社会科学基礎論


(春)助教授 宮内 環
(秋)産業研究所助教授 早見 均

 『社会科学基礎論』では,まず科学の一般的目的と,その目的を達成するために採用されてきた一般的方法について考察する。この考察をふまえ,つぎに自然科学と社会科学の方法を対比させながら,社会科学のなかでも最もよく開拓された経済学の方法を中心に,その適切な分析作法について議論をすすめる。
 自然科学の領域では,実験室における統御実験の方法がよく開発され,この統御実験のもとで,多くの法則性を把握することに成功してきた。一方,社会科学の領域では経済学をはじめ,多くの場合において実験室における統御実験を行うことが困難である。今日,経済学の限られた分野においては,実験室における実験の方法が開発されるようになった。しかし,その方法の適用範囲は限定され,実験による一般的な方法論を確立するには至っていない。このように実験が困難な場合には,観測資料の特性にそくして理論を構成したり,理論をふまえて観測の方法を工夫することが不可欠となる。そこで,『社会科学基礎論』では,法則性の把握における実験の意義をまず明らかにし,つぎに実験が困難な場合における法則性把握の作法を,「観測と理論の対応」に焦点をあてながら,経済学における実験の分析事例にそくして講義する。
 以上の趣旨にもとづき,『社会科学基礎論』ではおおよそ以下の順序にしたがって一年間の講義をすすめる予定である。
  なお,教科書はとくに指定しないが,参考文献は講義のなかで適宜示すことにする。
1.科学の目的
(a)法則性の把握と予測

(b)法則性把握の意義,政策

(c)法則性の定性的把握・定量的把握

(d)確率的予測,非確率的予測

(e)法則の把握のし易さと理論の役割

 2.科学の方法
(a)観測と理論;科学の一般的方法

(b)理論の反証可能性(検証可能性)

(c)数学モデルと実験計画

(d)条件付き予測

(e)観測方法の改良,理論の改善

(f)理論が妥当する範囲

3.数学,統計学,経済学
(a)公理一定理体系の意義

(b)母集団概念

(c)確率的理論構成の意義

(d)理論の進歩とは?(理論の一般性と特殊性,理論がもたらす情報の多さ)

 4.観測の方法と理論構成
(a)資料発生機構のモデル

(b)外生変数と内生変数

(c)実験の2つのタイプ(統御実験,風洞実験)

(d)識別問題,統御実験の意義

(e)実験計画と識別

 i.主体の集計・細分化と識別

 ii.単位期間の集計・細分化と識別

 5.確率的モデル
(a)系統的因子,非統計的因子

(b)確率的モデルとその意義

(c)確率的モデルの3つのタイプ(shock model,error model,shock and error model)

(d)確率的モデルのタイプと資料発生機構

(e)測定の誤差,条件付き予測の誤差

 6.受動的観測者の困難
(a)変数の取り落としによるバイアス

(b)重共線性

(c)連立方程式バイアス

 7.構造方程式の測定
(a)構造方程式と誘導形方程式

(b)最小2乗法(2SLS, 3SLS) と最尤法

(LIML, FIML)の考え方および方法

 8.方程式の自律度(degree of autonomy) とパラメタの安定性
 9.予測のし易さと理論の構成;構造方程式測定の意義
 10.観測と理論の対応
(a)ラグナー・フリッシュ;限界効用の測定

(b)デューゼンベリー;消費関数の測定

(c)質的反応のモデル

 i.質的反応のモデルの理論

(Latent Variables, Dummy EndogenousVariables)

 ii.質的反応のモデルと資料発生機構

(Truncated Data, Censored Data)

 iii. Self Selection Bias, Sample Selection Bias

 iv. Probit Model, Logit Model (Tobit Model)

 v.労働供給モデル;いくつかの事例とその比較

 11.測定および条件付き予測と政策
(a)最低必要臨海量と市場の安定

(b)ダグラス―ロング―有沢法則と市場の安定



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