第2章 高等学校の拡大教科書の在り方を検討するためのサンプルの試作

中野 泰志


2.1 目的

 拡大率、綴じ方、本のサイズ等によって、様々な拡大教科書が作成可能である。どのような拡大教科書が有効かを検証するためには、様々なタイプの拡大教科書を試作し、比較検討する必要がある。そこで、本研究では、どのようなタイプの拡大教科書があるかを調査し、調査結果に基づいて、基本的なタイプの拡大教科書を試作した。


2.2 方法

 これまでに教科書会社、拡大教科書製作会社、ボランティア等が製作された拡大教科書にどのような種類があるかを調査した。そして、調査で明らかになった主要な拡大教科書を、高等学校の主要教科について、試作した。


2.3 結果・考察

 教科書発行者やボランティア等への調査の結果、拡大教科書のタイプには、文字サイズ、判サイズ、製本方法、レイアウト方法、分冊、手書き/PC、紙質、インク等、様々な要素を考慮する必要があることがわかった。例えば、図2.1は、ボランティアがプライベートサービスで作成した、まぶしさを考慮して白黒反転した手書きの横置き縦開き(楽譜綴じ)方式のレイアウト変更拡大教科書である。このようなプライベートサービスの拡大教科書がある一方、高等学校段階では単純拡大コピーで作成された拡大教科書を利用しているケースもあることがわかった。

図2.1 ボランティアが作成した拡大教科書の例(2枚)
日本古謡「さくらさくら」の出だしから4小節の楽譜と歌詞が横開きの見開き表示で示されている。
国語の教科書の「漢字の形と音・意味」の横開きの見開きページを白黒反転で表示している。

図2.1 ボランティアが作成した拡大教科書の例(2枚)

図2.1 ボランティアが作成した拡大教科書の例(画像はぼやかしてあります)

 このように弱視の視覚特性を考えれば、拡大教科書も多様になり、個別対応にならざるを得なくなる。しかし、標準規格を決定するためには、拡大教科書が必要であり、なおかつ、より多くの弱視生徒のニーズに合致する要件を明らかにする必要がある。そこで、本研究では、小中学校の標準規格であるレイアウト拡大方式3種類、高等学校において活用されている単純拡大方式8種類を試作することに決定した。単純拡大教科書は、用紙サイズ4種類、綴じ方(通常製本[縦置き横開き]と綴じ代が不要な楽譜綴じ[横置き縦開き]製本)2種類の計8種類(ただし、国語のみ実用性を考慮し、縦開き[楽譜綴じ]製本を1種類とした5種類)とした(図2.2、図2.3)。教科は国語、数学、社会の3教科で、国語8種類、数学11種類、社会11種類の拡大教科書を試作した。選定した教科書は、盲学校での利用実績を考慮し、改訂版新編国語総合(第一学習社)、数学 I(東京書籍)、新版現代社会(実教出版)とした。

 試作した拡大教科書は、国語が、レイアウト拡大(A5判18pt、B5判22pt、A4判26pt)、オリジナル(B5判12pt)、単純拡大・縦置き横開き(A4判14pt、B4判17pt、A3判19pt)、単純拡大・横置き縦開き(楽譜綴じ)(B5判17pt)の8種類、数学が、レイアウト拡大(A5判18pt、B5判22pt、A4判26pt)、オリジナル(A5判10pt)、単純拡大・縦置き横開き(B5判12pt、A4判14pt、B4判17pt)、単純拡大・横置き縦開き(楽譜綴じ)(A5判14pt、B5判17pt、A4判20pt、B4判24pt)の11種類、社会がレイアウト拡大(A5判18pt、B5判22pt、A4判26pt)、オリジナル(B5判10pt)、単純拡大・縦置き横開き(A4判11pt、B4判14pt、A3判16pt)、単純拡大・横置き縦開き(楽譜綴じ)(A5判11pt、B5判14pt、A4判16pt、B4判20pt)の11種類であった(表2.1、図2.4〜2.6)。なお、試作にあたっては、操作性等も検討できるように、用紙、インク、製本等は、通常の拡大教科書と同じ方法・精度で作成した。

図2.2 試作した単純拡大方式の拡大教科書のイメージ(オリジナルがA5判の場合)
試作した単純拡大方式の拡大教科書のイメージの一覧。
上下二段に分けて表示、上段は左から「オリジナルサイズ A5 本文ポイントサイズ 10pt、9pt、7pt」「単純拡大・縦置き横開き方式:3種類 『140%拡大(A4) 本文ポイントサイズ 14pt、13pt、10pt』『171%拡大(B4) 本文ポイントサイズ 17pt、15pt、12pt』『196%拡大(A3) 本文ポイントサイズ 20pt、18pt、14pt』」。下段は左から「単純拡大・横置き縦開き方式(楽譜綴じ):4種類 『140%拡大(A5) 本文ポイントサイズ 13pt、10Pt』『171%拡大(B5) 本文ポイントサイズ 17pt、15pt、12pt』『196%拡大(A4)本文ポイントサイズ 20pt、18pt、14pt』『240%拡大(B4) 本文ポイントサイズ 24pt、22pt、17pt』」となっている。

図2.2 試作した単純拡大方式の拡大教科書のイメージ(オリジナルがA5判の場合)

図2.3 試作した単純拡大方式の拡大教科書のイメージ(オリジナルがB5判の場合)
試作した単純拡大方式の拡大教科書のイメージの一覧。
上下二段に分けて表示、上段は左から「オリジナルサイズ B5 本文ポイントサイズ 10pt」「単純拡大・縦置き横開き方式:3種類 『115%拡大(A4) 本文ポイントサイズ 11pt』『140%拡大(B4) 本文ポイントサイズ 14pt』『161%拡大(A3) 本文ポイントサイズ 16pt』」。下段は左から「単純拡大・横置き縦開き方式(楽譜綴じ):4種類 『115%拡大(A5) 本文ポイントサイズ 11pt』『140%拡大(B5) 本文ポイントサイズ 14pt』『161%拡大(A4)本文ポイントサイズ 16pt』『196%拡大(B4) 本文ポイントサイズ 20pt』」となっている。

図2.3 試作した単純拡大方式の拡大教科書のイメージ(オリジナルがB5判の場合)

表2.1 試作した教科書の判と文字のサイズ

ID
拡大方式
国語
数学
社会
文字サイズ
文字サイズ
文字サイズ
1
レイアウト
A5
18pt
A5
18pt
A5
18pt
2
レイアウト
B5
22pt
B5
22pt
B5
22pt
3
レイアウト
A4
26pt
A4
26pt
A4
26pt
4
原本教科書
B5
12pt
A5
10pt
B5
10pt
5
単純拡大(縦)
A4
14pt
B5
12pt
A4
11pt
6
単純拡大(縦)
B4
17pt
A4
14pt
B4
14pt
7
単純拡大(縦)
A3
19pt
B4
17pt
A3
16pt
8
単純拡大(横:楽譜)
B5
17pt
A5
14pt
A5
11pt
9
単純拡大(横:楽譜)
 
 
B5
17pt
B5
14pt
10
単純拡大(横:楽譜)
 
 
A4
20pt
A4
16pt
11
単純拡大(横:楽譜)
 
 
B4
24pt
B4
20pt

   

図2.4 試作したレイアウト方式拡大教科書の写真
試作したレイアウト方式拡大教科書の写真。
科目は数学で、左から版サイズ A5、B4、A4の順で並べて表紙を撮影した写真と、A5とA4の本文を比較した様子を撮影した写真。

図2.4 試作したレイアウト方式拡大教科書の写真
試作したレイアウト方式拡大教科書の写真。
科目は数学で、左から版サイズ A5、B4、A4の順で並べて表紙を撮影した写真と、A5とA4の本文を比較した様子を撮影した写真。

図2.4 試作したレイアウト方式拡大教科書の写真(画像をぼやかしてあります)

図2.5 試作した縦置き横開き単純拡大教科書の写真
試作した縦置き横開き単純拡大教科書の写真。
科目は数学で、左から版サイズ 原本教科書、B5、A4、B4の順で並べて表紙を撮影した写真と、原本教科書とB4の本文を比較した様子を撮影した写真。

図2.5 試作した縦置き横開き単純拡大教科書の写真
試作した縦置き横開き単純拡大教科書の写真。
科目は数学で、左から版サイズ 原本教科書、B5、A4、B4の順で並べて表紙を撮影した写真と、原本教科書とB4の本文を比較した様子を撮影した写真。

図2.5 試作した縦置き横開き単純拡大教科書の写真(画像をぼやかしてあります)

図2.6 試作した横置き縦開き(楽譜綴じ)方式単純拡大教科書の写真
試作した横置き縦開き(楽譜綴じ)方式単純拡大教科書の写真。
科目は数学で、左から版サイズ A5、B5、A4、B4の順で並べて表紙を撮影した写真と、A5とB4の本文を比較した様子を撮影した写真。

図2.6 試作した横置き縦開き(楽譜綴じ)方式単純拡大教科書の写真
試作した横置き縦開き(楽譜綴じ)方式単純拡大教科書の写真。
科目は数学で、左から版サイズ A5、B5、A4、B4の順で並べて表紙を撮影した写真と、A5とB4の本文を比較した様子を撮影した写真。

図2.6 試作した横置き縦開き(楽譜綴じ)方式単純拡大教科書の写真(画像をぼやかしてあります)


<目次へもどる>