第11章 拡大教科書や拡大補助具等に関する弱視当事者に対する非構造化面接

澤海 崇文・中野 泰志


11.1 目的

 拡大教科書や拡大補助具の使用に関しては、実際に使っている当事者の満足感や将来への期待を明らかにすることで、今後のそれらの発展に貢献するに違いない。そこで、既に成人になった視覚障害当事者が拡大教科書や拡大補助具等に対してどのような意識を持っているかをインタビュー形式で調査した。


11.2 方法

 視覚障害当事者が拡大教科書や拡大補助具等に関してどのような意識をもっているかに関して、非構造化面接による調査を実施した。調査対象者は、一般成人の視覚障害当事者であった。5人の当事者が面接調査に参加した。面接内容としては特に事前に決めておくことはせず、ボトムアップ的に各回答者の実態や意見を尋ねていった。


11.3 結果・考察

 視覚障害当事者5人に対する非構造化面接を行ったところさまざまな実態や意見が明らかになったが、それらは主に4つのカテゴリーに分けられた。具体的には、(1) 教科書、(2) 補助具、(3) メディア(教科書や補助具やデジタル機器)の選択、(4) 盲学校や専門家の役割という4種類のテーマで質問を行った。以下、述べられた主要な実態や意見について、具体例を紹介しながらテーマごとにまとめていく。なお、鍵括弧で囲まれた部分が当事者の発言である。

(1)教科書について

 視覚障害の当事者にとっては、一般教科書では文字が小さいなどの問題があって、それだけでは十分に活用できないことが多い。そこで、教科書会社やボランティアが拡大教科書を作成して盲学校などに配布しているのだが、過去に学校に通っていた当事者はそれに対してどのような意識を持っているのだろうか。調査の結果、まず、拡大教科書に対して肯定的な意見が得られた。実際に得られた回答として「拡大教科書が用意されていると助けになる。」「拡大教科書という選択肢がなかった。もしあったら、英語とかは使っていたと思う。ボランティアが自分に合わせて作ってくれるので良さそう。」などが挙げられる。
 その一方、拡大教科書に対して不満の声や改善点も寄せられた。二人の当事者が語ってくれたのは「不便な点や改善点として、選択肢がたくさんあることに越したことはないが、まずは全教科そろうこと。それから、もうちょっとお金をかけて分冊を増やして欲しい。斜面台はそんなに大きなスペースでないので、厚みがもう少し薄くなって欲しい。あとは紐のしおりがついたりすると良い。教科書の図と説明のページがずれていることが、英語は時々ある。出版社側に意見を返すということはできていない。」「字の太さ、大きさ等は弱視を考慮しているので見やすいといえば見やすいが、漢字は中国漢字が多く、字画が多いとぐちゃぐちゃして見にくい。」というように、数多くの改善点が得られた。
 他にも、フォントと字体に関しての意見も語られた。まず、フォントに関して「見やすいのは28pt、区切りが分かりやすいのは20pt。」「慣れるまでは、今まで見たことのあるフォントのほうが読みやすい。ある程度見て使ってみて選ぶのがベスト。」と語ってくれた。また、字体に関して「ゴシック体が好き。」「ゴシック体ではぐちゃぐちゃしてしまう。教科書体のほうが見やすい。」「専攻科の教科書は、字体が明朝体で文字も小さいため、見づらい。」というように、当事者間で好みが分かれるところである。当事者のニーズや状態に応じて、個別に対応するための選択肢を増やしておくことが肝要なのであろう。また、このような教科書の問題点をふまえたうえで「先生がプリントを配布してくれる。プリントは見やすい。」というように、教員側が工夫をこらすという事例も見られた。

(2)補助具について

 視覚障害の当事者にとっては、拡大教科書を利用せず、ルーペや拡大読書器などの補助具を使用して一般教科書や一般書物を読むということも可能である。では、実際にどの程度補助具が使われているのか、ということに関して3人の当事者が語ってくれ、「補助具は使わない。数学だけルート記号など上にくっついているものが見づらかったので、拡大読書器を使っていた。それ以外はすべて普通の教科書を使っていた。」「ルーペはあまり使うことはないが、漢字がごちゃごちゃしているとルーペを使って見ている。」「本文を読むときにはルーペを使わないが、漢字や欄外を見るときにはルーペを使う。ルビを読むときはルーペを使ったほうが良い。」というように、常に補助具に頼るのではなく、必要な時に応じて使用するといった事例が多かった。
 では、なぜ補助具を多用しないのであろうか。その理由として、拡大教科書で十分ということも考えられるが、他にも「ルーペを使わないと読めないが、おおっぴらには使いたくない。人と違うから嫌。今も全く平気かと言われたら少し嫌。学齢のときは気になった。小さければ小さいほど、人と違うことに抵抗を感じる。それは補助具でも拡大教科書でも同じ。いじめ等につながる可能性も大いにある。」という心理的な抵抗感が挙げられる。
 他にも、補助具導入に関していくつかの意見が得られた。補助具は使用開始からすぐに上手に使えるようになるわけではなく、訓練が必要となるが、それに関して「眼疾患が安定している人の場合は、補助具を導入するのは早ければ早いほど良い。」「補助具の使い始めは早いに越したことはない。けど、早すぎるのは、『使え』と言われても使えないと思う。高校くらいから可能。訓練は中学くらいから始めたほうが良い。」といった意見が得られた。これらをまとめると、補助具は中学から高校にかけて徐々に導入するのが良いのではないだろうか。
 進路との関係については、大手企業で一般事務として勤務しているケースから「社会に出たときのことを考えると、拡大補助具は絶対に使えた方がいいです。小さいときは、拡大教科書や拡大コピーで楽に勉強が出来た方がいいと思うけれど、将来のことを考えると、そのときは、嫌かもしれないけど、普通のサイズの文字を拡大補助具で見ることが出来た方がいいですよ」という意見が出された。本事例の場合、就職後、拡大補助具の選定や訓練のために、リハビリテーション施設に通ってトレーニングを受けているとのことであった。就職してからでは、時間が十分にとれないし、トレーニングの効果も十分に上がらないので、学齢期にしっかりとしたトレーニングを受けておけばよかったということであった。

(3)メディア(教科書や補助具やデジタル機器)の選択について

 当事者にとっては、拡大教科書か補助具という選択肢があり、当人によってそのどちらに重きを置くかは異なる。それに関して1人の当事者は「発達段階に合わせて補助具はある程度使えたほうが良い。補助具はある程度使っていけるようにならないと世の中を渡っていけない。いつまでも誰かがご親切に拡大したものを見せてくれるわけではない。」と、補助具を上手に使えるスキルが身に付いていないといけないという考えが見られた。その一方、「社会に出たときのことを考えて、補助具は使えないと厳しい。ルーペを使っているが、拡大教科書があったら、少なくとも勉強するときは拡大教科書を使ったほうが楽。」のように、補助具のスキルは最低限必要であるが、勉強の能率を上げるために拡大教科書も併用するのが望ましいという意見もあった。
 さらに、拡大教科書や補助具以外にも、最近話題となっているiPadなどのデジタル機器を利用するという選択肢もある。デジタル機器に関して「iPadなどの機器は有用に使えると思う。拡大読書器だと酔うがiPadだと酔わず、拡大読書器より使いやすそうである。これがあれば、文字が小さくても読むことができる。」「教科書がiPadなどで見ることができたら、色々な方面で使うので持ち運びが楽になると思う。」と、賛成の意見が大半であった。ただ、「教科書は紙のほうが良いと思う。教科書に直接書き込むとか、教科書を切るとか自分が工夫をすべきだから。紙の教科書は創意工夫を育てる大きな素材。そういう工夫の余地を残すことが大事。」のように、デジタル機器の導入に危機感を抱く当事者もいた。このような危険性をかわすためにも、事前に教育の現場に携わる者などから意見を聞き、それを反映させるようなデジタル機器の使用法が開発されると望ましい、ということが示唆された。

(4)盲学校や専門家の役割について

 ここまでは拡大教科書や補助具などのメディアに関する話題であったが、他にも盲学校や専門家の役割に言及する意見も得られた。例えば、盲学校に関して「拡大教科書のサンプル本を盲学校に置くのには賛成。体験させて決めさせてやりたい。ポイント数それぞれにサンプルがあるのは非常に有効だと思う。地域の子供たちにアドバイスできるのもすごく有意義。」「拡大教科書のサンプルを置いて、盲学校を地域の弱視者の相談の窓口にするのは賛成。知識を持っている者に相談に行くのが良い。盲学校には当事者の先生もいるのも心強い。」というように、盲学校の役割に期待する声があがった。盲学校が通常学校や一般の人々にも実体験や知識を支援するという、中心的な役割を果たしていけるようなシステムが確立すると良いのだろう。
 それから、視覚の専門家に関して「これは視能訓練士のレベルによると思うが、その人の状態に本当に合ったルーペとか使えたらベスト。盲学校に行っていなければ、そういう専門の人に会う機会が、視能訓練士を雇用している眼科医しかいない。盲学校に行っていて、先生にそういう力があることに越したことはない。自分の見え方に合ったのを提供してもらえればなお良い。」といったように、盲学校だけでなく外部の専門家にも協力を得て、チームでアプローチすることが必要だと思われる。


11.4 まとめ

 以上、視覚障害当事者に対し非構造化面接を実施したところ、実に多くの役立つ意見が集まった。まず、教科書に関しては、フォントや字体などで不満の声があがっていたものの、教員がプリント作成等の工夫をするという対応の仕方も見られた。教科書を作成する際に改善点を反映し、クオリティの高いものを求めるのも大事ではあるが、完璧なものを作るのは難しく、実際に授業を進めていく教員が臨機応変に対応できるのが望ましいのかもしれない。次に、補助具に関しては、大半は必要な時にのみ使用しているというのが実態であった。また、見た目を気にしてあまり使いたくないという声もあがっていたので、補助具のデザイン性もこれから考慮していかなければならない。社会で自立していくためには、常に補助具を使用するというわけではないが、必要に応じて使えるスキルも学齢のうちに身につけておくべきであろう。それに関連して、メディアを選択する際には、補助具のスキルも大事だが、学習の効率を上げるために拡大教科書を使用して、うまく両立させていくということが示唆された。また、他の選択肢としてiPadなどのデジタル機器を利用することに前向きな意見も多く寄せられた。ただし、デジタル機器も万能なわけではなく、利用者のフィードバックを反映できるようなシステムの確立が必要であろう。最後に、盲学校や専門家の役割に関して、通常の学校に通う生徒や一般成人にも、拡大教科書や補助具を必要とする場合には、盲学校が相談役になって支援するという可能性が指摘された。盲学校が外部と連携して、盲学校の教員や専門家の持っている知識やノウハウを、他の機関にも発信していけたらベストだと考えられる。


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