1.3.2 動詞「する」の切れ続き

日本点字委員会


内容

  1. 独立の動詞の場合
  2. 代動詞の場合
  3. 複合動詞の場合
  4. 連用修飾語に続く複合動詞の場合
  5. 連体修飾語と体言に続く動詞の場合
  6. 内部にマスあけを含む複合語に続く動詞の場合

目次に戻る


問い 『改訂日本点字表記法』の用例の中に、「遊びの□邪魔□する」とか「社会□生活□する」というのがありますが、複合動詞の「邪魔する」とか「生活する」との切れ続きの違いを説明してください。

答え 同じような問題が近畿点字研究会で問題になり、日本点字委員会の第15回総会でも話し合われましたので、その結果を踏まえてお答えいたします。

(1)独立の動詞の場合

 独立の動詞である「する」が副詞などの連用修飾語に続く場合、「する」の前を区切ります。たとえば、「どう□したの」「やっぱり□したか」「美しく□してね」「静かに□してた」「急いで□したら」「運動を□する」「はっきりと□させなさい」などがそれに当たります。

(2)代動詞の場合

 「する」が他の動詞の意味を代行する代動詞の場合も、独立の動詞の場合と同じく「する」の前を区切ります。この場合、前の語が助詞を伴わない名詞であることもありますので、複合動詞と間違えないようにする必要があります。時間の経過を表わす代動詞として「1週間□する」とか「しばらく□する」などがあります。金額がいくらであるかを表わすものとして「100円□する」や「いくら□する」などが例示できます。また、ある状態を表わすものとして「こわい□顔□する」などもそれに当たります。その他に、「作る」を意味するものとして「つばくらが□土で□家□する□木曽路かな」という俳句もあります。

(3)複合動詞の場合

 名詞や副詞などと「する」が結びついて複合動詞になっている場合には、「する」の前を続けます。この場合、「人を□愛する」とか「身を□挺する」などのように、1字漢語に「する」が結びついたものは全く問題がありませんが、「勉強する」とか「運動する」などのように2字漢語に「する」が結びついたものは、多少問題があります。初心者の中には「はっきりする」や「ヨーロッパ化する」などと同じように、「勉強する」などについても「する」の前を区切ってしまう人も少なくはありません。さらに、これらを複合動詞と認めたいとする人や、たとえ複合動詞であっても、複合語の内部の切れ続きで区切ってはどうかという意見もあります。

 しかしながら、これらは複合動詞として取り扱われる場合が多いし、続けて書き表わす習慣が定着しておりますので、『改訂日本点字表記法』の第4章第2節の1.の規定によって、2字漢語に「する」が結びついた程度の短い複合動詞はひと続きに書き表わすことにしたのです。そういうわけですから、のちに述べる4字漢語の複合動詞の場合と区別しにくいという御意見もおありかと思いますが、表記法の規定どおり実施してください。

(4)連用修飾語に続く複合動詞の場合

 副詞などの連用修飾語に続く複合動詞の内部の「する」は、そのまま続けて書き表わします。たとえば、「あした□討論する」や「静かに□深呼吸する」などがそれに当たります。このように連用修飾語は複合動詞の全体にかかるものですから、複合動詞の内部に変化をもたらしません。そこで、複合動詞の原則どおり、「する」の前は続けて書き表わせばよいのです。ただ、「もっと□ゆっくりして□ください」の場合、「くつろいで」の意味ならばこれでよいのですが、「遅くして」の意味であれば「もっと□ゆっくり□して□ください」と書き表わしたほうがよいなど、文脈によって多少判断する必要はあります。

 いずれにしても、ここまでは独立した動詞や代動詞の「する」の前は区切り、複合動詞の「する」の前は続けるという原則どおりに比較的容易に書き表わすことができます。次頁以後もこの原則は変わらないのですが、文脈の中での「する」の役割が変わるので、区切り方にも変化を生じてしまうことになります。

(5)連体修飾語と体言に続く動詞の場合

 連体詞や形容詞などの連体修飾語は、体言(名詞)にしかかかりませんので、そのあとに続く「する」は独立した動詞ですから、前を区切ることになります。たとえば、「この□相談□する」とか「短い□旅行□する」とか「変な□うわさ□する」とか「ハードな□練習□する」などがそれに当たります。この場合、「この」とか「短い」などの連体修飾語は、「相談する」とか「旅行する」など複合動詞にはかからずに、「相談」とか「旅行」などの名詞だけにかかりますから、「する」は独立の動詞として「この相談」や「短い旅行」をまとめて受けることになりますので、「する」の前を区切る必要があるのです。

 なお、「遊びの□邪魔□する」とか「英語の□勉強□する」などのように名詞に助詞の「の」を加えたものも連体修飾語ですから、「こ、そ、あ、ど」の連体詞などと同じように扱います。ただこれらの連体修飾語は、常に次の名詞にだけかかるのではなくて、「この□興奮させる□文章」とか「敵の□攻撃しやすい□目標」とか「あなたの□尊敬する□人」などのように、もう一つの連体修飾語である複合動詞を跳び越えて次の名詞にかかっている場合もありますので、十分文脈の中での役割を考えることが必要となっています。

(6)内部にマスあけを含む複合語に続く動詞の場合

 『改訂日本点字表記法』第4章第2節6.の規定により、「社会□生活□する」のように二つ以上の自立可能な意味の成分を持つ4字以上の漢語に「する」が続いてできた語は、たとえそれが全体として複合語と考えられても、その内部を区切ることになっています。ですから「受験□勉強□する」「電話□連絡□する」「記者□会見□する」「奉仕□活動□する」「団体□割引□する」などのように、「する」の前に助詞の「を」が省略されたと考えられるものは、「する」の前を区切ることになります。また、「一進□一退□する」「叱咤□激励□する」「立身□出世□する」「一致□団結□する」「研究□討議□する」「調査□研究□する」「善戦□健闘□する」「押し合い□圧し合い□する」などのように、並列的な関係の複合語に「する」が続いた場合も同じように区切ります。

 ところが、「断固□反対する」「長期□出張する」「一時□停止する」「直接□選挙する」などのように、文脈によっては連用修飾語に続く複合動詞と考えたほうがよい場合もありますので、これらはその文章の解釈にふさわしい形で書き分ける必要があります。

 なお、4字以上の漢語の複合語でなくても、これらと同じように扱う必要があります。たとえば「リモート□コントロール□する」「スポーツ□マッサージ□する」「ビタミン□注射□する」「ガソリン□補給□する」などの外来語や混成語などがそれに当たるわけです。

 「する」は、「音楽する」とか「権利する」など、新たな複合語を生みやすい語ですから、独立の動詞や代動詞の前は区切り、複合動詞は続けるという原則に従って処理してください。

出典:「日本委広報 日本の点字」第9号、pp.9-12、日本点字委員会、1981年11月.


トップへ

目次に戻る