第8章 拡大教科書に対する弱視生徒の好みとパフォーマンスの比較実験

中野 泰志・新井 哲也・吉野 中・花井 利徳・大島 研介・山本 亮


8.1 目的

 それぞれの弱視生徒に適した拡大教科書を選定する際、当事者の好みはとても重要であるが、拡大教科書の利用経験が少ない生徒の場合、選定そのものが困難な場合もある。また、好みで文字サイズ等を選定させると必要以上に大きなサイズが選択されることが少なくない。そこで、パフォーマンス(課題達成効率)を測定し、好みとの比較を行うフィールド実験を実施した。


8.2 方法

 パフォーマンス(課題達成効率)を測定し、好みとの比較を行うフィールド実験を実施した。実験では、logMAR視力(30cmの標準検査、視距離自由条件の検査)、MNREAD-Jによる読書効率評価(30cmの標準検査、視距離自由条件の検査、エイド使用条件での検査)、模擬授業による評価実験(国語、数学、社会の教科ごと、拡大方式ごとに、教科書の利用効率を、ページ検索課題、読み上げ課題、書き取り課題、脚注探索課題を通して評価)、フォントの比較を実施した。

(1)視機能評価

 ランドルト環視力検査表(logMAR視力表)を用いた視力評価とMNREAD-Jを用いた読書効率の評価を実施した。

 a) 視力評価

 まず、logMAR視力を標準検査条件で測定した。次に、logMAR視力表を用い、視距離を自由にして最小可読視標とそのときの視距離(最大視認力)を測定した(図8.1、図8.2)。

図8.1 logMAR視力検査表を用いた視力評価の様子
生徒が発泡スチロールの顎台に顎を載せ、logMAR視力表を、一定の視距離を保って読んでいる様子を写した写真

図8.1 logMAR視力検査表を用いた視力評価の様子

図8.2 視距離を自由にした条件での最小可読視標評価の様子
生徒がlogMAR視力表を手にもって見ている様子を写した写真

図8.2 視距離を自由にした条件での最小可読視標評価の様子

(2)読書効率評価

 MNREAD-Jチャートは、標準的な読書速度、読書に適切な文字サイズ、読書ができるぎりぎりの文字サイズを測定するために作成された読書チャートである(Leggeら,1989;小田ら,1998)。MNREADは統制された30文字の文章がポイントサイズごとに用意されており、読み上げ成績によって、ポイントサイズごとの読書速度を算出し、生徒の最大読書速度、読書速度が低下し始める手前の文字サイズ(臨界文字サイズ)、何とかぎりぎり読書ができる文字サイズ(読書視力)を評価することができる。MNREAD-Jを用いて読書効率を評価するために、視距離を固定する標準検査条件、視距離が変えられる自由視条件、エイドを使用した条件で評価した。

 a) 標準検査条件(視距離固定条件)

 MNREAD-Jの標準的な検査方法に基づき視距離を固定し、評価を実施した。なお、視距離を一定にするためにあご台を用いた(図8.3)。

図8.3 視距離を固定した条件における評価の様子
生徒が発泡スチロールの顎台に顎を載せ、MNREADの読書チャートを一定の視距離を保って読んでいる様子を写した写真

図8.3 視距離を固定した条件における評価の様子

 b) 視距離自由条件

 MNREAD-Jを手に持たせ、読みやすい視距離で読み上げ課題を実施し、その際の読書効率と視距離を測定した(図8.4)。

図8.4 視距離が変えられる条件における評価の様子
生徒がMNREADの読書チャートを手にもって見ている様子を写した写真

図8.4 視距離が変えられる条件における評価の様子

 c) エイド使用条件

 日常的にエイドを使用している場合には、縦書きと横書き両方でエイドを使用した読書課題を実施した(図8.5)。

図8.5 エイドを使用した条件における評価の様子
生徒がMNREADの読書チャートをルーペを使用して読んでいる様子を写した写真

図8.5 エイドを使用した条件における評価の様子

(3)模擬授業による好みとパフォーマンスの評価

 教科(国語・数学・社会科)ごとに作成した3種類の拡大方式の教科書(単純拡大縦・単純拡大横;楽譜綴じ・レイアウト拡大)を用いた模擬授業を行い、生徒が好む拡大教科書とその教科書でのパフォーマンスを評価した。表8.1に評価に用いた教科書の判と文字サイズを示す。また、図8.6から図8.8に使用した教科書の写真を示した。

 教科書の拡大方式ごとに、授業で使いやすいと思われる教科書の選択課題と、選択した教科書を用いた模擬授業課題を実施した。模擬授業課題では、ページや注の検索、書き写し・読み上げを行った。

表8.1 試作した教科書の判と文字サイズ

ID
拡大方式
国語
数学
社会
文字サイズ
文字サイズ
文字サイズ
1
レイアウト
A5
18pt
A5
18pt
A5
18pt
2
レイアウト
B5
22pt
B5
22pt
B5
22pt
3
レイアウト
A4
26pt
A4
26pt
A4
26pt
4
原本教科書
B5
12pt
A5
10pt
B5
10pt
5
単純拡大(縦)
A4
14pt
B5
12pt
A4
11pt
6
単純拡大(縦)
B4
17pt
A4
14pt
B4
14pt
7
単純拡大(縦)
A3
19pt
B4
17pt
A3
16pt
8
単純拡大(横:楽譜)
B5
17pt
A5
14pt
A5
11pt
9
単純拡大(横:楽譜)
 
 
B5
17pt
B5
14pt
10
単純拡大(横:楽譜)
 
 
A4
20pt
A4
16pt
11
単純拡大(横:楽譜)
 
 
B4
24pt
B4
20pt

   

図8.6 評価に使用した単純拡大教科書(縦置き横開き)
数学(縦置き横開き)の4種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.6 評価に使用した単純拡大教科書(縦置き横開き)
数学(縦置き横開き)の4種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.6 評価に使用した単純拡大教科書(縦置き横開き)

図8.7 評価に使用した単純拡大教科書(横置き縦開き;楽譜綴じ)
数学(横置き縦開き;楽譜綴じ)の4種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.7 評価に使用した単純拡大教科書(横置き縦開き;楽譜綴じ)
数学(横置き縦開き;楽譜綴じ)の4種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.7 評価に使用した単純拡大教科書(横置き縦開き;楽譜綴じ)

図8.8 評価に使用したレイアウト変更方式拡大教科書
数学(レイアウト変更)の3種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.8 評価に使用したレイアウト変更方式拡大教科書
数学(レイアウト変更)の3種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.8 評価に使用したレイアウト変更方式拡大教科書

 a) 好みの教科書選択課題

 原本サイズを含む単純拡大(縦置き横開き)4種類、単純拡大(横置き縦開き;楽譜綴じ)4種類、レイアウト拡大3種類の拡大方式で作成した教科書を用いて、拡大方式ごとに好みの教科書を選択する課題を行った(図8.9)。

図8.8 評価に使用したレイアウト変更方式拡大教科書
数学(レイアウト変更)の3種の拡大率の教科書(上)と、オリジナルと拡大率が大きいものを並べて開いている様子(下)の写真

図8.9 教科書選択の様子(写真は単純拡大[縦]を用いた選択)

 b) ページ検索課題

 指示したページを検索する課題を実施し、課題遂行までの時間をストップウォッチで測定した(図8.10)。

図8.10 ページ検索課題の様子(写真は単純拡大[横]を用いた検索)
生徒が教科書を手に持って、ページを探している様子を写した写真

図8.10 ページ検索課題の様子(写真は単純拡大[横]を用いた検索)

 c) 読み上げ課題

 指定した箇所を音読する課題を実施し、読書効率(スピードと誤読)を評価した(図8.11)。

図8.11 読み上げ課題の様子(写真はレイアウト拡大を用いた読み上げ)
生徒が教科書を手に持って、該当箇所を読み上げている様子を写した写真

図8.11 読み上げ課題の様子(写真はレイアウト拡大を用いた読み上げ)

 d) 書き写し課題

 国語科と数学科においては指定した箇所をノートに書き写す課題を実施し、書写効率(スピードと書き誤り)を評価した。国語科においては文章の書き写し、数学科においては数式の書き写しを行った(図8.12)。

図8.12 書き写し課題の様子(写真は単純拡大[縦]を用いた書き写し)
生徒が教科書の該当箇所を書き写している様子を写した写真

図8.12 書き写し課題の様子(写真は単純拡大[縦]を用いた書き写し)

 e) 脚注検索課題

 脚注を探して読み上げる課題を実施し、検索効率を評価した。なお、本課題は、社会科のみで実施した。

 f) 最も使いやすいと思う教科書の選択課題

 模擬授業課題実施後に、試作したすべての教科書(模擬授業で使用しなかった教科書も含めて)について、「好き」、「嫌い」、「どちらでもない」のいずれかを判断する課題を実施した。また、最も好きな教科書を1種類選び、選択理由を質問した。

   


8.3 結果

 フィールド調査には、21校114名の弱視生徒の協力を得た。以下、主な結果を記す。

(1)視力評価

 a) 標準視力検査

 logMAR視力検査表を用いて評価した小数視力(logMAR視力検査表では視力をlogMARで表現するが、ここでは小数視力で記した)の分布を図8.13に示した。この分布は、全国の盲学校を対象に実施したアンケート調査の分布とほぼ一致しており、本研究の対象者のサンプリングが適切だったことを示していると考えられる。
 弱視生徒がアンケート調査で自己申告された視力と検査で測定した視力の関係を図8.14に示した。図より自己申告された視力と検査データは必ずしも一致しておらず、実測値よりも視力をやや高めに報告している生徒が多いことがわかった。

図8.13 標準視力検査の分布
0.02未満が6人、0.02から0.04以下は15人、0.04から0.07以下は29人、0.07から0.1以下は7人、0.1から0.3以下は48人、0.3以上は9人。

図8.13 標準視力検査の分布

図8.14 自己申告された視力と実測した視力の関係
横軸が自己申告された視力、縦軸が実測した視力の、散布図。自己申告された視力と検査データは必ずしも一致しておらず、実測値よりも視力をやや高めに報告している生徒が多い。

図8.14 自己申告された視力と実測した視力の関係

 b) 最小可読視標

 最大視認力測定の手続きに従い、視距離を自由にして測定した最小可読視標の分布を図8.15に、その際の視距離の分布を図8.16に示した。接近すれば0.6以上の視標を視認可能な生徒が約19%、0.3〜0.6が約38%、0.1〜0.3が約31%であることがわかった。小林(1999)によれば、最大視認力が0.8以上あれば10ポイント程度の文字が視認可能だと考えられるため、拡大補助具や拡大教科書は必要ないと考えられる。しかし、このような生徒は全体の1割弱と少なかった。つまり、本実験の参加者は、何らかの拡大が必要な生徒であると考えられる。

図8.15 最小可読視標の分布
0.02未満が0人、0.02から0.04以下は2人、0.04から0.07以下は9人、0.07から0.1以下は3人、0.1から0.3以下は35人、0.3から0.6以上は43人、0.6から0.8は12人、0.8以上は9人。

図8.15 最小可読視標の分布

図8.16 視距離の分布
0から13cmが13人、3から6cmが35人、6から9cmが37人、9から12cmが12人、12から15cmが7人、15cm以上が9人。

図8.16 視距離の分布

図8.17 換算視力の分布
0.02未満が7人、0.02から0.04以下は15人、0.04から0.07以下は28人、0.07から0.1以下は7人、0.1から0.3以下は48人、0.3以上は9人。

図8.17 換算視力の分布

(2)模擬授業による好みとパフォーマンスの評価

 a) 好みの教科書選択課題

 拡大方式ごとに選択された好みの教科書を表8.2に示す(国語の単純拡大(横)については、1種類しかなかったため、選択課題は実施していない)。レイアウト拡大では小さな18ポイントA5サイズが、単純拡大(縦)ではA4サイズが選択されていることがわかる。また、単純拡大(横;楽譜綴じ)では、判サイズの割に文字サイズを大きくできるためか、比較的小さな判サイズが選択されていた。

表8.2 選択された好みの教科書

拡大方式
ID
国語
数学
社会
判・文字サイズ
人数
判・文字サイズ
人数
判・文字サイズ
人数
レイアウト
1
18pt_A5
37
18pt_A5
38
18pt_A5
44
2
22pt_B5
25
22pt_B5
21
22pt_B5
21
3
26pt_A4
10
26pt_A4
12
26pt_A4
6
単純拡大
(縦)
4
12pt_B5
22
10pt_A5
9
10pt_B5
18
5
14pt_A4
31
12pt_B5
17
11pt_A4
29
6
17pt_B4
10
14pt_A4
30
14pt_B4
14
7
19pt_A3
9
17pt_B4
15
16pt_A3
10
単純拡大
(横:楽譜)
8
 
 
14pt_A5
22
11pt_A5
13
9
 
 
17pt_B5
23
14pt_B5
23
10
 
 
20pt_A4
20
16pt_A4
24
11
 
 
24pt_B4
6
20pt_B4
11

 b) ページ検索課題

 表8.3にページ検索速度の分布を示した。平均検索時間を比較すると、国語ではレイアウト拡大が10.00秒、単純(縦)が12.56秒、単純(横)が25.97秒、数学ではレイアウト拡大が9.35秒、単純(縦)が11.37秒、単純(横)が18.49秒、社会ではレイアウト拡大が12.60秒、単純(縦)が8.64秒、単純(横)が19.06秒であった。 国語と数学においてはレイアウト拡大、単純(縦)、単純(横)という順で、社会においては、単純(縦),レイアウト、単純(横)という順でページ探索のパフォーマンスが良いことがわかった(図8.18〜8.26)。

表8.3 各教科のページ検索時間

所要時間
(秒)
国語
数学
社会
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
0〜5
12
8
0
12
11
4
6
14
0
5〜10
38
24
7
37
34
19
31
37
14
10〜15
10
28
16
15
13
19
15
13
17
15〜20
6
4
11
5
5
9
10
5
13
20〜25
4
2
10
1
3
5
4
1
12
25〜30
0
1
11
0
1
4
3
1
9
30〜35
0
2
3
0
0
4
0
0
2
35〜40
0
2
1
0
1
2
1
0
2
40〜45
2
0
1
0
2
1
0
0
0
45〜50
0
0
5
1
0
0
0
0
0
50〜55
0
0
1
0
0
1
0
0
0
55〜60
0
0
0
0
0
0
0
0
0
Timeover
0
1
6
0
1
3
1
0
2

図8.18 国語・レイアウト拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.18 国語・レイアウト拡大のページ検索時間の分布

図8.19 国語・縦置き横開き単純拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.19 国語・縦置き横開き単純拡大のページ検索時間の分布

図8.20 国語・横置き縦開き単純拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.20 国語・横置き縦開き単純拡大のページ検索時間の分布

図8.21 数学・レイアウト拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.21 数学・レイアウト拡大のページ検索時間の分布

図8.21 数学・レイアウト拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.22 数学・縦置き横開き単純拡大のページ検索時間の分布

図8.23 数学・横置き縦開き単純拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.23 数学・横置き縦開き単純拡大のページ検索時間の分布

図8.24 社会・レイアウト拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.24 社会・レイアウト拡大のページ検索時間の分布

図8.25 社会・縦置き横開き単純拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.25 社会・縦置き横開き単純拡大のページ検索時間の分布

図8.26 社会・横置き縦開き単純拡大のページ検索時間の分布
表8.3 各教科のページ検索時間を棒グラフにしたもの

図8.26 社会・横置き縦開き単純拡大のページ検索時間の分布

 c) 音読課題

 表8.4に教科書の読書(音読)速度の分布を示した。国語および社会はレイアウト拡大、数学は単純(横)において、読書速度が比較的速いことが明らかとなった。また、図8.27から図8.29にMNREAD-Jで求めた最大読書速度と教科書の読書速度(最も速かったもの)の関係を示した。図よりMNREAD-Jでの評価結果との相関が高いことがわかった。また、MNREAD-Jで得られた最大読書速度よりも速い速度で教科書が読めていることがわかった。これMNREAD-Jと比べ、教科書では文章の文脈が利用できるためであると考えられる。なお、レイアウト拡大を利用し、視距離を自由に調整しても読書速度が100文字/分未満の生徒が1割程度いることが明らかになった。

表8.4 各教科の音読速度の人数分布

読書速度
(文字/分)
国語
数学
社会
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
0〜50
1
1
2
1
1
2
0
1
3
50〜100
7
11
18
9
8
6
9
12
12
100〜150
13
10
11
10
12
14
14
19
12
150〜200
10
17
11
16
16
17
15
12
19
200〜250
17
11
9
17
19
14
20
13
10
250〜300
14
13
13
11
10
8
8
7
10
300〜350
5
6
6
5
3
7
5
7
4
350〜400
5
3
1
2
2
1
0
0
0
400〜450
0
0
1
0
0
2
0
0
1

図8.27 最大読書速度と読み上げ課題の関係(国語)
表8.4 各教科の音読速度の人数分布を、横軸がMNREADの最大読書速度、縦軸が教科書の最大読書速度の散布図にしたもの

図8.27 最大読書速度と読み上げ課題の関係(国語)

図8.28 最大読書速度と読み上げ課題の関係(数学)
表8.4 各教科の音読速度の人数分布を、横軸がMNREADの最大読書速度、縦軸が教科書の最大読書速度の散布図にしたもの

図8.28 最大読書速度と読み上げ課題の関係(数学)

図8.29 最大読書速度と読み上げ課題の関係(社会)
表8.4 各教科の音読速度の人数分布を、横軸がMNREADの最大読書速度、縦軸が教科書の最大読書速度の散布図にしたもの

図8.29 最大読書速度と読み上げ課題の関係(社会)

 d) 書き写し課題

 表8.5に書き写し課題の速度分布を示した。国語と数学の両科目においてレイアウト拡大での書き写し速度が速いことが明らかとなった。

表8.5 書字スピードの人数分布

読書速度
(文字/分)
国語
数学
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
0〜10
5
2
5
2
3
1
10〜20
14
24
20
6
7
10
20〜30
30
25
27
14
21
18
30〜40
16
16
19
19
15
10
40〜50
7
5
1
9
15
16
50〜60
0
0
0
10
6
11
60〜70
0
0
0
7
3
2
70〜80
0
0
0
3
0
3
80〜90
0
0
0
1
1
0

 e) 脚注検索課題

 図8.30から図8.32、表8.6に脚注検索課題の速度分布を示した。単純拡大(縦)において、比較的早く脚注を探索することができることが明らかとなった。

図8.30 脚注検索スピードの分布(レイアウト拡大)
探索時間が0から5秒が18人、5から13秒が13人、10から15秒が11人、15から20秒が9人、20から25秒が0人、25から30秒が7人、30から35秒が3人、35から40秒が0人、40から45秒が2人、45から55秒が0人、55から60秒が2人、タイムオーバーが6人。

図8.30 脚注検索スピードの分布(レイアウト拡大)

図8.31 脚注検索スピードの分布(単純拡大【縦】)
探索時間が0から5秒が23人、5から13秒が24人、10から15秒が5人、15から20秒が6人、20から25秒が3人、25から30秒が4人、30から35秒が0人、35から40秒が2人、40から45秒が2人、45から50秒が1人、50から55秒が0人、55から60秒が1人、タイムオーバーが0人。

図8.31 脚注検索スピードの分布(単純拡大【縦】)

図8.32 脚注検索スピードの分布(単純拡大【横:楽譜綴じ】)
探索時間が0から5秒が24人、5から13秒が18人、10から15秒が8人、15から20秒が6人、20から25秒が2人、25から30秒が0人、30から35秒が4人、35から40秒が2人、40から45秒が0人、45から50秒が1人、50から55秒が1人、55から60秒が1人、タイムオーバーが4人。

図8.32 脚注検索スピードの分布(単純拡大【横:楽譜綴じ】)

表8.6 脚注検索スピードの分布

所要時間
(秒)
社会
レイアウト
単純(縦)
単純(横)
0〜5
18
23
24
5〜10
13
24
18
10〜15
11
5
8
15〜20
9
6
6
20〜25
0
3
2
25〜30
7
4
0
30〜35
3
0
4
35〜40
0
2
2
40〜45
2
2
0
45〜50
0
1
1
50〜55
0
0
1
55〜60
2
1
1
Timeover
6
0
4

 f) 最も使いやすいと思う教科書の選択課題

 表8.7にすべての拡大教科書の中でナンバー1として選ばれた教科書の分布を示した。また、表8.8〜8.10と図8.33〜8.35に視力と拡大教科書の好みの関係を示した。レイアウト拡大は様々な視力層が好んでいるが、単純拡大は比較的視力の高い生徒が選んでいる傾向があることがわかった。

表8.7 ナンバー1(好み)に選択された教科書

拡大方式
ID
国語
数学
社会
判・文字サイズ
(人数)
判・文字サイズ
(人数)
判・文字サイズ
(人数)
レイアウト
1
18pt_A5
25
18pt_A5
28
18pt_A5
17
2
22pt_B5
20
22pt_B5
18
22pt_B5
21
3
26pt_A4
6
26pt_A4
7
26pt_A4
4
単純拡大
(縦)
4
12pt_B5
(オリジナル)
12
10pt_A5
(オリジナル)
5
10pt_B5
(オリジナル)
9
5
14pt_A4
7
12pt_B5
7
11pt_A4
11
6
17pt_B4
1
14pt_A4
3
14pt_B4
1
7
19pt_A3
0
17pt_B4
2
16pt_A3
0
単純拡大
(横:楽譜)
8
17pt_B5
1
14pt_A5
0
11pt_A5
2
9
 
 
17pt_B5
1
14pt_B5
2
10
 
 
20pt_A4
0
16pt_A4
3
11
 
 
24pt_B4
0
20pt_B4
1

表8.8 選択された教科書と視力の関係(国語)

視力
レイアウト
単純拡大(縦)
単純拡大(横:楽譜)
18pt_A5
22pt_B5
26pt_A4
12pt_B5
(オリジナル)
14pt_A4
17pt_B4
19pt_A3
17pt_B5
0.02未満
2
0
1
0
0
0
0
0
0.02〜0.04
4
5
2
0
0
0
0
0
0.04〜0.07
4
6
1
4
1
0
0
0
0.07〜0.1
3
2
0
0
0
0
0
0
0.1〜0.3
11
7
1
8
4
1
0
0
0.3以上
1
0
1
0
2
0
0
1
25
20
6
12
7
1
0
1

図8.33 選択された教科書と視力の関係(国語)
表8.8 選択された教科書と視力の関係(国語)をグラフ化した図

図8.33 選択された教科書と視力の関係(国語)

表8.9 選択された教科書と視力の関係(数学)

視力
レイアウト
単純拡大(縦)
単純拡大(横:楽譜)
18pt_A5
22pt_B5
26pt_A4
10pt_A5
(オリジナル)
12pt_B5
14pt_A4
17pt_B4
14pt_A5
17pt_B5
20pt_A4
24pt_B4
0.02未満
0
1
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0.02〜0.04
6
4
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0.04〜0.07
8
6
2
2
0
0
0
0
0
0
0
0.07〜0.1
3
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0.1〜0.3
10
6
2
3
6
2
2
0
0
0
0
0.3以上
1
1
1
0
1
1
0
0
0
0
0
28
18
7
5
7
3
2
0
1
0
0

図8.34 選択された教科書と視力の関係(数学)
表8.9 選択された教科書と視力の関係(数学)をグラフ化した図

図8.34 選択された教科書と視力の関係(数学)

表8.10 選択された教科書と視力の関係(社会)

視力
レイアウト
単純拡大(縦)
単純拡大(横:楽譜)
18pt_A5
22pt_B5
26pt_A4
10pt_B5
(オリジナル)
11pt_A4
14pt_B4
16pt_A3
11pt_A5
14pt_B5
16pt_A4
20pt_B4
0.02未満
1
1
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0.02〜0.04
6
3
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0.04〜0.07
2
7
1
2
2
0
0
0
1
0
0
0.07〜0.1
2
2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0.1〜0.3
5
8
2
6
8
1
0
1
0
3
0
0.3以上
1
0
0
0
1
0
0
1
1
0
1
17
21
4
9
11
1
0
2
2
3
1

図8.35 選択された教科書と視力の関係(社会)
表8.10 選択された教科書と視力の関係(社会)をグラフ化した図

図8.35 選択された教科書と視力の関係(社会)

 g) 好みとパフォーマンスの比較

 表8.11〜8.19に好み(最も好んだ教科書)とパフォーマンス(最も効率が高かった教科書)の関係を示した。好みとパフォーマンスが一致していたケースは、国語の場合、ページ検索課題で61%、読書課題で56%、書字課題で42%、数学の場合、ページ検索課題で54%、読書課題で28%、書字課題で34%、社会の場合、ページ検索課題で56%、読書課題で42%、脚注検索課題で37%であり、いずれも一致度が高くないことがわかった。好みではレイアウト変更方式の拡大教科書が選択されているのに対して、パフォーマンスでは、課題(ページ検索課題、読書課題、書字課題、脚注探索課題)にかかわらず、単純拡大方式の拡大教科書の方が効率のよいケースが多いことがわかった。この結果から、拡大教科書を好みだけで選択すると、読み書き等の効率が高くないタイプを選ぶ可能性があることが示唆された。

表8.11 国語拡大教科書のページ検索課題における好みとパフォーマンスの関係

 
ページ検索効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
33
16
2
51
単純拡大
9
11
0
20
0
1
0
1
42
28
2
72

表8.12 国語拡大教科書の読書課題における好みとパフォーマンスの関係

 
読書効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
31
15
5
51
単純拡大
5
9
6
20
0
1
0
1
36
25
11
72

表8.13 国語拡大教科書の書字課題における好みとパフォーマンスの関係

 
書字効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
25
16
10
51
単純拡大
8
5
7
20
0
1
0
1
33
22
17
72

表8.14 数学拡大教科書のページ検索課題における好みとパフォーマンスの関係

 
ページ検索効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
27
19
7
53
単純拡大
6
11
0
17
1
0
0
1
34
30
7
71

表8.15 数学拡大教科書の読書課題における好みとパフォーマンスの関係

 
読書効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
16
18
19
53
単純拡大
6
4
7
17
1
0
0
1
23
22
26
71

表8.16 数学拡大教科書の書字課題における好みとパフォーマンスの関係

 
書字効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
22
18
13
53
単純拡大
8
1
8
17
0
0
1
1
30
19
22
71

表8.17 社会拡大教科書のページ検索課題における好みとパフォーマンスの関係

 
ページ検索効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
17
24
1
42
単純拡大
8
13
0
21
2
6
0
8
27
43
1
71

表8.18 社会拡大教科書の読書課題における好みとパフォーマンスの関係

 
読書効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
19
8
15
42
単純拡大
5
8
8
21
4
1
3
8
28
17
26
71

表8.19 社会拡大教科書の脚注検索課題における好みとパフォーマンスの関係

 
脚注検索効率
レイアウト
単純拡大
好み
レイアウト
12
19
11
42
単純拡大
3
8
10
21
0
2
6
8
15
29
27
71

   


8.4 考察

 フィールド調査は、拡大教科書をどのように選択すればよいかに関する指針を得るために、視機能、読書効率、拡大教科書の操作効率等を多角的な観点から、一定の手順で実測した。まず、サンプリングが適切であるかどうかを判断するために、実験に参加した21校114名の弱視生徒の視力分布を全国の盲学校を対象に実施したアンケート調査と比較した。その結果、視力分布はほぼ一致しており、本研究の対象者のサンプリングが適切だったことがわかった。

 前述した盲学校の教員に対する調査の結果、拡大教科書選択において最も重視されている視機能は視力であることがわかっている。しかし、本実験の結果、自己申告された視力と検査データは必ずしも一致しておらず、実測値よりも視力をやや高めに報告している生徒が多いことがわかった。したがって、拡大教科書選択においては、視力を実測することが必要であることがわかった。また、弱視生徒が自分自身の視力を正確に理解できるように、フィードバックが必要であることがわかった。

 現在、拡大教科書の選択は、弱視生徒の好みに基づいて決定されている場合が多い。弱視生徒が好む拡大教科書が果たして読書効率や操作性の観点から適しているかどうかを検討するため、好みとパフォーマンスの比較を実施した。その結果、好みとパフォーマンスが一致していたケースは、どの教科、どの課題においても50%程度で、好みと効率の一致度は必ずしも高くないことがわかった。好みではレイアウト変更方式の拡大教科書が選択されているのに対して、パフォーマンスでは、課題(ページ検索課題、読書課題、書字課題、脚注探索課題)にかかわらず、単純拡大方式の拡大教科書の方が効率のよいケースが多いことがわかった。これらの結果から、拡大教科書を好みだけで選択すると、読み書き等の効率が高くないタイプを選ぶ可能性があることが示唆された。つまり、拡大教科書の選定の際には、好みを大切にしつつも、読書効率等のパフォーマンスを評価し、その結果を弱視生徒にフィードバックし、総合的な観点から決定する必要があると考えられる。


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