三田祭論文:白馬村民の生活環境向上のための観光地経営
白馬村民の生活環境向上のための観光地経営
佐藤 慶典、長谷川 直生、南 小春
21世紀以降の日本では国際的なイベントが多数開催され、世界的に高く評価された。1998年の長野オリンピック・パラリンピックを皮切りに、2002年の日韓ワールドカップや2005年の愛・地球博、そして2021年の東京オリンピック・パラリンピックなどの国際イベントも相まって、インバウンドが増加しつづけてきた。とくに2021年の東京オリンピック・パラリンピック誘致の際には「お・も・て・な・し」が流行語大賞を受賞したように、国全体でのインバウンドの受けいれ態勢の拡充が推しすすめられてきた。実際に、国内の観光地の多くで外国人観光客の姿を見かけることができる。インバウンドの増加は地域の活性化につながるため、多くの地域で観光地としての整備がおこなわれてきた。
一方で、既存の地域住民にとって、観光客が多く押し寄せることは一概に良いことだけとは言い切れない。インバウンドの増加は、地域経済に大きく貢献する一方で、地域住民の生活環境の悪化が懸念されている。一般にオーバーツーリズムと呼ばれるこの問題は、観光地に国内外から多くの観光客が押し寄せることで発生し、住民の利用する飲食店やスーパーマーケット、医療機関の過度な混雑が生じ、住民の外出控えがおきるような悪影響をあたえている。また、マナーを守らない観光客によって、ゴミのポイ捨てや夜間の騒音問題など、住民の快適な生活環境が維持できなくなっている事例も存在する。中島、千賀、齋藤(2001)は、地域への来訪者の増加が、ゴミや騒音、交通量の増加の問題を指摘している。
オーバーツーリズムの原因はまちのキャパシティをこえた観光客が押し寄せることである。そのため、宮島(2024)は、原因を過剰需要によるものと過少供給によるものにわけたうえで、それぞれ観光税による抑制策と、まちの観光への一本化によるキャパシティ増加策を示している。しかし、前者の抑制策は地域活性化を図る方針から逸脱するため、解決策として適していない。そこで後者のキャパシティ増加策として、田下、矢ヶ﨑(2023)は観光客の回遊性に着目し、まちの観光エリアを交通から切り離すことによって、交通問題が解決に向かう可能性を示している。このように、まちの観光計画において、観光客へなにかを働きかけるのではなく、地域そのものを変化させる手法がより効果的で、観光地の課題を根本的に解決できる。文迦(2022)は、地域を観光エリアと非観光エリアにわけ、それぞれの小地域ごとに、住民の感情を踏まえて対策を講じる手法を示している。小地域ごとに講じる対策を変えることで、各地域の細やかな実情にこたえることができると考えられる。したがって、地域全体で観光地経営に一本化することも解決策になりうるが、小地域ごとに的を射た対策を講じることが観光客と地域住民の満足度を最大化するための重要な論点になる。
本稿で取りあげる長野県白馬村でも、外国人観光客の流入増加によって上記のような住民の生活環境の悪化が散見される。中島、千賀、齋藤(2001)は、地域への来訪者の増加によるゴミや騒音などの問題に対する解決策として、観光客への啓発活動の必要性を強調している。白馬村では、住民の生活環境の悪化の問題に対処するために、村と地域の団体が協力してマナー条例を作成し、観光客のマナー向上に努めている。しかし、観光客のマナー違反の対策がたりているとは言い切れず、住民の快適な生活環境の実現に向けさらなる解決策の提示が必要である。
以上を踏まえて、本稿では長野県白馬村に焦点を当て、歴史的背景や地理的背景、観光経営組織を理解することによって、現状の分析と生活環境の改善方法を、主に地域のエリアわけについて検討する。また、白馬村と同様に長野県内にあるスノーリゾートでありながら、オーバーツーリズムが深刻化していない野沢温泉村について、同様の分析をおこなうことによって比較検討する。1節では白馬村の概要と課題について示し、2節では白馬村と野沢温泉村の背景情報を分析し比較する。そして3節では、結論として、白馬村を村より小さな単位の地区にわけ、より小規模に観光地経営をおこなうことが、住民の快適な生活環境の実現につながることを示す。
目次
はじめに
1 白馬村の概要と課題
1-1 白馬村の概要
1-2 白馬村の観光地としての課題
2 白馬村のゴミ、路上飲酒問題の背景の分析
2-1 歴史的背景と観光地の雰囲気 野沢温泉村との比較
2-2 地域に根付いた観光経営組織
2-3 観光客と地元住民の立場のちがい
3 白馬村のゴミ、路上飲酒問題の解決策
3-1 現状の解決策とその評価
3-2 ゴミ、路上飲酒問題の解決に向けて
おわりに
参考文献
参考文献
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