5.2 点字のあゆみ

国立特殊教育総合研究所

視覚障害教育研究部

木塚 泰弘


内容

  1. 点字の書き表し方の変遷
  2. 点字の現代的意義

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1.点字の書き表し方の変遷

 点字は今から165年前の1825年に、フランスのルイ・ブライユによって考案されました。この時考案されたアルファベットや数字および点字楽譜は、今でも世界各地で用いられています。日本語を書き表す場合、最初は、このアルファベットを用いてローマ字で書き表していました。しかしながら、ローマ字ではマス数が多くなるので、かな文字体系の点字の必要性が痛感されました。いくつかの案の中から、石川倉次の案が1890年(明治23年)11月1日の点字制定会議で採択されました。これが、日本点字の誕生です。

 この中には、清音(いわゆる五十音)、濁音、半濁音、撥音(ン)、長音、促音(小文字のッ)を表す点字とつなぎ符などが含まれていました。その後、拗音や、一部の外来音などを表す点字が追加され、20世紀初頭には、かなり文字体系の点字の基礎が確立され、盲教育や盲人文化に与えた影響は計り知れないものがありました。

 その後、外来音などを表す特殊音点字や、句読点・かっこ・かぎなどの表記符合が、必要に応じてつけ加えたられ、現在の点字記号の体系が整備されたのです。

 仮名づかいについては、最初、歴史的仮名づかいでしたが、漢語から次第に表音式になり、「現代かなづかい」よりも30年以上前から、表音式かなづかいに移行していました。最近の30年間は、「現代かなづかい」との明確な対応が問題となりました。現在では、助詞の「は」「へ」を「ワ」「エ」と書き表すことと、ウ列とオ列の長音のうち、「現代かなづかい」で「う」と書き表しているのを、長音符で書き表すこととの二点を除けば、「現代かなづかい」と点字仮名づかいは全く一致しています。

 分かち書きについては、触読の経験の蓄積の中から、「読みよく、書きよく、わかりよい」点字分かち書きが実施されていました。

 最近30年間では文節分かち書きや漢字の影響を受けて、複合語内部の区切り目を長く続けて書く傾向がみられました。しかしながら、「漢字」・「学校文法」・「国語辞典」の「三種の神器」がなければ、点字分かち書きが出来ないようでは、点字使用者にとって大変困ります。そこで、日本の点字制定100周年を機に「意味」と、語を構成する「音」の「拍数」を手がかりとして、複合語の内部の切れつづきが、判断できるように改正されました。

 なお、表記符合の用法については、必要に応じて墨字と同じように用いたり、文章の種類や点字の触読性を考え過ぎて省略したりなどして、書き表されるようになりました。

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2.点字の現代的意義

 点字は、視覚障害者が自分で読んだり書いたりできるすばらしい文字です。また、点字を知っている人とのコミュニケーションの手段としても、極めてすぐれています。熟達した人では、1分間に600マス以上の速さで触読することができます。また、点字キーボードで入力する場合には、1分間に350マス程度の速さで書き込むことができます。

 これに対して、レーズライターや立体コピーあるいは亜鉛版作図機などで浮き出させた点線文字の触読や、オプタコンによる触読では、このように速く読むことはできません。また、点線文字を書くことは、容易ではありません。その意味で、点字の読み書きは、他に卓越した効率性をもっています。

 ところが、点字を知らない人とのコミュニケーションの手段になりませんので、点字は、「盲人用の暗号」か、「文字の代用品」であるかのように考えられがちです。そのため、点字の価値が低く評価され、あたかも「モグラタタキ」の様に各種の点線文字が推奨されては消えていったのです。そのたびごとに墨字(普通の文字)との共通性には問題が残るとしても、点字の効率性の評価が高くなっていったのです。

 このような状況の中で点字は、教育や文化の向上のためにその実績を高めただけではなく、選挙の投票や各種の試験(大学入試試験、英語検定試験、司法試験、情報処理技術者試験、公務員試験)などで、公認されるようになりました。今後も、点字の適応分野は、一層広がっていくことでしょう。

 一方、コンピュータ技術の進展によって、点字と墨字との相互交換の可能性が飛躍的に高まりつつあります。最近では、仮名文字体系の点字で入力して、漢字カナ交じり文で出力したり、逆に、漢字カナ交じり文のデータを仮名文字体系の点字に変換して出力することがかなりの精度でできるようになりつつあります。やがて、近い将来に、点字と墨字との共通性も確保できるようになるでしょう。更に、コンピュータを用いることによって、点字データの編集・校正、蓄積、検索、通信などが容易になり、効率性の点でも、飛躍的に改善されるでしょう。

 盲人がコンピュータを操作する場合、点字で入力したり、点字や音声の出力で確認したりする必要があります。また、点字は、一点でもまちがえれば、別の記号になってしまいます。そこで、正確で速い点字の読み書き能力が問われてくるのです。その意味で、すぐれた点字指導法の確立が必要とされています。また、点字競技会などもひとつの励みとして、児童・生徒が、自学・自習していく地道な学習の積み重ねが大いに期待されているのです。その結果、文書処理能力を高めることによって、生涯学習や、職業的自立あるいは、情報文化の享受のための基礎が拡充されることとなるからです。

出典:「日本点字制定100周年記念誌(全国盲学生点字競技大会のあゆみ)」、pp.19-21、全国盲学校長会 広島県立盲学校(第29回全国盲学生点字競技大会主管校)、平成2年(1990年)11月1日.


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