3.2 点字のサイズと手触り

木塚 泰弘


内容

  1. 点と点の中心間の長さ
  2. 点字の大きさと比率
  3. 点の形と手触り

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 最近、各種の点字表示や点字出力端末などの開発と関係して、点字の大きさや形に関する問い合わせが多くなった。そこで、1981年11月〜1982年12月に神奈川県ライトセンターの「かけはし」に連載した「点字科学散歩」の中から関係する部分を書き直してここに記述することとした。

1.点と点の中心間の長さ

 点字は縦3点、横2列の6点から一マスが構成されているのが基本である。そのマスが左から右へ横に並んでいるのが行であり、複数並んだ行と行の間を行間と言う。ない、凸点の出ている側を点字の「表」といい、手指の先で左から右へ触読することとなる。

 そこで、点の名称、点間、マス間、行間の位置を点字の「表」(凸面)から図示する。

 点字の大きさは国によってあるいは点字出版社や点字製版システムによっても異なっている。日本点字図書館の資料室に保存されていた8カ国1地域の点字印刷物をノギスで測った結果を表示する。横(1)(4)点間、マス間((4)(1)点間)、縦(1)(2)点間、行間((3)(1)点間)について、横(1)(4)点間の小さい順に並べたものである。

 日本とその影響を受けている韓国と「台湾」が横点間((1)(4)点間)とマス間((4)(1)点間)が小さい。それに対して欧米の多くの国が横点間、特にマス間が大きく空いている。ただ、縦点間((1)(2)点間)はそれほど大きな差はない。これに対してチェコと旧ソ連は、すべてが大きく、アメリカで特別に使われている「ジャイアンツドット」に近い。行間((3)(1)点間)については、日本と「台湾」が9mmと大きいのは、インターラインといって、「表」の行間に「裏」の行を印刷する方式であり、その他が5mm前後なのは、インターポイントと言って、「表」の点と点の間に「裏」の点を印刷する方式であるためである。

点と点の中心間の距離

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2.点字の大きさと比率

 日本の点字が小さいのは、B5判縦長の点字用紙にできるだけ多くの点字を入れようとしたからである。のりしろを取ると、1行163mm程度しか取れないからそれに32マスとか30マスの点字を入れようとすれば横点間((1)(4)点間)やマス間((4)(1)点間)を小さくせざるを得ない。昔は45マスとか37マスの点字盤が使われていた。紙が高価な時代であったから触読の困難性には我慢せざるを得なかったからである。現在では32マスの点字盤で点訳するか、30マスで製版しているのが大勢を占めている。欧米のように大きな紙に1行のマス数も1ページの行数も多く取れば、1ページの総マス数はずっと拡大する。1ページの総マス数も日本が最も少ないが、B5判縦長の点字用紙にこだわっているのは、図書館の書架の寸法や持ち運ぶためのカバンの大きさに規定されているのが事実であって、読みやすさのためとは言いがたい側面がある。

 最近では中途失明者の増加や糖尿病性網膜症に伴う触覚障害などを考慮して27マスの点字盤なども製作されるようになってきている。また、アメリカのハウプレス製のジャイアンツドットなどの点字器を使って機材を作ることも試みられるようになってきた。

 仲村点字器製作所製の点字板の場合、45マス、37マス、32マス、27マスともに縦点間((1)(2)点間)、横点間((1)(4)点間)、マス間((4)(1)点間)はもとよりのこと、一つの点の直径についてもその大きさの比率が同じであるということである。このことは、一マスの中の縦横の点間や1点の直径の一部だけを変えるとなじみの触読者には受け入れられないことを示している。一つの点の直径は、縦点間や横点間の約3分の2程度が受け入れやすいようである。すなわち、1点の半径と、2点間のギャップの寸法がそれぞれ3分の1ずつと等しいことが触読の効率に影響を与えているように思われる。

 ところが、マス間と行間は、点字触読の熟達程度によって相当異なるようである。中途失明の高齢者はもとより、小学1年生であっても、初心者はマス間の行間もともに大きく空いているほうが良い。しかしながら点字触読の熟達者になれば、3mm程度のマス間((4)(1)点間)であっても5mm程度の行間であっても触読効率にさしたる影響を与えないようである。マス間((4)(1)点間)を横点間((1)(4)点間)で割った比率については、1.5〜1.8程度が多くの人に受け入れられる数値である。ジャイアンツドットは2.16で、一マスおきに書くよりもマス間が広がることになる。初心者にとっては1.8により近いほうが良く、熟達者では1.5程度でも読めるということになるのである。

 これらのことを考えると、点字出力端末を設計する場合には、できるだけ、点の直径や2点間の間隔、マス間、行間などが自由に設定できる多様適応型のほうが良い。特に、マス間と行間はユーザーの必要に応じて可変できるようにしておくことが必要である。

 一方、自動販売機やエレベーターあるいは駅のホームの案内などの「サインデザイン」に用いる点字表示については、そのような可変システムを用いることはできない。そこで、点字サイズの標準が求められることが多い。しかしながら、日本で点字印刷や点訳書に用いられている点字サイズは、サインデザイン用の点字表示には小さすぎる。なぜならば点字の初心者も用いる一般的なものだからである。そこで参考になるのがアメリカ・ハウプレス製のパーキンスブレーラーの点字サイズである。最近、盲学校の低学年でも、中途失明者のリハビリテーションセンターなどでも初期の指導の教材作成にこれを用いている。また、点字熟達者の読者も多い「点字毎日」の点字サイズもドイツ製の製版機を用いているのでパーキンスブレーラーとそう大差はない点字サイズである。

 パーキンスブレーラーで書かれた点字のサイズの測定値は、アメリカの点字標準サイズとほぼ同じである。そこで、アメリカの標準サイズを紹介して参考に供したいと思う。

 アメリカの点字標準規格はインチで示されているが、参考のためmmサイズを付け加えることにする。縦点間((1)(2)点間)と、横点間((1)(4)点間)はそれぞれ0.09インチ(2.286mm)である。また、(1)の点と隣のマスの(1)の点の間隔、つまり一マスの領域は、4分の1インチ(6.35mm)であるから、マス間((4)(1)点間)は、0.16インチ(4.064mm)となる。マス間((4)(1)点間)を横点間((1)(4)点間)で割った比率は、1.78(0.16/0.09インチ)で、1.8により近い数値である。これを参考にサインデザインを行うのが今のところ最も妥当な解決策といえる。ただ、案内図や歩行用触地図などに入れる点字のサイズについては、大きさが制限されるので記号化や略称など表現方法を工夫する必要がいっそう高まることは事実である。

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3.点の形と手触り

 1点の形は、上から見れば書き方や製版・印刷の崩れがなければ正円と見て良い。横から見ると決して半円球でもなく、ハーフドーム型でもない。平鍋の底を上に伏せたような形と言うことができる。その断面図とサイズを図示すると次のようになる。

点字の断面とサイズ

 1点の直径は、基盤となる紙のところから点が立ち上がる「ふもと」のところで、約1.4〜1.5mm程度がよく用いられている。中央部の高さは、0.3〜0.5mmが最適範囲で、0.5mm以上では初心者や糖尿病性網膜症による失明者には良いこともあるが、一般的には刺激が強すぎる。0.2mm以下では読み取りにくく、熟達者では0.1mm程度の消えかかったものでも読めなくはないが、限界以下と考えて良い。

 上面の中央部は平らで、直径約0.6〜1.0mm程度と考えて良い。側面は垂直部で0.2mm程度となり、上面との間に半径0.2mm程度のrがある。また、基盤部にも半径0.05mm程度のrができることが普通である。

 紙に書かれた点字の手触りが最も良いが、これは表面に紙の繊維が絡みついた凹凸があり、さらに点字をプレスしたときにできる上面角のパイルがビロードの面をなでるような感触を与えるからであろう。吸湿性が良く室温との差が少ないので触覚にとって優しい材料である。真空成型機(サーモフォーム)の用紙「ブレーロン」や「タクティロン」はしわを紙面に作ってその膨らみのゆとりとともに表面の摩擦面積を狭くする工夫をしている。発砲インク系の印刷では、表面に発砲の結果できたブドウの房状の凹凸が摩擦面積を減らしている。そのためこれらの点字は書籍として長時間読むことにも耐えうるのである。

 これに対して、ダイモテープや平滑な合成紙に書いた点字や金属板にプレスした点字は表面が平滑で、ちょうどガラスふきのときのような摩擦抵抗が生じる。また、これらのものは硬さも硬く長時間触読することには耐えない。しかしながら、サインデザインで用いるような点字表示では、単語程度の短い点字を読むだけのことが多いので、触読性よりも耐久性を考えても差し支えはない。

 なお、点字ディスプレイなどの設計に際しては、その触圧程度が問題になる。これも初心者と熟達者、短時間読みと長時間読みなどの条件で異なるので設計に当たっては十分検討する必要がある。

出典:「日本の点字」第23号、pp.19-23、日本点字委員会、1998年2月.


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