三田祭論文:ソーシャルビジネスによる安全な水の確保
三田祭論文

慶應義塾大学経済学部
大平 哲研究会
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ソーシャルビジネスによる安全な水の確保

宮内 駿

2024年の日本では、安全な飲料水の確保に苦労することはめったにない。スーパーマーケットやコンビニエンスストアにいけばミネラルウォーターを購入することができ、蛇口をひねれば清潔な水道水を得ることができる。しかし、世界に目を向けると、すべての人々が安全な飲料水を確保できているとは言いがたい。2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、2030年までにすべての人々が安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成することを掲げた。しかし、UNESCO(2024)によると、目標は順調にすすんでいるとは言いがたく、2022年は22億人もの人々が安全に管理された飲料水サービスを受けることができなかった。

ひとりでも多くの人に安全な水を届けるための活動として、ヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ発動機)によるクリーンウォーターシステム事業があげられる。中谷(2022)によると、ヤマハ発動機は、ヤマハクリーンウォーターシステムと呼ばれる緩速ろ過式の浄水器を2010年から販売開始した。2023年時点でクリーンウォーターシステムは、インドネシアに13基、サブサハラアフリカの国々に32基設置されている。Umami, Sukmana, Wikurendra and Paulik(2022)は、インドネシアは、水資源は豊富であるが、水質が悪く、浄水設備をはじめとする水インフラの充実が課題と論じた。UNESCO(2024)によると、サブサハラアフリカ地域は、資金不足により水資源が十分に管理されておらず、水質が悪化している。このような問題を抱えているインドネシアやサブサハラアフリカの国々でクリーンウォーターシステムが導入されることで、安全な水が利用できるようになり、下痢をはじめとする病気の改善につながり、人々の生活が豊かになっている。

本稿では、ヤマハ発動機がソーシャルビジネスとしておこなっているクリーンウォーターシステム事業が、人々の生活にどのような影響をあたえているのかについて論じる。1節では安全な水が必要である理由と、クリーンウォーターシステムが設置されているインドネシアとサブサハラアフリカの国々の概要と水事情について説明する。2節では、本稿におけるソーシャルビジネスの定義、日本楽器製造時代からつづくヤマハの企業理念とクリーンウォーターシステム事業を開始した経緯について説明する。3節では、クリーンウォーターシステムによるろ過方法や構造など機能的な仕組みを説明したうえで、クリーンウォーターシステムが健康面に寄与した事例と寄与しなかった事例を紹介し、このちがいがコミュニティレベルの衛生意識の有無によって生まれると考察する。4節では、クリーンウォーターシステムを設置する際の条件や手続き、設置後の運営について説明したうえで、クリーンウォーターシステムが新たなビジネスの創出に影響をあたえていることについて示す。

論文のフロー図

目次
はじめに
1 安全な水に関する概要
 1-1 安全な水が必要な理由
 1-2 インドネシア・サブサハラアフリカの水事情
2 ソーシャルビジネスとヤマハの企業理念
 2-1 ソーシャルビジネスとは
 2-2 ヤマハの企業理念
 2-3 クリーンウォーターシステム事業を開始した経緯
3 クリーンウォーターシステムが健康面にあたえる影響
 3-1 クリーンウォーターシステムの仕組み
 3-2 クリーンウォーターシステムと健康の関係
4 クリーンウォーターシステムが経済面にあたえる影響
 4-1 クリーンウォーターシステムの設置と運営
 4-2 クリーンウォーターシステムによる新たなビジネスの創出
おわりに
参考文献

参考文献
ウェブサイト内の資料については、記載されているURLでのリンクを2024年12月12日時点で確認しました。その後、URL が変更されている可能性があります。

三田祭論文作成にあたり、ご協力いただいたヤマハ発動機株式会社およびPT. Yamaha Motor Nuansa Indonesiaの方々、上江洲由輔さん、上原莞爾さん、桜坂又鳴さん、竹内貫太さん、土井一紗さん、花田健心さん、前田可南子さんありがとうございました。

実際にクリーンウォーターシステムを見学 ろ過前の水(左)とろ過後の水(右)
クリーンウォーターシステムが設置されている村の方にインタビュー 浄水がトラックで出荷される様子
インドネシア名物サテを食べる インドネシアの有名なカフェで一服

論文全文(ゼミ関係者のみダウンロード可)

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