による眼科的な検査を実施しているところもあれば、特に実施していないところもあり、多様であることがわかった。発達段階に応じて、どの程度の読書速度が必要と考えているかについても考え方は多様であったが、1分間に100文字を下回ると学習に影響が出ると考えているケースが多いことがわかった。また、大学への進学を考えると、300〜400文字/分程度の読書速度が必要だと考えられていることがわかった。
 拡大教科書の文字サイズを選択する場合、本人の好みにまかせる方法、MNREAD-JやLVC最適文字サイズ検査等の読書効率評価に基づいて決める方法、サンプル教科書で見やすいものを選ぶ方法等、様々な方法がとられていることがわかった。
 以上より、拡大補助具や拡大教科書等の選定を支援する際には、弱視生徒の視機能、読書効率、視覚障害の進行の有無、進路等を考慮する必要があることがわかった。ただし、これらの選定の判断基準は、学校により、教員により様々であり、評価・選定のための方法論の確立が必要であると考えられる。

(4)成人弱視者へのヒアリングから明らかになった実態

 本研究では、学校を卒業し、社会的に自立している弱視者が拡大補助具や拡大教科書等についてどのように考えているかを探るために職業に就いている成人弱視者へのヒアリングも実施した。アンケートでは繊細なニーズ等を把握しにくいので、半構造化面接によるヒアリングを実施した。現時点では5名の協力者しかデータがないため、この結果から結論を導き出すのは危険であるが、当事者の体験の中から重要な指摘がなされた。大手企業で一般事務として勤務している事例において、以下の指摘があった。

 「社会に出たときのことを考えると、拡大補助具は絶対に使えた方がいいです。小さいときは、拡大教科書や拡大コピーで楽に勉強が出来た方がいいと思うけれど、将来のことを考えると、そのときは、嫌かもしれないけど、普通のサイズの文字を拡大補助具で見ることが出来た方がいいですよ」

 このケースでは、就職してから拡大補助具の選定や訓練のために、わざわざリハビリテーション施設に通ったとのことであった。しかし、大人になってからでは、訓練に時間がかかるし、そのための時間を確保するのも大変なので、早期の段階で訓練を受けたかったという話であった。この事例だけから、議論することは出来ないが、弱視生徒の拡大補助具や拡大教科書等の選択を支援する際、将来のことも考えて判断できるように指導する必要があることは、明らかだと考えられる。
 成人弱視者へのヒアリング全体から考えると、学習の初期段階やモチベーションを育てる段階では、なるべく楽な方法で読み書きが出来た方がよいが、進路によっては、通常の小さな文字にアクセスできる力を育てる必要があることがわかった。また、就職先が盲学校等の視覚障害のことをよく理解している場所では比較的文字サイズや電子化等に対する配慮がなされていることを考えると、情報のユニバーサルデザイン化の推進も同時に行っていく必要があると考えられる。

(5)大学へのヒアリングから明らかになった実態

 視覚障害のある学生が在籍した経験のある大学の担当者に、メーリングリストを通じて弱視学生への支援事例を収集した。その結果、弱視に対する配慮としては、拡大コピー、情報の電子化、試験等の時間延長、拡大読書器等の支援機器の貸出、ヒューマンサポート等の配慮が行われていることがわかった。教科書については、拡大コピーをしている大学はあるが、拡大教科書を作成している事例は報告されなかった。したがって、現状では、大学に進学する際には、拡大コピー、電子データ、支援機器を使いこなす力を身につける必要があることがわかった。

(6)弱視教育の専門家へのヒアリングから明らかになった実態

 大学や研究所等で弱視教育を専門に研究している研究者へのヒアリングも実施した。拡大補助具や拡大教科書等に関する専門家の意見は、様々であるが、以下の点が比較的共通した認識であった。

 福岡教育大学の氏間和仁先生には、インタビューにおいて以上のことを端的に表現していただいた。以下、要点を記す。

 子供がいろいろなものに興味を持ち、アクセスしていくときに、自分なりのアクセスの仕方をもつことが大切だと思う。教科書や教材等の供給側に余裕があれば、より楽にアクセスできる拡大教科書等を提供していけばよいと思う。特に、小さいときには、周囲が様々な興味を刺激するものを提供していくことは大切。でも、大きくなってきたら、自らの興味に合った情報を収集出来るようなスキルを手に入れることも重要。例えば、趣味の本を読むのに拡大版がないので、あきらめるというのでは困る。欲しい情報にアクセスできるようにするために拡大補助具等を使いこなすスキルが必要なのである。ただし、スキルを身につけることが困難なケースもある。その場合に、選択肢を排除するのではなく、それを支援出来るシステム、例えば、プライベートサービスの拡大写本等が重要だと思う。


12.3 弱視生徒の社会的自立を考慮した総合的問題解決の在り方

 昨年度の調査(中野,2009)及び第2章の調査データに基づき、弱視教育の専門家と議論を行い、弱視生徒の社会的自立を考慮した総合的問題解決の在り方に関して以下の提言をまとめた。

(1)問題解決の前提となる考え方

 a) 障害とは何かを適切に理解すること

 障害とは、個々の心身の状態と環境との相互作用の結果生じる状況であることを適切に理解する必要がある。また、病気、事故、加齢等により、誰もが障害者になり得るという認識を持ち、障害児者への環境整備を万人の問題として考える必要性のあることを適切に理解する必要がある。拡大補助具や拡大教科書等の環境整備は、障害者権利条約で述べられている人権を守るための合理的配慮の一つとして的確に捉える必要がある。

 b) 個人の能力の向上と環境の整備の両面からのアプローチを重視すること

 国際生活機能分類(障害者福祉研究会,2002)で述べられているように、弱視生徒の学習、特に、読み書きにかかわる活動を支援する際、個人因子と環境因子の両面からアプローチする必要がある。弱視児が遭遇している読み書きの問題は、知覚・認知・思考等の個々人の能力だけでも、拡大補助具や拡大教科書等の環境整備だけでも解決できるわけではないので、能力か環境かという二者択一で考えるべきではない。相互補完的な関係として捉える必要がある。そのため、通常の文字を読み書きする能力を育てることと同時に拡大補助具や拡大教科書等の支援環境を整備する必要がある。

 c) 弱視生徒の自己決定・自己選択を尊重すること

 国連障害者の権利条約で述べられているように、サービスを選択する主体は弱視生徒自身でなければならない。視機能や発達段階等に関する客観的な評価は重要であるが、それだけでサービスの内容を決定することは適切ではない。客観的な評価の結果は、生徒の自己決定・自己選択を行う際に、当事者が一つの判断基準として利用することが好ましい。つまり、弱視生徒が、客観的な評価結果を判断材料にして、自分にとって最も適した問題解決方法を選択できるようにすべきなのである。

(2)指導に関する前提

 a) エンパワメントを高める指導ツールとして補助具や教科書等を位置づけること

 拡大補助具や拡大教科書等を利用できるかどうかが問題なのではなく、これらを利用することで、弱視児の自己効力感やエンパワメントを向上させる必要がある。例えば、拡大教科書等が安定供給されることは極めて重要な環境整備であるが、それだけで弱視児の自己効力感やエンパワメントが向上するわけではない。弱視児がこれらの拡大補助具や拡大教科書等を使いこなしたいと思い、これらの拡大方法を好きでいられ、必要に応じて自由に使いこなすことができるような指導と環境が必要だと考えられる。

 b) チームでアプローチすること

 弱視児が拡大補助具や拡大教科書等を使いこなすことができるようにするためには、様々な専門家・非専門家が連携する必要がある。例えば、視覚障害の状況を把握したり、適切な眼鏡や弱視レンズ等を処方したりする際には、眼科医や視能訓練士等の医療スタッフの力が必須である。また、処方されたレンズや拡大教科書等を使いこなすためには、使用方法等に関するスキルを身につける必要があり、視覚障害教育の専門家の関与が必須である。さらに、処方された眼鏡やレンズ等を学校で利用する際には、在籍しているクラスの先生やクラスメイト等の視覚障害に関する非専門家の理解も必須である。特に、通常の学級に在籍している弱視児は、「クラスメイト等がどのように自分を見ているか」が気になり、適切な補助具等を使えないという精神的な問題に遭遇することが少なくない。そのため、周囲の理解は極めて重要な問題である。このように、一人の弱視児の読み書き環境を整えるためには、多くの専門家・非専門家が協力し、チームとして機能する必要がある。

 c) 視覚障害教育にかかわる教員の支援・研修体制をさらに充実させること

 調査の結果、盲学校に勤務している教員においても、必ずしも視覚障害教育の経験が豊富ではないことが明らかになった。しかし、盲学校の教員の9割は、選定や指導に関する知識・技術をさらに向上させたいと考えていることがわかった。また、研修を受けた場所は、「実践を通して学んだ」が最も多く、「盲学校や教育委員会主催の研修会」「同僚等との自主的な勉強会」が続いて多いことがわかった。この結果から、視覚障害教育の経験の少ない教員が多いものの、研修に対する要望は高く、日々の実践や学校や同僚との勉強会等で知識・技術を向上させる取り組みがなされていることがわかる。また、研修を受けたいというニーズが高いことを考慮すると、現在よりもさらに、充実した研修体制が望まれていることが推察される。訪問によるヒアリングにおいても、各学校では、それぞれ視覚障害教育を維持していくための努力を重ねていることがわかった。しかし、せっかく専門性が向上しても、人事異動等でその維持が困難だという課題があることがわかった。

(3)弱視生徒の読み書きの指導を支援するためフローチャート

 上述の調査等に基づき、弱視生徒の読み書きを指導する際のフローチャートを作成した。このフローチャートは、読み書きの指導において、留意すべき点を整理したものである。
 本フローチャートでチェックを行う前に、まず、前述の前提に留意する必要がある。その上で、読み書きに関する実態把握を、生徒の訴え、教員等による行動観察、入学・進学時の定期的な評価等に基づいて実施する。その上で、拡大が必要であるかどうかを客観的な読書効率評価等のエビデンスも参考にしながら、教員がアドバイスする。その際、拡大の方法として、視距離を近づける方法、レンズ等の拡大補助具を利用する方法、教科書や教材等を拡大する方法、視環境を整備する方法(照明の調整やタイポスコープ等の利用)等を紹介し、それぞれのメリット・デメリットを具体的・体験的に理解できるように工夫する必要がある。
 拡大補助具が必要だと判断された場合、その使用により読書効率の改善が見られるかの評価を行い、判断基準とする。その際、すぐに読書効率の改善が見られない場合があるが、拡大率を変更したり、操作方法のトレーニングを行ったりした上で再評価を行い、判断をする必要がある。
 拡大教科書の効果を評価する場合、まず、教科書会社等が出している標準規格に準拠した拡大教科書が効果的に使えるかどうかを判断する必要がある。その際、文字サイズだけでなく、ページの検索効率、書写のしやすさ、操作のしやすさ、入手可能性や価格等を総合的に評価する必要がある。
 なお、眼鏡等の必要性や進行性の疾患であるかどうかについては眼科等と、進行等に対する精神的なケアが必要な場合にはカウンセラー等と、補助金等の利用に関してはソーシャルワーカー等との連携を行う必要がある。

図12.1 弱視生徒の読み書きの指導を支援するためフローチャート
便宜上、各項目を指導の順番にそってアルファベットで代表する。A)1)生徒の訴え、2)教員等の行動観察、3)入学・進学時の検査による、読み書きに関する実態把握。その後、B)読書効率の評価(問題無ければOK)を行う。問題があれば、C)拡大が必要か(NOならば、白黒反転などのその他の補助)、YESならD)エイドで十分な効果が出るかを評価する(NOならE)エイドの選定やトレーニングは出来ているか、NOなら再選定・トレーニング後、Dへ)。CがYESなら拡大教科書の併用も必要かを検討する(NOならOK)。CもしくはDがYESの場合、F)拡大教科書で良いかを検討する(NOならば点字/音声など)、YESならG)どのような拡大方式か(レイアウトもしくは単純拡大)を決定した後、入手可能かを検討(入手不可ならば再度Gへ)。入手可能ならばOK。

図12.1 弱視生徒の読み書きの指導を支援するためフローチャート


<目次へもどる>