平野 孔太郎「東京競馬場の多機能複合化による地域活性化」
東京競馬場は都心から40分以内でいくことができる日本最大級の競馬場であり、日本ダービーや天皇賞・秋、ジャパンカップといった重要なレースがおこなわれている。コロナ禍以前のG1開催日には10万人を超える来場者が集まっていた東京競馬場であるが、レースが開催されない平日は、門が閉ざされ、人影はなく閑散としている。府中駅前の歩行者交通量はG1レース開催時と通常時を比較すると、2倍から3倍ほどもちがいがある。東京競馬場が都心からのアクセスも良好で3つの路線から徒歩圏内の好立地であるのにも関わらず、競馬が開催されていないときは東京ドーム17個分の土地や1,200台収容できる駐車場が一切活用されていないのである。
スポーツ施設が地域活性化に寄与できることを示す先行研究は多く存在する。内藤(2019)はスポーツ施設には、スポーツ振興だけでなく、地域経済活性化などの経済的効果、あるいはコミュニティ形成などといった非経済効果があり、まちづくりの有効な手段として活用することが期待できるとしている。また、粟屋(2013)はマツダスタジアムが地域活性化の核になるためには、交通インフラの整備、他産業との連携、広島東洋カープの野球力向上が必要であると述べている。宮川他(2015)は都市近郊のスタジアムを活用した周辺地域の活性化について研究し、多目的利用の重要性と周辺地域との相乗効果の重要性を述べた。府中市中心市街地活性化協議会(2016)はアンケートによって東京競馬場でジャパンカップがおこなわれたときの周辺飲食店の来店者数や売上が増加したこと、そして今後も東京競馬場とのタイアップに肯定的な店が多いことを示した。
スポーツ施設の多機能複合化による地域活性化に関する研究も海外の先行事例を用いた研究は多い。植田(2013)は3つの海外都市成功事例を用いてスポーツによる都市再生には関連商業施設とともに都心に立地させることと市民参加、地域運営組織、財政戦略が重要であると示した。日本政策投資銀行地域企画部スマート・ベニュー研究会(2013)は海外の成功事例を分析し、スタジアムやアリーナを多機能複合化することは都市機能の集約高度化にも寄与し、街づくり上有益であると述べている。日本政策投資銀行地域企画部中国支店(2014)はスポーツ施設の多機能複合化の海外の7事例を紹介し、先行事例の施設関係者へのヒアリングによって多機能複合化には既存の周辺施設とのシナジーの実現が望ましく、事前のマーケティングが重要であるとしている。一方で経済産業省(2016)が横浜スタジアムと横浜公園を核とした活性化に関して言及しているものの、日本国内のスポーツ施設の多機能複合化による地域活性化についてはまだ議論が乏しい。また、日本における競馬場の多機能複合化に関する先行研究の少なさの背景には先行事例が存在しないことがあげられる。海外ではドバイのメイダン競馬場にはホテルやショッピングモール、映画館などを含む複合商業施設が隣接しており、アメリカのデラウェアパーク競馬場はカジノやゴルフも楽しめる複合エンターテイメント施設になっている。しかし、日本にある10ヶ所の競馬場は1つも多機能複合化されておらず平日に開場していることもないので、日本における先行事例はない。
本稿では、東京競馬場に商業施設やレジャー施設を併設させ、レース非開催日や平日も開場することで多機能複合化し、来場者数が増えることで競馬場周辺の消費支出、周辺施設や店舗の売り上げが増加し、地域活性化に貢献できることを示す。1節では、東京競馬場の基礎情報や現状、課題について述べる。2節では、スポーツ施設の多機能複合化をおこなった楽天生命パーク宮城とステイプルズセンター、エウロボルグを先行事例として説明する。3節では、2節で説明した先行事例をもとに、商業施設として人が集めやすいアクセスと周辺地域や自治体との連携が成功要因の共通点であり、来場者の増加と多様化による売上増加と、施設周辺にも人が集まり周辺地域の消費支出が増加し、地域活性化することをスポーツ施設の多機能複合化の効果の共通点であることを分析する。4節では、3節で分析した結果を東京競馬場に当てはめ、東京競馬場がJR南武線、JR武蔵野線府中本町駅、京王線府中競馬正門前駅や府中駅から徒歩圏内である点、1,200台分の駐車場があり自動車でも来やすいことで家族連れの集客も見込める点、そして地元商工会議所や府中市との連携をすすめている点において、多機能複合化の成功要因の共通点と整合性があることがわかる。そこで東京競馬場の多機能複合化の提言をおこなう。
目次
はじめに
1 東京競馬場について
1-1 東京競馬場の基礎情報
1-2 東京競馬場の現状と課題
2 スポーツ施設の多機能複合化の事例
2-1 楽天生命パーク宮城
2-2 ステイプルズセンター
2-3 エウロボルグ
3 先行事例の分析
3-1 成功要因の共通点
3-2 効果の共通点
4 東京競馬場への提言
4-1 成功要因との整合性
4-2 提言
おわりに
参考文献
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2021年12月28日時点で確認しました。その後、URLが変更されている可能性があります。