卒業論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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中村陸生「中国貴州省の少数民族地域における観光開発」

2019年現在、旅行のトレンドとして、着地型観光がある。スマートフォンやSNSの登場により旅行先の情報の収集が容易になり、個人旅行を気軽におこなえるようになった。マス・ツーリズム時代の画一的な団体旅行はおわり、他人がまだ体験したことのないこと、あたかもそこに暮らしているかのような日常的な体験や交流が旅の現場には求められている。その最たるものが民族観光である。民族的なものへの興味、郷愁を求めて、あるいはふるさとへの思いを寄せて、先住民や少数民族の住む村を訪れるのである。

中国西南部に位置する貴州省もこうした民族観光をおこなう地域の1つである。貴州省に住む苗族と侗族の村を訪れると、伝統的な衣装や銀細工を身にまとった村人が、歌とともに酒をふるまい観光客の接待をする。観光客は村に滞在し、ショーや伝統行事を見物する。しかし、こうした観光の形は見世物化されたもので、文化の破壊につながっているのではないかという指摘も存在する。

曽(2001)は、貴州省の地元住民は観光客の興味をひくべく、伝統にはない創意工夫をおこなっており、場合によっては文化の流用もおこなっているとしている。また、陳(2006)は、観光開発によって貴州省にもたらされた社会的影響についてまとめている。貴州省が観光開発をどのようにおこなってきたか、それによってどのような変化が生じたのかについて研究はなされているものの、今後どのような観光を展開していくべきかという提言につなげた研究はまだない。

本稿では、中国貴州省の自治州が、少数民族が自身の伝統文化の保護を重視した観光政策をおこなうべきであることを示す。1節では、貴州省の概要と民族観光の現状について述べる。2節では、貴州省にある朗徳上村を例にあげて、観光開発がもたらしたメリットとデメリットについて示す。3節では貴州省と同じく民族観光をおこなっているフィリピンのバナウェとタイのチェンマイ、北海道の白老町での事例を挙げたうえで、4節では今後貴州省はどのような観光政策を展開していくべきかについて検証する。

目次

はじめに
1 貴州省について
 1-1 貴州省の概要
 1-2 貴州省の民族観光
2 貴州省における観光開発による影響
 2-1 観光開発によってもたらされるメリット
 2-2 観光開発によってもたらされるデメリット
3 伝統文化を用いた観光をおこなっている事例
 3-1 フィリピン・イフガオ州バナウェの棚田群の例
 3-2 タイ北部チェンマイの山地民の例
 3-3 北海道白老町のアイヌ民族の例
4 貴州省における今後の観光の展開
おわりに
参考文献

参考文献

ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2019年12月20日時点で確認しました。その後、URLが変更されている可能性があります。


2016年の冬に貴州省を訪問した際の写真です。
論文中にも出てくる朗徳村です。 村の中にある土産物屋です。
村の前には菜の花畑がありました。 貴州省にある最も大きな民族村です
いり口では民族衣装の女性が観光客をもてなしていました。 観光客向けのショーがおこなわれていました。
観光客が増えているのか、いたるところで道の整備をしていました。 夜になるとライトアップされます。