卒業論文 |
慶應義塾大学経済学部 |
大平 哲研究会 |
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井原萌美「長野県上田市におけるコンテンツツーリズム」
映画を見て、その映画のロケ地に興味を持ち、実際にいってみた。そんな経験をしたことがある人はどれくらいいるだろうか。映画・ドラマ・アニメや小説といったコンテンツのロケ地や舞台となった地域を観光することをコンテンツツーリズムと呼ぶ。日本における代表的なコンテンツツーリズムの例としては、ドラマ「北の国から」の舞台となった北海道富良野や、映画「世界の中心で、愛をさけぶ」のロケ地となった香川県庵治町などがある。ほかにもNHKの朝ドラ「あまちゃん」の舞台になった岩手県久慈市や、同じく朝ドラの「ゲゲゲの女房」でにぎわった鳥取県境港市は記憶に新しい。アニメでは、「らき☆すた」の舞台となった埼玉県鷲宮町(現・久喜市)や「けいおん!」に登場する学校そっくりの学校がある滋賀県豊郷町などが有名である。
コンテンツツーリズムが地域にあたえる効果は大きい。映画やドラマ、アニメの舞台となった地域には、作品の世界観や雰囲気を味わおうと大勢の作品ファンが観光客として訪れる。作品ファンたちは地域で買い物をし、飲食をし、地域に大きな経済効果をもたらす。たとえば岩手経済研究所(2013)によると、朝ドラ「あまちゃん」はドラマの舞台となった岩手県久慈市に34万人の入込観光客数増加と30億6,400万円の観光消費増加をもたらした。また、地域住民に対しては、コンテンツは地域の魅力を再発見する機会を提供し、地域住民の地域に対する誇りや愛着心が向上する。地域への愛着心は、地域の人口流出を抑制して地域のにぎわいを維持・向上し、地域活性化につながる可能性もある。コンテンツツーリズムは、地域の観光振興だけでなく、地域活性化にもつながるとして多くの自治体から注目されている。
だが、コンテンツツーリズムにも課題はある。山村(2011)、岡本(2011)、中村(2003)、神山、木ノ下(2014)といった多くの先行研究がコンテンツツーリズムの集客効果の持続性の問題について指摘している。コンテンツツーリズムは、観光客のコンテンツへの興味によって集客する手法である。そのため、コンテンツの放映期間が終わり、ブームが去ると、地域への観光客も減少してしまい、集客効果が一過性に終わることが多い。
長野県上田市もコンテンツツーリズムの集客効果の持続性の問題に悩まされつつある地域の1つである。上田市は2009年夏に公開されたアニメ映画「サマーウォーズ」の舞台となった。映画のなかには上田市に実在する風景や建物が登場し、ストーリーにも上田市の歴史が盛り込まれている。臺、兼子、宮川(2010)によると、映画公開やDVD・ブルーレイの販売などをきっかけに上田市を初めて訪れる観光客が増えた。井原、大塚、葛西、恒川、古澤、横尾(2014)によると、「サマーウォーズ」を目的に上田市を訪れるのは若者がとくに多い。「サマーウォーズ」を用いたコンテンツツーリズムにより、上田市を訪れる若者の数は増加した。だが、2014年8月現在で映画公開から5年がたち、上田市を訪れる若者の数は年々減少しており、映画の集客効果がなくなるのは時間の問題である。
本稿では、上田市に持続的に若者を呼び込むためには、「サマーウォーズ」と、若者が興味を持つような他の地域観光資源とを結びつけた周遊コースを設定することが有効であると示す。この結論を示すために、1節ではコンテンツツーリズムの定義や意義について整理したのち、コンテンツツーリズムの集客効果の持続性の問題について述べる。2節ではコンテンツ放映終了後も持続的に観光客を呼び込んでいる地域の事例から、その成功要因を探る。3節では、上田市の概要を紹介したのち、2節で明らかにした成功要因と上田市の現状を照らし合わせ、結論を導く。目次
はじめに
1 コンテンツツーリズムについて
1-1 定義
1-2 意義
1-3 課題
2 持続的に観光客を呼び込むには
2-1 事例
2-2 観光資源を結びつけた周遊コースの設定
3 長野県上田市におけるコンテンツツーリズム
3-1 上田市の概要
3-2 上田市におけるコンテンツツーリズムの現状
3-3 上田市におけるコンテンツツーリズムの今後
おわりに
参考文献参考文献
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