三田祭論文:アルマー島のサリサリストアが地域コミュニティにあたえる影響
アルマー島のサリサリストアが地域コミュニティにあたえる影響
髙畠 帆乃佳
先進国は新興国の貧困層をBOP(ボトム・オブ・ザ・ピラミッドもしくはベース・オブ・ザ・ピラミッド)と称し、ビジネスの観点から巨大な潜在市場として注目している。BOP層は流通においてモノや情報を満足に入手できない状況や不十分な販売網などにより不自由な状況に置かれている。そのような人々の生活を支えている存在のひとつが、フィリピン全土に広く分布するサリサリストアである。サリサリストアとは、住宅の一部を改装して営まれている小規模な雑貨店であり、菓子や飲料、調味料、日用品などを少量単位で販売することで、人々が日々の暮らしに必要な物資へ容易にアクセスする重要な役割を担っている。
サリサリストアの経営実態やその社会的機能についての調査もすすみつつある。たとえばBancoro, Villagonzalo and Villanueva (2023)は、サリサリストア経営者の借入行動と金銭行動を分析し、その経営基盤の脆弱性について指摘している。また、離島における地域商業の比較対象として、日本の沖縄県における「共同売店」の地域共生を波名城(2023)は指摘している。
本稿はとくにアルマー島におけるサリサリストアについて着目する。アルマー島はボホール島から船で約30分の場所に位置し、94世帯277人が暮らしている。住民の多くは養殖業や海藻業に従事しており、決して豊かな生活を送っているとは言えない。モノへのアクセスが容易ではないアルマー島においてサリサリストアの重要性は他の地域に比べて高まると考えられるが、アルマー島を始めとする離島のサリサリストアに限定された分析をおこなう先行研究は管見のかぎり存在しない。そこで本稿ではアルマー島におけるサリサリストアの地域コミュニティへの貢献という視点から分析をおこなう。1節ではサリサリストアの一般的な特徴とその役割を整理する。2節では先行研究を踏まえ、サリサリストアの経営実態の把握とともに、日本の沖縄県にある共同売店における特徴を比較対象として取りあげる。3節では、フィリピンのアルマー島におけるサリサリストアの実態についてフィールドワークを基に、その機能や地域住民への影響を考察する。とくに、商品販売だけでなく、水やWi-Fiの利用提供、住民間の信用取引、交流の場としての役割など、多面的な側面を明らかにしつつ、これまでの議論を整理し、アルマー島におけるサリサリストアの意義を再確認する。最後に、結論としてサリサリストアは小規模な小売店としての営利活動にとどまらず、つけ払い制度の導入や住民の交流拠点としての機能を通じて、地域社会の一部として不可欠な存在となっていることを示す。
目次
はじめに
1研究の概要
1-1 サリサリストアの概説
1-2 研究目的と問い
2 先行研究の整理
2-1 サリサリストアの経営実態
2-2 日本における離島の流通
3 アルマー島におけるサリサリストア
3-1 アルマー島におけるサリサリストア
3-2 地域コミュニティへの貢献
3-3 サリサリストアの経営脆弱性と持続可能性
おわりに
参考文献
参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2025年12月13日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。
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