企業理論
入門的なミクロ経済学では,企業は単純な生産関数として表現されている。しかし,実際の生産活動は,様々な生産工程に携わるたくさんの人々の活動の巧みな調整を要するものであり,生産関数の背後には,複雑な活動を効率的に調整するための様々なシステムが隠されている。講義の目的は,企業内に観察される多様なシステムに注目し,その意義と役割を検討することにある。
近年著しい研究の進展のみられる「契約理論」を分析の主要な枠組みとして用いる。必要となる契約理論の基本部分を逐次説明しながら講義をすすめる予定であるが,特殊科目の「契約理論」の内容がよりよい理解に役立つかもしれない。以下の内容を予定している。
1 イントロダクション
- 1.1 新古典派企業理論とコースの問題提議
- 1.2 企業理論の問題意識とアプローチの仕方
2 ホールドアップ問題と企業理論
- 2.1 市場取引の費用(ホールドアップ問題)
- 2.2 ウイリアムソンらによる取引費用アプローチ
- 2.3 所有権アプローチと企業の境界
- 2.4 ホールドアップ問題に対処する様々な手段
3 不完備契約理論に基づく企業理論の最近の展開
- 3.1 不完備契約理論の基礎
- 3.2 所有権アプローチから得られる結果の頑健性と妥当性
- 3.3 不完備契約理論に基づくコーポレートガバナンスの議論
4 企業組織内のインセンティブシステム
- 4.1 モラルハザード問題と最適報酬システム
- 4.2 仕事のデザインと報酬システム
- 4.3 客観的評価基準が利用可能でない環境でのインセンティブシステム
5 企業の組織形態の選択
- 5.1 インセンティブの問題に対処する分権的組織構造
- 5.2 不効率な組織内ポリティックスや癒着構造に対処する組織設計
- 5.3 情報システムとしての企業(情報処理費用がある環境での組織形態の選択)
6 企業の金融・投資行動
- 6.1 内部資金が制約された環境での投資の決定
- 6.2 資本主義と配当政策
- 6.3 コントロール権としてのデットの役割
- 6.4 株式の所有構造とM&A
- 6.5 企業の資金調達を円滑にする様々な仕組み
講義内容をすべて網羅したテキストはないが,主要な参考文献として次のものがあげられる。
- (1)ミルグロム,ロバーツ(奥野,伊藤,今井,西村,八木訳)(1997)「組織の経済学」NTT出版
- (2)柳川範之「契約と組織の経済学」「経済セミナー」1997年10月〜1998年10月連載
講義一覧へ