5.4 情報化時代と点字・朗読


内容

  1. 情報化時代に情報障害をいかに克服するか
  2. 点字の根本的な特徴は何か
  3. 点字や音声を用いたコンピュータによる情報処理の現状はどのようなものか
  4. 今後の課題として何が問われているか

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1.情報化時代に情報障害をいかに克服するか

情報化時代の伸展で情報障害は増大している

 目が見えないためにもっとも困ることは、一人歩きと文章の読み書きだと昔からいわれています。歩くといっても運動能力はよいのですが、足もとやまわりの情報が十分に得られないために、一人歩きに困難を生じています。また、教科書をはじめとする教材や文化遺産が、文字や図形の形で提供されていますから、それが読めないと、教育や職業、あるいは文化や社会生活のあらゆる場面で困難を生じてくるのです。その意味で、視覚障害のことを、情報障害といいかえることができます。

 一方、情報化時代の伸展で、テレビ・ラジオ・新聞などのマスコミをはじめとして、多くの出版物や広告にいたるまで、膨大な情報が巷に氾濫しています。「情報生理学」などの必要性が主張されているように、これらの莫大な情報のなかから、必要な情報を手早く選び出して、的確に行動する能力が、情報化時代に生きるために必要とされています。

 このような情報化時代の伸展のなかで、情報障害をもつ視覚障害者はどうすればよいのでしょうか。最近では、点字図書や録音図書もかなり増えてきて、古典といわれるような文学作品などは十分楽しめるようになっています。しかしながら、新しく出版されたばかりの図書や膨大な量の辞典類、それに新聞・雑誌やカタログ・チラシなど、日常生活のなかで必要とする部分だけを読んで、あとは不要となるような情報については、手早く選んで抜き読みすることはできません。その意味で、情報障害はますます増大しているということができます。

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コンピュータを活用して情報障害を克服するために

 このような情報障害を克服するために、コンピュータを活用することができます。とくに、年々小型化し、高性能化しているうえに安くなっているパーソナル・コンピュータを活用することができれば、膨大な情報のなかから、必要な情報を手早く入手できるようになるでしょう。そのようなことを可能にするには、視覚障害者がコンピュータを容易に操作できるように、アクセシビリティを高めなければなりません。そのため、点字キーボードから入力したり、点字ピン・ディスプレイや音声などの出力システムで、内容が確認できることが必要です。その場合、コンピュータのハードウェアやソフトウェアは、健常者が使っているのと同じものを使えるようにするという考え方が大切なのです。その意味で、アメリカ政府が1988年10月から施行に移したりリハビリテーション法508条の「電子機器アクセシビリティ」と、それに基づく「指針」はきわめて卓越したものです。

 その内容は、連邦政府が電子事務機器を購入したり、リースしたりする際には、障害者も健常者も同等に使えるようにしなければならないというのです。そのためには、機器の改良や補助機器の活用ができるようにしなければ、電子事務機器自体の納入もできないのです。同等にアクセスできるということについて、「指針」の基本方針では、次のようにまとめています。

(1)障害ユーザーが、他の健常ユーザーと同じデータベースおよび応用プログラムをアクセスでき、かつ使用できるよう保証すること。

(2)障害ユーザーが、他の健常ユーザーと同じ最終結果を得られるようなデータ取り扱いと、それに関連する情報資源の支援が受けられるよう保証すること。

(3)電子事務機器が通信システムの一部となっているときは、障害ユーザーが各自の障害に応じた形で、メッセージの送受信ができ、しかも、そのシステムに属するユーザーとの通信ができるよう保証すること。

 アメリカでこのようなことが実現するまでには、長年にわたる関係者の努力が積み上げられているのです。音声や点字の入出力端末や関連ソフトウェアの開発精神として、一般の機器やソフトウェアでそのまま使えるものはできる限り共通として、どうしても特別に備えなければならないものだけを補助支援システムとしてコンパクトにつくり、しかも、できるだけハードウェアよりもソフトウェアで解決しようとしてきているのです。そのため、電子事務機器の納入に際して、大手のメーカーの製品だけではなく、それまで開発された補助支援システムを付加してもよいことになっています。その意味で、長年の蓄積は生かされているのです。また、法の制定や「指針」の作成に際しても、障害者、官庁、産業界などの代表が協議を重ねて制定しているのです。

 わが国でも、アメリカの影響を受けて、1990年6月に通産省は、メーカーが身体障害者や高齢者にも操作しやすい情報処理機器を開発する際のガイドラインとなる「情報処理機器アクセシビリティ指針」を公表して、行政指導を開始しました。これは、アメリカのように強制力はありませんが画期的なことです。

 そこで、視覚障害者用の補助機器のなかで不可欠な点字入出力と音声出力の問題を中心に、情報障害を克服するための方策について取りあげることにします。その場合、前提となるのは、点字と音声の根本的な特徴です。そのうち、音声については、比較的理解しやすいので、個々では、点字の根本的な特徴について、情報化時代の観点からまず取りあげることとします。

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2.点字の根本的な特徴は何か

触読では、線と点とどちらが読みよいか

 世界で最初の盲学校・パリ訓盲院では、今から166年前の1825年に、ルイ・ブライユが六点式の点字体系を考案する以前には、普通の文字をそのままの形で浮き出させた文字が、教材として用いられていました。これは、普通の文字の曲線や直線をそのまま押し出したもので、線文字といえます。その後、同じ線文字でも、点線文字のほうが触覚に対する刺激が強く、読みやすいことがわかってきました。さらに、ルイ・ブライユの点字の考案以来、少数の点の組み合わせのほうが、線文字より触読しやすいばかりではなく、簡単な器具を用いて自分で書けることも加わって、生徒に強く支持されていました。

 わが国でも、さまざまな線文字が使われていましたが、石川倉次によるかな文字体系の点字の考案とともに、実用としては用いられなくなりました。最近の研究では、三ミリ間隔で並んだ点を五つまでは、同時に触知することはできますが、六つ以上の組み合わせは触知が困難となることがわかりました。その意味で、二列で六点や八点の点字体系では、同時に触覚に感じる一列は、三点か四点の組み合わせなので触読上最も効率的であることがわかりました。いいかえますと、線文字は触読の効率性において、点字に代わることはできないということです。

 ただ、線文字は、その一部が欠けたり隠されたりしても、残りの部分で推測できます。それに対して、点字は、リダンダンスィー(余裕性)がないから、一点でも違えば、その文字として読めないだけではなく、まったく別の記号になってしまうので、きわめて厳しい正確さが要求されるのです。

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次々に、一つずつ読み取るときの記号体系はどうあればよいか

 目で読むときは、同時に五文字以上あれば、読みの速さがなんとか保てるといわれています。一視野内に同時に多く文字を見て読むのが特長だからです。これに対して、点字を手で読むときは、指先の触覚で次々に読み取るのです。厳密にいえば同時には一列三点ずつの半マス分しか読み取れないのです。

 点字の記号体系は、このような点字触読の読み取り過程にふさわしいものとなっています。たとえば、まず最初に、数符や外字符で数字やアルファベットをかな文字と区別するのをはじめとして、濁点・半濁点・拗音点・特殊音(外来音)点などの前置点は、事前に次にくる文字のモードを決めています。このように、ルイ・ブライユや石川倉次が現代の階層システムの考えに合致する考案をしたのはすばらしいことです。今後、点字の記号類を追加していくときも、このような観点に立つことの必要性を、先達の知恵が教えてくれています。

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コミュニケーションにおける効率性の長所と共通性の短所は何か

 点字の読み書きの熟達者であれば、一分間に600マス以上の速さで触読ができます。また、一分間に350マス以上の速さでタイプ打ちができます。これらの速さは、健常者が普通の文字を読み書きするときの速さにけっして劣ってはいません。点字は、効率性の面ではきわめて優れています。

 これに対して点字を知らない人とのコミュニケーションの手段としては、問題点が指摘されてきました。ルイ・ブライユの考案後、約20年間もパリ訓盲院では公式の文字として点字を認めなかった最大の理由は、普通の文字との共通性がないことでした。点字を知らない人にとっては、点字は、それを知っている人たちの仲間内の暗号にすぎない代用品の文字であるという意識が、つねにつきまとってきました。

 点字の読み書きの効率性が厳然と存在していたにもかかわらず、あたかももぐらたたきのように、線文字の優位性が、たびたび各地で主張されては消えていったのもそのためです。最近のわが国でも、レーズライターの読み書きやオプタコン触読が、普通の文字を直接読めるという、そのメリット以上に、点字の不要論をも主張させたのです。その理由として読み書きにおける効率性よりも、普通の文字との共通性のほうが価値が高いと思われたからです。

 ところが、最近コンピュータによる点字と普通の文字との相互変換が可能な情勢となりましたので、点字は、効率性に加えて、共通性での短所が薄れて、優れた文字となりつつあります。

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3.点字や音声を用いたコンピュータによる情報処理の現状はどのようなものか

点字入出力システムの現状は

 最近のコンピュータ技術は、ハードウェア・ソフトウェアともに、日進月歩です。それらがいかに優れたものであっても、マン−マシーン・インターフェイス(人間と機械のやりとり)ができなければ、宝の持ちぐされです。目を用いられない人の場合、入出力システムに工夫がいります。入力では、フルキーボードをそのまま用いることもできますが、多くの場合、そのホーム・ポジションを、点字のキーに見立てて入力するほうがもっと使いやすいのです。さらに、手指の操作に適した点字キーボードを用いるほうが、もっと使いやすいのです。

 出力においても、ピン・ディスプレイで点字を即座に読み取ったり、点字プリンタで紙に打ち出してゆっくり読むこともできます。

 現在、すでに欧米や日本で、これらの機能をもつ点字入出力システムがかなり開発されています。

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音声出力現状は

 フロッピー・ディスクなどに蓄えられているデータや画面に表示されている文字などを、音声で読み上げるシステムが多く開発されています。録音・編集方式や音声合成方式などの違いによって、音声の明瞭度などはかなり異なっています。しかしながら、しだいに人間の声に近づいてきています。かな文字などをそのまま読み上げるシステムは安く供給されています。最近では、数万語以上の辞書と、文章解析のソフトウェアを用いることによって、かなり流ちょうに読み上げられるようになってきました。

 OCR装置と組み合わせて、紙に印刷されている文章を読み上げることができる盲人用読書機の開発も進んでいます。アメリカの読書機では、ニューヨーカーを思い出させるように流ちょうに読み上げています。日本では漢字かなまじり文のOCRでの読み取りが、むずかしいなどの理由で、まだ試作機の段階にとどまっていますが、数年後には優れた読書機が実用化されるでしょう。

 音声出力は、その他にMS-DOS上のデータをすべて読み上げたり、キーボードの操作の確認などにも用いられています。音声出力の場合、読み上げる速さの調節や声色をかえることなどができますので、情報の中身によって、適宜調節することができます。

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点字情報処理のメリットは

 従来、点字は、いったん書き終えると、加除訂正や割り付け・編集などが困難で、悔しさで点筆を握りしめたり、点字タイプライターに当たりたくもなり、やがてあきらめて、修正器や点消し器を使ったり、全部書き直したりしていました。ところが、コンピュータによる点字情報処理では、これらを苦もなくやってのけます。このように点字原稿の作成やデータの複製などが容易になりました。さらに、あんなにかさばって書庫の確保に苦慮したことが昔語りになりそうな情勢です。

 多くの情報を蓄え、必要な情報を即座に検索することも容易になりました。また、フロッピー・ディスクの郵送やパソコン通信などで、情報の交換も簡単に早くできるようになりました。まさに隔世の感があります。

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点字と普通の文字との相互変換の現状は

 点字の最大の短所とされていた普通の文字との共通性が確保されようとしています。点字で入力し、加除訂正したデータ(いわば清書した点字原稿)を普通の文字に変換するワード・プロセッサー機能が多く開発されています。逆に、普通の文字で入力したり、普通の文字のデータとして蓄えられているものを点字に変換することも可能となっています。

 点字と一対一に対応するアルファベットで、しかも分かち書きされている欧米の普通の文字と点字との相互変換は、ほとんど問題がないといえます。これに対して、日本語の場合、多くは漢字かなまじり文で、しかも分かち書きされていない普通の文字と、点字との相互変換はかなり困難です。

 そこで、かな漢字変換方式のワード・プロセッサーの場合、漢字とかなのどちらを用いるかということと、同音異義語などで、どの漢字を選択するかが問題となります。将来は、かな漢字変換の精度が高まるでしょうが、現在では、音声出力や点字の漢字(漢点字とか六点漢字などとよばれている漢字に対応した点字の漢字記号)での確認が必要とされています。

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総合的な入出力端末への期待は

 今まで述べてきた個々の機能を、すべて含んだ総合的な視覚障害者用入出力システムが必要とされています。欧米では、点字入出力が可能な盲人用パーソナル・コンピュータとしてペーパレス・ブレールが数種類開発されています。また、点字入出力と音声出力を組み合わせたブックタイプのパーソナル・コンピュータも開発されています。

 しかしながら、点字入出力のすべてが可能で、しかも、一般のパーソナル・コンピュータと接続して、既製のソフトウェアを活用できるような視覚障害者用の入出力システムはまだ開発されていません。ユーザーとメーカーが協力して、このような総合的なシステムを開発しようとしています。そのなかに、ワード・プロセッサー機能と読書機の機能、およびコンピュータの端末として本体を操作できる機能などを含めようとしています。このような夢のあるシステムにふさわしく、メルヘンティックに「テンデルとコエーデル」と名づけたいと考えているところです。

 一方、漢字かなまじり文のデータを、分かち書きされたかな文字体系の点字に変換する場合も、最近その精度がかなり高まってきました。とくに、漢字をかなにかえる精度はかなり高くなっているので、分かち書きについて、ある程度がまんすれば、情報内容の理解にはあまり支障がなくなりつつあります。現在でも、辞書を用いた文章解析のソフトウェアを改良して、もっと精度を上げることができます。将来は、文脈や意味を用いるシステムにでもなれば、その精度は飛躍的に上がることが期待されます。ただ、専門書の特殊な記号や図形などについては、かなり専門家の人手を必要とする時期が続くでしょう。

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4.今後の課題として何が問われているか

点字表記法の触読性と共通性は

 点字の表記法は、点字使用者にとって、「読みよく、書きよく、わかりよい」ものでなければなりません。とくに、点字の触読性に優れていなければなりません。もう一つ重要なことは、点字と墨字との相互変換を考える場合、点字と墨字との対応関係を明確にしておくことです。

 日本点字制定100周年にあたる昨年(1990年)、日本点字委員会が行った見直し作業も、このような観点から検討したものです。

 外来語をあらわす特殊音については、国語審議会の報告に対応するよう努めましたし、必要とされる点字記号の追加についても、触読性にてい触しない範囲で付け加えています。かなづかいについても、助詞の「は・へ」を「ワ・エ」と発音どおり書くことと、ウ列とオ列の長音を長音符で書くことの二点を除けば、普通の文字の現代かなづかいとまったく同じです。この点字のかなづかいは、触読性を十分に満足させています。

 分かち書きについては、複合語内部の切れ続きと、複合動詞「・・・・・・する」の切れ続きについて、できるだけ規則を単純化して、点字入門者の負担を軽くするように努めました。

 将来は、もっと単純化したわかりやすい点字表記法が、点字関係者にも受け入れられる土壌が育つことを期待しています。

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点字入力は、正確に

 点字は、一点でも間違えれば別の記号になるので、きわめて厳密な正確さが要求されています、幸い点字情報処理の機能によって、加除訂正が今後容易になりますが、だからといって、不正確なままに入力したのでは修正に時間がかかります。そこで、正確に点字の表記法を習得し、きちょう面に入力し、ていねいに加除訂正する能力こそが求められています。

 たとえば、選挙の点字投票や役所の書類などで、コンピュータを用いた点字入出力システムが用いられるようになった場合、正確に点字入力しなければ、誤った別の記号のまま変換されて、点字を知らない人に、無効にされたりするような事態になってはいけません。

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点字触読は速く正確に

 ピン・ディスプレイなどで、新聞などの大量の情報を即座に読むことができるようになるのもそう遠いことではないでしょう。その場合、必要な記事などを選び出す情報検索の重要性が問われてきます。それと同時に、ある程度の速さで点字を触読できないと対応がむずかしいでしょう。もちろん、長編の小説を点字触読で楽しむ場合には、触読の速さは不可欠です。いずれにしても、速く読めるようになることが必要です。そのためには、入門期からの点字触読の指導が、適切に行われることがきわめて重要です。

 私たちの研究で、読みの遅い初心者は、点字の六点からなる図形的なイメージにこだわることがわかりました。たとえば、「メ」の字を長方形、「ユ」の字を三角形、「ラ」の字を斜線などと、面図形や斜線のイメージをもっています。これに対して、点字触読の速い熟達者は、「メ」の字を縦線二本、「ユ」の字を横線と一点、「ラ」の字を二点などとして、点や直線、とくに縦線のイメージをもっていることがわかりました。

 これは、熟達者になるほど、半マスずつ読み取る能力が高まっているためと考えられます。そこで、入門期に、点字を面図形として教えこんでいた従来の指導法を改めて、文字を半マスずつ読み取る能力を習得させるのがよいのではないかと思われます。いずれにしても、できるだけ早期に、速く読み取ることができる熟達者の方略を身につけさせることが必要であると思われます。また、速さとともに正確に意味を読み取ることが問われているのです。

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日本語の読解力を高めるには

 日本語の意味を正確に読み取るには、単語や単語の構成要素の意味を正確に理解しておくことが必要です。この場合、かな文字体系の点字では、分かち書きや複合語内部の切れ目が、単語や単語の構成要素の区切り目を明確にすることに、きわめて大切な役割を果たしています。これらを手がかりに、意味のまとまりを即座に理解することが問われているのです。

 また、日本語の場合、漢字や漢語の知識が意味の理解にきわめて大きな位置を占めています。その意味で、漢字の知識を学んでおくことはおおいに役立ちます。その場合、点字の漢字を一つの手がかりとすることも有効です。点字の漢字は、点字情報処理の手段としてよりも、今後は、日本語の理解によりいっそう役立つようになるものと思われます。

 このほか、日本語の読解力を高めるためには、読み取った文字・単語・文節・文・パラグラフ・ストーリーなどを、自分のことばで要約する力をつけておくことも必要です。また、推理小説などを読むときのように、読む前にその先を予測する力をつけておく必要があります。その場合、文脈や意味の連想、あるいは、文法的な関係などを手がかりとすることができます。

 以上、点字は、普通の文字と同じ文字なのですから、それを用いて、文書処理(読み書き)の能力を豊かにし、それを通して教育や職業などに十分に活用できるようにしておくことが必要なのです。

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点訳者と朗読者の役割はどうなるのか

 コンピュータで自動的に点訳できるとか、盲人用読書機が開発されたなどというニュースを聞いて、もう点訳者や朗読者はいらないのではないかと、早合点される人がおられるようです。しかしながら、今まで開発されたシステムは、相当優れてはいるものの、とうてい人間には及びません。すでにデータ化されて、フロッピー・ディスクなどに蓄えられているデータを、点字や音声に変換して提供することは、かなり正確にできるようになりました。しかしながら、紙に印刷されたり手書きされているものを正確に読み上げることは、相当むずかしいのです。まして、図形や表などを含む文章、あるいは数式や化学式などを含む専門書では、ほとんどお手上げに近いのです。

 そこで、人間がフルキーボードから入力するパソコン点訳などが行われるようになっています。さらに、普通の点字タイプライターや点字板などを用いた従来の点訳も、きわめて貴重な存在なのです。朗読についても、正確に美しく読むことは、人間の朗読にはかないません。また、専門書などの朗読は、まだ朗読者の独壇場なのです。

 将来、パーソナル・コンピュータによる情報入手のシステムがもっと改善されたとしても、点訳者や朗読者の役割は、消え去ることはないと思われます。

出典:「点字と朗読を学ぼう 本間一夫・岩橋明子・田中農夫男 編」、pp.202-217、初版発行、福村出版、1991年3月.


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