(1)統一英語点字コード開発の背景
現在英語圏ではいくつかの点字体系が使われている。標準英語点字(文書コード)の他に、数学用、コンピュータ用、科学用等の点字コードが混在し、各分野では妥当でも相互にかち合い、同じパターンが別の意味を持っている。さらに、国によっても異なった点字体系を使っている。たとえばアメリカとイギリスでは文書コードでさえ異なっている点が見られ、数学記号は全く異なった体系である。また、最近よく使われるようになった記号も充分用意されてはおらず、コンピュータによる点字と墨字の相互変換も完全に行うことができない。このような状態では豊富な点字データを英語圏全体で共有することはできないのである。
(2)北米点字委員会による成果
BANA(Braille Authority of North America 北米点字委員会)は1991年にUBC(統一英語点字コード)の設計作業を開始した。UBCの設計を担当する第2委員会を構成し、委員長にJ.サリヴァン(ダクスベリー・システムズ社社長)、委員には最初の提案者であるT.V.クランマーとA.ネメスに、E.フォークを加えた。この4名は数回の会合と多くの電話会議で精力的に原案をまとめ、点字使用者や点字奉仕者、それに点字教師の評価を経て、1992年10月に報告書を作成した。
このUBCの創案は、標準英語点字(文書コード)を拡張して、数学用、コンピュータ用、化学用などの点字記号を統一体系としてまとめたものである。また、墨字の装飾的な部分を除いて、実質的な部分は自動的に点訳し、逆に、点字で書いた文書を自動的に墨字に変換できるよう配慮している。それによって、点字を読み書きすることにより、そのまま墨字を読み書きできることを意図している。なお、このBANAの報告書は、われわれが翻訳して昨年4月に日本点字委員会から発行した。
(3)UBCの英語圏への拡大
UBCに関するBANAの第2委員会の報告書は、英語圏の国々の点字関係者に大きな反響をもたらした。BANAでは、最初からUBCが英語圏全体のものになることを望んでいたので、1993年7月オーストラリアのシドニーで開かれたICEB(International Council on English Braille 国際英語点字協議会)において、このプロジェクトをICEBに移管することを提案し採択された。
ICEBは、カナダのD.ボガートが委員長を務める親委員会のもとに、UBCの設計を担当する第2委員会を設けた。BANAの第2委員会の4人の委員に加えて、イギリスからS.フィッペン、オーストラリアからB.マガイア、ニュージーランドからM.ソルト、南アフリカからC.デクラークの合計8人で委員会は構成された。ただ、アイルランド共和国からは要請にもかかわらず代表を送り出してはいない。委員が各国にひろがり、電話会議では費用がかかりすぎるので、インターネットにUBC2フォーラムを開設し、電子メールで会議を進めることとなった。このICEBの第2委員会は、BANAのUBC創案をもとに修正・拡充して、1995年3月に最終報告書をまとめた。
(4)UBCのわが国への紹介
我々点字科学記号検討資料編纂会では、BANAの報告書に引き続いて、このICEBの最終報告書の翻訳を開始した。その中で、行間に含まれるいくつかの疑問やUBC原案作成の経過、あるいは評価について委員の一人であるフォーク博士に確かめる機会をもつことを計画した。幸い、日本財団から協力援助金をいただいたので、本年1月6日と7日に統一英語点字記号に関する東京国際セミナーを開催した。フォーク博士の講演会には二百数十名の参加者があり、関心の強さがうかがえた。その後、3月に最終報告書の翻訳を日本点字委員会から発行した。ここに、翻訳担当者からその概要を紹介する。
なお、英語圏の各国では、現在UBCの評価が行われている最中である。その後、各国の点字委員会がUBCを採択すれば、実際の使用が開始される予定になっている。
(文責:国立特殊教育総合研究所 木塚 泰弘)
ICEBの研究プロジェクトとして設置された第2委員会では、基本文書コードを拡張し通常の英文から数学、科学、コンピュータサイエンスに至る点字コードの統一を目指して、コード相互間に矛盾が起こらないように検討を重ね、統一英語点字コードをまとめあげた。統一コードは以下のガイドラインにしたがって開発された。
a)点字1マスに六つの点を使用する。
b)今までの2級点字の略字に大きな変更を加えることなく、グレード1、グレード2の点字を取り入れる。
c)点字の初心者と習熟者の両方の読者に使いやすい。
d)コンピュータ処理を念頭に置き、墨字と点字の相互変換を可能にする。読みとりやすさを損なうことなくあいまいでない点字を使用する。
e)テキスト、数学、コンピュータ、その他技術的なコード(楽譜記号は除く)まで、すべてをカバーできるよう考慮する。
f)すでに存在する英語圏のすべての点字コードを考慮する。
g)様々な科学・技術分野の記号体系をカバーできる基礎的な文書コードの拡張のための一般的方法を開発する。
h)用語の定義をする。
i)記号(表記符号と指示符)の領域を決定する。
j)新しい記号は、あいまいさがなく、点字と墨字で同一の表現形式を容認するものとする。
k)基本的コードの記号は、点字と墨字を対応させる目的以外には変更しない。
この委員会では次の三つの規則を配慮しながら開発を行った。
読みの規則:点字から墨字への変換が意味の解釈を介入させず、記号の規則によるだけで可能であること。どんな点字表記もただ一つの記号列で正確に読みとられることが最も重要である。
点訳の規則:最も基本的には、装飾的な部分を除いて読んだとき墨字原本とまったく同じものを作ることである。
デザインの規則:コードの多用な側面、つまり数学、コンピュータ、英文などの体系が、一定の方向性を持つようにデザインする。
三つの規則はそれぞれ重要であるが、読みの規則とデザインの規則から点訳の規則が引き出されるのが最善であり、その逆はありえない。
(文責:英語点訳サークル「ルイ」 加藤 瑞子)
点字記号は、それが使われている箇所にかかわらず、常に明確に識別できなければならない。そこでまず、点字記号を構築する規則を意味とは結びつけずに定める。そのための用語を以下に定義する。
(1)墨字キャラクタ(墨字記号)
一般的な墨字文書を構成する文字・数字・記号。
(2)点字キャラクタ:点字1マスの6点の組合せ(64種類)。
点字キャラクタは、以下のように分類する。
1個のスペース (点なし)
8個の前置キャラクタ
6個の一般前置キャラクタ (4の点、45の点、456の点、5の点、46の点、3456の点)
2個の特殊前置キャラクタ (6の点、56の点)
55個のルート・キャラクタ
12個の下がりルート (2の点、23の点、25の点、256の点、26の点、235の点、2356の点、236の点、35の点、356の点、3の点、36の点)
26個のアルファベット・ルート
(1の点、12の点、14の点、145の点、15の点、124の点、1245の点、125の点、24の点、245の点、13の点、123の点、134の点、1345の点、135の点、1234の点、12345の点、1235の点、234の点、2345の点、136の点、1236の点、2456の点、1346の点、13456の点、1356の点)
17個の安定したルート
(12346の点、123456の点、12356の点、2346の点、23456の点、1456の点、126の点、16の点、146の点、156の点、1246の点、12456の点、1256の点、246の点、34の点、346の点、345の点)
(3)点字記号
一つ以上の点字キャラクタの列。一つの墨字キャラクタに対応する「図形記号」と、後に続く記号の解読の仕方を示す「指示符」とがあるものとする。
点字記号の構築規則は、次のような考え方に基づいて定める。
a)点字記号を「0個以上の前置キャラクタの列に一つのルート・キャラクタが続いたもの」と定義すると明確であるが、現行の点字の二重大文字符などはこれに適合しない。そこで、実際の構築規則は、この定義を基本としつつも、より複雑にならざるをえない。
b)前置キャラクタのみから成り、指示符として使われる点字記号を取り入れる。ルート・キャラクタで終わる点字記号は、図形記号にも指示符にも使えるものとする。
c)構築規則は、読み手が意味によらずに形態のみで点字記号を識別できる、いわゆる「読みの規則」でなければならない。また、可能な限り現行点字の記号を包括し、自然で簡潔なことが望ましい。
(文責:筑波技術短期大学 長岡 英司)
点字記号は、(1)スペース記号、(2)一般記号、(3)拡張一般記号、(4)特殊記号に分けられる。以下、これらについて詳細に説明する。
(1)スペース記号
スペース記号は、点字のスペース・キャラクタそのものである。墨字文書で空白のあるところには点字文書でも空白を置かなければならない。点字のスペース・キャラクタは、他のキャラクタと結合して大きな記号を形作ることは決してない。
(2)一般記号
一般前置キャラクタで始まり、ルート・キャラクタで終わる記号、あるいは、一般前置キャラクタで始まり、前置キャラクタが連続するもの(この場合、次の記号はスペースである)を一般記号という。前者はどこででも、後者はスペースの前にだけ使うことができる。
どのような文脈でも使える一般記号の例:(1346の点、5の点+134の点、46の点+1の点+3456の点+12の点、46の点+5の点+346の点、456の点+56の点+256の点、4の点+6の点+456の点+56の点+256の点)
(ルート・キャラクタで終わる一般記号は、指示符としても図形記号としても、あらゆる種類の点字の記号として使える。)
スペースの前にのみ使用可能な一般記号の例:(5の点、46の点+46の点、3456の点、45の点+5の点、456の点、456の点+56の点)
(これらの記号は前置キャラクタだけからなるものなので、指示符としてしか使用できない。)
上の例は、このようにすれば記号を作ることができることを示すものであり、最後のいくつかの記号は実際には使われないであろう。
(3)拡張一般記号
一般記号の前に(6)の点を添えたものを拡張一般記号という。スペースの前の(6)の点は、一つの拡張一般記号である。
どのような文脈でも使用可能な拡張一般記号の例:(6の点+1346の点、6の点+5の点+134の点、6の点+46の点+1の点、6の点、3456の点+12の点、6の点+46の点+5の点+346の点、6の点+4の点+6の点)
スペースの前にのみ使用可能な拡張一般記号の例:
(6の点、6の点+5の点、6の点+46の点+46の点、6の点+3456の点、6の点+45の点+5の点、6の点+456の点、6の点+456の点+56の点)
拡張一般記号は、(6)の点で終わる特殊記号に続いてはならない。
小文字と大文字の区別のある墨字記号においては、小文字を一般記号に割り当て、対応する大文字を拡張一般記号に割り当てる。拡張一般記号は、大文字の意味をもっているか、あるいは大文字・小文字の概念のない記号に割り当てる。
(4)特殊記号
(6)の点がいくつか、または(6)の点の後に(5)(6)の点がいくつか並んだもの、あるいは(5)(6)の点がいくつか並んだものを特殊記号といいモードの変更に用いられる。ただし(6)の点1個だけは特殊記号ではない。
●構成規則のまとめ
(1)記号の範囲を明白に認識することができる。
(2)記号をグループ分けして、今後の拡張に備えることができる。
(3)このシステムは、現行の英語点字と非常に類似している。
(4)記号の拡張は無限である。3マスまでに限定したとしても3410とおりのルート・キャラクタで終わる記号がある。
(文責:国立職業リハビリテーションセンター 石田 透)
一般文書用点字記号は後述の略字を含め基本的に現行の記号とほぼ同様である。点字記号を厳密に定義するため、カッコ類等、変更された記号も推測がつき覚えやすい。
(1)用語の説明
次の用語を使用する。「文字」は大文字や小文字のアルファベットを指す。「記号」は点字記号構成規則に基づき厳密に定義された点字記号。「文字ワード」は分けられないような文字と略字の列で文字の間のアポストロフィだけは含む。「記号ワード」はスペースで区切られた記号列。「パッセージ」は複数の記号ワード列で通常、ひとまとまりに読まれる適度な長さの文書の単位。
(2)文字及び表記符号
「アルファベット」やカンマ・セミコロン・コロン・ピリオド・クエッションマーク・エクスクラメーションマーク・ハイフン・アポストロフィ・アンドマーク等、頻度の高い記号は現行通りである。また、(236の点、356の点)も点字でシングルまたはダブルとして使用する汎用のコーテーションとして使用できる。
ダッシュ(6の点+36の点)、スラッシュ(456の点+34の点)、アステリスク(5の点+35の点)も現行記号と類似している。ダブル・コーテーション(45の点+236の点、45の点+356の点)、及びシングル・コーテーション(6の点+236の点、6の点+356の点)も現行のコーテーションに(45の点)または(6の点)を前置したものである。
カッコ類は開きと閉じが区別できるように(126の点、345の点)に前置符をつけて作成されており、文章中でも数式中でもそのまま使用することができる。角カッコは(5の点+126の点、5の点+345の点)、中カッコ(456の点+126の点、456の点+345の点)は、大カッコ(46の点+126の点、46の点+345の点)はである。
(3)グレード1と2の使い分け(グレード1指示符)
グレード1・モード指示符を拡張して、一つの文書を点字略字を使用して一般文書を書くグレード2・モードと数式やコンピュータプログラム等、記号だけを書くグレード1・モードとで書き分ける。文字符(56の点)一つは直後の一つの記号を、文字符二つは直後の一つの記号ワード全体を、文字符三つは直後のパッセージ全体をグレード1・モードにする。
(4)大文字の書き方(大文字モード指示符)
個々の大文字は小文字に(6)の点を前置した記号として定義されている。また、大文字モード指示符を拡張して大文字と小文字を書き分ける。(6の点+6の点)は直後の文字ワード全体を、(6の点+6の点+6の点)は直後のパッセージ全体を大文字にする。従来と異なる点は大文字モード・ワード指示符がハイフンやダッシュを越えて作用しなくなったことである。
(5)数の書き方(数モード指示符)
数の書き方は現行とほぼ同様である。おもしろい点は、電話番号のように空白で区切られた一つの数も(数符 0 3 「5の点」 3 2 0 5 「5の点」 0 2 4 1)として書けることである。異なる点は、小数点にピリオドと同じ(256の点)を使用すること、数モードはハイフン等を越えて作用しなくなったことである。
(6)書体の表し方(書体指示符)
文書の書体は現行と同様、書体指示符で書き分ける。各書体とも五つの記号で構成され、各指示符の前置符部分はその書体を表す。また、キャラクタ部分はその指示符の作用域を示す。例えばイタリック体指示符は(46の点、46の点+2の点、46の点+23の点、46の点+2356の点、46の点+3の点)であり、(46の点)は書体を示す。(12の点)は直後の記号一つだけ、(2の点)は文字ワード全体、(2356の点)はパッセージ全体をその書体にする。
書体指示符は覚えやすく作られている。イタリック体の(46の点)は従来と同様である。ボールドフェイスの(45の点)はboldfaceの「b」を右にずらしたものである。アンダーラインの(456の点)はunderlineの「l」を右にずらしたものである。
(文責:大学入試センター 藤芳 衛)
1)一般文書用の点字規則は大筋において現行のグレード1、グレード2の英語点字を踏襲する。
2)現行の略字のうちいくつかの略字の廃止を提案している。略字・省略語で新しく加わるものはない。
3)墨字との対応を重視し、語と語の間のスペースを確保する。
4)略字の使用・不使用は「意味」によってではなく「形」によって決められる。
●廃止を提案されている5個の略字
ble:数符とかち合うため。
by、into:上記3)にしたがってスペースを確保すると、他の記号とかち合ってしまうため。
dd:語中に出てくるピリオドをかち合うため。
com:語頭のハイフンと区別するため。
●省略語の扱い
省略語は完全な1語の時だけ使用する。派生語を認めるならばごく限られた接尾辞類がつくもののみとして、リストを作成する。
●その他の使用規則の変更
a)toの略字は形はそのまま残し、次の語とのマスあけを確保する。
b)and、for、of、the、with、a 間のマスあけも確保する。
c)同形異義語、頭字語などは意味ではなく形によって扱われる。"do"は楽譜のドでも行動を表す動詞でも同じ扱いをする。
d)(6)の点、(5)(6)の点前置の略字(ation、enceなど)は使用に制限が加えられている。
e)グレード2の中で点字記号が略字でなく本来の記号として読まれる必要があるときはグレード1の指示符のどれかを使う。
f)a、i、oは(グレード2で)略字の意味を持たないので、単語として出てくるときとアルファベットの場合の区別をしない。
(文責:英語点訳の会アルト 橘高 恭子)
UBCの体系の中に、算数・数学の表記を取り入れるためには、次の2点を解決しなければならない。
(1)算数・数学に用いられる特別な記号を点字のパターンにどのように割り振っていくか。
(2)分数のように縦書きになっているものや、上付き・下付きなどのように、ある文字の右上や右下に小さな文字がつけ加えられているような数学特有の表現をどのようにするか。
本文セクション3.6〜3.11では、これらの基本的な部分(算数・初等数学を中心としたもの)について、1)数式に用いられる基本的な記号の書き方、2)添字の書き方、3)分数の書き方、4)ルート、n乗根の書き方、が解説されている。
ここでは、これらすべてについて、解説することはできないので、基本的な記号の書き方、分数の書き方について簡単に紹介する。詳細は、原文または翻訳文を参照していただきたい。
(1)数式に用いられる基本的な記号の書き方
基本的な記号は、プラス・マイナスのような演算記号とイコールなどのように関係を表す関係記号の二つに分けられる。以下にその代表的なものの対応を示す。
(2)分数の書き方
一般に分数は次のように表記される。「分数の始まりを示す記号−分子−分数線を表す記号−分母−分数の終わりを表す記号」
現在日本で使われている表記法と比較すると、分子・分母が複雑になった場合、この表記法では点訳カッコを必要としないためすっきりする印象を持つが、1/2や1/3などのように一般文章の中にもよく出てくるものについては、少し大げさな印象を持たれるかもしれない。この点を配慮した結果と思われるが、分子・分母が数字のみから成る分数については、例のような書き方が決められている。分母の数字に数符がついていないことに注意していただきたい。
(文責:筑波大学附属盲学校 高村 明良)
(1)矢印の表記法
UBCでは「矢印モード」を導入し、矢印を「単純矢印」と「一般矢印」に分類して表記法を与えている。単純矢印とは、一本線の普通の長さの軸を持ち、先端に普通の「ヤジリ」があるものである。単純矢印は矢印モード開始指示符とそれに続く方向を示す終止記号の二つの点字記号だけから構成される。一方、一般矢印は軸が枝分かれしていない色々な種類の矢印を表現するもので、様々な軸(点線の短い軸、2重線の長い軸など)やヤジリ(上半分だけのとがったものや丸いものなど)が用意されている。
(2)高等教育用点字数学記号
「集合と論理」、「微分積分」については、大学一般教育程度までの記号が定義されている。その他のいろいろな数学の特殊記号についても、理数系大学の一般教育用として十分な記号が用意されている。ただ幾何学に関する一部の記号(「平行」、「直交」など)が定義されていない。
(3)行列、行列式などの表記
行列については、「行列的配列」用表記が用意されており、横方向だけでなく墨字表記における縦方向の配列を含めた「2次元的レイアウト」を遵守した表記法になっている。
(4)情報処理用点字記号
情報処理またはコンピュータ用点字記号としては、これまでのネメスコードを全てカバーする点字コードが定義されているだけでなく、8.で取り上げる記号生成規則により、今後情報科学の進歩により導入が予想される多くの新しい墨字記号についても、対応できるようになっている。
(文責:都立秋川高校 澤崎 陽彦)
(1)使用頻度の低い特殊墨字記号の取扱い
UBCでは、使用頻度の高い墨字記号については個別に点字記号を割付ける。一方、頻度の低い記号については「図形モード」を設け随時生成する。生成法には、新たに記号そのものを定義する方法と、既存の記号から合成する方法の2通りが用意されている。
(2)理科系諸分野用の点字記号
化学、電気工学など独自の墨字表記法を持つ分野の点字記号については、現在専門の作業班を設けて検討を進めている。
(3)外国語の取扱い
英語文章中で利用されるウムラウトなどアクセント・マークや、技術的文章中で用いられるギリシャ語などについては、UBCの枠組みの中で完全に表現可能である。
外国語点字・発音記号については対象となる墨字記号の数が膨大で、UBCの枠組みの中に組み入れるのは今のところ難しい。そのため当面は現在行われている慣習的表記法の継続を提唱している。この方法では、外国語が混在する文章中でUBCと外国語点字との識別があいまいで、今後に問R残している。
(4)1対1配列モード
UBCでは、横方向だけでなく縦方向の墨字のレイアウトを正確に表現する必要がある場合に対応するため、「1対1配列モード」の新設を提案している。これに関しては現在化学用記号と並行して、その必要性や8点点字との関連などについて検討が進められている。
(文責:日本大学 山口 雄仁)
UBCの点字記号構成に関するレポートの提言を要約すると、以下の10項目となる。
1)前置符合、ルートで構成するデザインセットの採用。
2)墨字スペースの尊重。
3)グレード1指示符の使用。
4)大文字指示符の使用。
5)グレード1記号の指示、使用規則の採用。
6)1対1配列モードの使用に関する定義付けの必要性。
7)"ble" "into" "by" "dd" "com"の五つ以外の略字の継続使用。
8)意味(同音異義語、頭字語)と関わりのない略字の使用。
9)特殊分野の表記への拡張について別個の委員会の設置。
10)拡張グレード1モードの使用に関してさらに規則の発展が必要。
第2委員会では統一点字コードという総合的見地から、記号の中央登録を含む適合性の検討を任務とする新しい諮問グループの設置を提言している。さらに三つの付録には記号の構成ルールの詳細な理由づけ、活動中検討された数々の対案、委員会のメンバーの顔ぶれ、活動の経緯と手順、公開性と評価の重視などが記されている。
セミナーの2日目にはフォーク博士との質疑が行われた。現在UBCの原案は英語圏の読み手、点訳者、点字教師、各分野の専門家による評価・検討が行われており、さらに広い分野の点字使用者の参加を期待しているとのことであった。統一英語点字の導入に向けたこの活動が日本の点字にどう関わってくるかは今後に待つところが大きい。特に点字に関わる人々すべてが「読みやすさ・書きやすさ」、「点字と墨字の完全対応の追求」のために共に努力を続けることが期待されている。
(文責:英語点訳サークル「ルイ」 田中 文子)
出典:「SSK 視覚障害」No.144、pp.1-15、1996年 July.