拡大教科書の紹介や選定、また、授業の中での活用に関しては、教員が重要な役割を果たす。そこで、盲学校教員が拡大教科書に対してどのような意識を持っているかを郵送方式のアンケートで調査した。
盲学校に在籍している教員が拡大教科書や拡大補助具に関してどのような意識をもっているかに関して、郵送方式によるアンケート調査を実施した。調査対象者は、盲学校の小・中・高等部で児童生徒の教科指導に直接にかかわっているすべての教諭(理療科担当教諭は除く)であった。全国の盲学校68校に調査票を発送した。なお、調査用紙を巻末資料に示した。
調査票を発送した68校すべてから返送があり(回収率:100%)、1,312件の有効回答が得られた。
所属学部は、小学部が376人、中学部が384人、高等部が543人、その他が36人であった(図5.1)。
以下に、教職経験、盲学校、弱視学級での指導経験を学部別に示す。教職経験は20〜30年が484人、10〜20年が296人で多く、比較的教育経験が豊富なケースが多いことがわかった(表5.1、図5.2)。しかし、盲学校や弱視学級での視覚障害教育の経験年数は少なく5年未満というケースが多かった(表5.2、表5.3、図5.3、図5.4)。
教職経験
|
5年未満
|
5〜10年
|
10〜20年
|
20〜30年
|
30年以上
|
小学部
|
49
|
41
|
90
|
131
|
54
|
中学部
|
58
|
41
|
81
|
150
|
43
|
高等部
|
56
|
47
|
118
|
199
|
89
|
その他
|
1
|
4
|
7
|
4
|
6
|
計
|
164
|
133
|
296
|
484
|
192
|
盲学校経験
|
5年未満
|
5〜10年
|
10〜20年
|
20〜30年
|
30年以上
|
小学部
|
154
|
102
|
76
|
20
|
3
|
中学部
|
180
|
109
|
55
|
11
|
5
|
高等部
|
230
|
157
|
79
|
29
|
9
|
その他
|
6
|
6
|
7
|
3
|
0
|
計
|
570
|
374
|
217
|
63
|
17
|
弱視学級経験
|
5年未満
|
5〜10年
|
10〜20年
|
20〜30年
|
30年以上
|
小学部
|
44
|
4
|
1
|
0
|
0
|
中学部
|
38
|
2
|
1
|
0
|
0
|
高等部
|
62
|
6
|
3
|
0
|
0
|
その他
|
5
|
0
|
0
|
0
|
0
|
計
|
149
|
12
|
5
|
0
|
0
|
盲学校教員免許を有している教員が581人であったのに対して、免許を有していない教員は719人で、免許を有していない教員の方が多かった。学部別に見ると、小学部、中学部では、免許を有している教員の方が多いのに対して、高等部では免許を有していない教員の方が多いという結果になっていた(表5.4、図5.5)。
|
あり
|
なし
|
計
|
小学部
|
184
|
191
|
375
|
中学部
|
177
|
200
|
377
|
高等部
|
204
|
321
|
525
|
その他
|
16
|
7
|
23
|
計
|
581
|
719
|
1300
|
盲が14人、弱視が39名で、残りの1251人は視覚に障害のない教員であった(表5.5、図5.6)。
|
盲
|
弱視
|
なし
|
小学部
|
0
|
8
|
367
|
中学部
|
5
|
13
|
362
|
高等部
|
9
|
18
|
499
|
その他
|
0
|
0
|
23
|
計
|
14
|
39
|
1251
|
拡大教科書を使って教科指導を行った経験のある教員が811人であったのに対して、指導経験のない教員が492人であった(表5.6、図5.7)。半数以上(62%)の教員が拡大教科書を使って教科指導を実施した経験があることがわかった。拡大教科書を使った指導経験がない教員も少なくないが、これは、重複障害児・者の割合が増えていることの反映だと考えられる。
|
あり
|
なし
|
小学部
|
200
|
175
|
中学部
|
284
|
97
|
高等部
|
315
|
208
|
その他
|
12
|
12
|
計
|
811
|
492
|
拡大読書器が870件と最も多く、ルーペ809件、単眼鏡653件、PC494件であった(表5.7、図5.8)。
|
ルーペ
|
単眼鏡
|
拡大読書器
|
PC
|
その他
|
小学部
|
195
|
186
|
214
|
121
|
10
|
中学部
|
241
|
189
|
252
|
159
|
14
|
高等部
|
355
|
260
|
386
|
205
|
29
|
その他
|
18
|
18
|
18
|
9
|
0
|
計
|
809
|
653
|
870
|
494
|
53
|
視力が862件と最も多く、視野650件、最大視認力525件で、国際的な読書評価チャートであるMNREADを活用しているケースは227件と多くなかった(表5.8、図5.9)。
|
視力
|
視野
|
最大視認力
|
MNREAD
|
その他
|
小学部
|
237
|
168
|
188
|
94
|
38
|
中学部
|
262
|
192
|
162
|
67
|
44
|
高等部
|
344
|
274
|
161
|
57
|
60
|
その他
|
19
|
16
|
14
|
9
|
5
|
計
|
862
|
650
|
525
|
227
|
147
|
すべての教科・学年で拡大教科書が必要だとする回答は702件と最も多かったが、教員全体の半数程度(53.1%)に留まっていた。残りの541件の内訳は、「教科学年によっては必要」が391件、「補助具等があれば拡大教科書は必要ない」が65件、「その他」が85件であった(表5.9、図5.10)。クロス集計の結果、この傾向は、盲学校免許の有無によって異なるわけではないことがわかった。なお、その他では、生徒の実態に合わせて選択すべきだという意見が多かった(表5.10)。
|
すべて必要
|
教科学年による
|
補助具があればよい
|
その他
|
小学部
|
210
|
114
|
7
|
13
|
中学部
|
217
|
114
|
15
|
15
|
高等部
|
263
|
155
|
41
|
55
|
その他
|
12
|
8
|
2
|
2
|
計
|
702
|
391
|
65
|
85
|
|
すべて必要
|
教科学年による
|
補助具があればよい
|
その他
|
無回答
|
計
|
免許有り
|
292
|
196
|
28
|
44
|
21
|
581
|
免許無し
|
410
|
195
|
37
|
41
|
48
|
731
|
計
|
702
|
391
|
65
|
85
|
69
|
1312
|
拡大教科書が必要かどうかを判断したり、拡大教科書の文字サイズ等を決定したりする際に重視する要因としては、「視力や視野」が774件と最も多く、「読書効率」が561件、「最小可読文字」が388件、「児童生徒の要望」が385件、「学年や年齢」が126件、「視距離」が58件であった(表5.11、図5.11)。実際に実施している評価では読書効率を測定しているケースは少なかったが、重要な要因として認識されていることがわかった。
|
学年や年齢
|
視力や視野
|
最小可読文字
|
視距離
|
読書効率
|
児童生徒の
希望 |
その他
|
小学部
|
52
|
197
|
140
|
26
|
186
|
64
|
9
|
中学部
|
28
|
228
|
97
|
21
|
164
|
130
|
4
|
高等部
|
38
|
338
|
142
|
11
|
200
|
186
|
8
|
その他
|
8
|
11
|
9
|
0
|
11
|
5
|
0
|
計
|
126
|
774
|
388
|
58
|
561
|
385
|
21
|
拡大教科書の質として最も求められる要因は、「文字の大きさや見やすさ」が1050件と多く、続いて「わかりやすく変更したレイアウト」が893件、「持ち運びやすさ」が190件、「原本と同じレイアウト」が121件であった(表5.12、図5.12)。
|
レイアウト変更
|
文字サイズ等
|
原典教科書
|
可搬性
|
その他
|
小学部
|
265
|
304
|
28
|
45
|
7
|
中学部
|
276
|
310
|
38
|
39
|
14
|
高等部
|
334
|
417
|
53
|
101
|
14
|
その他
|
18
|
19
|
2
|
5
|
1
|
計
|
893
|
1050
|
121
|
190
|
36
|
「26ポイントA4」が528件、「22ポイントB5」が485件と多かったが、「18ポイントA5」が244件、「14ポイントA4」が218件と比較的ばらついていた(表5.13、図5.13)。なお、複数選択が可能であったにもかかわらず、1つだけしか選択しなかったケースが660件、2つが347件、3つが48件、4つが22件、5つが5件で、複数の文字サイズ・判サイズを要求する意見は多くないことがわかった。高等部のデータ(26ポイントがピーク)と生徒対象に行ったニーズ調査のデータ(18ポイントがピーク)を比較すると教員の方が大きな文字サイズ・判サイズが必要だと判断していることがわかる。
|
14ポイントA4
|
18ポイントA5
|
22ポイントB5
|
26ポイントA4
|
その他
|
小学部
|
52
|
61
|
141
|
171
|
44
|
中学部
|
53
|
74
|
163
|
169
|
41
|
高等部
|
108
|
107
|
174
|
178
|
78
|
その他
|
5
|
2
|
7
|
10
|
3
|
計
|
218
|
244
|
485
|
528
|
166
|
ゴシック体がよいと回答したケースが871件と最も多く、「ゴシック体は適切だと思わない」が159件、「どちらでもよい」が152件であった(表5.14、図5.14)。ゴシック体は適切だと思わないと回答したケースでは、文字の形を覚える際には、太い教科書体が適切だとする意見が多かった。
|
思う
|
思わない
|
どちらでもよい
|
小学部
|
204
|
61
|
48
|
中学部
|
273
|
37
|
42
|
高等部
|
379
|
58
|
59
|
その他
|
15
|
3
|
3
|
計
|
871
|
159
|
152
|
「低年齢のときには拡大教科書を使い、徐々に補助具に切り替えたほうがいい」という回答が614件と最も多く、「その他」が299件、「年齢や発達段階にかかわらず拡大教科書を使ったほうがいい」が169件、「年齢や発達段階にかかわらず視覚補助具を活用したほうがいい」が99件であった。「その他」には、学年や児童生徒の実態に応じて、使い分けをすべきだという提案が多かった(表5.15、図5.15)。
|
必ず拡大教科書
|
必ず視覚補助具
|
徐々に補助具に移行
|
その他
|
小学部
|
30
|
19
|
182
|
97
|
中学部
|
61
|
25
|
186
|
73
|
高等部
|
77
|
53
|
235
|
121
|
その他
|
1
|
2
|
11
|
8
|
計
|
169
|
99
|
614
|
299
|
「すべての教科・学年で拡大教科書が必要」だとする回答は1312件中702件(53.1%)で、拡大教科書の必要性を感じている教員が多いことがわかった。しかし、「年齢や発達段階にかかわらず拡大教科書を使ったほうがいい」という意見は169件に留まっていた。また、「低年齢のときには拡大教科書を使い、徐々に補助具に切り替えたほうがいい」という回答が614件(47.0%)あり、拡大教科書と拡大補助具を児童・生徒の障害の特性や発達段階に合わせて使い分ける必要性が指摘された。つまり、拡大教科書はすべての教科・学年で用意すべきであるが、拡大教科書を使って指導するかどうは児童・生徒の実態に応じて行う必要性があると理解できる。
ところが、拡大教科書や拡大補助具を個々の児童・生徒にどのような基準で選択させるかについては、評価の実態と理想の間でズレが見られた。例えば、視力や視野だけでなく読書効率の評価が必要だと考えている教員が多いにもかかわらず、実際に読書効率の評価経験のある教員の数は少ないというズレである。また、拡大教科書や拡大補助具の評価に関する研究(歓喜ら,1989;中野,1997)では、読書チャートによる評価が有効であることが指摘されているが、盲学校では必ずしも実施されていない。これら評価方法やその普及・啓発に関しては、今後、さらなる調査・研究・実践が必要だと考えられる。