[イラク情勢メモ]:イラク戦争における米軍の死者数の統計が示唆すること

2003年5月1日のブッシュ大統領の「大規模戦闘終結」宣言以降の米軍の死者は2300人を超え,そのうち戦闘による死者も(米国防総省の基準にもとづくものだけでも)1800人を超えている。一般には「イラク戦争は終わった」ものと考えられているかもしれないが,米軍兵士は敵対勢力の攻撃によって現在までほぼ1日1〜2人のペースで死亡しているのである。
しかも,月別の死者数は漸増傾向にある。2003年11月,2004年4月と11月がその傾向から突出して多くなっているが,それは以下の理由による。
(1)2003年11月の死者数突出の主因は,米軍ヘリ4機(CH-47チヌーク,OH-60ブラックホーク3機)の撃墜で39人が死亡したことによる。
(2)2004年4月の死者数突出の主因は,3月末のファルージャでの米民間警備会社傭兵4人の遺体損壊事件に端を発した米軍のファルージャ攻撃作戦と,バグダッドやイラク南部での米軍とサドル師派民兵との戦闘激化による。
(3)2004年11月の死亡者数突出の主因は,ザルカウィ・グループ掃討を理由とするファルージャなどアンバル州での米軍の大規模な軍事作戦と武装勢力の抵抗の激化による。
(2)と(3)の突出を除いて各年の月平均の死者数を計算すると,03年36.3人,04年49.3人,05年,59.4人で増加傾向が顕著である。05年12月(新憲法成立・議会選挙実施)から06年3月まで月別死者数は減少傾向であったが,4月からは再び増加傾向となっている。
これらの事実は,米軍などによる大規模な武装勢力掃討作戦が繰り返されているにもかかわらず,武装勢力(反占領軍レジスタンス)による米・多国籍軍への攻撃が沈静化するどころか,年々いっそう激しくなっていること,(第2図の負傷者数が増加していないこと,米軍車両の装甲が強化されていることを考慮すると)攻撃技術が高度化し爆発物の威力が強化されていることを示唆している。

(2006.5.17記)

イラク戦争における米軍の死者数の統計やイラク情勢について,より詳しくは共同研究「イラク戦争を考える」のページをご覧ください。

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