島前地域の島留学からみる地方の人口創出
桜坂 又鳴、兼子 寿々、阪口 隼、松本 涼、安田 達郎
日本の地方社会は、少子高齢化と人口流出の加速により地域の存続そのものが問われる段階にある。総務省統計局(2024)によれば、日本の総人口は14年連続で減少し、減少幅は13年連続で拡大している。また、2020年時点では885の市町村が国指定の過疎地域に認定されており、とくに離島や中山間地域では若年層の流出と高齢化の進行が同時にすすんでいる。その結果、地域経済の縮小、学校や医療機関の統廃合、地域コミュニティの希薄化など、社会基盤の維持が困難となる限界自治体化が現実となりつつある。
こうした中で注目されているのが、島根県隠岐郡海士町を中心におこなわれている「島留学」である。島留学とは、島外の高校生や大学生、社会人が、一定期間離島で生活しながら学び・働くプログラムであり、教育や就労を媒介として都市と地方の人材交流を促す仕組みである。この制度は、従来の移住や定住を増やす施策とは異なり、いわゆる関係人口を生み出す点に特徴がある。長友(2023)によれば、海士町における地域留学施策は滞在者や移住者の移動性を前提としており、幅広い層が常に島に滞在し、かつ循環しつづけるモデルを構築している点が画期的であるといえる。島留学は単純な人口の量的増加を創出するだけではなく、地域社会の中に多様な関係を築く質的なつながりの増加を重視したアプローチである。
兼子、松本、安田(2025)では、同町が教育を軸に地域再生をすすめてきた背景が明らかになっており、外部の若者や女性の意見を積極的に取りいれることが地域変革の鍵であったとわかる。また、教育的側面においては高校の自治型寮や探究学習など従来の学校教育を超えた実践の中に地域とともに学ぶ教育モデルの可能性を見出している。これらの知見は、地方の持続可能性を教育という視点から再構築する重要性を示唆している。すなわち、島留学は単なる教育制度の1つではないのである。
本稿では、縮小社会に直面する地域がどのように適応戦略を模索したのかを考察する。1節では、現代社会の延長線上に位置づけられ研究対象として十分に検討されてこなかった領域といえる平成史を中心に島前地域の歴史を振り返りつつ、地理的・歴史的概要についてまとめ、地域留学の定義や全国的な取り組みについて紹介する。2節では実際に島前地域の海士町を中心におこなわれている2つの島留学の詳細とその先進性について述べ、現状の地域留学制度の持つ課題について考える。3節では、島前地域の取り組みが引き継がれている山梨県丹波山村の事例をあげ、これからの地域留学のあり方について考える。最後に結論として、島留学のような他地域からの人口流入を促す取り組みは過疎化がすすむ地域において、持続的な人口創出と地域活性化の可能性を高める有効な手段となりうることを示す。
目次
はじめに
1 隠岐島前地域の概要
1-1 島前地域の地理・歴史
1-2 島前地域の平成史と人口
1-3 地域留学の意義
2 島留学制度の挑戦と可能性
2-1 高校の島留学
2-2 大人の島留学
2-3 島前地域の取り組みが画期的といえる理由
2-4 地域活性化の失敗例と島留学の課題
3 丹波山村における地域留学とその課題
おわりに
参考文献
参考文献
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