第5章 拡大教科書等に関する盲学校教員に対する意識調査
(2009年度実施)

中野 泰志・山本 亮・新井 哲也・大島 研介・草野 勉・勝野 有美・木村 理恵


5.1 目的

 拡大教科書の紹介や選定、また、授業の中での活用に関しては、教員が重要な役割を果たす。そこで、盲学校教員が拡大教科書に対してどのような意識を持っているかを郵送方式のアンケートで調査した。


5.2 方法

 盲学校に在籍している教員が拡大教科書や拡大補助具に関してどのような意識をもっているかに関して、郵送方式によるアンケート調査を実施した。調査対象者は、盲学校の小・中・高等部で児童生徒の教科指導に直接にかかわっているすべての教諭(理療科担当教諭は除く)であった。全国の盲学校68校に調査票を発送した。なお、調査用紙を巻末資料に示した。


5.3 結果

5.3.1 回収率

 調査票を発送した68校すべてから返送があり(回収率:100%)、1,312件の有効回答が得られた。


5.3.2 回答者のプロフィール

(1) 所属学部

 所属学部は、小学部が376人、中学部が384人、高等部が543人、その他が36人であった(図5.1)。

図5.1 現在の所属(学部)
商学部が376人、中学部が384人、高等部が543人、その他が36人

図5.1 現在の所属(学部)

(2) 教職経験

 以下に、教職経験、盲学校、弱視学級での指導経験を学部別に示す。教職経験は20〜30年が484人、10〜20年が296人で多く、比較的教育経験が豊富なケースが多いことがわかった(表5.1、図5.2)。しかし、盲学校や弱視学級での視覚障害教育の経験年数は少なく5年未満というケースが多かった(表5.2、表5.3、図5.3、図5.4)。

表5.1 教職経験

教職経験
5年未満
5〜10年
10〜20年
20〜30年
30年以上
小学部
49
41
90
131
54
中学部
58
41
81
150
43
高等部
56
47
118
199
89
その他
1
4
7
4
6
164
133
296
484
192

図5.2 教員経験
表5.1 教職経験を棒グラフにしたもの

図5.2 教員経験

表5.2 盲学校での指導経験

盲学校経験
5年未満
5〜10年
10〜20年
20〜30年
30年以上
小学部
154
102
76
20
3
中学部
180
109
55
11
5
高等部
230
157
79
29
9
その他
6
6
7
3
0
570
374
217
63
17

図5.3 盲学校での指導経験
表5.2 盲学校での指導経験を棒グラフにしたもの

図5.3 盲学校での指導経験

表5.3 弱視学級での指導経験

弱視学級経験
5年未満
5〜10年
10〜20年
20〜30年
30年以上
小学部
44
4
1
0
0
中学部
38
2
1
0
0
高等部
62
6
3
0
0
その他
5
0
0
0
0
149
12
5
0
0

図5.4 弱視学級での指導経験
表5.3 弱視学級での指導経験を棒グラフにしたもの

図5.4 弱視学級での指導経験

(3) 盲学校(特別支援学校(視覚障害))教員免許状

 盲学校教員免許を有している教員が581人であったのに対して、免許を有していない教員は719人で、免許を有していない教員の方が多かった。学部別に見ると、小学部、中学部では、免許を有している教員の方が多いのに対して、高等部では免許を有していない教員の方が多いという結果になっていた(表5.4、図5.5)。

表5.4 盲学校教員免許状の有無(無回答12件)

 
あり
なし
小学部
184
191
375
中学部
177
200
377
高等部
204
321
525
その他
16
7
23
581
719
1300

図5.5 盲学校(特別支援学校(視覚障害))教員免許状
表5.4 盲学校教員免許状の有無(無回答12件)を棒グラフにしたもの

図5.5 盲学校(特別支援学校(視覚障害))教員免許状

(4) 視覚障害の有無

 盲が14人、弱視が39名で、残りの1251人は視覚に障害のない教員であった(表5.5、図5.6)。

表5.5 視覚障害の有無

 
弱視
なし
小学部
0
8
367
中学部
5
13
362
高等部
9
18
499
その他
0
0
23
14
39
1251

図5.6 視覚障害の有無
表5.5 視覚障害の有無を棒グラフにしたもの

図5.6 視覚障害の有無


5.3.3 教科指導で拡大教科書を使用した経験等

(1) 拡大教科書を使った教科指導の経験(高等部においては、本年度途中に文部科学省から送付した単純拡大教科書も含む)

 拡大教科書を使って教科指導を行った経験のある教員が811人であったのに対して、指導経験のない教員が492人であった(表5.6、図5.7)。半数以上(62%)の教員が拡大教科書を使って教科指導を実施した経験があることがわかった。拡大教科書を使った指導経験がない教員も少なくないが、これは、重複障害児・者の割合が増えていることの反映だと考えられる。

表5.6 拡大教科書を使った教科指導経験の有無

 
あり
なし
小学部
200
175
中学部
284
97
高等部
315
208
その他
12
12
811
492

図5.7 拡大教科書を使った教科指導の経験
表5.6 拡大教科書を使った教科指導経験の有無を棒グラフにしたもの

図5.7 拡大教科書を使った教科指導の経験

(2) これまでの指導で活用した拡大補助具

 拡大読書器が870件と最も多く、ルーペ809件、単眼鏡653件、PC494件であった(表5.7、図5.8)。

表5.7 拡大補助具の指導経験

 
ルーペ
単眼鏡
拡大読書器
PC
その他
小学部
195
186
214
121
10
中学部
241
189
252
159
14
高等部
355
260
386
205
29
その他
18
18
18
9
0
809
653
870
494
53

図5.8 拡大補助具の指導経験
表5.7 拡大補助具の指導経験を棒グラフにしたもの

図5.8 拡大補助具の指導経験

(3) 拡大教科書や補助具等を決める際に実施している評価

 視力が862件と最も多く、視野650件、最大視認力525件で、国際的な読書評価チャートであるMNREADを活用しているケースは227件と多くなかった(表5.8、図5.9)。

表5.8 拡大教科書や補助具等を決める際に実施している評価

 
視力
視野
最大視認力
MNREAD
その他
小学部
237
168
188
94
38
中学部
262
192
162
67
44
高等部
344
274
161
57
60
その他
19
16
14
9
5
862
650
525
227
147

図5.9 拡大教科書や補助具等を決める際に実施している評価
表5.8 拡大教科書や補助具等を決める際に実施している評価を棒グラフにしたもの

図5.9 拡大教科書や補助具等を決める際に実施している評価


5.3.4 拡大教科書に関しての意識等
(通常の教科書では十分な読書速度が得られない児童生徒に教科指導をすることを想定した回答)

(1) すべての教科・学年の拡大教科書が出版されるべきだと思いますか?

 すべての教科・学年で拡大教科書が必要だとする回答は702件と最も多かったが、教員全体の半数程度(53.1%)に留まっていた。残りの541件の内訳は、「教科学年によっては必要」が391件、「補助具等があれば拡大教科書は必要ない」が65件、「その他」が85件であった(表5.9、図5.10)。クロス集計の結果、この傾向は、盲学校免許の有無によって異なるわけではないことがわかった。なお、その他では、生徒の実態に合わせて選択すべきだという意見が多かった(表5.10)。

表5.9 すべての教科・学年の拡大教科書が出版されるべきか?

 
すべて必要
教科学年による
補助具があればよい
その他
小学部
210
114
7
13
中学部
217
114
15
15
高等部
263
155
41
55
その他
12
8
2
2
702
391
65
85

表5.10 盲学校免許の有無と拡大教科書に対する意見のクロス集計

 
すべて必要
教科学年による
補助具があればよい
その他
無回答
免許有り
292
196
28
44
21
581
免許無し
410
195
37
41
48
731
702
391
65
85
69
1312

図5.10 すべての教科・学年の拡大教科書が出版されるべきか?
表5.9 すべての教科・学年の拡大教科書が出版されるべきか?を棒グラフにしたもの

図5.10 すべての教科・学年の拡大教科書が出版されるべきか?

(2) 拡大教科書の必要性や文字サイズ等を決定する際に重視する基準(2つのみ選択)

 拡大教科書が必要かどうかを判断したり、拡大教科書の文字サイズ等を決定したりする際に重視する要因としては、「視力や視野」が774件と最も多く、「読書効率」が561件、「最小可読文字」が388件、「児童生徒の要望」が385件、「学年や年齢」が126件、「視距離」が58件であった(表5.11、図5.11)。実際に実施している評価では読書効率を測定しているケースは少なかったが、重要な要因として認識されていることがわかった。

表5.11 拡大教科書の必要性や文字サイズ等を決定する際に重視する基準

 
学年や年齢
視力や視野
最小可読文字
視距離
読書効率
児童生徒の
希望
その他
小学部
52
197
140
26
186
64
9
中学部
28
228
97
21
164
130
4
高等部
38
338
142
11
200
186
8
その他
8
11
9
0
11
5
0
126
774
388
58
561
385
21

図5.11 拡大教科書の必要性や文字サイズ等を決定する際に重視する基準
表5.11 拡大教科書の必要性や文字サイズ等を決定する際に重視する基準を棒グラフにしたもの

図5.11 拡大教科書の必要性や文字サイズ等を決定する際に重視する基準

(3) 拡大教科書の質として最も求められる要因(2つのみ選択)

 拡大教科書の質として最も求められる要因は、「文字の大きさや見やすさ」が1050件と多く、続いて「わかりやすく変更したレイアウト」が893件、「持ち運びやすさ」が190件、「原本と同じレイアウト」が121件であった(表5.12、図5.12)。

表5.12 拡大教科書の質として最も求められるもの

 
レイアウト変更
文字サイズ等
原典教科書
可搬性
その他
小学部
265
304
28
45
7
中学部
276
310
38
39
14
高等部
334
417
53
101
14
その他
18
19
2
5
1
893
1050
121
190
36

図5.12 拡大教科書の質として最も求められるもの
表5.12 拡大教科書の質として最も求められるものを棒グラフにしたもの。この質問項目は2つ選択する。

図5.12 拡大教科書の質として最も求められるもの

(4) 拡大教科書としてあらかじめ用意しておくべき文字サイズ・判サイズ(複数回答可)

 「26ポイントA4」が528件、「22ポイントB5」が485件と多かったが、「18ポイントA5」が244件、「14ポイントA4」が218件と比較的ばらついていた(表5.13、図5.13)。なお、複数選択が可能であったにもかかわらず、1つだけしか選択しなかったケースが660件、2つが347件、3つが48件、4つが22件、5つが5件で、複数の文字サイズ・判サイズを要求する意見は多くないことがわかった。高等部のデータ(26ポイントがピーク)と生徒対象に行ったニーズ調査のデータ(18ポイントがピーク)を比較すると教員の方が大きな文字サイズ・判サイズが必要だと判断していることがわかる。

表5.13 拡大教科書としてあらかじめ用意しておくべき文字サイズ・判サイズ

 
14ポイントA4
18ポイントA5
22ポイントB5
26ポイントA4
その他
小学部
52
61
141
171
44
中学部
53
74
163
169
41
高等部
108
107
174
178
78
その他
5
2
7
10
3
218
244
485
528
166

図5.13 拡大教科書としてあらかじめ用意しておくべき文字サイズ・判サイズ
表5.13 拡大教科書としてあらかじめ用意しておくべき文字サイズ・判サイズを棒グラフにしたもの。この項目は複数回答可。

図5.13 拡大教科書としてあらかじめ用意しておくべき文字サイズ・判サイズ

(5) 拡大教科書にはゴシック体の文字が用いられていますが、適切だと思いますか?

 ゴシック体がよいと回答したケースが871件と最も多く、「ゴシック体は適切だと思わない」が159件、「どちらでもよい」が152件であった(表5.14、図5.14)。ゴシック体は適切だと思わないと回答したケースでは、文字の形を覚える際には、太い教科書体が適切だとする意見が多かった。

表5.14 拡大教科書に用いられているゴシック体は適切か?

 
思う
思わない
どちらでもよい
小学部
204
61
48
中学部
273
37
42
高等部
379
58
59
その他
15
3
3
871
159
152

図5.14 拡大教科書に用いられているゴシック体は適切か?
表5.14 拡大教科書に用いられているゴシック体は適切か?を棒グラフにしたもの

図5.14 拡大教科書に用いられているゴシック体は適切か?

(6) 拡大教科書と視覚補助具との使い分けについて(1つのみ選択)

 「低年齢のときには拡大教科書を使い、徐々に補助具に切り替えたほうがいい」という回答が614件と最も多く、「その他」が299件、「年齢や発達段階にかかわらず拡大教科書を使ったほうがいい」が169件、「年齢や発達段階にかかわらず視覚補助具を活用したほうがいい」が99件であった。「その他」には、学年や児童生徒の実態に応じて、使い分けをすべきだという提案が多かった(表5.15、図5.15)。

表5.15 拡大教科書と視覚補助具との使い分けについて

 
必ず拡大教科書
必ず視覚補助具
徐々に補助具に移行
その他
小学部
30
19
182
97
中学部
61
25
186
73
高等部
77
53
235
121
その他
1
2
11
8
169
99
614
299

図5.15 拡大教科書と視覚補助具との使い分けについて
表5.15 拡大教科書と視覚補助具との使い分けについてを棒グラフにしたもの

図5.15 拡大教科書と視覚補助具との使い分けについて


5.4 まとめ

 「すべての教科・学年で拡大教科書が必要」だとする回答は1312件中702件(53.1%)で、拡大教科書の必要性を感じている教員が多いことがわかった。しかし、「年齢や発達段階にかかわらず拡大教科書を使ったほうがいい」という意見は169件に留まっていた。また、「低年齢のときには拡大教科書を使い、徐々に補助具に切り替えたほうがいい」という回答が614件(47.0%)あり、拡大教科書と拡大補助具を児童・生徒の障害の特性や発達段階に合わせて使い分ける必要性が指摘された。つまり、拡大教科書はすべての教科・学年で用意すべきであるが、拡大教科書を使って指導するかどうは児童・生徒の実態に応じて行う必要性があると理解できる。

 ところが、拡大教科書や拡大補助具を個々の児童・生徒にどのような基準で選択させるかについては、評価の実態と理想の間でズレが見られた。例えば、視力や視野だけでなく読書効率の評価が必要だと考えている教員が多いにもかかわらず、実際に読書効率の評価経験のある教員の数は少ないというズレである。また、拡大教科書や拡大補助具の評価に関する研究(歓喜ら,1989;中野,1997)では、読書チャートによる評価が有効であることが指摘されているが、盲学校では必ずしも実施されていない。これら評価方法やその普及・啓発に関しては、今後、さらなる調査・研究・実践が必要だと考えられる。


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