3.3 点字サイズが触読効率に及ぼす影響

The Effects of the Reading Efficiency in the Proportions of braille

黒田 浩之(Kuroda Hiroyuki)  茨城大学(Ibaraki University)

佐々木 忠之(Tadayuki Sasaki) 茨城大学(Ibaraki University)

中野 泰志(Yasusi Nakano) 国立特殊教育総合研究所( National Institute of Special Education)

木塚 泰弘(Yasuhiro Kizuka) 国立特殊教育総合研究所( National Institute of Special Education)

堀籠 義明(Yosiaki Horigome) 茨城県立盲学校(Ibaraki Prefectual School for the Blind)


内容

  1. はじめに
  2. 実験
  3. 結果
  4. 考察
  5. おわりに

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1.はじめに

 視覚障害者が本などを読む手段の一つとして点字を利用することが考えられる。点字のサイズは縦5mm、横3mmの長方形の中に縦3点が2列に点が並んでいるものである。しかし、これは日本の点字の大きさであり、外国では点字の大きさは表1のように国によって異なっている。このため、点字に習熟していない人や触覚の機能に制約がある人にとっては、文字の大きさ、点字と点字のマス間隔、行間隔などを変えることによって、読みやすさが変化することが想像される。また、日本の点字で慣れている人が外国の点字を日本の点字と同じように触読できるかについても疑問がある。

 本研究では、点字の習熟の程度がいろいろな被験者に対して、点字のマス間隔、行間隔の変化が触読効率にどのように影響を及ぼすかを調べた。

図1 点字の大きさを決める主な要素

表1 世界の点字の大きさ

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2. 実験

 ここでは、マス間隔、行間隔の変化が点字認識に及ぼす影響を調べる。触読に使用するおもな指先に位置検出のセンサを付け、指先の動きを検出した。

2.1 実験装置

 実験装置は、指先が点字を触読した軌跡を検出するためのタブレット(ワコム(株)、UD-1212RS)部分と、指の動きを検出するセンサ部分(ワコム(株)、UP-201-00Aを改造)、データの保存と制御に使用したパーソナルコンピュータ(日本電気(株)、PC-9821NX)から構成される。

 センサを指先につけた状態を図2に示す。センサは、指先につける部分が1.17g、データ送信部分が7.51gであり、これらを触読する手に固定して使用した。装置の分解能は0.02mmであるが、手に固定して測定するときの精度を確認するために、図3に示す5点の位置検出精度を10人の被験者について調べた。

図2 センサを指先につけた状態

図3 位置検出精度の測定位置

(1)指を固定した測定での精度

 図4のようにA点からE点の5点に鍵状のストッパーを付け、そこにセンサを付けた指を固定させて、このときの測定位置と実際の位置との誤差を測定した。測定に際しては、C点の位置を基準として座標を較正した。

図4 鍵状のストッパーを使った測定の模式図

 測定結果を表2に示す。誤差の平均は最大で0.92mmであり、点字の大きさに比較すと十分小さい値であった。

表2 指を固定した測定の誤差の平均距離と標準偏差

(2)点を触察したときの精度

 図3の5点に直径0.8mm高さ0.4mmの突起を作り、これらの点をセンサを付けた指で触察させたときの測定位置と実際の位置との誤差を測定した。

 測定結果を表3に示す。誤差の平均は最大で2.29mmであった。この値は、表2の値に比べると大きいが、これは常に指先の同じ部分で触察を行っているわけではないためと思われる。

表3 点を触察した測定の誤差の平均距離と標準偏差

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2.2 実験課題

 今回の実験では、表4に示すように、日本とアメリカで使用されている点字のマス間隔、行間隔をもとに4つの条件で作成した読材料を使用した。読材料は、4モーラ(5マス)、3モーラ(3マス)、2モーラ(3マス)、4モーラ(4マス)、3モーラ(4マス)、2モーラ(2マス)からなる単語を同頻度で並べたものである。

 読材料は、1条件に付き単語の順番を変えたものを3種類用意した。

表4 実験条件と点字のプロポーション

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2.3 実験手続き

 被験者の指先にセンサを固定し、まず図3の点を触察してもらい、較正用の座標とした。

 次に、タブレットに固定した読材料を被験者に声を出して読んでもらう試行を4条件に付き3試行ずつ、合計12試行おこなった。1試行は3分間とし、3分以内に触読し終えた場合はその時間を記録した。

 なお、触読に際しては、いつもと同じ仕方で触読してもらい、特に制約はしなかった。両手および複数の指を使って触読する被験者の場合には、主に触読している方の手の指先にセンサを固定した。

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2.4 記録

 実験開始の合図から被験者が3分間に音読した内容(読みとりの正誤)とそのとき指の軌跡を記録した。被験者が3分より前に読材料を読み終えた場合は、読み終えた時間を記録した。また、各試行中の手の動きはビデオカメラで記録した。

 さらに実験後、被験者に内省を記録させた。

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2.5被験者

 触覚に異常のない全盲の盲学校の教師3名。

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3.結果

3.1 1分間当たりの正読文字数

 それぞれの被験者の1分間当たりの(モーラに換算した)正読文字数を表5に示す。

表5 各被験者の1分当たりの正読文字数

 表から分かるように、この実験の3人の被験者は、点字の触読がそれほど早くない被験者A、非常に習熟している被験者C、それらの中間に位置する被験者Bのように、正読文字数に明確に差がみられた。

 実験条件の違いで顕著な差は認められなかったものの、すべての被験者が1分間当たりの正読文字数ではsgs条件が最も少なかった。

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3.2 誤読文字数

 それぞれの被験者の(モーラに換算した)誤読文字数を表6にまとめた。

表6 各被験者の誤読文字数

 被験者Cに関しては触読年数が長かったためか、ほとんど誤読をしなかった。被験者A、Bともに、sss条件が最も誤読数が多かった。

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3.3 指の軌跡

 被験者3人の触読中の軌跡を図5に示す。軌跡は、被験者によってはっきりした特徴がみられたが、条件による差は軌跡の形状だけからは明確には判断できなかった。

 ただし、軌跡については上より被験者A、B、Cの順で並んでいる。また、各被験者3名ともsss条件を触読したときの軌跡となっている。

図5 被験者の指先の軌跡

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4.考察

 正読文字数についてみると、条件間で大きな差はみられないが、誤読文字数でみると、触読に習熟している被験者C以外にとっては、sss条件が読みにくい条件であり、sgg条件(マス間隔、行間隔ともに広い条件)が読みやすい条件であったと思われる。ただし、触読しやすい要素がマス間隔か行間隔かは、被験者AとBで分かれたため、今回の実験からは判断できなかった。

 マス間隔を広くすると、点字そのものが大きく感じられ読みやすいと言われている1)。被験者Aについては、誤読文字数の結果を見るとこれと同じ傾向が認められた。しかし、今回の実験では被験者Bのsgs(マス間隔が広く行間隔が狭い)条件で誤読文字数が多く、これまでの知見とは一致しなかった。内省によっても、被験者Bは、マス間隔ではなく、行間隔が広い方が読みやすいと応えており、結果の誤読文字数もこのことと一致していた。

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5.おわりに

 今回の実験では、被験者の数も少なく明確な判断が難しかったため、今後被験者を増やして信頼性を高めたい。また、分析についても、軌跡長の分析や触読文字との関連を調べるなど、より精密な分析を行う予定である。

謝辞

 今回の研究にご協力下さった茨城県立盲学校の先生方に深謝いたします。

参考文献

1)文部省:点字学習指導の手引き(改正版)、1995、慶應通信株式会社

2)神奈川県ライトセンター:かけはし、1981〜1982、P113〜116

出典:「第21回 感覚代行シンポジウム」、pp.55-58、感覚代行研究会、1995年.


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